2022年2月27日、NPO法人生態会主催の、「オープンイノベーション、事業提携の失敗と成功。スタートアップが知るべき「ここだけの話」が開催されました。(オンライン・オフライン両開催)。豪華なゲストを迎え、大変盛り上がったイベント、その内容の一部を紹介します。
レポート:大橋真衣 田代蒼馬 (生態会 学生ボランティア)
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イベントでは、①フォースタートアップス株式会社 アクセラレーション本部 Public Affairs戦略室 小田 健博氏、②glafit株式会社 代表取締役 鳴海 禎造氏、③株式会社イーストキャピタル 代表取締役 渋谷 卓司氏の3名に登壇していただきました。
前半は各人のトークセッションで各社の理解を深めました。後半は生態会事務局長・西山が進行役として参加し、ゲスト3名を交えてパネルディスカッションを実施しました。
▼当イベントの様子をまとめた30秒動画
前半: トークセッション
1.フォースタートアップス株式会社 小田氏
フォースタートアップス株式会社は、日本のイノベーションを推進する成長産業支援プラットフォームです。「日本から世界で勝負できる企業・サービス・人材を創出し、日本の成長を支えていく」ミッションのもと、日本から外貨を獲得し、世界でも競争力を持てる産業・企業を1社でも多く生み出すために「For Startups」というビジョンを掲げて活動をしています。
オープンイノベーションとは、自社で持つリソースやアセットを公開し、お互いの足りないモノやコトを補い合い、掛け合わせて新しい事業やサービス、プロダクトを外部と一緒に生み出していく手法、考え方です。

これまでのイノベーション創出は大手企業などが社内で研究開発を重ねて生み出すクローズドイノベーションが一般的でしたが、昨今は事業会社と事業会社、事業会社とスタートアップ、もしくは産学連携などオープンイノベーションという手法を活用したイノベーション創出が増えてきています。
オープンイノベーションは、0⇒1ではなく、関わる企業やステークホルダーが、お互いが持つリソースを持ち出し、活用し、長所を生かし、短所を補い合うことでスピード感を持って事業創出に取り組むことができます。
事業会社がスタートアップとのオープンイノベーションに取り組む理由は、事業会社が持っていないモノをスタートアップが持っており、補い合える点が多いからです。短期間で急成長を目指すスタートアップは、前例がないビジネスモデルでゼロから市場を作っていくため、「ヒト」「カネ」「機会」というリソースが不足していることが多いです。
一方、事業会社は「ヒト」も「カネ」も「機会」もあるものの、新規事業やイノベーションを生み出していく新しいアイデアやスピード感、柔軟にPDCAを回してアップデートを重ねる組織体制がないことが多いです。
これらのように、お互いが必要としている要素を持っている相手と組むことによって、より効果的にスピード感を持って事業開発やイノベーション創出に取り組むことができるのがオープンイノベーションです。
事業会社とスタートアップがオープンイノベーションを推進していく時に両者に必要な基本要素が「コミット力」「目標設定」「オープンネス」です。そして、オープンイノベーションを成功させるために、特に事業会社サイドに必要な要素が「組織の理解と許容」「スピード感」「継続力」です。これら6つの要素が揃わないとよい結果を産むことは難しくなります。

これらのスタートアップからの視点と、事業会社からの視点の両方を考慮して、「良い事業やイノベーションの創出」を実現できるプラットフォームや社会環境を創っていくことを目指しているのが、フォースタートアップス株式会社です。
2.glafit株式会社 鳴海氏
glafit株式会社は、ユーザーの「乗りたい!」をカタチとして創造する企業です。移動することは、本来楽しくて、面白くて、うれしいことであったはずです。Glafitの製品に乗ると、ガソリンエンジンで走っていた時には聞こえなかった鳥のさえずりや川の音が聴こえて、走り慣れたいつもの道がまったく違う体験になります。
我々の使命は、移動をエンターテイメントに変え、人々の生活を豊かにすることです。
・glafit株式会社の資金調達達成の事例

①GFR:2017年Makuekeにて調達額 128,004,810円を達成。
「自転車×電動アシスト×バイク」の組み合わせによる3走行モードが可能な電動ハイブリッドバイクとしてGFR-01を販売しました。
②LOM:2020年Makuekeにて「“ちょっとそこまでの”移動を楽しく便利で快適に!【X-SCOOTER LOM】」として調達額 154,983,400円を達成。
Glafitのモノづくりは、日本のモノづくりの力を借りています。大手サプライヤーは作りこまれたモノづくりをしているため、ベンチャー型ビジネスには適応しにくい傾向にあります。べンチャーマインドとして、同じ目線でモノづくりに取り組んでくれる企業と組むことが大切です。
3.株式会社イーストキャピタル 渋谷氏
アライアンス・エクイティ資金調達・ワインラベルを読み取るとそのワインの詳細が分かるアプリの売却やインバウンド向けの宿泊事業などの事業売却を行っていました。
[ベンチャー企業と大企業の違い]
①大企業は、ベンチャー企業よりも意思決定のプロセスが複雑であり、時間がかかる。
②部署・役職・立場ごとの動き(現場の壁)がある。その結果、非協力や誤情報など問題がある。

