AI時代に必要な「勉強のやり方」をコーチ。和歌山発、成績向上率88%の新学習塾:スタディブレイン
- Yoko Yagi

- 19 時間前
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関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、和歌山発の教科を教えず、「勉強のやり方」を教える個別指導塾「スタディブレイン」を運営する株式会社スタディブレインの吉村 健吾代表取締役にお話を伺いました。
取材・レポート:
西山裕子(生態会事務局長)
八木曜子(生態会ライター)

代表取締役 吉村 健吾(よしむら けんご)略歴
1992年大阪市生まれ。2015年神戸大学海事科学部卒業後、日本郵船株式会社に7年勤務の後、独立。2023年スタディブレイン和歌山城前校開校。わかやま地域課題解決事業に認定や、ふるさと納税型クラウドファンディングのプロジェクトを成功させる。2024年株式会社スタディブレイン設立。第9回和歌山ビジネスプランコンテストGood Plan賞受賞、和歌山県アントレプレナーシップ教育プロジェクト 事務局就任、関西でのアクセラ「Booming!2024」にも採択される。
教えない塾のおかげで、成績下位の生徒が次々と「学年1位」に
生態会 西山(以下、西山):本日は、お時間をいただきありがとうございます。まず、御社の事業内容について教えてください。
吉村健吾代表(以下、吉村氏):私たちは「勉強のやり方指導」に特化した、個別指導の塾を展開しています。
最大の特徴は、英語や数学といった教科の内容を、講師が教壇に立って教えることは一切しないという点にあります。講師の役割は「ティーチング(Teaching)」ではなく、生徒一人ひとりに寄り添い、目標達成をサポートする「コーチング(Coaching)」に特化しています。

ライター八木(以下、八木):「塾なのに教えない」というのは驚きです。では、具体的に生徒たちは教室で何をしているのでしょうか。
吉村氏:生徒は学校のテスト範囲の問題集や教科書をそのまま持ち込み、そこで私たちが「1ページを100点にする練習」と呼ぶ徹底的な反復学習を行います。まず、生徒一人ひとりにタイマーを配布し、1ページごとに制限時間を設けて集中力を極限まで高め、その場でテストを繰り返すのです。 全問正解できるまで次のページには進めません。わかったつもりになることを防ぐために、講師が横で「この問題集はこう使うんだよ」と実演し、その通りに進めることで、生徒は「自分でも短時間で覚えられる!」という成功体験を積むことができます。

西山: なるほど。一般的な自習とは、何が違うのでしょうか。
吉村氏: 徹底した速度と負荷の管理です。一人だと10分かかる暗記も、コーチが声をかけ、タイマーでプレッシャーをかけることで3分に縮められます。この勉強のやり方の矯正により、学習効率は自習時の約3倍まで向上します。現代はYouTubeやAIが無料で最高水準の解説を提供してくれる時代です。これからの塾の価値は解説ではなく、「個別最適なコーチング」と、自ら学ぶための「学習OSのインストール」に移行している
のです。

八木: 新しい考え方ですね。その結果、どのような数字が出ていますか?
吉村氏:実績は私たちの予想を上回りました。サービス開始から1年で、成績向上率は87.9%に達しています。入塾時の96%が平均点以下の勉強が大嫌いな子たちですが、今では約3人に1人がいずれかの科目で学年1位を獲得しています。広告費をほぼかけず、口コミだけで累計120名以上の生徒が集まっていることが、このモデルの価値を証明していると考えています。


