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  • 執筆者の写真大洞 静枝

若き起業経験者たちがつくる、選抜者ファーストのアクセラレータープログラム:SIO(2022年9月取材)

NPO法人生態会では四半期に一度「関西スタートアップレポート」を発刊しており、関西の起業環境の可視化とその発展に寄与するべく活動しております。2022年10月末に発刊した第12号レポートでは、アクセラレータープログラムについて特集しました。取材をした、関西の代表的なアクセラレータープログラムBooming、RISING、SIOのうち、創業前後のスタートアップを対象としたSIO(スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKA)を紹介します。


SIOは、公益財団法人大阪産業局が主催し、大阪発のロールモデルとなる企業の成長支援を目的としています。大阪産業局からの委託を受け、NEWRON株式会社めちゃラク株式会社株式会社関西総合研究所OtoFit株式会社の共同企業体が運営。対象は、創業3年程度で、関西に拠点があるスタートアップです。選抜者は約7カ月の間、ピッチイベントやワークショップ、交流会等を通して、専門的なプログラムで学びを深めます。


今年度の運営を受託している共同企業体のうち、NEWRON株式会社のCEO西井香織氏、めちゃラク株式会社のCEO吉國聖乃氏、OtoFit株式会社のCEO冨田信雄氏に、SIOのプログラムについて、話をお伺いしました。

     取材:生態会 事務局 垣端たくみ

レポート:ライター大洞静枝

 

創業前後のスタートアップ支援「SIO」


生態会 事務局 垣端(以下、垣端):本日は誠にありがとうございます。早速ですが、SIOは大阪産業局が主催しているようですが、どのような目的を持ったアクセラレータープログラム(以下、アクセラ)なのでしょうか?


西井香織氏(以下、西井):SIOは、大阪産業局主催・大阪府共催のアクセラで、創業前後のスタートアップ支援をするのが目的です。私たちは、今期から運営を受託しています。大阪府と大阪産業局からは、大阪で起業するスタートアップを増やすための環境を作って欲しいというオーダーも受けています。ですので、チーム制やコミュニティ作りがプログラムのメインテーマになっています。


冨田信雄氏:(以下、冨田):4期目となる「SIO 2022」が7月2日のアイデアピッチを皮切りに始まっています。目標は、選抜者の事業を磨き上げて投資・協業・応援を勝ち取ってもらい、その結果として、選抜者の事業を通じて笑顔になる人の数を最大化するということです。関西起点で、熱量の高い事業創発コミュニティを作りたいという想いもあります。今回は50名を超えたエントリーがあって、その中で12名が選抜されています。


ライター大洞(以下、大洞):50名から勝ち抜いてきた選抜者はどのような方たちでしょうか?


冨田:ディープテックといわれる研究開発型ベンチャーの他、アプリ開発をしている会社、大企業に所属しながら起業している方、中小企業の跡継ぎ、大学の博士課程の学生や高校生まで、本当に多種多様です。薬剤師、弁理士といったバックグラウンドをお持ちの方もいます。


熱量高き、選抜者ファーストのプログラム


大洞:大洞:プログラムの内容について、詳しく教えてください。


冨田:プログラムは主にメンタリング、ワークショップ、ピッチイベントの3つで構成されています。


メンタリングについては、会計・法務・知財のようなジャンル分けをあえてしていません。いざ事業を始めてみたとき、自分が本当は何で困っているのか、そこが分からないことも多いからです。経験上、スタートアップで成功した方はどのようなジャンルでもしっかりと話ができます。さらに、必要に応じて困っている分野の信頼できる方をさらに繋いでもくれますので、生き方やあり方が学べるような3種類のメンターを設計しました。


視座を高める「ここめざそうやメンター」、挑戦を後押しする「それええやんメンター」、心が折れそうなときに支える「いけてるかメンター」の3種類です。


メンターは、主にベンチャー経営者や大企業の新規事業部にいる方たちです。自分たちが『温かいな。素敵だな』と思う方にお声がけさせてもらいました。メンタリングのチーム構成では、選抜者を三人一組のチームにわけ、力を合わせながらも、切磋琢磨できる環境にしています。


チームメンタリングの様子

ワークショップは6つ用意しています。事業の磨き方、コピーライティング、ファン作り、セールス&マーケ、PR、資金調達と進めていきます。


ピッチイベント「SIO Fes. 2022」については、7/2のファーストステージ、9/17のセカンドステージ、1/28のファイナルステージの計3回、アイディアを発表してもらう場を設けています。


大洞:プログラムを設計する上で工夫していることはありますか?


