京大発!30年超の防災研究を社会実装水資源ビッグデータで、未来を守る:TerraInsight
- 森令子

- 2 時間前
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関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、株式会社TerraInsightの代表取締役 今井 義仁氏に話を伺いました。 同社は、京都大学防災研究所で30年以上にわたり研究されてきた「統合水資源管理モデル」と、250年分もの地球環境データベースをもとに、世界中の「水」の流れやリスクを科学的に予測する京大発スタートアップです。
取材・レポート:大洞 静枝(生態会事務局)、森 令子(ライター)

今井 義仁(いまい よしひと)氏 略歴
1983年大阪府生まれ、京都大学大学院 工学研究科 修士課程修了。在学中、京大防災研究所での研究・フィールドワークを通じて環境分野に関心を持つ。卒業後、会計事務所系コンサルティング会社での人事経営コンサルタントを経て独立し、起業支援や事業開発、オープンイノベーションの現場などで事業を展開。2024年10月、自身が学んだ京大防災研究所の研究成果を社会実装するため、株式会社TerraInsightを設立。
「水と環境を守りながら発展できる社会」を実現!増大する水リスクと情報開示ニーズに応える
生態会 大洞(以下、大洞):本日はありがとうございます。事業概要を教えてください。
TerraInsight 今井 義仁氏(以下、今井氏):私たちは、「水と環境を守りながら発展できる社会」の実現を目指す、京都大学防災研究所発(以下、防災研)のスタートアップです。 田中賢治教授(取締役CTO/京都大学防災研究所教授、水資源環境研究センター長)が、30年以上かけて開発した統合水資源管理モデルを活用し、気候変動の影響を考慮した地球全球の250年分の環境マスターデータを構築することで、世界の水資源や水循環に関する科学的なデータを提供しています。
気候変動による洪水の激甚化や渇水、都市型水害など、水にまつわるリスクは世界中で増大しています。また、企業には、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)※に基づく情報開示を求められる流れもあり、水資源管理のニーズは世界的に高まっています。
※正式名称はTaskforce on Nature-related Financial Disclosures。企業が自然環境に与える影響やリスクを、具体的に開示するための国際的な枠組みのこと
私たちの統合水資源管理サービスでは、農業・工業・都市インフラなど幅広い分野で、水リスクの精緻な評価・予測が可能です。この技術を、グローバルで標準的な水資源データベースとして広く社会実装し、持続性と利益を最大化できる”安全でムダのない水の使い方”を実現することを目指しています。


物理法則×30年超の研究成果。AIや統計が苦手な未観測エリア、未経験シナリオにも適用可能
生態会 森(以下、森):御社の強みはどのような点ですか?
今井氏: 私たちのモデルでは、物理法則に基づく計算、そして、防災研の30年超の研究成果による観測データを採用しています。これにより、 過去のデータに依存する一般的なAIや統計モデルとは異なり、データのない未観測エリアや、過去に経験のない災害シナリオにも適用が可能です。
さらに、欧米の研究モデルでは対応していない「水田(お米)での水利用」も精緻に分析ができる点も強みです。国内外での豊富な適用実績を有する京大の水循環解析研究をベースに、世界的に見ても多くの技術的優位性があると考えています。


東北電力をはじめ、様々な業種との実証実験を検討中
大洞:東北電力との共同開発の発表(2025年11月)など、様々な取組みが進んでいるようですね。
今井氏:はい、水リスクは業種を問いません。電力会社、製造業、建設コンサルタントなど、幅広い企業・団体と実証実験の検討を進めています。 東北電力とは、東北6県・新潟県における地域防災力・企業BCP(事業継続計画)の強化および再生可能エネルギーの有効活用などについて、連携を発表しました。具体的には、水リスク評価を起点に地域の防災体制構築や企業BCP策定を支援したり、再生可能エネルギー(水力)の効率的な活用を促進するなど、水資源に関するソリューション開発に取り組んでいきます。
また、京都高度技術研究所主催の社会課題解決型スタートアップ創出プロジェクト「IMPACT FLOW KYOTO 2024-2025」、東京都のスタートアップ支援プログラム「Tokyo GreenTech Challenge」、Plug and Play Japanが運営する「Summer 2025 Energy Batch」などで採択され、様々なご支援も得ています。
東北電力をはじめ、様々な業種との実証実験を検討中
森: なぜ、この事業を立ち上げられたのですか?
今井氏: モデルを開発された田中賢治教授をはじめ、防災研の恩師や先輩方との「この研究を、土木分野を超えてもっと幅広く役立てるべきだ」という会話がきっかけでした。防災研が30年以上も積み上げてきた研究成果を社会実装し、「環境と経済の両立」に挑戦したいと思ったのです。実は、学生時代、防災研での研究を通じて「環境保全」に大きな関心を抱きました。しかし、私が新卒だった頃は、民間企業で環境問題に関わるチャンスは今よりも少なかったのです。
様々なビジネス経験を積んだ今、母校の技術で環境問題に貢献したいと起業を決めました。京大を中心とした研究者の方々、そして、これまでのキャリアで私が出会った方々とともに、2024年にTerraInsightを設立しました。
TNFD義務化も追い風。日本発の技術を「世界標準」へ
大洞: 最後に、今後の展望を教えてください。
今井氏:水資源管理は、環境にやさしく、災害に強く、経済にも強くあるべきです。今まではバラバラに見ていましたが、統一して見ることが可能な私たちの統合水資源管理モデルを、グローバルで標準的なデータベースにしていきたいです。賛同いただける企業・団体・自治体と、幅広く実証実験を進めています。
また、私たちの技術は「水」だけにとどまりません。 物理モデルで蒸発など水循環を計算する過程で、熱や放射、風などのデータも必然的に取り扱います。このデータを活用すれば、例えば、水力だけでなく、地域ごとの太陽光や風力の発電ポテンシャルも評価できます。世界中の様々な課題解決に貢献できるはずです。
今後、事業の追い風になりそうな動きとして、TNFDもあります。「自社の活動が水資源にどう影響しているか」に関する情報開示は義務化される方向となっており、ここから生じる大きなビジネスチャンスにも注目していきます。
大洞:素晴らしいビジョンですね。環境・防災・経済を統合して捉える視点は、TNFDが求められる時代に、非常に強力な武器になりそうです。本日はお忙しい中、ありがとうございました!


取材を終えて
治水と利水のジレンマを解消するダム運用や、海外の都市で広がる「アンシーリング(脱コンクリート)」の動き、土壌の乾燥分析による森林火災の予測など、今井氏への取材では、世界中のインフラや都市、産業の在り方と「水」との関係を教えていただきました。日本が誇る京大の防災研究から誕生した技術=今井氏にとっては母校の研究で、世界の水問題に挑む熱意と覚悟に期待しています。(スタッフ 森 令子)




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