挫折から生まれた「戦略的勉強法」の原点
八木: 素晴らしい実績ですね。では、起業の経緯を教えて下さい。前職の日本郵船では同期トップクラスの評価を受け、将来を嘱望されていたと伺いました。なぜそのキャリアを捨て、和歌山で起業されたのですか?
吉村氏:2023年に、妻の実家がある和歌山へ移住したのがきっかけです。大企業にいた頃、周囲には東大卒などの超優秀な人材が揃っていましたが、どこか仕事に熱意を欠き、入社がゴールになっているように見えました。そんな時、映画『鬼滅の刃』で「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です」という言葉に触れ、自分の能力を社会のために使わなければとハッとさせられました。「出世よりも社会へのインパクトを」と決意して、29歳で会社を辞めて独立しました。
八木: 吉村さんは、前職ではエンジニアだったそうですね。そこからなぜ、畑違いの教育ビジネスに目をつけられたのでしょうか。共通するものはあるのですか?
吉村氏:あらゆる産業の土台は、教育にあると考えたからです。地球規模の課題を解決するのも、結局は「人」ですから。 また、私の強みは「本質を見抜く力」にあると思います。大型船舶のエンジニアをしていた頃、メーカーの専門家ですら解決できなかったトラブルを、本質的な原因を特定することで解決したことがありました。 その「バグを見つけて修正する」という思考を、教育に転用したのが今のモデルです。「勉強ができない」という現象には、必ず原因がある。多くの場合は「スピード不足」や、「やり方の非効率さ」というバグです。私は、それを修正しているだけなんです。
実は独立時には、具体的な事業アイデアはありませんでした。たまたま頼まれて中学3年生に「戦い方(勉強法)」だけを教えたところ、科目を教えていないのに1週間で点数が跳ね上がりました。その時、「解説はYouTubeやAIがやってくれる。今の時代の塾の価値はコーチングにある」と確信して、教科内容を教えないスタディブレインの設立につながったのです。
「教えないモデル」に辿り着いたのは、私自身の原体験が元になっています。私自身、中学入学時は学年最下位層でしたが、限られた部活動の時間の中で「どうすれば効率よく点数を取れるか」を追求し、塾に通わず学年1位まで登り詰めました。
その後、大きな転機が訪れたのは高校3年のセンター試験直前でした。父親が希少がんで倒れ、経済的な理由から志望校を京大農学部から、初任給が高く日本郵船への就職に強い神戸大学海事科学部へ変更せざるを得なくなりました。極限のストレス下でしたが、入学後の学費免除を勝ち取るため、私は自ら編み出した「戦略的な勉強法」を徹底的に磨き抜きました。
この時に確立した「自ら勉強のやり方を工夫する力」こそが、その後の大学野球での快挙や、日本郵船での社内最高評価に繋がったと確信しています。親や先生に言われたことしかできない人は、社会では活躍できません。スタディブレインでは、勉強の仕方を熟知したプロ講師が、目先の点数だけでなく、将来どんな逆境も自力で突破できる「自走できる力」を指導しています。

地方でスケールさせるための「4つのイノベーション」
西山: では、ビジネスモデルの特徴を教えてください。和歌山という場所を強みにされていると伺いました。
吉村氏:はい。地方には「ヒト・モノ・カネ」がありません。その制約の中で事業をスケールさせるため、4つのイノベーションを組み込んでいます。
一つ目は、「専門スキル不要」による採用と育成の革新です。一般的な個別塾は、難関大生などの高学歴講師に頼りますが、地方では採用が困難です。スタディブレインは科目を教えないため、講師に高度な専門知識は不要です。 マニュアル化されたコーチング手法により、職場復帰を目指す主婦層や、以前の塾で過酷な労働に疲弊していた元講師が活躍できる環境を整えました。全学年・全科目を1人のコーチが対応できるため、人材の汎用性が極めて高いのが強みです。長時間労働・低賃金で「ブラック」と評されることもある学習塾業界に対し、スタディブレインは1日6時間勤務(15時〜21時)、年間休日122日~142日という、働きやすい環境を提供しています。
二つ目は、従来の塾ビジネスでの「教室長」を廃止した極限の低固定費です。従来の塾では、講師と生徒のシフトを調整する高給な「教室長」が不可欠でしたが、私たちはこれを廃止しました。 スタディブレインは小学生から高校生までが同じ空間で、同じメソッドのもと同じ時間に学びます。勉強のやり方は全学年共通なため、複雑なシフト管理が不要になり、運営コストを大幅に削減できています。
三つ目は、初期投資を抑えたユニット収支モデルです。地方の低家賃(和歌山では45平米で月6万円程度)の物件を活用し、内装工事もほぼ行いません。備品は机と椅子のみ、教材は学校のものを使うため、開校費用は30〜50万円程度に収まります。黒字化に至るのも早いです。

