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  • 執筆者の写真Erika K.T

自分の足に合う左右別サイズのシューズ購入を、世の中の当たり前に!:株式会社DIFF.

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は「足が喜ぶ、あしたをつくる。」をビジョンに掲げ、シューズを左右別サイズで買えることを当たり前にし、地球上のすべての人が、自分に合ったシューズを簡単に手に入れられる世の中の実現を目指す 株式会社DIFF.の代表取締役社長 清水 雄一(しみず ゆういち)さんにお話を伺いました。


        取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)、近藤絵理香(ライター)

 

清水 雄一 (しみず ゆういち)氏 略歴

1988年に三重県伊賀市生まれる。2012年にミズノ株式会社に入社。開発部門でサッカーシューズなどの開発、新規事業プログラム運営に従事。

2022年11月に出向起業し、株式会社DIFF.を設立。経済産業省『出向起業等創出支援事業』にスポーツ用品業界で初採択。

大企業挑戦者支援プログラム「CHANGE by ONE JAPAN」ファイナリスト。

経済産業省/JETRO主催次世代イノベーター育成プログラム『始動Next Innovator2021』シリコンバレー選抜。

 

■きっかけはスポーツシューズの開発時代に湧いた疑問


生態会 垣端(以下 垣端):本日は、どうぞよろしくお願いします!まず最初に事業内容を教えてください。


清水 雄一氏(以下 清水):事業内容はシューズを左右別サイズで提供することで、それを世の中の当たり前にしていきたいと思っています。

当たり前のようにシューズは、左右両足セットで販売されています。しかし、人の方に焦点を当ててみると、左右で足の大きさがワンサイズ分(5ミリ)違う方が、約5%おられます

私がミズノ株式会社でスポーツシューズの開発をしてた時に、人の足型を測定する機会が頻繁にありました。 その中で左右の足のサイズが違う方が結構いる、という現実を実際に見てきました。


垣端:ご自身の実体験が今につながっているのですね。


清水:トップアスリートであれば、ミリ単位で足に合わせてオーダーをすることがありますが、一般の方はサイズが足に合っていないスポーツや硬い革靴を履いて、それが積み重なって足が痛くなることがある。それが当たり前になっていて、課題にすら感じずに生活している。そこに疑問を持って、変えていきたいなという想いがきっかけで始めたのが、このビジネスです。

垣端:具体的には、どのようなことをされていますか?


清水:左右別サイズでシューズを扱う流通のプラットフォームを作ろうとしています。市場で売られている両足セットのシューズを仕入れて、左右別々に品番を付与して管理して在庫を持つ。これらのシューズをECショップで直接販売するだけでなく、小売店さんと連携しながら店頭でも販売していきたいと考えています。自分たちで販売していくだけでなく、市場で回していき収益化していくようなビジネスにしていきたいです。


垣端:ありがとうございます。実際のご経験で、左右の足のサイズが違う方にお会いしたことが、ビジネスを立ち上げるきっかけだったのですね。実際に測定してみると、左右の足のサイズが違うと気づいた方も結構おられましたか?


清水:測ると結構おられました。5ミリ違う方が約5%と言いましたが、実際には左右で3ミリ違った状態で、右は24.6センチで左は24.9センチですという方がおられる。そうするとお勧めするサイズは、24.5センチと25センチです、となります。


そういった左右差まで含めるとお勧めするべき左右のサイズが違う方は、実に20%近くおられます。ここまでは長さの話だけで、実際には幅の話もあり、そうなってくると本当に左右同じサイズで履くべき人の方が少ないということになってきます。

数字で語るよりも、足を見るともっと感じました。


■シューズ業界の構造的な課題とギャップ


清水:そんな状況の中で両足セットで販売されているのは、元々それが管理しやすかったからなんです。それが世の中の当たり前である必要はなく、左右別サイズで自分に合ったサイズで購入出来る、をニュースタンダードへ変えていきたいです。


垣端:なるほど、生産側の都合というのもあるのですね。


清水:そうなんですよね。市場で左右セットで流通することを前提に、全てを効率化するために物流や製造がまわっている現状があります。シューズの資材をカットする瞬間から、既に管理しやすい同じサイズの両側セットになっています。サプライチェーンの上流からユーザーへ届くまで、どこで変えていくのが一番良いのかを考えました。その中で、製造の構造を変えていくことは、かなり難しい現状がありました。


垣端:どういった課題があるのでしょうか?


