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おうち卵子検査と「妊孕性可視化×検査後サポート」で働く女性の選択肢を増やす!:BeLiebe

  • 執筆者の写真: Yoko Yagi
    Yoko Yagi
  • 2 時間前
  • 読了時間: 9分

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、卵子検査キット『EggU』を展開する株式会社BeLiebeの代表取締役 志賀 遥菜さんにお話を伺いました


取材・レポート:大洞静枝(生態会事務局)

八木曜子(生態会ライター)

志賀 遥菜(しが はるな)氏 略歴

1991年埼玉県生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻を卒業後、大手外資メーカーに入社。バイヤーとして製造からマーケティングまで幅広いビジネスに携わると同時に、ジェンダー平等に関する制度設計や研修をリードする中で女性のライフキャリア支援の必要性を痛感。バイオ研究のバックグラウンドの社会実装を志し、2021年に株式会社BeLiebeを創業。現在もパラレルキャリアを実践中。



ライフサイエンスのバックグラウンドから女性キャリアの壁に挑戦


生態会大洞(以下、大洞):本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、BeLiebe創業に至る経緯について教えてください。


志賀遥菜(以下、志賀氏):元々、私は東京大学大院で医療生命科学の研究をしていたのですが、その研究結果が社会まで届かずに、論文止まりで終わってしまうことに課題意識を持っていました。そこで、まずは研究や技術を社会実装する先にある社会について学ぼうと思い、大手外資メーカーに入社しました。


入社後バイヤーやマーケティングなどのさまざまな仕事や、ダイバーシティ&インクルージョンや女性活躍などのプロジェクトに関わりました。そのような活動をする中で、入社3年目頃に今後のキャリアを考えました。ただ、私自身が大学院まで出ていたため、社会人3年目で29歳を迎えており、海外勤務などを含めたキャリアステップを考えると、出産適齢期とされる時期があっという間に過ぎてしまうことに気づいたのが、最初の原体験でした。


キャリアに力を入れたいのに、生物学的な制約によって、女性だけが選択を迫られるという現実を変えたいと考え、私自身のライフサイエンスというバックグラウンドと女性活躍という2本の軸を生かしながらできることがあるんじゃないだろうかと、起業を決意したのがBeLiebeの始まりです。

billage Osakaで取材しました
billage Osakaで取材しました

ライター八木(以下、八木):私自身も同じように悩んだ経験があるので、大変共感します。ところで、起業するタイミングで東京大学のアクセラレーションプログラムであるFoundXにも参加されたんですよね。


志賀氏:はい。大学院時代にはアントレプレナーシップの授業も履修していて、大学発スタートアップや研究成果を社会に届ける仕組みに強い関心を持っていたんですね。特に、実際に起業している方が本当に楽しそうに働いていたのが印象的で、「いつか自分も」と漠然と起業を意識するようになったこともありました。ちょうどコロナ禍で以前から興味があった東京大学FoundXがオンライン化したため、関西在住の私も参加することができました。


八木:起業するのが必然だったのですね。起業後もパラレルキャリアで活動されていらっしゃると伺いました。どういった思いで活動されているのですか?


志賀氏:BeLiebeの経営と並行して、現在も会社員として働いており、どちらにも相乗効果があると思っています。会社員として得た知識やスキルは、確実にスタートアップの経営に生かされていますし、逆に起業家としての経験があったからこそ、会社内でも違った視点で貢献できていると感じています。


たとえば、「自分が社長だったらどう判断するか?」という視点で業務に取り組むことができるようになり、会社員としての成果も上がりました。実際に社長賞をいただいたこともあり、両立の価値が証明された瞬間だと強く印象に残っています。


卵子の見える化と健康経営で女性活躍を支援する


八木:詳しくお答えいただきありがとうございます。では、現在の事業内容を教えて下さい。


志賀氏:現在のBeLiebeの事業は、大きく2つの柱で構成されています。


1つ目は、個人向けの卵子検査キット『EggU(エッグ)』です。これは、検査キットで指先から採取した微量の血液を用いて、女性の卵巣内にどれだけ卵子が残っているかの目安となるAMH(抗ミュラー管ホルモンの略)の濃度を測定するサービスです。家庭でご自身で採取したものを封筒で送付すれば、2週間程度でスマホから検査結果が確認できます。

柔らかで温かなデザイン
柔らかで温かなデザイン

また、単に数値を提示するだけではなく、その結果をもとに、助産師や看護師などの専門家との30分のZoomカウンセリングがセットになっており、個人のライフプランやキャリアプランに合わせて“今後何をすべきか”を具体的にアドバイスして伴走します。カウンセリングは平日の昼や夜、土日にも対応しており、忙しい方でもご自宅でできて利用しやすいのが特長です。

検査とカウンセリングのセットが特徴
検査とカウンセリングのセットが特徴

このキットを使用したことで、卵子凍結を選ぶ、キャリアを優先する、妊活を進めるなどのさまざまな選択肢がありますが、検査後の行動変容率は7割以上と、非常に高い成果が出ています。

検査キットを使った方の感想(instagramより)
検査キットを使った方の感想(instagramより)

2つ目は、法人向けの女性健康経営サポートサービス『Fmaj(エフメジャー)』で、女性の健康経営に専門家が伴走するコンサルティングサービスです。企業内での女性従業員のPMS、更年期、妊活、不妊治療、産後うつなどの女性特有の健康課題に対し、課題抽出から研修・セミナー実施、個別カウンセリング、解決施策の伴走支援までを一気通貫で提供しています。


