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  • 執筆者の写真濱本智義

誰もがヴィーガンを選択できる社会に:ブイクック

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家。今回は、日本初のヴィーガン料理レシピサイト「ブイクック」をはじめとした、ヴィーガン向けの事業を展開する株式会社ブイクック代表取締役 工藤柊(くどうしゅう)さんです。


取材:森令子(生態会事務局)、濱本智義(学生スタッフ)、大野陽菜(学生スタッフ)

レポート:濱本智義


 

代表取締役 工藤 柊


 神戸大学入学後、大学食堂へのヴィーガンメニュー導入に貢献し、神戸のヴィーガンカフェThalloの店長に就任する。その後大学を休学し、全国を巡って300人以上のヴィーガンと出会い、総員60人以上会員を集めて2018年11月NPO法人日本ヴィーガンコミュニティを設立。2019年7月ヴィーガンレシピ投稿サイト「ブイクック」をリリースし、2020年4月株式会社ブイクックを創業。同年10月、ヴィーガンが暮らしやすい社会を本気で実現するため、資金調達に乗り出し、総額2500万円を調達。

 

■ヴィーガン食の世界


生態会 森(以下、森):本日はよろしくお願いいたします。まずはさっそく、事業概要について教えていただけますか?


ブイクック 取締役代表 工藤氏(以下、工藤):ヴィーガン料理レシピサイト「ブイクック」をはじめ、ヴィーガン惣菜のサブスクサービス「ブイクックデリ」やヴィーガン食の通販サイト「ブイクックモール」など、ヴィーガン生活を支えるサービスを提供しています。

「ブイクック」のスマホ画面

「ブイクックデリ」のイメージ画像

またこのようなWeb事業のほかにも、レシピ本の出版やヴィーガン商品の開発/販売なども行っています。私たちは「誰もがヴィーガンを選択できる社会を、食卓から」をミッションに、誰もがヴィーガンを簡単に始められる・続けられる環境をつくり、その先にある持続的で平和な社会の実現を目指して活動しています。


濱本(生態会 学生スタッフ):「ベジタリアン」という言葉をよく耳にするのですが、「ヴィーガン」と「ベジタリアン」は違うものなのでしょうか?


工藤:はい、実は少し違うんです。「ヴィーガン」とは、食事や日常生活において動物性食品や動物製品(毛皮など)を使わずに生きている人のことを指していて、食の面では肉と魚だけでなく、卵や乳製品といった動物に由来する製品も摂取しません。対してベジタリアンは、ヴィーガンと同様に肉や魚は摂取しませんが、乳製品に関しては摂取する場合もあるという点で違いがあります。


濱本:なるほど!つまり、ヴィーガン食とは肉・魚・卵・乳製品を使わない植物性100%の料理というわけですね。ヴィーガン食にはどのような料理があるのでしょうか?


工藤:一般的な野菜料理の他に、卵不使用のオムライスや大豆の代用ミートを使ってハンバーグなどを作ることができます。現在「ブイクック」には約3000種類のレシピが掲載されていて、毎日飽きることなくヴィーガン食を楽しむことができます。

「ブイクックデリ」の料理を盛り付けた写真

大豆の代用ミートを使用したハンバーグなど

濱本:野菜を中心にここまで豊富な種類の料理を作ることができるのは驚きです!



■ヴィーガンを選択しにくい日本社会


大野(生態会 学生スタッフ):ヴィーガン生活を送るにあたって、どのような課題があるのでしょうか?


