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  • 執筆者の写真大洞 静枝

起業家のマッチングや、共同創業支援。好きな場所で仕事をして地方活性化を:アドリブワークス

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、起業家同士でチームを作ることができるマッチングプラットフォーム「triven(トリブン)」と、ビジネスアイデアを育てて、共同創業までを可能にする官民連携スタートアップスタジオ「NOROSI(ノロシ)」を運営し、さまざまな場所で起業の機会を提供する株式会社アドリブワークス代表取締役 CEO 山岡 健人氏にお話を伺いました。

      取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局長)、大洞 静枝(ライター)


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代表取締役 CEO 山岡 健人氏 略歴:1986年愛媛県今治市生まれ。 早稲田大学 第一文学部卒業後、アイティメディア株式会社、デル株式会社で営業を経験後、株式会社アイ・エム・ジェイでアプリ開発やWEB制作に携わる。アクセンチュア株式会社では日本最大規模のJV立ち上げ等のコンサルティング業務を担当。 2017年、adlibworks(個⼈事業)を創業し、2018年に株式会社アドリブワークスへ法⼈化。 現在複数社の取締役・理事を務める。


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生態会事務局長 西山(以下、西山):本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、創業のきっかけについて教えてください。


山岡 健人氏(以下、山岡氏):大学入学と同時に、愛媛県の今治市から東京に出てきました。大学4年生になり、就職活動をして、複数社からの内定をもらって意気揚々と実家に帰ると、親から地元に帰ってきなさいと言われてしまいました。継がないといけない家業があるわけではないし、特に厳格な親ではないのですが、家族は近くにいた方がいいというのが親の意見。地元を大切にしたいという思いと、いろいろな世界を見てみたいという気持ちの中で、すごく葛藤がありました。最終的には、30歳までに起業して地元に帰ってくると、親を説得しました。

アドリブワークス 代表取締役 CEO 山岡 健人氏

なんとなくITを軸に、何社か経験しようということだけを決めて、社会に出ました。アイティメディア株式会社では広告営業、デル株式会社でも営業を経験し、グローバル賞をもらいました。株式会社アイ・エム・ジェイではアプリ開発やWEB制作に携わり、プロジェクトマネジメントや、サービスを世の中に浸透させる術を学びました。コンサルファームのアクセンチュア株式会社ではロジカルシンキングを習得。忙しくて起業について具体的に考えられる状態ではなかったけれど、いろいろなキャリアを経験でき、何にでも適用できそうだと思うことができたので、30歳になったタイミングで会社を辞めました。


会社員時代は、三軒茶屋から、混雑することで有名な東急田園都市線に乗って都心まで通勤していたのですが、みんな辛そうな顔をしながら電車に乗っていたのが印象的でした。周りの人からも「地元に帰りたい」や「仕事辞めたい」という発言を聞くことがあり、それでも東京に居続けないといけない理由は何だろうか、と考えるように。みんなが自分の好きな場所で、好きな仕事ができる世の中にしたいと思ったのが、今の事業を始めた大きなきっかけです。


スタートアップの種を植え続ける


西山:どのような事業をされているのでしょうか?


山岡氏:中小企業庁のデータでは、起業したい人は150万人いますが、1年間で起業する人は約10%の16万人。そのうちスタートアップとして成長する企業は、より少ない数です。単純に計算すると、99%以上は芽が出ていない状況。行政も民間も投資する立場からしても、形になっていないと補助やサポートができません。芽が出る前の、本当の意味でのシードの段階でサポートをする「日本でシードを植え続けるスタジオ」というコンセプトで活動しています。


ライター大洞(以下、大洞):具体的にはどのような活動をされていますか?


