関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、ORAM(オラン)株式会社の代表取締役(CEO)野村光寛氏に話を伺いました。同社は、建設業界など現場の人材不足解決を目指し、後付けシステムで既存作業車輛を遠隔操縦するソリューションを開発しています。
取材・レポート:大洞静枝(生態会事務局)、森令子(ライター)
野村 光寛(のむら みつひろ)氏 略歴
1975年大阪府生まれ/博士(工学)。関西大学大学院 工学研究科博士課程前期課程 修了。高度成長期に町工場から産機メーカに成長した家業を間近に体感し、ものづくり・経営の道に進む。関西大学では現CTOの倉田純一氏(博士(工学、関西大学准教授を2023年退任)の元、現事業につながるRobotics研究に励む。 2002年 オムロン(株)技術本部センシング研究所入社。2007年、家業である建設業向け産機メーカー 大裕(株)の専務取締役就任、大林組と遠隔操縦システム「サロゲート」を共同開発。土木学会技術開発賞等受賞。2021年にORAM社設立。
ブルドーザー、フォークリフトなどの作業車輛を遠隔操縦する独自ソリューションを開発
生態会事務局 大洞(以下、大洞):本日はありがとうございます。ORAM社の事業について教えてください。
ORAM 野村光寛氏(以下、野村氏):ブルドーザー、フォークリフトなど既存の作業車輛を、後付けのシステムで遠隔操縦する独自のソリューションを開発・販売しています。作業員が現地に行かずに、しかも、複数の作業車輛を遠隔操縦できるようになるソリューションです。
背景には、高齢化・労働人口減少・熟練作業員の退職などにより、あらゆる現場で発生している人材不足をはじめ、労働環境の改善、生産性の向上などの課題を解決したいという思いがあります。社名のORAM(オラン)には、「ヒトが”居らん”問題を、ヒトが”居らん”状態で解決する」という意味を込めているのです。
遠隔操縦は新しい働き方です。人材不足の解決策となり、既存の車輛や設備を効率的に稼働することで、生産性も大きく向上します。当社のソリューションを普及させることで、現場・働き手・事業主・機械の新しい関係性を構築したいと考えています。
生態会 森(以下、森):具体的には、どのようなシステムですか?
野村氏:私たちのソリューションには、装置・操縦席・通信の3つがあります。
”装置”とは、レトロフィット遠隔操縦装置「RemoDrive®︎」です。これは、建機など既存車輛の運転席、例えば、操作レバーなどに小型ロボットを後付けする装置です。現場では、様々な車輛を使い分けており、遠隔操縦と、現場での直接操縦の切り替えも発生します。そのような状況にも柔軟に対応できるよう、どのメーカーのどの機種にでも適用する仕様で、かつ、現場作業員でも簡単に付け外しできるように設計しています。非常に利便性が高い装置です。
操縦席は「Switching Cab®︎」です。一つの操縦席で多種・複数台を遠隔操縦できます。例えば、ショベルカーを遠隔操縦した後すぐに、手元の端末で切り替えて、別のロードローラーを遠隔操縦することも可能です。
3つ目の通信は「Kinetic Mesh WiFi」を採用しています。建設現場などの広域な現場でも複数台を遠隔操縦できることはもちろん、全く異なる現場にある作業車輛を、一つの操縦席で切り替え遠隔操縦することができます。
建設や物流、車輛メーカーなど様々な業界から注目
生態会ライター森令子(以下、森):遠隔操縦だけでなく、複数台を簡単に切り替えられるとは驚きです!実用化に向けて、現在はどのような状況ですか。
野村氏:大手ゼネコンなど建設業界や、建機・農機メーカーなど車輛メーカーと実証実験を進めており、災害現場での導入例もあります。展示会などのプロモーションや、作業員育成などを目的とした活用ニーズも高く、これについては、実際の車輛ではなく、小型の車輛模型と実物大の操縦席を使ったデモ環境を開発しました。すでに複数社から受注しています。
また、NECとはフォークリフトの遠隔操縦ソリューション開発を進めています。倉庫内作業の効率化・安全性向上などを図るとともに、複数拠点にある複数台のフォークリフトを遠隔から少人数で集中管理できるようにすることで人手不足の解消を目指しています。
