〈上場企業社長に聞く!〉スタートアップにとって、AI興隆の今がチャンスのとき:アイプラグ
- 大洞 静枝
- 4月25日
- 読了時間: 8分
更新日:4月28日
2012年に創業し、2021年3月に東京証券取引所マザーズ市場(現:東京証券取引所グロース)に上場した株式会社i-plug。代表取締役の中野氏は、新卒で入社したブラック企業を早期退職し、10カ月間の‶ニート生活”、再就職先でのトップセールスマンとしての経験を経て、i-plugを起業しました。起業と同時に、新卒学生と企業のミスマッチを解消して早期退職をなくすことを目的としたダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox」を開始。2012年当時、画期的であったこのサービスは、今も多くの学生と企業に支持され続け、現在の登録学生数は21万人、利用企業は約2万社(2025年3月時点)と利用者を伸ばし続けています。
中野氏は、関西のスタートアップコミュニティである秀吉会※1や、にしなかバレー※2、Booming!※3の活動を通して、関西スタートアップコミュニティの活性化や起業家育成にも積極的に取り組んでいます。中野氏に、i-plugの上場について、また、関西スタートアップの現状について伺いました。
※1 天下一を目指す若手経営者らが切磋琢磨する組織
※2 新大阪、西中島、中津に拠点を置くスタートアップ企業を中心とした 起業家コミュニティ
※3 起業家が起業家を育てるスタートアップアクセラプログラム

取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長/執筆)、大洞 静枝(事務局 /執筆・編集)
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株式会社i-plug 代表取締役 CEO 中野智哉氏 略歴:1978年兵庫県生まれ。 2001年中京大学卒業。2012年グロービス経営大学院修了(MBA)。株式会社インテリジェンス(現パーソルグループ)で10年間法人営業を経験。 2012年に株式会社i-plugを設立。
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上場は目的ではなく手段
生態会事務局長 西山裕子(以下、西山):どうぞよろしくお願いいたします。本日は上場のきっかけや、関西の起業環境ついてお話をお伺いできればと思います。2012年にi-plugを設立、2021年3月には東京証券取引所マザーズ(現:東京証券取引所グロース)に上場されていますが、上場を目指されたのはいつ頃からでしょうか?
株式会社i-plug 代表取締役 CEO 中野 智哉氏(以下、中野氏):上場は、起業時から目指していました。毎年、民間企業への就職を希望する学生は約45万人以上にも上ります。一つひとつのマッチングを改善することはもちろんできますが、「就職活動におけるマッチングをより良くする方法はないか」と考えると、早く上場してチャレンジの幅を広げるべきだと感じました。上場以上に適した手段はないというのが、当初からの考えです。

生態会事務局 大洞 静枝(以下、大洞):創業から9年目で上場を達成されたのですね。
中野氏:もともとは「5年で上場する」という計画を立てていましたが、実際には計画通りに成長させるのは難しかったです。それでも、毎期2倍の成長は実現し、「OfferBox」は3期目に一気に10倍成長を達成しました。そこからはおおむね2倍、2倍、2倍と、着実に成長を重ねていきました。
本来であれば7期目で上場できる水準にまで到達していたのですが、株式会社イー・ファルコンのM&Aを優先しました。上場よりもこの先さらに大きなプラスになると判断したからです。その結果、上場のタイミングは2年ほど後ろ倒しになりました。

大洞:上場後と上場前ではどう変わりましたか?
中野氏:上場することで、何よりも「信用力」が大きく変わります。日本では、金融市場はもちろん、一般社会や大学といった教育機関においても、上場・未上場の違いは非常に大きな“壁”として存在しています。だからこそ、「上場する」ということ自体が、明らかにプラスになると感じています。

また、資金調達の選択肢が一気に広がります。未上場だと、エクイティでVCから資金を得るか、銀行から借りるか程度に限られてしまい、大きなチャレンジを実現するのはなかなか難しいです。一方で、上場すれば「人・モノ・資金」すべてにおいてアクセスが広がり、よりダイナミックなことに挑戦できるようになります。上場して初めてチャレンジするための権利を得る、そんな感覚でした。上場は目的ではなく、成長のための手段です。
起業家支援やエンジェル投資で見えたもの
西山:秀吉会、にしなかバレー、Booming!で起業家支援をされていますが、昨今の関西の起業環境について教えてください。
中野氏:秀吉会、にしなかバレー、Booming!での活動を通して、若手の相談にはよく乗っています。エンジェル投資も、これまで30社ほど行いました。多くはこれからという感じですが、株式会社Lean on Meやイクラ株式会社など、伸びている会社もあります。