山岡氏:大きく二つの事業を展開しています。起業家同士でチームを作ることができるマッチングプラットフォーム「triven(トリブン)」と、ビジネスアイデアを共に育てて、共同創業するスタートアップスタジオ「NOROSI(ノロシ)」の運営です。


トリブンは、アイデアを持つ起業家が、プロジェクト単位で、同じ立場の起業家やスキルや知識を持つ人からサポートを受けられる仕組みです。アイデアに対して、それぞれが独自通貨で出資。起業家は収益を分配したり、レポートを提供したりすることで、サポートへの還元を行います。

起業初期の仲間集めは大変です。一方で、世の中には、自分のスキルを誰かの役に立てたいと思っている人もたくさんいます。トリブンは、そのような人たちがマッチングできるシステム。今、400件ぐらい起業アイデアが集まっている状態です。一人ではなかなか前に進めないことも、「面白いね」と言ってくれる人が集まることで、前に進むことができます。先の150万人という数字からすると、シェアとしてはまだまだですが、現在、登録者数は約5000人です。ヤフー株式会社、ソフトバンク株式会社、⽇本航空株式会社などの大企業も参加しています。


西山:独自通貨について詳しく教えてください。


山岡氏:自分の貢献度合いとミッションを、明文化した上で、チームに参加できます。アカウントを登録すると、100ポイントが全員に付与されます。起業家がアイデアを投稿するときは100ポイントを使用。サポーターが単純に応援したい場合は、自分のポイントを贈ることができるし、スキルを生かしてサポートしたい場合は、手持ちのポイントをどれだけベッドするかを宣言し、参加することができます。仮に50ポイントかけると、プロジェクトは合計150ポイントに。オーナーは100ポイント、サポーターは50ポイントで2:1の割合になります。この比率をとても大事にしていて、ゆくゆく会社を作って役員になるときもこの割合で進めるという考え方です。


株式会社を作り、出資してしまったら、後戻りはできません。このタイミングで失敗する人が結構います。法的な根拠も何もない、ポイントであれば、トライアンドエラーが可能。「仲間がたくさん来てくれて嬉しいけれど、気づいたらポイントが分散されすぎていた」ということもあります。次に投稿するアイデアからは、失敗を生かして、ポイントの割合や参加人数を調整することができます。


現在、生成AIを使用して「テストマーケティングを高速化させる」プラットフォームも開発中です。スタートアップがアイデアの着想から走り出すまでの間に必要なことは、仲間集め、リサーチ、初期資金獲得という三つ。この三つを達成できれば、起業するかしないかを判断できる状況になります。

これに近いことは、既に人力ではできています。仲間集めはトリブンで、ビジネス設計図はアンケートに回答していくと自動的にできるというツールがあるし、LPや広告配信は、ビジネス設計図があればAIがコーディングしてくれるので、WEBで公開すれば市場のニーズを探ることが可能です。


スタートアップの1~100のフェーズにいる人たちは、会社ごとにバラバラの段階にいるので、イチから作る必要がありますが、ゼロからイチのタイミングであれば、やることは決まっています。通常、半年から2年間かかる起業準備を、AIを使うことで、1週間程度で終わらせることができるのではないかと考えています。市場性があるのかないのか、参入できるのかできないのかが迅速に判断できれば、起業のハードルが下がります。どんどん起業する人を増やしていきたいと思っています。


大洞:「NOROSI(ノロシ)」について教えてください。


山岡氏:ノロシは、全国の9自治体、20法人、2団体からなる官民連携スタートアップスタジオです。スタートアップに伴走し、創業までをサポートしています。収益化が可能になれば、利益の一部をシェアしてもらい、初期投資に対して還元してもらうという仕組みです。

左:山岡氏 右:ライター大洞

創業までを完遂するという形でやっているので、起業に必要なあれこれは、全てアドリブワークスが提供しています。ピッチの特訓、開発資金集めやWeb制作、法人化の手続きに至るまで、全てこちらで行います。


スタートアップスタジオは海外だと市場として成立していますが、日本はまだ黎明期です。スタートアップスタジオと標榜している団体は、全国で40ほど。実績があるところはまだ半分ぐらいで、そのうちの一社であると自負しています。今年に入ってからは、既に5社目を作ろうとしています。毎年ユニークな会社を輩出しています。