清水:最初から両側セットで売られることを前提としているため、両足で1つの品番が付いているのです。左右別サイズにするためには、片足で流す品番を取って、特殊な生産をしてもらうことになります。ちょっと変えたいだけなのに、全部変えなければならないような話になり、かなりの負荷となってしまいます。そこで最終的に両足セットで製造されたシューズの流通を変えていこう、ということになりました。


一方でシューズを作る職人さんの話を伺うと、1ミリ以下の単位で細かく作られている。そんなにこだわって作られているのに、一般に出回っているシューズは両足セットで同じサイズでしか購入が出来ない現実のギャップがあります。


垣端:左右の足のサイズの違いに気づいている方は多いのでしょうか?


清水:いいえ、実は自覚が無い方が多いです。実際に足が痛い、マメが出来る、と自覚している人でも、それが左右の足のサイズ差が起因していると気づいていない人もかなりおられます。


垣端:自覚がある方は、どう対処されているのでしょうか?


清水:オーダーメイドで靴を頼む方や、2セットのシューズを購入して片方を捨てて使う方がおられますが、どちらも金額がかさみます。お金の比較的かからない方法で、インソールを入れて使う、靴下を2枚重ねて履く、あとはスポンジを買ってきて足の形に切って入れています、という方もおられました。


業界の目線でいくと、ニーズがあることは分かっていても、マイノリティの課題なんです。課題を解決したいという想いがあっても、そのために在庫管理にコストをかけて、やっても売上が上がる訳でもない。そうなったら、誰か専業でやるようなプレイヤーが存在しない限り、この問題は残り続けていくなと。それなら自分が未来を変えていこうと思いました。


■未来を変えていくための施策


垣端:そういった課題がありながら、清水さんとしてはどのような仕組みでビジネスを継続していこうと考えていますか?

清水:今時点では、左右別サイズでシューズを提供することに対して、手数料を購入する方から頂いています。それは現状では、我々も一足販売するために二足仕入れる必要がある状況なので、残った片側を購入してくれる人の存在が認められるにしても、少し手数料を頂かないと成り立たないためです。


既に一定の費用を払ってでも、シューズを購入してくださったお客様がおられるので、サイズの左右差で悩まれている方に対して、この情報が届いた時にシューズを買って頂ける、というところまでは見えてきたと思っています。


あとは、自覚のない方に情報をどう届けていくかという課題があります。買った瞬間に自分の足に合った靴の気持ち良さを知っていただく、実際に履いていただく機会を作っていくということも重要と思っています。


垣端:同様のサービスを提供されている企業やスタートアップはおられるのでしょうか?


清水:専業でやられているところは無いと思います。組み合わせ販売という形や、マッチングプラットフォームを作っている方はおられます。


ライター近藤(以下 近藤):海外での事例はあるのでしょうか?


清水:片足がない人用のCSRの文脈でECショップで販売されていることはありますが、スポーツの文脈では聞いたことがないです。


垣端:色々な施策を考えられている中で、今後一番注力して取り組んでいきたいのは、どういったことですか?


清水:オフラインの施策に取り組んでいきたいと考えています。元々は、ランナーを最初のターゲットとして活動してきましたが、改めて考えるとサッカーの方が可能性が高いかなと。そこに領域を変えていこうかと検討しています。なぜかと言うと、サッカーは動きが激しい。ランニングは若干余裕を持ってシューズを履きますが、競技の特性上、サッカーはシューズをぴったり履きます。そういう意味で、ニーズが顕在化しやすい領域かなと。ある程度、激しいスポーツに出会いに行く、地道な草の根活動をしていこうかなと思っています。


垣端:具体的には、どういった活動を想定されていますか?


清水:まずはスポーツの大会をされている所に、ブース出展をさせてもらうということを考えています。足型計測を実施させてもらい、コミュニケーションを取らせてもらい、DIFF.の活動を知ってもらい、試しに靴を履いて実感してもらう場を持つイメージです。

あとは、ミズノから出向しているという自身の関係性、そしてミズノの強みである全国の部活との営業網を活かして、協力をお願いして一緒に回らせてもらいたいと考えています。


■出向起業の裏側


垣端:なるほど。ミズノさんとの関係性のお話もぜひ詳しくお聞きしたいです。


清水:実は駄々をこねて、ミズノから出資は0%で会社から出てきました。独立したかった背景として、「自分の足に合う左右別サイズのシューズ購入を、世の中の当たり前にしたい」という想いがありました。これはミズノのシューズだけでは難しいと考え、豊富な種類を揃える必要がある。そうなった時に、出資をしてもらうと関係会社のようになり、他社のシューズを扱うことが難しくなると想いを伝え、出資無しで出向起業をさせてもらいました。


垣端:出向起業という形になった背景をもう少し教えていただけますか?