工藤:そもそもヴィーガン生活を選択すること自体がまだまだ難しい世の中だと思っています。その理由には、ヴィーガン専門の飲食店が少ないことや食生活のコストが高いなど様々な理由があるのですが、私たちが特に注目しているのは情報格差の部分です。


実際にヴィーガン生活を始めようとしても、どうやってヴィーガン食を作ったらいいのかわからずに挫折してしまう人がほとんどなんです。僕も高校生の頃にヴィーガン生活を始めたのですが、はじめの二週間はおにぎりと水炊きしか食べていませんでした笑。卵や肉を使わずに卵料理や肉料理を作ることができるとは思いもしませんでした。


ヴィーガンを選択するということは、我慢をするということではありません。「ブイクック」では、ヴィーガン初心者でもヴィーガン生活を楽しんでもらうために、豊富で多様なレシピに加え、ヴィーガン生活を送る上で必要な情報や役に立つ情報なども発信しています。


「ブイクック」に記載されているコラム

大野:様々な課題があるなかで、御社は特にヴィーガンを簡単に始められて楽しく続けられる環境づくりに焦点を当てて事業を展開されているのですね。


:他にも大手のレシピサイトはたくさんあると思うのですが、それらのレシピサイトとの違いや優位性はどのような点にあるのでしょうか?


工藤:やはり、ヴィーガンに特化しているところが他のレシピサイトにはない強みだと考えています。このサイトには、「ヴィーガンという選択を簡単なものにしたい」という同じ思いを持った方々が集まります。そのため、彼らにとって「ブイクック」とは唯一無二のレシピサイトであり、かつ同じ価値観を共有するコミュニティでもあるのです。


:なるほど、それは他のレシピサイトにはない価値ですね。市場規模に関してはどのくらいあるのでしょうか?


工藤:実は「ブイクック」のユーザーの内訳を見ると、ヴィーガンユーザーとベジタリアンユーザーの方を合わせても、ユーザー全体の半分なんです。残りの半数はフレキシタリアンと呼ばれる方たちが占めています。フレキシタリアンとは、野菜中心の食生活を導入しているが、時には動物性たんぱく質も摂取するというような方々を指します。健康志向の方やダイエット中の方などがこれに当たります。


このフレキシタリアンの人口は、人口全体の16%にも及ぶと言われており、近年の環境意識・健康思考と重なって今後も市場規模は大きくなっていくことが見込まれています。


:確かにヴィーガン以外の方でも、野菜中心の食生活を導入している人はたくさんいらっしゃいますし、そのような方々もターゲットの一部だと考えると大きな将来性がありますね。



■一匹の猫から始まった物語


濱本:工藤さんがヴィーガン生活を始めたきっかけは何だったんですか?


工藤:ヴィーガンを始めるきっかけになったのは、とある猫の死体でした。高校三年生の秋、いつも通り帰り道を歩いているとき、道路の隅に何度も車に轢かれてぺちゃんこになった猫の死体を見つけました。僕はその死体を見て、とても大きなショックを受け、その出来事をきっかけに動物倫理の問題について興味を持ち始めました。


そしてその問題について調べていくうちに、1日約6万頭もの豚が屠殺されている現状を知りました。このとき、この世界にある不条理はそれまで考えていた人と人同士のものだけではなく人と動物の間にもあるのだと痛感しました。また同時に、その不条理を生み出しているのが自分自身であることを理解しました。消費者として17年間、その不条理の生産に貢献していたことが嫌になり、同時にその過去は変えられないことに絶望しました。


さらに、深く調べていくうちに、畜産業が環境に与える負荷の大きさについても知ることとなりました。将来の世代のために少しでもマシな環境を残してあげたいという気持ちも強まり、動物倫理・環境保全を理由に、まずは自分ができることから始めようとヴィーガン生活を送ることを選択したんです。


濱本:そのような経緯があったのですね。当時の日本には「ブイクック」のようなヴィーガン専用のレシピサイトは存在していなかったと思うのですが、どのようにユーザーを獲得していったのでしょうか?


