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先生のミカタとなり、教育の場を再構築!学校DXで教育のあるべき姿をつくる​:株式会社LearnMore

  • 執筆者の写真: 松井 知敬
    松井 知敬
  • 10月10日
  • 読了時間: 9分

関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、学校環境の変革を目指す株式会社LearnMore(ラーンモア)の 坂口 雄哉(さかぐち ゆうや)​さんにお話を伺いました。


取材・レポート:垣端 たくみ(生態会事務局)、松井 知敬(ライター)


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坂口 雄哉(さかぐち ゆうや)氏 略歴

兵庫県神戸市出身。両親ともに教師という家庭で育ち、大学在学中に自身も教員免許を取得。大学卒業後、東​証上場企業に約8年務めた後、2020年に株式会社LearnMoreを設立。企業と学校、双方を理解した独自のスタ​イルで、BtoG(Business to Government)サービスを展開。教員1,600名以上が参加するネットワークを基​盤に、実践的な教育改革の推進役として活動中。


■先生たちを忙しくさせている要因については明確になっていない


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生態会 松井(以下 松井):本日は、どうぞよろしくお願いします。まずはじめに、御社の事業内容を簡単にご説明いただけますか?


LearnMore 坂口(以下、坂口):わたしたちは、学校現場における「先生たちの働き方改革」「ICT教育の推進」を後押しする会社です。学校現場が抱える業務課題を可視化し、その具体的な解決手段を提供しています。メインクライアントは、教育委員会や学校です。一言でいうと教育ベンチャーなんですが、先生のミカタになる、つまり、サービスをお届けする先が学校の先生という点で、ちょっと変わった立ち位置かなと思っています。


松井:どのようなサービスを提供されているんですか?


坂口:先生たちの勤務環境がブラックだとメディアでも話題になっていますが、「じゃあ先生たちを忙しくさせている要因は何なのか?」という点については、明確になっていないケースがほとんどです。なので、わたしたちは、まず先生たちの業務状況を「見える化」します。先生たちが置かれている状況を明らかにしてから、順次、改善策を講じていきます。


松井:現状を正しく把握するところから始める、と。


重要度と負担度を調査してグラフ化する
重要度と負担度を調査してグラフ化する

坂口:はい。先生たちの業務は、授業準備からテスト作成、保護者対応、部活指導、会議や研修など多岐にわたります。それぞれの「負担度」「重要度」といった情報を調査し、データ化することで、先生たち自身に現状を正確に認識してもらうんです。わたしたちは、これを「学校の健康診断」と呼んでいます。


松井:なるほど、グラフ上で可視化するんですね。縦軸が「負担度」、横軸が「重要度」となっていますが、ボールの大きさは何を表しているんでしょう?


坂口「業務量」を表しています。たとえば、グラフの右下辺りに青いボールがありますが、これって他のものより大きいですよね。つまり、「業務量」が多いことを示しています。ただ、ここは「重要度」が高くて「負担度」が低いエリアなので、「業務量」が多くても、先生方ってそんなにストレスたまらないんですよ。それよりも、左上の辺りにある赤いボール、つまり「重要度」が低くて「負担度」が高いものから取り掛かっていくことになります。




わたしたちのような「先生のミカタ」が民間に必要


生態会 垣端(以下、垣端):具体的には、どのように改善していくんですか?


坂口まずKPIを立てるんですが、「業務量」を減らすのか、「負担感」を下げるのか、で違ってきます。グラフ上で言うと、「ボールを小さくする」のか、「ボールの位置を下げる」のか、の違いです。その辺りを決めてから改善策を立て、実行していきます。実行した後は、それが反映されているかを効果測定していきます。


垣端:改善策というのは、たとえばどういうものになるんでしょう?


改善例:メタバースを不登校支援に活用
改善例:メタバースを不登校支援に活用

坂口:そうですね。たとえば、会議や打ち合わせの負担が大きい、というケースがあるとしましょう。この場合は、「効率的な議事録フォーマットの活用」「ファシリテーションのスキルアップ研修」といった方法をとります。その後、会議時間や負担度がどれだけ減ったかを定期的に観測していく、という流れです。今のは一例ですが、学校が抱えている課題って、「不登校支援」だったり「部活動」だったり「保護者対応」だったりと、結構、幅が広いので、アプリやメタバースなどもうまく活用しながら、状況に応じていろいろな方法を講じていきます。


松井:企業向けにも通用しそうなサービスですよね。


坂口:はい、そう思います。ただ、わたしたちの存在意義が先生のミカタになることであり、「先生とともに教育という未来をよりよくする」ために活動しているので、提供先は学校に限定しています。今、学校現場に求められていて、でも、足りていないことはたくさんあって、そのギャップを埋めるのがわたしたちの役目だと思っています。


松井:坂口さんにとって、教育の理想像ってどんなものなんですか?


坂口わたしたちの中では、「教育のあるべき姿」を次のように定義しています。「先生が真に必要なことに集中でき、その教育を受けたこどもたちが社会で活躍し、かつ、そのこどもたちが学校や教育に対してポジティブな感情を抱き、良い先生になって学校現場に戻ってくる」こと。これまで、GIGAスクール構想や民間人校長など、いろんな取り組みがされてきました。でもまだ、この「あるべき姿」に到達していない。だからこそ、わたしたちのような「先生のミカタ」が、民間に必要だと思っています。




高い高い教育の壁が、コロナによって揺らいでいる


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松井:創業は2020年ですよね。新型コロナで学校が休校になっていた頃だと思うんですが、LearnMoreを立ち上げた経緯を教えていただいていいでしょうか?