清水:私にとっては、左右別サイズのシューズが当たり前に購入出来るようにする、他社のシューズを仕入れるといったことを社内でやりきるのは、構造的に難しかったというのが一番大きい点です。

ミズノにとっては、出資比率も0%で社員を外に出している訳ですが、何が良かったのか。その点に関しては、社長がプログラムオーナーで社内の新規事業の開発運営をしていて、新しいことをもっと社員ができる状態にしていこうね、と言ってくれていたんです。新規事業開発を含む新しいことに挑戦する風土の醸成には一定の手応えも感じており、そこで一発起爆剤的な新しいことをやってみませんか、という話をしました。

ミズノって社内起業までさせてもらえる会社なんや、と社内へ見せること、そして対外的にも企業イメージの向上へのインパクトは絶対にある、っていう利点をお伝えして、実験させてもらいたいとお伝えしました。


垣端:ミズノさんにとっても、出向起業というのは今回が初めてですか?


清水:はい、初めてです。思い返すと強い想いで突き進んだ感じでしたね。スピード感もすごくて、言い始めた自分が振り落とされそうになりながら、追い風で進んでいきました。ありがたく、良い会社だなと思いました。

垣端:本当に良い会社ですね。コミュニティ運営もされているとウェブサイトに書かれていましたが、どういった背景ですか?


清水:マイノリティの話なので、自分たちの左右別サイズのシューズを購入する消費行動っていうのが正しいんだ、ということを横で繋がってもらいながら価値を作っていく、コミュニティ運営もしています。


■課題と今後の展開


垣端:実際にビジネスとして動かしていくにあたり、課題はありますか?


清水:仕入れがまずひとつの課題です。どこのメーカーのシューズでも扱える状態にしていきたい。そして、生まれた価値を知ってもらうこと。広く認知してもらう、実際に体感してもらう場所、広報のような活動をご一緒させてもらえる場所を求めています。


垣端:具体的にはどういった場面を考えられていますか?


清水:まずはスポーツの場面から、イベントや部活などを回っていくことをしたいと考えています。


他には、健康経営を目指されている企業とご一緒させてもらい、靴という文脈で社員の健康サポートの一環として足形測定を行い、自分の足に合った靴を体感してもらうことも考えています。足に合っていない靴を履くと、姿勢が悪くなり腰痛に繋がり、健康を維持するためにも足や靴は重要と言われています。


認知度を高めていきたいので、どこでも呼んでいただけたら行きたいです。こういった活動はこれからやっていくところなので、やってみてからどんな反応があるかを見ていきたいと思っています。


近藤:課題の仕入れの部分について、幅広いメーカーのシューズを扱いたいということですが、ミズノご出身ということでライバル企業にあたる他社からの反応はいかがですか?


清水:やろうとしていることに対してはポジティブに捉えてくださっています。ただ私たちがまだ大量に仕入れることが出来ない、という点がネックです。


垣端:最後に今後の展開についてもお聞かせ願えますか?


清水:事業継続を出来る状態に持っていく必要があります。目標としている数字は実現可能と考えていますが、ここから1年が正念場と思っています。やれることは色々とあると思っています。


近藤:それを限られた人数でやっていかないといけない、という事ですよね。


清水:そうなんですよね。何からやるかというところは

考えていかないといけない点です。


具体的に進めているのが、小売店様との連携です。神戸にあるランニングシューズの専門店様と連携しながら、店頭で販売をしてもらい、DIFF.で売れたもう一足の片足を保証する取り組みを始めています。これを横展開していって、我々が持つ在庫をみんなで使える状態を築き上げていきたいです。


垣端:今後の展開が楽しみです!本日はありがとうございました。


 

取材を終えて


爽やかな清水さんの中に燃える、世の中の当たり前を変えていこうという想いが溢れる取材でした。ここに書ききれない程の施策を考えられておられ、未来を変えていくという決意を感じました。

起業から1年に満たない間に10名以上の委託メンバーがおられるとのこと。清水さんの人柄や想いに賛同して、自然と人が集まってくる求心力がある魅力的な方でした。(ライター近藤)




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