関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、京都大学工学部電気系のエンジニア集団が起業した京大発スタートアップの株式会社DeMiAの代表取締役 坂本京也(さかもと けいや)さんにお話を伺いました。
同社は、2022年5月24日に、東証プライム市場に上場している株式会社SHIFTの子会社になりました。決断に踏み切った背景などにも迫ります。
※取材内容は2021年10月9日時点の会社状況に基づく。本文最下部の子会社化の経緯は2022年8月1日に加筆。
取材・レポート: 垣端たくみ(生態会事務局)
代表取締役 坂本京也 氏 略歴
京都大学工学部電気電子工学科在籍中。幼少期よりプログラミングやロボット制作に親しみ、スペースロボットコンテスト 11優勝、ロボカップジュニア世界大会優勝。高校2年で国際学会での論文発表を経験。京都大学入学後、2018年5月に学生団体AkaDeMiAを発足。2019年8月には株式会社DeMiAを設立。ワールドロボットサミット(経済産業省後援)委員、ロボカップジュニア・ジャパン技術員も務める。
■WEB・スマホアプリなどの受託開発を手掛けながら、京大の未経験エンジニアの輩出にも注力
生態会 垣端(以下、垣端):今日はよろしくお願いします。まずは、事業概要を教えていただけますか。
株式会社DeMiA 坂本社長:我々は、京都大学工学部電気系のエンジニア集団が起業したWEB・スマホアプリ開発会社です。大手を含む企業からの受託開発が大幅な売上を占めています。IT業界の課題である「多重下請け構造」の課題も解決したいと考えています。
また、京大の未経験エンジニア累計150名を独自のシステムで教育し派遣する事業「IO(イオ)」も展開しています。現在は、京大前の弊社オフィスの1Fで、大手教育系企業との高校生向けプログラミング教室事業も進行中です。
垣端:学業と並行して、複数の事業を展開されているのですね!受託開発のお仕事はどのように獲得されたのでしょうか。
坂本:WEBサイト経由でのお問い合わせと紹介が多いです。創業当初は、京大出身の社長さんが依頼してくださることも多々ありました。その社長さんから別の方へご紹介いただくという流れも生まれました。依頼元は関西と東京の半分ずつくらいですね。
垣端:全国に数多あるWEB・スマホアプリ開発会社のなかでも、御社のユニーク性はどのようなところでしょうか。
坂本:弊社のユニークさは、京大生へ無料でエンジニア教育をしていることだと認識しています。現在も約30人の京大エンジニアが在籍しています。大学の前期授業中に100人、後期に50人くらいのエントリーが来ます。そこから良い人をピックアップして活用できるモデルはユニークですし、実際に運用もできています。
京大生からは料金をもらっているわけではないので、キャッシュは獲得できないですが、その京大生も就職先でエンジニアとして活躍するので、社会貢献にもつながっています。
垣端:門下生が社会でバリバリ活躍していくのは嬉しい限りですね。そもそも、創業のきっかけはなんだったのでしょうか?
坂本:学問をビジネスに応用したいと考えたのがきっかけです。私は中学3年生くらいのときから、フリーランスとしてプログラマーをしていました。WEB制作事業は、一般的にアルゴリズムが得意な人よりも、デザインなどの見た目を作る方が好きな人が携わる傾向にあります。
アルゴリズムが得意な人は、セキュリティ事業を手がける会社などに行きます。最初は学生団体としてWEB制作を受託していたのですが、論文や統計が好きな依頼者でも頼みやすい、学問的なことも必要とされるWEB制作会社になりたいと考えていたら、キャッシュが回り始めたので会社にしました。
創業したのはこの会社が初めてなので、どこかで体系的にビジネスについて学んだわけでもなく、自分たちなりにがむしゃらに経営をしています。売上の半分が受託開発から出ているので、スタートアップと言っていいのかいつも悩みます。どちらかというと中小企業なので。新規投資にすごく意欲的な中小企業という認識です。
■ビジネスを三段階に分け、学生起業の弱みを払拭
垣端:着実に売上を増やしていくWEB制作事業で実績を積まれているようですが、何か経営手法で重要視されていることがあるのでしょうか。
坂本:我々は安定的に会社を経営するためには、ビジネスを三段階に分けた方が良いと考えています。
一つ目は、ハイリスクハイリターン事業です。つまり、新規事業のようなボラティリティが大きいビジネスで、いわゆるスタートアップ的なものです。例えば、動画配信事業で一発当たれば儲かるみたいなイメージです。
二つ目は、ミドルリスクミドルリターン事業。これは自社よりも規模が大きな会社との業務提携だと考えています。このオフィスの1Fで展開予定のプログラミング教室は、塾会社と提携します。お互いが家賃を同額で出し合います。リターンも半分ですが、コストも半分です。
三つ目は、ローリスクローリターン事業です。当社が行う受託開発などです。高額ではないものの、キャッシュがすぐに入ってくるので、自社の生存可能性が上がります。
いわゆるスタートアップやベンチャーは一つの事業に猪突猛進します。それは悪いことではありませんが、会社として長く生きていけるようなキャッシュフローを作ることも重要なファクターだと位置付けています。自分たちで稼げるキャッシュエンジンで構築した上で、段階的に新規事業を検討するようにしています。そこが他のスタートアップさんとは違う手法だと感じています。
垣端:キャッシュエンジンで安定させた上で、新規事業を開発する。非常に説得力のあるお話ですね。その考えに至った理由はなんでしょうか?
