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奈良先端科学技術大発、「農ある暮らし」を実現するマッチングサービス

  • Yuka Yoshida
  • 26 分前
  • 読了時間: 7分

関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、株式会社GRow 切田 澄礼 代表取締役にお話を伺いました。


取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局)

     吉田 由佳(生態会ライター)

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切田 澄礼(きりた すみれ)代表取締役 略歴

1997年生まれ、山口県下関市出身。立命館大学卒業、奈良先端科学技術大学院大学修士課程修了。大学院に在籍中の2020年に学生団体GRowを設立し、農業と学生をつなげる活動に取り組む。その後、2022年1月に株式会社GRowとして株式会社設立。現在は奈良先端科学技術大学院大学の博士後期課程で土壌微生物・共生菌の研究しながら、農業に関心を持つ人々と地域社会のマッチング事業を実施。2025年南都銀行主催第11回「<ナント>サクセスロードスタートアップ部門」優秀賞。


人と農業を「つなげる」。GRowが描く「農ある暮らし」の実現


生態会事務局 西山(以下、西山):本日はお時間いただき、ありがとうございます。株式会社GRowの事業内容について教えてください。


切田代表(以下、切田)「農ある暮らし」の実現をサポートするネットワークサービスです。直接的な就農は難しい人々と農家さんを繋げる仕組みです。ユーザーがアンケートに答えると、その結果をもとに理想の「農ある暮らし」が提案され、それを実践している人とマッチングされます。そして、実現するための先行事例を把握したり、具体的な行動について相談したりできます。

しかし、次は、そのつながった人たちが長期間「試せる」場が必要だと考えました。そこで今、奈良の東吉野村、吉野町、そして御所市で、実際に畑を触れる場を作ろうとしています。御所市では、農家さんがもともとやられていた貸し農園の広報を支援させて頂いており、すぐに農業体験の実践が可能です。東吉野と吉野は、耕作放棄地や空き家が多いため、今後、整備していく段階です。


GRowの農ある暮らしのマッチングサービス
GRowの農ある暮らしのマッチングサービス


農業と土壌研究への想いを熱く語る切田代表
農業と土壌研究への想いを熱く語る切田代表

学生時代の土壌研究や農業への探求心から起業へ


西山:ご実家が農家というわけではないのですか。


切田:全く違います(笑)。当時、テレビで地球温暖化や自然破壊のドキュメンタリーがよく流れていて、当時から自然環境を守る研究者になりたいと思っていました。祖父が理系の研究者だった影響もあります。それで、「生物系で理系で、自然環境を守る研究者になろう」と考えた結果、立命館大学に入学しました。


西山:学生団体は、ご自身で一から作られたのですか?


切田:はい。学内のコンクリートで埋められていない駐車場の隅っこがありました。そこで10人ぐらいの友達と開墾していたら、次第に学生団体になり、緑化活動や畑を始めました。


西山:そこから立命館大学を卒業されて、奈良先端科学技術大に来られたのはなぜですか?


切田:大学4年から土壌微生物の研究をしていたのですが、当時は、遺伝子を読むといった、いわゆるメタ解析のような、詳細を分析することはやっていませんでした。そこで奈良先端科学技術大学院の植物免疫学研究室を調べてみると、「植物と微生物の応答関係」、特に、植物の根の中に共生している菌にフォーカスした研究をされていたんです。DNAを読んでメタ解析し、どういった菌たちがどのような共生関係を結んでいるのか、そのメカニズムを解明している研究室があったので、入学を決めました。


奈良先端科学技術大大学院大学の外観
奈良先端科学技術大大学院大学の外観

西山:大学院を卒業後、NTTコミュニケーションズに行かれたのはなぜですか?


切田:大学院には情報系の友人が多く、勉強もできるし、社会への応用という部分も優れていました。そのような友人の影響から、農業分野にDXやITは必要だと考えていたので、それが大きくできるところに入りたいと思いました。


自身でも収穫に挑戦する切田代表
自身でも収穫に挑戦する切田代表

生産者との「顔の見える関係」。GRowが目指す、土壌から考える新しい農業


西山:では、いよいよGRowさんのお話ですが、まず「GRow」という社名はどうやって決めたのですか?


切田:「育つ」という意味と、あと「r」だけ大文字にしているのですが、それは私が立命館から始まったという意味を込めています。ロゴも「r」から始まって循環していくような矢印のデザインになっています。


西山:切田さんなりに強調したいところや、既存のものとの違いは何でしょうか?