坂口:実は、うちの両親、どちらも学校の先生なんですよ。その影響からか、わたしも小学校の頃から先生を目指していました。大阪教育大学に入学し、教員免許も取得したんですが、このまま学校の先生になったとしたら、学校のことしか知らないまま教壇に立つことになります。「両親も学校のことしか知らない、友達も教育大なので学校のことしか知らない。こんな状態で、これからどんな世界に旅立つか分からないこどもたちに、何が教えられるのかな?」と、すごく疑問を感じたんですよね。


垣端:学校以外のことも知らないといけない、と。


坂口はい。教えるより先に、もっと社会を知ろうと思いました。それで入社したのが、東洋テックという会社です。最初は営業職だったんですが、「3年間でサラリーマン生活40年分の経験を積んで辞めよう」とギラギラして走り回っていたら、経営企画室に配属してもらえたんです。そこでは、会社のDXを担当したり、経営計画を作成したり、M&Aを担当したりと、およそ20代では得られないような経験をさせてもらいました。


垣端:東洋テックって、社内はどんな感じなんですか?


坂口東洋テックは、セキュリティ関連の上場企業なので、警察OB、自衛隊OB、銀行OBも多いんですよ。もう、石橋を叩き割るんじゃないか、ぐらいの堅実な会社で。その点で、自治体とちょっと近い感じがあると思います。その会社でDXや経営企画などに携わった経験は、今の仕事に役立っていますね


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松井:会社員を経験した後に、先生になるのではなく、先生たちをサポートする側に回ろうと思ったのは、何か理由があったんですか?


坂口教育の形を変えたい、と思ったからですね。わたしが先生として教壇に立ったとして、毎年40人学級を持って30年続けても、影響を与えられるのは1200人。でも、40人学級を持っている先生たち40人にアクションできれば、毎年1600人になります。教育の形を変えたいのなら、やはり後者だなと。


松井:起業を決意したのは、いつ頃でしょう?


坂口25歳のときに仕事でモンゴルに行ったんですけど、モンゴルの20代の人たちがとても優秀で、そして、日本の同世代よりも熱量が高かったんですよね。「このままで、日本大丈夫?」と危機感を覚えると同時に、「日本の教育を変えなければ」という思いが強くなり、帰国後すぐにビジネスモデルを考え始めました。しばらくは、東洋テックの社内ベンチャーとして立ち上げようと思って動いていました。ただ、なかなか実現が難しくて。そんな中、新型コロナによる緊急事態宣言が出されたんです。「高い高い教育の壁が、コロナによって揺らいでいる、今ならいけるんじゃないか」、そんな思いで、ちょうど30歳になる年に退社し、LearnMoreを立ち上げました。




■地域全体でこどもを育てていく上でのハブになりうる


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松井:起業した時点で、先生たちの働き方改革を推し進めるという構想は、あったんですか?


坂口:はい、それはありましたね。「先生が真に必要なことに集中できる」ことが、「教育のあるべき姿」を実現する上で、何より大切だと思っているので。ただ、いきなりそこに切り込むのは難しいと思ったので、まずはコロナ禍で困っている先生たちのために、動画教材を制作し、提供することから始めました。


松井:なるほど。まず関係性をつくって、その後、働き方改革を提案していったんですね。


坂口:はい。コロナ禍ではこどもたちの職業体験も実施できずにいたので、インターネットを使ったオンライン職業体験なども手掛けました。職業体験の動画を作成して生徒たちに観てもらったり、ビデオ通話で事業所とつないだり。今のように「先生たちの働き方改革」そのものすばりを受注できるようになったのは、前年度ぐらいからです。


松井:なるほど、地道な積み重ねが実ってきているんですね。今後の展望も聞かせてもらっていいでしょうか?


独自開発した漢字学習アプリ。AIがオリジナルストーリーを自動生成し、学習意欲を高める。
独自開発した漢字学習アプリ。AIがオリジナルストーリーを自動生成し、学習意欲を高める。

坂口:先生のミカタとなって学校現場を改善するのはもちろんですが、学習アプリを独自開発したり、教科書会社などと組んで海外展開をおこなったりと、業務範疇を広げていっています。2029年の上場を目指して、取り組んでいるところです。


松井:最後に、読者へのメッセージを頂けますか?


坂口親の次に身近な大人って先生だと言われていて、そんな先生たちが教育活動に全力を向けられるようにすることは、こどもたちに大きな影響を与えます。わたしたちは、民間の立場にいながら先生のミカタなので、地域全体でこどもを育てていく上でのハブになりうると思っています。皆さん、わたしたちと一緒に、教育という未来をより良くしていきましょう!


松井 垣端:本日はありがとうございました。


取材を終えて

「変革=既存の枠組みを作り変えること」だとすれば、坂口氏の取り組みはまさにそれだと言える。自らが教壇に立つのではなく、学校環境を変えることで教育改革を成し遂げようとしている。その姿勢は、「先生と共に教育という未来をよりよくしたい」という坂口氏の言葉にも現れている。民間から学校を「変革」する株式会社LearnMoreの動向から目が話せない。(ライター 松井知敬)​


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