工藤:当時、ヴィーガンレシピを集約したサイトは存在していませんでしたが、個人ブログでレシピを投稿している人やFacebookなどのヴィーガンコミュニティはいくつかあったので、そのなかに飛び込んで私たちのビジョンに共感してくれる人を集めました。またインターネット上だけでなく、全国を歩き回ってヴィーガンの方と直接お会いして話したりもしました。最終的には300人以上の方と出会い、全国から60人以上の会員が集まりました。会員の方々を中心にレシピの投稿が増えていき、もともとブログやSNSなど他のプラットフォームでヴィーガンレシピを投稿していた方々が「ブイクック」で発信を始めるなど、コミュニティ内での認知は徐々に拡大していき ました。そのような泥臭い努力があったおかげで、現在では毎月100~200つの新しいレシピが登録されるまでに成長できました。


濱本:全国を歩き回って会員を集めたのはすごい行動力ですね。同じ学生として尊敬します。



■日本初のヴィーガン・スタートアップとして本格始動


太田:御社はもともとNPO法人から始まったと聞きましたが、株式会社として活動するようになったきっかけは何だったのでしょうか?


工藤:地域特化にしつつ最終的には全国に展開できる形態としてNPO法人を選択したのですが、運営していくにつれ徐々にファイナンス面が厳しくなっていき、このままではいけないと危機感を覚えるようになりました。ヴィーガンが生きやすい社会を作るはずが、当の運営メンバーでさえ幸せにできていませんでした。


そこで、利益を出しつつ継続的に運営できる体制を作ろうと考え、最終的に株式会社にしました。とはいっても、はじめの半年間は今月稼いだお金で来月の給料を払うという不安定な状況でした。そのような状況が続いていたなか、ある日マーケティングの会社に勤めていたヴィーガンの友人からとある相談を受けました。それは仕事でお肉のパッケージを作ることになったがどうしても気が進まないという相談でした。


この話を聞いた僕は、ヴィーガンが働きにくい環境にあることを知り、ハッとさせられました。同時に、ヴィーガンの人たちが働きやすい仕事を作ることもヴィーガンが過ごしやすい社会につながるのだということに気づくきっかけにもなり、「ヴィーガンを選択しやすい社会にする」という使命感を改めて強く感じることとなりました。


:経営をしていくなかで心情の変化があったのですね。確か資金調達をされたのもこの時期でしょうか?


工藤:その通りです。2020年10月頃から本格的に資金調達に乗り始め、様々なVCの方とお話させていただく機会を作りました。そこでtalikiファンドなどのVCや個人投資家から出資を受け、最終的には総額約2500万円の資金調達に成功しました。talikiファンド様主催のアクセラレーションプログラムを通してレシピ本を自社出版するなど、talikiファンド様には資金調達以外にも様々なご支援を頂きました。


:最後に工藤さんが実現したい未来を教えてください。


工藤:不条理のない社会を実現したいです。この「国」に生まれたから戦争に巻き込まれる、この「性別」に生まれたから不当な扱いを受ける、そういったようなことはあってはならないことだと思います。そしてこのことは人間に限らず、動物にも当てはまると考えています。痛みを感じる存在に不必要な痛みを与えるべきではありません。このことは積極的に動物を救うということでなく、あくまでも自分の消費行動によって生まれる苦痛だけでも減らしたいということです。そして僕がおじいちゃんになったときに、自分の子供や孫から「おじいちゃん、若い時に何してたの?」と言われないように、彼らに誇れる行動をしたいと思っています。


未来の世代に平和で美しい地球を残すため、僕はヴィーガンという選択をしました。選択することは人の自由です。選択してもしなくてもいい。だけれど、選択肢としてはあるべきだと考えています。この株式会社ブイクックを通して、ヴィーガンという選択肢を広げ、ヴィーガン生活を幸せにおくれる環境を作っていきたいです。


取材時の写真。工藤氏(左下)、大野(左上)、森(右上)、濱本(右下)

 

取材を終えて:フレキシタリアンの存在や、近年の健康志向の向上は、今後のヴィーガン市場をより一層拡大させていくと思うので、大きな将来性を感じました。また社会貢献を第一に考えながら、ファイナンスもしっかりと意識をして経営されている工藤さんの姿を拝見し、同じ学生として誇らしく思いました。誰もが自由に食を選択し、食を楽しめる社会になることを祈っています。(学生スタッフ:濱本)




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