切田:将来的には、土壌微生物のことをやっていきたいので、今のネットワーク作りや貸し農園の先に、「土壌のことも考えた栽培方法をやりましょう」と提案していきたいと考えています。また、もう10年ぐらい農業に関わってきていることから、全国各地に私が直接巡っていて、その時に出会った農家さんもたくさんいます。農家さんに急にアポイントを取って会いに行くということを、「息をするように」やり続けてきたので、自然と農家さんが集まってきました。連絡が取れるだけで言うと100件ぐらいはあると思います。深くつながっているのは20件ぐらいで、地域は関西が多いですが、山形、福島、広島、高知などにもいらっしゃいます。そこが他社との差別化になるかと考えています。


西山:地方自治体からの受託というお話でしたが、それはどこの自治体ですか?


切田:高知県です。地方自治体としても、地域の中だけで集客してもあまり意味がなく、外部の人を呼び込みたいという思いが強いです。そこで、関西の若者を高知に連れて行くということをやらせていただいています。例えば、関西で場所を借りて、事前に仕入れた高知の農家さんの食材を使った食事会イベントを開き、農家さんにはオンラインで参加していただく、ということをやってきました。そうすることで、現地に行く前に農家さん自身に興味を持ってもらう場を、若者がたくさんいる場所で作ります。そこで興味を持った人たちを、1泊2日の農業体験ツアーに連れて行きました。高知には「農業担い手育成センター」という、寮も学校もあって1日500円で研修が受けられるような場所があるらしく、そういった就農や移住のための制度や仕組みを学べるようなツアーを企画しています。



研究拠点である奈良先端科学技術大にて(左:ライター吉田)
研究拠点である奈良先端科学技術大にて(左:ライター吉田)

土壌研究を社会実装する未来への展望


西山:今後の抱負についてお聞かせください。


切田:今、株式会社GRowと研究の両方をやっていて、研究のシーズが生産者の元に降りてきていないことを体感しています。研究に集中する人材も、生産に集中する人材も必要だと感じています。なので、その間の人材でいるために、研究もして、どう実用化していくかを考えていきたいです。また、これまで農業や地方に関わってきて、芽が出ずに失敗している理由は、大きくやろうとしすぎたことだと思っています。そのため、「まずはこの地域で」、というのを積み重ねていくのが大切だと考えています。このビジネスモデルは、大きくても関西、最初は奈良からやっていくことになると思います。そのうち、全国で私のような人が現れて「これを東北でもやりたい」と思ってもらえるように、まずは、関西に集中してやっていきたいです。


西山:選択と集中ですね。


切田:はい。この事業はローカライズしていくものだと思います。一方で、土壌微生物についてはスケールできると思っています。農業や農家、地方という分野は属人的で小さくやった方が良いと考えています。一方、研究開発は、規模が大きくなりえます。いずれ、土壌微生物や共生菌の資材開発、共生菌を使って植物の状態を診断する技術も生み出したいと考えています。


吉田:研究開発と事業の両方に説得力を持つには、地域で実際に活動するということですね。


切田:はい。そして、今就農したいと思っている人が、実際にどういうステップで就農しているのかというプロセスが、まだ見えていません。農家の子どもは、就農が簡単ですが、人口としては、非農家出身者が圧倒的に多い。その方々が農業に関わるための段階を、明確にしていきたいという思いもあります。また、農家さんも研究者と触れる機会はないですから、農家さんに土壌についての知識を啓蒙していきたいと考えています。


西山:大学の先生がご自身の研究を論文発表だけでなく、社会に役立てたいと起業されるケースも最近は増えています。事業と研究の両方をわかっているからこそ、できることがあると思います。本日は、ありがとうございました。


左:GRow 切田氏、右: 生態会 西山
左:GRow 切田氏、右: 生態会 西山

取材を終えて

切田代表の学生時代からの探求心が、現在の事業へと繋がっていました。複数のアクセラレーションプログラム参加を通じて、「農業が抱える課題」を深堀していること、20代から「一生この課題を向かい合っていく」覚悟に感銘を受けました。さらに、「土壌微生物学」という研究視点と、「農家や地域に寄り添う」起業家という二つの顔を持ちながら、農業の新しい未来を切り拓く姿に、大きな希望を感じました。(ライター 吉田由佳)


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