坂本:学生の弱みを理解しているからです。学生が猪突猛進の事業をすると、ニーズの調査が不十分だったり、競合サービスを知らない、社会経験が足りないなどの弱点が露呈するケースもあります。それを補うためには、外部の人に支援してもらうか、情報を取得するかのどちらからだと思います。
しかし、自分たちで失敗しながらでも経験値も積み重ねていく方が、将来的にもプラスになると考えています。他にもいくつかのサービスを考えましたが、いきなりそれらを進めるのではなく、世の中を知ってからやる。安心できる経営をして、学生企業の悪いところを拭ってから着手しようという方針です。
垣端:今後の目標はありますか?:
坂本:目標は二つあります。一つ目は、プラクティカルで現実的な目標ですと、IT業界自体の構造的な問題である、多重の下請けを解消したいです。
中学3年生当時の自分が引き受けた案件は八次受けや、九次受けの仕事などでした。発注者から実際に手を動かす人までの段階が多いと、コミュニケーションに齟齬が発生します。理想は一次、多くても二次ですが、実態はそうではありません。なので、アプリケーションを作りたい人と、作れる人がスムーズに仕事を回せる環境を作っていきたい。弊社では多重受けの仕事は受けていません。
坂本:二つ目は、弊社のビジョンに近いのですが、文化の保全です。
垣端:文化の保全とは、具体的にはどういうことでしょうか?
坂本:例えば、昔は貴族階級が日本にもヨーロッパを含む海外にも存在していました。彼らは労働者階級よりも労働を強いられることはありませんでしたが、何もせず楽をしていたわけではありません。彼らは自覚しているかはさておき、人類の文化(文学や伝統産業など)を保全するという重要な役割を果たしていました。
垣端:小学校などで習った和歌や、貴族が身につけていた着物などでしょうか?
坂本:はい、それらも文化の一つです。その結果、現代においても貴族文化を資料等を通じて深く知ることができます。現代に立ち返ると、資本主義社会の成功者はいても、貴族階級はほとんどいなくなってしまいました。現代に貴族階級がいても、労働をしていなかったとしても、以前より文化的活動をしているかといえば否だと思います。
では、貴族がしていた活動は誰がしているのか。それは一般市民です。市民は、労働に加えて文化の保全の役割も分配されています。
例えば、貴族階級もいなければ、デジタル化されていない伝統産業などは後世に残らないと思っています。今の時代の文化であるアニメや映画などがそれです。小さな制作会社が作っているアニメなども、ネット上に公開されなければ残らない意味がない制作物になってしまう。文化というのは切り替わった瞬間に消失する可能性がある。その問題をITの力でなんとかしたいのです。
垣端:日の目を見ずに消えてしまった作品も多々あるでしょうね…。それら全てを残すにはばく大なコストがかかりそうですね。
坂本:資本主義社会で何かを生み出し残すためにはキャッシュが必要です。現代でも国宝であれば税金などで保存してくれるかもしれませんが、視聴率の低いアニメなどは保存されないません。ピカソの絵は、歴史的価値や今後のビジネスで活用できる投資価値を鑑みて評価額がオークションなどで決まります。
ではデジタル資産であるアニメなどの評価額はいくらでしょうか。今だとそれを評価してあげるのはグッズやBlue-rayの売上など、お金目線だけになっています。文化財としての価値を、資本主義社会でも残せるプラットフォームを作りたいです。実際にサービス自体は制作中です。ミドルリスクミドルリターンの事業も形になりつつあり、受託はある程度のキャッシュエンジンができているので、ハイリスクハイリターンの事業に投資できる状態になってきました
■さらなる事業の成長を求め、子会社化へ踏み切る
垣端:2022年5月24日に、株式会社SHIFTの子会社となると発表されていましたね。それに至った経緯や、今後の展望について教えていただけますでしょうか。※2022年8月1日追記
坂本:弊社の独自性は他のスタートアップのように事業そのものにはないという特徴があります。基本的にお客様にはアプリケーションの受託を行ったり、最近では中高生向けにエンジニア塾事業を行ったりですが、これらはブルーオーシャンとは言い難いです。
一方で、組織的には京都大学の学生が100名の規模で集合しており、独自の教育システムもあり、研究開発に強いという同業種にはない差別化を行っています。その上で会社の成長を考えたときに、大規模な研究開発業務を行ったり、もしくは社内の教材を社外に公開する等の新規施策実行のスピードを上げるためには大きな企業の傘下に入ることがもっとも効率の良い手段という結論に至ったためです。
垣端:ありがとうございます。最後に、京大発の学生起業家として、京大生に向けてメッセージをお願いします。
坂本:受験教育の問題にも関係しているのですが、もう少しチャレンジしていいと思います。京大出身で会社をやりたい人は、破綻していないビジネスでない限りは1000~2000万円は資金調達できます。年収300万円前後で大手企業のサラリーマンを5年やるくらいだったら、資金調達して、年収何千万という高みを目指しても良いと思う。京大生というブランドを使い、市場価値をさらに上げるのもおもしろい。最悪失敗したら就活すれば良いと考えています。一緒に頑張っていきましょう。
垣端:本日はありがとうございました!
取材を終えて:メンバーは、役員、社員も含めて全て学生という異色な企業。坂本社長は、幼少期から世界中のロボットコンテストで優勝し、ドイツでも論文を発表。加えて、着実なキャッシュエンジンを築いた上で、段階的に新規事業を展開するという現実的な経営方針で、周囲の信用を獲得している。自社事業の収益モデルを、ローリスク/リターン、ミドルリスク/リターン、ハイリスク/リターンの3種類に分割して経営をしているという坂本社長。スタートアップ的なハイリスク/リターンの事業構想は非常に壮大で、レポートには掲載できないが、着実に進行しているという。折を見て適切に発信していくとのことなので、同社の動向には今後も目が離せない。(事務局 垣端)
Comments