最後の四つ目は、後払いチケット制による顧客体験の向上です。塾業界では異例の後払いチケット制を導入しています。保護者がアプリから自由に予約やキャンセル、振替ができる仕組みです。使った分だけ支払うという明朗会計は、部活や体調不良で予定が変わりやすい中高生を持つ保護者から非常に高い支持を得ており、解約率3〜4%という驚異的な低水準に寄与しています。
大手も模倣不能。低単価と高品質を両立するコスト構造
西山:地方の制約を活かした、合理的なモデルですね。最初から順調だったのですか?
吉村氏:いえ、2年半前に和歌山に来た時は人脈もカネも何もない、まさにゼロからのスタートでした。最初の5人の生徒さんは、県庁主催の交流会で必死に理念を伝えて集めた方々です。そこからは広告費をかけず、口コミだけで120人まで広げてきました。
八木:模倣の懸念もあるかと思いますが、その点はいかがでしょうか。競合との違いなども教えて下さい。

吉村氏:表面だけを真似しても、このモデルの維持は困難です。結局はリーダーがいかに理念を浸透させられるかが肝になります。また、私たちはコスト構造を極限まで磨いています。1対4の個別指導で単価1,650円というのは収支の限界値です。高額な固定費を抱える大手資本には、この単価で利益を出すことは不可能です。この低コスト構造そのものが、強力な「参入障壁」になっています。
競合想定している塾もありますが、ただ、向こうの主戦場はあくまで都心部なんですよ。僕たちの強みは、地方の普通の主婦の方でもこれぐらい結果が出せるっていうところなので、安くても結果が出るというモデルは、地方じゃないと逆に戦えない(採算が合わない)モデルになるかなと思っています。
西山:多店舗展開したときに、品質が落ちる心配はありませんか?
吉村氏:品質の管理のために、集客から先生の採用・育成、研修まで全部本部一貫でやる設計にしようと思っています。安くて高品質ってなると、やっぱかなり研修やOJTが必要で、そこは他の方に丸投げでは難しいですから。
八木:最後に、今後の展望を教えてください。
吉村氏:2029年までに全国400教室、生徒数2万人を達成し、将来的には上場を目標としています。私たちが作りたいのは、単にテストの点数を上げる場所ではありません。「正しい努力のやり方」を知り、成功体験を積むことで、社会に出た時に自律して課題を解決できる人材を育てたいのです。 かつては集団、次に個別、そして映像授業が業界を席巻しました。次は、AI時代に即した「個別最適なコーチング」の時代です。塾の激戦区である和歌山で磨き上げたこのモデルで、日本の教育に風穴を開けます。

西山: 今後のご活躍も応援しています。本日はありがとうございました!
取材を終えて
大学卒業後、大手企業でエンジニアとしてキャリアを積み、社内勉強会の運営などを通じて“学びの仕組み化”に関心を深めた吉村氏。会社員として限界を感じ「自分の力を社会のために使う」と決意して独立。教育を産業の基盤と考え、オンライン指導からスタートした後、対面型へと変更。「社会で活躍できる人材を育てる」という理念を事業に落とし込んでおられます。顧客のリアルな課題を的確に掴み、地方の物価や人件費の安さに合うモデル、他社が入り込めないコスト構造を構築した点が印象的。これからの成長に注目したいです。(ライター八木曜子)




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