冨田:様々な人や思惑がうごめく事業という世界は、野生のサバンナの世界に近いと考えています。創業前後は、それまでドッグランの中で走り回っていた子が、いきなりサバンナに放り出されるイメージです。SIOのメンタリングやワークショップを通じて、野生の世界で生きていくための知恵を身につけて欲しいと思っています。野生の世界へ飛び込むとき、自分が何をしたいのか、何で困っているのかを端的に言葉にできないと話になりませんので、プログラムでは、自分の想いや状況を端的に表現することを意識した設計にしています。

写真上:OtoFit株式会社のCEO冨田信雄氏。弁護士、大阪大学特任准教授 、立命館大学客員教授 でもある。

例えば、8月に開催されたコピーライティングのワークショップでは、有名アーティストの作詞作曲を担当し、その楽曲でオリコン1位も獲得したこともある現ベンチャー経営者をお呼びしました。どのような言葉が人に覚えてもらいやすいのか、どういう文脈で想いを伝えたらいいのか、ということを事業視点も織り交ぜながら教えてもらいました。


西井:運営側の人間は、みんな起業経験があります。起業するときの大変さがわかっているからこそ、提供できるプログラムだと思っています。私自身が起業したときに、支援して欲しいことがたくさんありました。実際に起業していなかったら、何を支援して欲しいかがわかっていなかったと思います。


冨田:創業前後の一番荒々しくて、生々しくて、どう進んでいけばよいかわからない時期を支援するのに、熱量のないプログラムでは意味がありません。私たちは、心が折れて挫折していくスタートアップ経営者も数多く見てきました。熱量があって、かつ包容力のある選抜者ファーストのプログラムにしていきたいと考えています。


運営側の多様な側面を生かした、つながりの場づくり


大洞:アドバイザーとサポーターはどのような方々でしょうか?また、それぞれの役割について教えてください。


吉國聖乃氏(以下、吉國氏):アドバイザーはピッチイベントなどに参加して、必要なアドバイスをくださる方です。同じくピッチイベントに参加するサポーターは、資金調達のサポートをしてくれるファイナンスサポーターと、協業体制構築のサポートをしてくれる協業サポーターがいます。

めちゃラク株式会社CEO 吉國聖乃氏

アドバイザーは主に先輩事業家で、サポーターは信頼できる人に声をかけています。そもそも起業してない人に、起業支援ができるのだろうかという疑問があったので、人選には慎重になりました。選抜者と並走することが、すごく大事だと思っているので、選抜者と一緒に動ける人という点を重視しています。


西井:ただ世間的に有名な人を呼んでくるのではなく、実際に自分たちが相談したことがある方に、声をかけさせてもらいました。どれだけすごい方でも、選抜者のやる気をそいでしまう方はSIOのプログラムには合わないと思うので、自分たちの目利き力を生かしています。

NEWRON株式会社のCEO西井香織氏。薬剤師、近畿大学経営学部 非常勤講師でもある。

冨田:私たち運営の3人は、それぞれ3つの側面を持っていることも特徴です。一つ目は専門性で、西井さんは薬剤師、吉國さんはエンジニア、私は弁護士です。二つ目は経営で、それぞれが代表取締役として会社を経営しています。三つ目は大学との関係で、西井さんは近畿大学、吉國さんは大阪公立大学、私は大阪大学と立命館大学で、アクセラを運営したり、講師をしたり、研究員をしたりしています。そういう人間が運営側で主として動きながら、周りにいる『この人たちとなら関西を盛り上げられるはずだ』という方々と、一緒にSIOをつくりあげています。


SIOから関西を盛り上げる


垣端:他のアクセラに比べて特徴的なところはありますか?


冨田:他のアクセラとの違いは、選抜者として残れなかった方も、プログラムの一部に参加できるという点です。頑張って応募書類を作ってくれた全員が挑戦者です。関西を盛り上げていくために、選抜者以外も取り込みながら、アドバイザー、サポータ―、メンター、挑戦者、そして運営と、信頼できる人たちが集うつながりができてきています。SIOがどんどんつながる場所になっていって欲しいです。

左:冨田氏 中央:西井氏 右:生態会 垣端

実際に、いろんな可能性も創発できています。運営メンバーが、選抜者とある会社を繋いで協業検討が始まったり、VCの方が選抜者をコミュニティに声掛けしてくれて投資検討が進んだり、サポーターと運営メンバーが意気投合して一緒にNFTスタートアップを設立したり。その他にもたくさんのつながりをメンター、アドバイザー、サポーター、運営メンバーがつくってくれています。開始からまだ2カ月ですが、今までにはなかった“きっかけ”のようなものを、生み出せていると実感しています。