これまでの日本の企業では女性特有の健康経営に対しての明確な対応策を講じていないことが多かったのですが、対策をしたいという企業が増えてきています。ただ、その企業が何をすればいいのかわからない事が多いので、独自のサーベイを用いて各企業の課題を可視化し、専門家とともに改善策をご提案し、行動に移せるようにサポートしています。

 導入から課題解決までサポート
 導入から課題解決までサポート

この『Fmaj』は、企業のフェーズやニーズに応じて複数の導入パターンがあります。たとえば、「まずは実行支援から始めたい」という企業にはセミナーや研修の設計・運営を、「課題の棚卸しをしたい」という企業には独自開発のサーベイを通じた課題抽出支援を、それぞれ単体でも提供可能です。サーベイのみ、実行支援のみのケースもあれば、課題の洗い出しからソリューション提案、効果検証まで一気通貫で伴走するフルパッケージ導入もあります。


最近ではキャリア支援文脈との掛け合わせが企業側にも受け入れられやすく、特定の従業員のみを支援しているという誤解を避ける効果もあります。


八木:AMH検査をキャリアと一緒に考えられるという点に、非常に現実的かつ独自の視点を感じます。サービスとして差別化で意識したことはありますか?


志賀氏:差別化ポイントは4点あると考えています。


1つ目は、独自のアルゴリズムです。AMH値だけでなく、弊社が産婦人科医と開発した独自の複数の質問項目を加味し、身体側のリスクを含めての妊孕力や不妊リスクの一部を視化する独自アルゴリズムを使用しています。


2つ目は、専門カウンセラーによる伴走支援です。医療・ライフプランの知識を持つ専門家が、検査結果に応じた具体的な行動変容を後押ししています。


3つ目が、検査後の包括的フォローです。検査結果のみだと大変不安になることは私自身も体験しています。現在、『EggU』に限らず、検査後のカウンセリング『EggU(エッグ)卵子凍結』など、次の一歩に繋がるサポート体制を整えています。


4つ目は、高度な専門性です。ニッチな領域であるAMH検査について、AMHの正しい知識を持ちながらコミュニケーションができるカウンセラーや医師がいることに価値があると考えています。AMHは数値だけを見ればいいのではなく、妊孕性に対しての総合的な見方が必要なので、専門性を伴います。驚くことに婦人科医から、「検査はするけれど、結果の説明とカウンセリングを依頼できないか」という依頼があるほどです。

実際に検査キットを見せていただきました
実際に検査キットを見せていただきました

社会的意義と導入実行のギャップをどう乗り越えるか


八木:事業を進める中で難しかったことや転換点は何でしたか?


志賀:最初に直面したのは、BtoB営業の壁でした。個人として共感を示してくださる企業担当者の方は多いのですが、いざ会社として導入する段階になると、“このサービスを提供することが『子どもを産め』というメッセージになるのではないか”、“女性だけを対象にするのは不公平ではないか”といった懸念があり、導入に慎重な姿勢を示す企業もあります。


現在、女性活躍推進の流れがある一方で、全社員に対する公平性の確保も求められており、導入にあたってはそのバランスに配慮した設計が課題となっています。『EggU』についても、いきなり全社員への利用を促すのではなく、まずは啓発的なセミナーやキャリア支援と組み合わせたワークショップの形で導入いただくケースが多くあります。セミナーやワークショップを通じて浮かび上がった課題に対し、伴走支援をご依頼いただく機会も増えてきました。その結果として、『EggU』に関心を持ち、個人的に購入してくださる従業員の方もいらっしゃいます。


また、自社の社内体制の構築にも苦労しました。営業体制を整えようとチームを組織したこともありましたが、現時点では代表の私が営業を担うスタイルに戻っています。プロダクトの質と社会的意義は評価されつつも、それを“どう届けるか”という営業力・実行力の両面において、試行錯誤を重ねています。


八木:これからの展望を教えて下さい。


志賀氏:2025年5月1日に卵子凍結サービス『EggU(エッグ)卵子凍結』を始動したところです。また、「まずはモヤモヤしたら直接相談して」という入り口を用意するために、ライフプランニング系のカウンセリングのメニューを強化しているところです。


「卵子凍結あんしんバンク™」と提携
「卵子凍結あんしんバンク™」と提携

将来的には、国内での導入拡大に加え、海外展開も見据えています。特に韓国、シンガポール、マレーシアは課題感が似ているので、アジア展開の可能性も模索していきたいと考えています。少子化や女性のライフキャリアに関する課題はグローバル共通のテーマだと思っています。


大洞:同じ働く女性として、今後のご活躍も応援しています。本日はありがとうございました!

志賀氏(右)と生態会大洞(左)
志賀氏(右)と生態会大洞(左)

取材を終えて 

女性がキャリアを築くうえで悩ましい「妊娠のタイミング」という課題に正面から挑んでいる点に深く共感しました。AMHという指標を用いて妊孕性を可視化し、専門家のカウンセリングで行動変容へつなげるEggUの仕組みは、日本ではまだ珍しく、極めて実践的です。志賀さんのバックグラウンドの研究者としての視点と、外資メーカーでの実務経験を融合させながら事業化している姿勢は、まさに社会実装。各種ピッチ等で多数受賞し、卵子凍結施設サービスも始動するなど精力的に展開する姿勢に大きな可能性を感じました。(ライター八木曜子)

関西スタートアップレポート説明

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