現役京大生チームが開発運営。製造業のAI図面管理システム:スターアップ
- 希実子 小林
- 17 時間前
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関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、株式会社スターアップの代表取締役社長 緒方 勇斗氏に、お話を伺いました。同社は、AIの進化を追い風に、主に製造業・建設業向けに図面管理システムを提供するスタートアップ。医療・物流分野では、図面管理システムではなくAIの受託開発を手がけています。現在は「ARCHAIVE」の呼称のもと、図面管理システムにとどまらず、AIデータ統合プラットフォームとしても事業領域を広げています。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局)、小林希実子(ライター)

緒方勇斗(おがた ゆうと)氏 略歴
2002年生まれ、奈良出身。生まれた環境に縛られず、誰もが正しい意思決定をできる社会をつくりたい。その想いの背景には、製造業に携わる親の話しや、西大和学園に在学中、インドのスラム街で教育ボランティアをしていた体験がある。京都大学在学中に二度の起業を経験し、現在は48名の仲間と共に、現場に特化したAI開発を推進。技術を社会に役立てることを軸に、新たな価値を生み出す挑戦を続けている。

現役京大生の企業家が挑む、京都発の製造業DXの最前線
生態会 西山(以下、大洞):本日はありがとうございます。まずは、事業概要を教えてください。
スターアップ 緒方勇斗氏(以下、緒方氏):こちらこそありがとうございます。当社は2023年11月に京都市で設立しました。現在の所属メンバーは35名ほどで、経営陣や業務委託の方々も含め、全員で「AIで社会を変革する」というビジョンを共有しています。 生態会 大洞(以下、大洞):京都に本社を置かれた理由はやはり、緒方さんが京都大学に通っていたからでしょうか。
緒方氏:それも大きいですね。起業当初からお世話になっている支援者や知り合いの多くが京都に集まっていたことも一因です。また「インパクトハブ京都」の運営にも関わりがあり、スタートアップのコミュニティが自然に形成されていきました。この土地は伝統産業の歴史がありながら、世界的企業が数多く生まれている「革新の街」でもあります。こうした独自の文化圏で事業を育むことに、大きな可能性を感じました。
事業の2本柱であるAI開発と図面管理SaaS「アーカイブ(ARCHIVE)」
西山:スターアップさんのビジネス概要をもう少し詳しく伺えますか。
緒方氏:当社の事業は大きく2つの柱に分かれます。1つ目はAI開発事業全般。具体的にはアルゴリズム開発、受発注管理システム、在庫管理システムの構築など、お客様のニーズに合わせて幅広い領域をカバーしています。もう1つは建設・製造業向けの図面管理SaaSです。図面や案件情報をクラウド上で一元管理し、AIによる差分チェックや類似検索といった機能を提供するのが特徴ですね。
西山:かなり実務に寄り添ったAI活用を行っているわけですね。製造や建設という分野はデータ量が多く、DXが遅れているイメージがあります。
緒方氏:そうですね。そこには大きな伸びしろと課題意識があります。自動車や航空機、建築物など、膨大な図面を扱う現場では属人化や教育リソース不足が顕在化しやすく、少しの寸法差や形状違いを見落とすだけでも大きなミスにつながりかねない。そこで開発したのが、図面管理SaaS「アーカイブ(ARCHAIVE)」です。