以下のポイントが、事業提携において大切だと思っています。
・力のある協力者やパワーストラクチャーなどの意思決定プロセスを正しく把握すること
・部署・役職・立場などの気持ちを解読すること
・より多数から多角的に情報を得ること
オープンイノベーションに関しては、新時代の事業提携プラットフォームを試したり、Morning PitchやSERVICEといった大企業とのマッチングができるシステムも存在するので、検討してみてはいかがでしょうか。
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後半: パネルディスカッション
生態会 西山(以下、西山): オープンイノベーションがうまくいった実例について、教えていただけますでしょうか。
小田氏: 弊社は、提携先企業同士を繋ぐハブとしての役割がメインですので、2社間のモチベーションを保つ、コーチングの仕事が多いです。
以下の2社による提携が、成功した例として挙げられます。
シナノケンシ: 電子機器・精密機器を中心に製造するものづくり企業。新規事業をやりたいが、なかなかアイデアが生まれてこない
BionicM: 電動義足の研究開発を行うスタートアップ。技術はあるが、製品の量産体制が整っていない
このように、お互いの組むべきところをしっかりと見極め、最後までやり切ることで、オープンイノベーションは成功すると言えます。

西山: 大手企業との提携は、どのようにして実現させているのでしょうか。
鳴海氏: 資本業務提携を結ばせていただいた全ての大手企業(Panasonic・ヤマハ・オートバックスetc)に共通している点があります。それは、企業のトップ(社長)と話すことです。
社長に直接プレゼンをにしにいくなど、積極的にアプローチしました。また、問い合わせ経由で対応してくれた担当者に対して、「大企業の新規事業は、1つが失敗しても会社は倒れない。だが、我々はこの1つの事業がうまくいかないと会社の存続に関わるので、社長決済で出資してほしい」ということを伝えました。
担当者→主任→課長→部長...という流れで、最終的に社長まで行き着き、出資を受けることができた事例もあります。その際は、トータルで1年かかりました。

西山: 渋谷さんは、いかがでしょうか。
渋谷氏: 私はそのようなやり方をしたことがないので、非常に興味深く聞かせていただきました。私の場合は、色々な会社のしかるべき部署の方、いわゆるキーマンを紹介してくださる社長さんと知り合いだったので、提携がスムーズに進みました。
やる気があり、自分自身が多少リスクを取っても一生懸命動いてくれる、そんな人がオープンイノベーションにおけるキーマンであると考えています。
西山: ここまで、オープンイノベーションにおいて成功した例を中心に聞いてきましたが、逆にうまくいかなかった例はありますでしょうか。
鳴海氏: はい。会社の組織上「オープンイノベーション室」「新規事業室」のような部署が作られて、受動的にそこに配属された人とは、彼らの仕事に対するモチベーションが低く、話が合わないことが多いです。
西山: 小田さんは、そういった事例をよく見かけるのでしょうか。
小田氏: 頻繁に見かけます。特に、自分ごと化して考えることができない人は厳しいなと感じます。また、すぐ「無理」と言う人もうまくいかない印象ですね。
私の場合、そういった担当者が出てきた場合には、担当者を変えてもらうように率直に伝えています。

渋谷氏: 皆さんに加える形になりますが、社長はやる気満々だが、担当者はやる気がないといったようなことが起きないように、オープンイノベーションに関しても社内理解を浸透させることの必要性を感じますね。
西山: 他のスタートアップにおくるアドバイスはありますでしょうか。
鳴海氏: 将来的な戦略を見据えた資本政策を考えることが必要だと思います。特に大企業との提携に際して、「あるグループと提携しているから、他のグループと提携することができない」といった制約に直面することが多々あります。転がってきた話に飛びつくのではなく、企業として目指すミッションをもとに、計画的な資本政策を練るべきだと考えています。
また、昨今資金調達の動きがよく見られますが、どこから出資を受け、提携してやっていくかという点に関しては、よく考えるべきだと思います。
特に弊社のように、「モノ」を扱う会社はお金だけではうまくいきません。事業会社と提携することで、金銭面以外でもサポートを受けながら、事業を加速することができました。

西山氏: 最後に一言ずつよろしくお願いします。
小田氏: 企業・個人単位でイノベーションが次々と生まれてくるような社会に貢献できればと考えていますので、引き続きよろしくお願いいたします。
鳴海氏: オープンイノベーションの本質は、「こうしたい」という思いを持ったプロジェクトに他者を巻き込んでできるものだと考えています。
「こういった商品を世に生み出したい」という意志を持ち続ける事業会社として、次々とオープンイノベーションを社会に生み出せるよう精進していきます。
渋谷氏: インターネットの台頭にはじまり、チャンスは次々と到来していると思います。
ベンチャーとしてイノベーションを起こす機会はどんどん広がっているので、特に若い方にはユニコーンであったり、大きな目標を持って取り組んでいただきたいと思います。
【イベントを終えて】
大企業とベンチャー企業の両方の視点からの考えを知ることができました。それぞれに長所があって、掛け合わせることで強みを引き出すことができるんだと考えます。また、ベンチャー企業の資金調達の方法など普段は聞くことができないことも聞くことができ、充実した学びの場になりました。(学生ボランティア 大橋)
スタートアップと事業会社間における、数多くのオープンイノベーションの事例・注意点をを聞くことができました。中でも、「トップと話す」「キーマンを押さえる」といった、スタートアップ視点で大手企業との提携を実現させるための具体的なポイントが学びになりました。(学生ボランティア 田代)
生態会では、今後も毎月、スタートアップに役立つセミナーを開催していきます。
セミナー情報は「生態会 Peatixページ」で公開しています。どうぞフォローお願いします!
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