家業は創業60年の製造業。大企業の研究職、町工場の経営&研究開発など、多様な立場で”ものづくり”を経験
森:事業をはじめたきっかけを教えてください。
野村氏:家業は創業60年の製造業、いわゆる町工場で、子どもの頃から”ものづくり”の現場を体験してきました。大学では現CTOの倉田に師事し、オムロン入社後も研究員として、20年以上前からORAMのソリューションにつながる分野を研究してきました。2007年からは家業の経営と研究開発に関わり、大林組と共同開発した遠隔操縦システム「サロゲート」で、土木学会技術開発賞などを受賞しました。
その後、遠隔操縦システムを社会に普及させるために、2021年にORAMを立ち上げました。PCやカメラ、通信などあらゆるスペックが大きく向上し、私たちの研究が実用化できる時が来たことを実感しています。
10年ほど前に大きな病気をしたことも、遠隔操縦を推進する原動力となっています。体調がすぐれず、仕事ができない日々が続くなかで、「技術力で職業選択の幅を広げたい!」と決意しました。例えば、車椅子生活を余儀なくされる方が、ORAMの遠隔オペレーターセンタへ出勤し、お客様の倉庫や建設現場の“はたらくクルマ”を遠隔操縦するといったことも、我々のソリューションなら実現できます。
大阪市のサポート拠点「TEQS」「5G X LAB OSAKA」をフル活用、ラボで遠隔操縦を体験可能!
ライター 森令子:研究と経営、様々なご経験を経て、現在の事業があるんですね。御社の強みはどのような点にあるのでしょうか?
野村氏:大企業での研究開発、中小製造業の経営、事業開発といった事業に必要な経験・知見を有し、関連する分野で培ってきた人脈があることは、大きな強みだと思っています。また、現在入居している先端技術ビジネスサポート拠点 「TEQS」は大阪市が運営しており、私たちの事業を理解したうえで、様々なサポートを提供してくれるため、スピーディに事業を進めることができます。特に、「TEQS」入居理由でもある隣接施設「5G X(クロス) LAB OSAKA」(5Gを活用する製品・サービスの開発を支援すためのオープンラボ)は、まさに、私たちのソリューションの実験・検証にとって最適な場です。現在、「5G X LAB OSAKA」には、私たちのソリューションをデモ体験できる1/14スケールモデルの建機遠隔シミュレーターが設置されています。検証目的に加え、毎日来場する多くの見学者に、模型の作業車輛の遠隔操縦を体験いただくことで、PR効果も大きいと感じています。
(写真上↑)生態会も建機遠隔シミュレータで遠隔操縦を体験。タイムラグもなくスムーズな操作性に驚きました!建機操縦者を育成するために、このシミュレータを導入する企業があるという話にも納得しました。
大洞:車輛メーカーでも遠隔操縦は注目の分野だと思います。競合の会社はどのような動きをしていますか?
野村氏:メーカーごとに開発が進んでいますが、使いやすさ、価格、スピード感など、現在は私たちに優位性があると考えています。私たちの掲げる”メーカー不問”というコンセプトは、スタートアップだからこそ実現できるものです。
大洞:今後の事業展開について教えてください。
野村氏:これまでにない技術の社会実装ですので、安全性を含めて丁寧に進める必要があります。私たちも国土交通省 建設機械施工 自動化・遠隔化サブワーキングメンバーに加わり、業界のルールづくりから関わっています。様々な方々と連携し、遠隔操縦による新しい働き方を実現したいと思っています。
取材を終えて
スピーディな事業展開ですが、CTO倉田氏との大学での出会いから始まった研究を事業化
したというお話には、粘り強い信念を感じました。生態会も取材で体験した遠隔操縦シミュレータの完成度が高く、企業から発注が相次いでいるということで、「資金調達先行のスタートアップ的な経営ではなく、“商売人”として売上を上げつつ成長する」という野村氏のプランに沿って、着実に成長しているようです。(スタッフ森 令子)
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