2026年4月「公営塾」の実証実験を開始!現役大学生起業家が教育格差解消を目指す:株式会社irodori
- 松井 知敬

- 4 時間前
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関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、公営塾事業により教育格差解消を目指す株式会社irodori(イロドリ)の 寺田 安来(てらだ あらん)さんにお話を伺いました。
取材・レポート:大洞 静枝(生態会事務局)、松井 知敬(ライター)

寺田 安来(てらだ あらん)氏 略歴
2005年、東京都生まれ。高校時代から起業を志し始め、大学1回生で会社設立。他社でアルバイトやインターン経験を積みながら、オンラインを活用した新しい形の個別指導塾をスタートさせる。その後、自治体が費用を負担する「公営塾」の仕組みに関心を持ち、離島や過疎地域などの自治体に掛け合ってテスト的に同社のサービスを導入してもらう。20歳の時には1000万円の資金調達に成功。
■オンライン個別指導のスキームを「公営塾」にも活かす

生態会 松井(以下 松井):本日は、よろしくお願いします。まずはじめに、御社の事業内容を簡単にご説明いただけますか?
irodori 寺田(以下、寺田):自分たちは、「いちスタ個別指導塾」と「Next Step」という2種類の個別指導塾を運営しています。前者は塾の校舎に来てもらうオーソドックスな形で、後者は自宅から参加するオンライン塾です。さらに、今後、注力しようとしているのが「公営塾」事業です。あまり聞き馴染みがないかと思うんですけど、公営塾というのは、塾がない地域の子供たちに向けて、自治体と民間が手を組んで教育を届ける仕組みです。たとえば、子供たちが10人しかいない町に民間で塾を作るのって、無理がある話なんですけど、この10人のために、多少単価が高くとも自治体がお金を出して民間の塾業者を呼ぶ、そういう取り組みです。その外注先になりたいと思っています。自分たちは、2026年4月から6つの自治体で実証実験を始めることになっていて、2027年4月には有償化したいと思っています。
松井:公営塾を採用している自治体って、どれくらいあるんですか?
寺田:普通に塾がある地域に住んでいる我々には実感がないんですけど、実は、現時点ですでに200程度の自治体、つまり全体の約1割で導入されています。実際、「このエリアは塾がないだろうな」と思って「自治体名+公営塾」で調べてみると、大抵ヒットするんですよ。思った以上に普及しているということです。
松井:公営塾というのは、どうやって運営されているのでしょう? 塾がそもそもない場所に、どこからどういう風にして講師を連れてくるんですか?
寺田:近隣エリアに住んでいる講師に出張で来てもらうか、離島などでは移住してもらうこともありますね。ただ、あまり再現性がないんですよ。「去年は人がいたんだけど、今年は辞めちゃって、できていない」というようなケースも多いです。自分たちとしては、そこにオンライン塾を提供したい。これまでに培ったオンライン個別指導のスキームを公営塾にも活かしたいと考えています。
松井:申し込みは、どのような流れに? 自治体に申し込むのでしょうか?
寺田:基本的に、教育委員会を通して学校でチラシなどを配布してもらえるので、それを見て申し込んでもらいます。Teams(アプリ)などを利用されている学校では、申し込みページへのリンクを送ってもらったりしていますね。紙でやり取りする場合は、いったん自治体に集計してもらうんですけど、自治体の負担を減らしたいので、極力、リンクから手続きに進めるようにしています。
■大学教授のひと言が公営塾構想の始まり