仲間との出会いが新しい事業を生む


西山:自治体や企業と組んで、いろいろな活動をされているようですね。


山岡氏:全国の自治体から、スタートアップエコシステムを一緒に構築して欲しいという依頼が増えてきています。現在、愛媛県とは、スタートアップ元年ということで、「NEXTスタートアップえひめ」という年間プログラムを運営。県下31名の起業家予備軍たちと共に、地域の未来をつくっています。


企業との取り組みについては、日本航空株式会社と事業連携をしています。地方で新規事業を立ち上げた事業家の元に、同社の社員の皆さんを送り届け、共創に取り組むチャレンジなどを行っています。


「スタートアップ・イン・レジデンス」という取り組みも、今年度から始めました。アーティスト・イン・レジデンスのスタートアップ版です。アーティスト・イン・レジデンスは、海外からアーティストを招き、一定期間滞在して創作活動をする中で、人との出会いや環境から、新しい構想が生まれるというもの。観光としての側面もあります。


海外と日本のジョイントベンチャーができるかもしれないし、後々、日本のスタートアップが東南アジアに進出したいと思ったときに、協力してもらえるかもしれない。そんな可能性が生まれる交流拠点をつくりたいと思っています。


西山:国内の拠点はどこにありますか?


山岡氏:現在、山口県の温泉街に、スタートアップビレッジをつくっています。兵庫県養父市では元⺠宿をリノベーションした⻑期滞在向けスペースをつくっています。地域に滞在し、仲間と出会うことで、新しい事業が⽣まれて欲しいと思っています。


起業という選択肢が当たり前の世の中に


山岡氏:以前から地方での起業にポテンシャルを感じていて、もっと多くの人に気づいて欲しいという思いがあります。あってしかるべきビジネスが、地方にはまだまだありません。2018年に創業し、6期目となりますが、半分ぐらいは地方にいました。ライムの農園商やサイクリスト用の栄養補給食、クラフトビールづくりなど。とにかく地方で起業するというのを繰り返していました。実際に経験してみることで、地方で起業するポテンシャルを確かめることができました。


会社から給料を得るというサラリー型の働き方は、もう終わると思っています。10年先は、プロジェクト型の働き方になるでしょう。会社としての組織がどんどん融解し、日常の中で、「最近、こんな会社をつくっている」「このプロジェクトをしている」「あなたは何ができるの?」という会話が当たり前になる時代がくるはずです。


西山:同感です。プロジェクト単位での仕事は増加していますし、コロナ以降は特に、オンラインで全国各地の方と仕事をするようになり、どこで働くかを気にしなくなりました。

左:生態会事務局長 西山 右:山岡氏

山岡氏:会社に属してさえいればよかった時代からすると、厳しく感じます。しかし、自分の得意なことを自信満々に言えるようになり、自分の好きなことを好きな場所でできる人が増えていけば、もっと日本は良くなると思っています。戦前は小商いが多く、地方もとても活気がありました。戦後の高度経済成長期の中で、大企業に資本を集中するという状態が続いていましたが、本来、日本人は商売が得意なのではないでしょうか。


私たちは、今でこそ浸透しているワーケーションを、いち早く提唱してきました。2018年ごろから、日経業界新聞の業界地図にも、ワーケーションというカテゴリーに会社名が掲載されています。スタートアップをつくるだけではなく、新しい働き方についても、常に提唱していけるような会社でありたいと思っています。


西山:コロナ禍で未来が早くやってきた実感がありますね。時代が山岡さんの考えに追いついてきたという感じでしょうか。常に未来を見据え、新しい働き方を提案することができるのは素晴らしいと思います。本日はどうもありがとうございました!

 

取材を終えて:会社という組織が融解し、プロジェクト単位で働くことになるという山岡さんの見識は考えさせられるものになりました。フリーランスが増えている現状から見ても、遠い未来ではなく、数十年の間に働き方は大きく変わるのだろうと感じました。

取材後に、「高校生が起業してお小遣いを稼ぐような、そんな世界になって欲しい」と話されていた山岡さん。アドリブワークスの活動は、まさに、「みんなが好きな場所で好きな仕事ができるようになる」未来をつくる取り組みだと感じました。(ライター大洞)


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