一方、倒産や廃業した会社もすでに3~4社あります。資金調達を必要以上にして、それをやみくもに使ってしまう。そんな特徴が見られますね。資金がショートして、また調達をしようとしますが、できません。主要都市ではチャンスもある一方で、経営者として鍛えられる前にやみくもに進んでしまうのです。
関西は起業家ネットワークが強く、周りの目があるからこそ、変なお金の使い方はできません。秀吉会では、経営者同士で財務諸表を公開し、本気で話し合います。経営やお金の使い方は技術的なところもあるので、指摘し合えるのはありがたいですね。わざわざ、東京や四国から参加するスタートアップもいるほどです。

スタートアップの挑戦を促す制度の整備を
西山:昨今、M&Aが増え、大手企業とスタートアップの連携が増えていると感じます。
中野氏:大手企業とスタートアップの連携は、難しいと感じます。グロース市場に上場できるスタートアップでも、粗利が20億円、利益2億円くらい。何兆円と売上がある大手企業にとっては、経営インパクトが小さく、経営判断の範囲に入りにくい構造になっています。
むしろ売上が300億円以下で、東証スタンダードやグロース市場に上場している中堅企業とスタートアップを連携させると、事業インパクトもあります。やる気のある中堅企業の若手経営者とスタートアップをつなぐのは良いと思います。
とはいえ現状では、上場企業がスタートアップを買収すると、減損になるケースが多い状況です。通常、事業計画に合わせて企業価値を算出しのれんで計上しますが、その通りに売上・利益が立たないと純利益が減ります。計画通りにいくことはまれで、減損になる場合が多い。これだと、スタートアップのシードやアーリーに投資が入りません。エンジェル投資の法人版を作って、税金で還付する仕組みを作れば良いと思います。

西山:昨今のグロース市場の冷え込みについては、どうお考えですか?
中野氏:今、「日本のスタートアップは小粒で、株価が上場以降あがらない」などと批判されていますが、周囲の状況を見ていると未上場企業への投資は活発で、ファンドにはまだまだお金が集まっています。シードやアーリーなど初期段階のスタートアップにとって、資金調達がしやすい状況は続いています。
関西でも、数億円規模の資金調達をする会社の数が多くなっていると感じます。しかし、グロース市場が冷えているので、レイターなど、上場間近の企業にとっては出口がありません。ダウンラウンドとなると、新たな資金調達ができず、融資が受けられないということにもなりかねませんので、非常に大変です。
今はスタートアップにとって、大きなチャンスの時
西山:今後、関西スタートアップを盛り上げるために、今後どのような対策が必要でしょうか?
中野氏:大阪は国家戦略特区なので、行政がスタートアップを支援する様々な制度を整備できると考えています。例えば、働く人が希望すれば、一定の条件で労働時間の制限を撤廃してはどうでしょうか。やる気のある若手からは、もっと働きたいという声も出ています。
時間の制限がなく、好きなだけ働けると法的に認められているのは、株式会社の代表取締役だけです。生成AIが発展して機会も多い黄金の時代なのに「働くな」というのは酷です。希望する人には条件を緩和して、規制外の地域を作ればいいんです。例えばうめきたのエリアだけ特区にすれば、日本中から人が集まってくると思います。

西山:AI活用が盛んになってきている今、スタートアップを取り巻く状況はどのように変わるでしょうか?

中野氏:スマホが世の中に出始めた10年ほど前、スマホゲームや関連サービスがどんどん生まれ、億万長者がたくさん出ました。あの頃、何か新しいものを生み出した人は、みんな夢中になって働いていました。当社もスマホができたからこそ、学生が写真を撮ってプロフィールを登録することができ、利用者の伸びにつながりました。
今年は、AIがさらに来るはずです。新技術に伴い、いろいろなスタートアップが生まれるでしょう。グロース市場を見ていると、波があります。市場が冷えている時に起業した人が、そのあと伸びます。今は、まさにチャンスだと思います。学生起業家も含め、挑戦する人が増えていますし、今後が楽しみです。
西山:AIの発展に伴って、世界に羽ばたくような新しいスタートアップが創出されるかもしれませんね。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました!
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