生態会 大洞(以下、大洞):公営塾事業の構想というのは、いつ頃から?
寺田:今、大学2年生なんですが、大学1年の時点で構想としてはありました。きっかけは、大学の授業なんですよ。ある先生が、授業の中で「大半の大手企業は自治体を相手にしている仕事がある」と言っていたんです。そこで、「塾事業でも何かあるんじゃないか?」と思って調べてみたところ、公営塾というものがある、と。そこから公営塾事業の構想が始まりました。
大洞:どのように進めていったんですか?
寺田:何から始めればいいのか分からなかったので、まず塾がない自治体に話を聞きに行こう、と。もう1人の役員である山田と2人で、夏休みに、沖縄の離島、与那国や竹富など、いろんな場所を回りました。「何か進展があるまで帰らないぞ」というつもりで、2人とも片道の飛行機だけ取って。最終的に話が進んだのが、南大東島と北大東島です。沖縄本島からさらに船で20時間ぐらい行ったところにあります。いったん無償授業をさせてもらえることになりました。
大洞:反応はどうでしたか?
寺田:無償授業に参加してくれた人が3名いたんですね。で、そのうち2名が、「無償期間を終えてもなお継続したい」「お金を払ってでも継続したい」と言ってくれて。その島に塾はないんですが、学習支援センターという、放課後に勉強を見てもらえる施設があって、そこはほぼ無料なんですね。つまり、塾にお金を払う文化がないんですよ。自分たちの塾は、月に概ね1万円以上かかるので、「抵抗あるかな?」と思ったんですが、きちんと価値を感じてもらえた。「自分たちの存在意義、存在価値はある」と実感しました。
大洞:なるほど、そこから公営塾化はできたんですか?
寺田:いえ、それ以降は特に進まなくて。3名のうち2名がオンライン塾に入ったからと言って、それだけで公営塾として採用してもらうというわけにはいきませんでした。そして、当時、それ以上活動するだけの資金力も自分たちにはなかったので、「価値はあったね、2名は入塾してくれたね」というところまでで、いったん終了となりました。
■2026年4月より6つの自治体で実証実験を開始

松井:4月から始まる実証実験に至った経緯を教えてください。
寺田:その後、大阪市で公営塾業者の公募があったので、参加してみたんですけど、実績不足で負けたんですよ。ただ、かなり点数は拮抗していて、300点満点中、大手に10点差ぐらいまで詰めることができていました。
松井:点数まで分かるんですか?
寺田:はい、開示されるんですよ。審査員の名前も全て開示されます。
松井:実績があれば、勝てていたかもしれないと。
寺田:はい。本当に実現できるかの判断には、やっぱり実績が必要なんだろうと思います。そんな感じで、なかなか進展のない状態だったんですが、2025年7月に転機が訪れました。愛媛県の会社が公営塾構想のための活動資金を出してくれることになったんです。その資金を基に8月いっぱいで20を超える自治体を回ったんですが、結果、6つの自治体で2026年4月から8月末にかけて実証実験をさせてもらえることになりました。この期間中、無償でオンライン授業を提供し、その後、8月から12月にかけて、「正式に予算化しませんか?」という交渉をしようと考えています。きちんと価値を感じていただけて、交渉が通れば、2027年4月から正式に実施されることになります。
松井:どこの自治体ですか?
寺田:鳥取県の日野郡というところに3つの町があるんですけど、そこに公営塾があって、そこと連携することになりました。あと、福井県の若狭町と高浜町、そして沖縄の南大東村がもう一度実施してくださることになりました。まずは1カ所でもいいので、2027年4月から正式採用していただけたらと思っています。その実績を基に、シェアを拡大していく予定です。
■土俵を変えて戦うという戦略