吉國:アクセラをしても、メリットがない3人が運営しているのも特徴です。VCであれば、そのまま投資に進むことができるし、コンサルであればコンサルを続けることができます。私たちは、支援したいという気持ちだけで動いています。


西井:アクセラの運営がメインではない会社だからこそできる技です。利益を目的としていない、というのも特徴です。


大洞:選抜者は、すごくいい環境で学ばれていると思うのですが、成長は感じられますか?


冨田:大きな変化を感じています。例えば、経済産業省のグローバル起業家等育成プログラム「始動」で優秀賞に選ばれた選抜者は、SIOのワークショップを受けた後に、資料の内容を変更して登壇されたようです。『伝わる内容にできて良かった』と言ってくれました。もともとの事業が素晴らしいので、いずれにせよ賞を取れたと思いますが、その言葉は嬉しかったです。


こんな事例もあります。ある企業との協業検討の打ち合わせに際し、選抜者は自分の技術説明資料を持ち込もうとしたのですが、技術内容だけ聞いても、その後の事業化に向けたイメージが湧かなければ話は進みません。選抜者と共に、事業化を見据えた資料を一緒に作り直しました。その上で企業との打ち合わせに望んだ結果、前向きな反応を得て、協業に向けてNDA締結のステップに進むことが出来ました。


選抜者たちは、確実に次のステップに進むことができていると感じています。


大洞:30代という若い起業経験者がアクセラを運営していることを、どう感じていますか?


冨田:30代がアクセラを運営している例は、あまりないと思っています。私たちのような若手を選んでくれたその決断に、しっかりと応えなければと強く感じています。選抜者に近い感覚で、自分たちにしかできないこともプログラムには反映しています。例えば、ピッチイベントの際は、その場で質疑応答の形を取るのが一般的です。この方法だと、どうしても、その場限りのやり取りになりがちで、濃いフィードバックを受けづらいところがあります。SIOでは、その場での質疑応答は設けず、ピッチをした選抜者以外の全員に、3つの項目だけ用意したグーグルフォームを利用して、フィードバックをしてもらっています。


「SIO Fes. 2022」の2nd Stageの様子

西井:メンター、サポーター、選抜者も含めて、全員からピッチに対するフィードバックがあります。終わった瞬間に、約60人からのフィードバックがあり、それを一覧で見ることができます。


冨田:選抜者からは、ピッチにより濃いフィードバックが得られることの良さと、後から見返せることで『ピッチの時はわからなかったけれど、少し時間をおいて後から振り返ってみると、フィードバックしてくれていたことの意味がわかった』という感想もいただきました。その場限りで1人か2人しか話せない質疑応答という形は、どこか勿体ないなとずっと感じていたので、選抜者に近い感覚を生かした企画・設計ができていると思います。その他にもいろいろな工夫を凝らしており、どんどん他のプログラムにも真似してもらいたいと思っています。

左:ライター大洞 中央:冨田氏 右:西井氏

大洞:最後に、SIOへの思いについてお聞かせください。


冨田:大阪には、スタートアップに関わる人たちがつながる場所が、あまりないことが課題だとずっと思っていました。生態会さんはまさしく、つながる場所ですが、大阪は広いので、他にも必要だと思っています。私たちは、SIOを、スタートアップを含む事業開発領域の方達がつながることのできる場にすることで、新しい何かが生まれる環境をつくり、関西をもっと盛り上げていきたいと思っています。


正直、身を切っている部分も多いですが、目に見えないものをSIOの取組みからはたくさんもらっています。


2023年1月28日にはファイナルピッチがあります。プログラムの具体的な目標としては、選抜者の3分の1以上が、プログラム終了後2年以内に、協業や投資検討先を見つけるなど、具体的な成長成果を得られることでした。ですが、今の段階で、協業に結びついている選抜者や、投資検討に進んでいる選抜者が出てきており、マッチングについても数十件に達しています。せっかくなら、もっと先の数値を目指していきたいなと思っています。万博も迫っていますし、関西はまだまだおもしろくなるはずです。SIOを充実させていくことで、成長した選抜者が、次の世代へとさらに還元してくれることも願っています。


垣端:本日はありがとうございました!


左:冨田氏 中央上:生態会 垣端 中央下:吉國氏 右:西井氏






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