西山:それでは図面管理SaaS「ARCHAIVE」についてお話いただけますか?
緒方氏:「ARCHAIVE」はクラウド上で図面を管理し、AIによる差分チェックや類似検索を行えるSaaSです。関連案件や見積の一元管理など多機能で、紙ベースの煩雑な作業をスムーズにデジタル化。工数を約70%削減し、月平均90時間分の業務を新たな価値創出に活かせるという試算もあります。現場に合わせた柔軟なカスタマイズも強みで、私自身、家族が製造業に携わっていることから、現場課題に対する解決策を常に考えてきました。近年は建設業界にも導入が進み、紙とデジタルが混在する現場の効率化にも大きく貢献しています。
創業メンバーのバックグラウンドは、学生×大規模PM経験者×優秀エンジニア
西山:代表の緒方さんは京都大学法学部、他の取締役の方も学生の方が多いと伺っています。
緒方氏:取締役兼COOの松尾は京大大学院生、CSOの吉川は同志社大学4年生、ほかにも京都大学工学部・大学院出身のエンジニアが複数在籍しています。ただ学生といえども、みな大規模案件のPM経験やITメガベンチャーでのインターン経験、海外の名門大学との共同研究など、多彩な経歴を積んでいます。知見が融合することで新しい化学反応が起き、スピード感ある開発につながっています。 西山:社内の連携や意思決定プロセスはどのように行われているのでしょう。
緒方氏:なるべくフラットな組織を心がけています。専門分野の違いを生かして各チームが意思決定できるようにしており、必要に応じて外部の知識や技術も取り入れる姿勢です。たとえばIBMなど外部企業との連携や、大学の研究室との共同プロジェクトも活用しながら、新技術をいち早く試験運用しています。 西山:学生ベンチャーが製造業や建設業のようなレガシー産業に飛び込むのは、なかなか大変そうですが。 緒方氏:最初は信用力がないので、商談すらスムーズに進まないこともありました。しかし、小さな案件から実績を積み上げ、成果を出すにつれて「思っていた以上に使える」「提案が具体的でわかりやすい」という評価をいただくようになったんです。現在はむしろ案件が増えすぎて、人材確保が追いつかないほどですね。

西山:資金調達はどのように行われているのですか。VC(ベンチャーキャピタル)からの出資でしょうか。
緒方氏:今のところは日本政策金融公庫や地方銀行、信用金庫の融資がメインです。私がまだ学生であることもあり、銀行融資を受けられるかどうかは大きな挑戦でした。でも事業計画を丁寧に示し、経営の安定性を説明することで、無担保融資も受けられています。現在の売上は前期が約2,000万円、今期は約1.5億円を見込んでおり、営業利益率は約40%。おかげさまで順調に伸びています。
西山:BtoBでAIやSaaSとなると、開発コストや営業コストもかさみそうですが、そのあたりはどう乗り越えていますか。
緒方氏:当社の場合、パッケージ型の「ARCHIVE」をベースにしながら、お客様の要望に合わせて機能を追加するという形をとっています。開発のスピードや柔軟性は、学生ベンチャーならではの武器ですね。また価格面も「導入しやすさ」を最優先し、導入時のハードルを下げることで採用を促しています。すると、他社への紹介やリピート利用につながりやすいという好循環が生まれました。

私たちが目指すビジョンは、選択のための情報を適切に与えられる社会
西山:東京進出を狙うスタートアップが多い中で、本社を京都に置く理由とは?
緒方氏:京都は伝統産業から世界的企業まで、多彩な企業文化が密集していて、若い起業家に対する応援体制が整っています。コミュニティの温かさや、長期的にビジネスを育む風土も魅力。東京や海外展開も将来的には検討していますが、今は京都でしっかり地盤を固めるのが最善だと考えています。自治体や地元企業との連携もスムーズですし、何より私たちが大切にしている「ものづくり」の精神ともマッチします。
西山:最後に、今後のビジョンや目標を聞かせてください。
緒方氏:今はまず関西圏の製造業・建設業のお客様に向けて、確実に価値を提供することに注力しています。その上で全国的な展開、さらには海外、特に東南アジアへの展開も視野に入れています。私自身、インドのスラム街で教育格差や貧困の連鎖を目の当たりにして、「場所や経済状況に左右されず、誰もが最適な意思決定をできる環境を整えたい」という思いが根底にあるんです。AIを活用すれば、世界中どこにいてもアクセスできるツールや情報プラットフォームを提供できますから。上場やグローバル化を目指す道のりは険しいですが、着実な成果を積み上げ、一歩ずつ進んでいきたいですね。

取材を終えて
取材を通じて、技術への情熱と日本のものづくりを支えたいという緒方さんの強い想いに心を打たれました。現場の課題を的確に捉え、理論と実用を兼ね備えた解決策を導く姿勢には、知性と行動力を感じます。AIを活用し、未来のものづくりに挑むその姿勢には、大きな可能性があると確信しました。(ライター 小林希実子)
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