松井:もう1人の役員である山田さんとは、昔からの知り合いですか?
寺田:中学からの友人です。自分たちは中高一貫校でずっと一緒だったんですけど、大学から自分はこちら滋賀に、山田は静岡に住んでいます。会社を作る時、「滋賀と静岡、どっちに拠点を置くか?」という話になったんですが、静岡に「いちスタ個別指導塾」の校舎を作ってその管理を山田が担当し、自分は滋賀で運営や企画を担うことにしました。
松井:起業することは、いつ頃から考えていたんですか?
寺田:自分は、高校時代から起業意欲がありました。山田は、そういう思いがあったわけではないと思います。ただ、彼はとにかく塾が大好きだったんですよね。これまでに11カ所の塾に通ってきた塾マニアなんですよ。これは活かせるなと思ったので、「一緒に塾事業を起こさないか?」と誘い続けました。大学に入学したその月には、もう塾のサービス名を考え始めていましたね。
松井:なるほど。塾事業を選んだのは、山田さんの得意領域だったからなんですね。
寺田:はい、そうです。僕自身は、高校時代にアパレル事業を自分でやってみた経験があります。正直、別にアパレルが好きとかではなくて、何か始めたいという思いをいったんぶつけてみよう、と。そこで体系的な知識が身につけば、本当にやりたいことを見つけたときに活きるだろうと思って。
松井:アパレルというのは、具体的にどんなことをしたんです?
寺田:シンプルに、服にデザインをプリントして販売をすることをしました。なんでアパレルを選んだのかっていうと、高校生でも大人に勝てると思ったからです。たとえば、クラスに1人ぐらい絵を描くのがうまい人っていますよね。また、現役のモデルって、結構、高校生が多かったりするので、それも高校生でできそうだな、という理由もありました。あと、女子高生って写真を撮るのがうまかったりするじゃないですか。じゃあ、撮影も高校生でできる。ここを全部繋ぐだけで、1個のビジネスモデルができるんじゃないのかなと思って、実際にやってみました。
大洞:高校生の頃から「みんなと違うことをしたい」という感じだったんですか?
寺田:人と違うことをする、つまり、土俵を変えて戦うことのコスパの良さを知っている、そこが自分の強みなのかなと思っています。おそらく、大半の人は、人と違うことをするときに「怖い、大丈夫かな」って思うんですよね。自分は、1歩踏み出すだけで得られるものがあることを知っている。たとえば起業も、学生であれば、始めるのがちょっと早かったというだけで一定の評価が得られるんですよね。これも、コスパいいんです。
大洞:確かに、「現役大学生起業家」ってキーワードになりますもんね。
■公営塾から始まる、教育と地域の好循環
松井:公営塾に注力しようとしている理由は何ですか?
寺田:自分たちは、公営塾事業を通して、教育格差の解消だけでなく、地方創生に寄与したいと考えています。たとえば、「地方に住みたい」「空気が綺麗な場所で子育てしたい」と思ったとしても、子供の教育面が不安で思いとどまってしまう人って、結構、いると思うんです。それが、「オンライン塾が無料で受けられるらしいよ」となれば、それはむしろプラスになりますよね。そして、公営塾を受けていた生徒が、卒業後に今度は公営塾の講師となって地元と繋がり続ける。そうやって地元と何かしら繋がっていれば、進学や就職で地元を離れたとしても、その後、戻ってきやすいじゃないですか。そういう環境をつくりたいんです。
松井:なるほど、オンラインであれば、遠方からでも講師として参加できますからね。

寺田:はい。オンラインなら、エリアは関係なくなるので。
松井:今後の展望を聞かせてもらえますか?
寺田:今、自分たちが運営している塾は、中学生中心なんですよ。次のフェーズとして、それを小学生や高校生にも広げていきます。また、塾やスクール専用の業務管理システム「Palette」をリリースしているので、その普及にも努めていきます。公営塾事業に関しては、塾がない地域だけでなく、生活困窮者向けや不登校児童向けの公営塾というのもあったりするので、そういった分野にも拡大していきたいと思います。
松井 大洞:本日はありがとうございました。
取材を終えて
インターネットやAIといったテクノロジーの発展により、さまざまな格差の是正が可能になりつつある。特に、教育格差は人々の人生に大きな影響を与えるため、早期の対応を求められる領域の1つだ。代表の寺田氏は、「自分が勝てる土俵で戦うことを心がけている」と言う。そんな寺田氏が選んだ学習塾というビジネス領域。ゆくゆくは、公営塾の運営のみならず、地域創生をテーマとしたビジネス活動へとその領域を広げていきたいと言う。自分がアドバンテージを持てる土俵を意識し、着実に歩みを進める寺田氏の動向から目が離せない。(ライター 松井知敬)




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