top of page

生粋の芸術家が挑む!子どもと親をつなぐ感情のおもちゃ箱           

  • 執筆者の写真: 鎌田 麟太郎
    鎌田 麟太郎
  • 2月27日
  • 読了時間: 8分

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、「ようこそ絵本の音楽会へ」という親子向けのコンサートを企画・運営する 株式会社オトギボックス の創業者、梶本大雅(かじもと たいが)さんにお話しをお伺いしました。


取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)、鎌田麟太郎(ライター)

梶本大雅(かじもと たいが)氏 略歴

大阪音楽大学音楽学部音楽学科ミュージックコミュニケーション専攻卒業。  

兵庫県西宮市出身。大阪音楽大学在学中に、社会課題へ芸術でアプローチすることを目的として、絵本の読み聞かせとクラシック音楽を組み合わせたコンサートを企画する学生団体「オトギボックス」を創設。社会起業家支援企業talikiと出会い、2021年6月に株式会社オトギボックスを設立。株式会社マランフラン・アシスタントプロデューサー。


絵本×音楽コンサート。「子どもが泣いても大丈夫」。


生態会事務局 垣端(以下、垣端):本日はよろしくお願いします。まずは、株式会社オトギボックスの事業について教えていただけますか。


株式会社オトギボックス 梶本氏(以下、梶本氏):はい。当社は「ようこそ絵本の音楽会へ」という親子向けのコンサートを企画・運営を主軸に事業を展開しています。これは、絵本の読み聞かせとクラシック音楽の生演奏を組み合わせたものです。


ライター 鎌田(以下、鎌田):一般的なクラシックコンサートとは、どのような点が違うのでしょうか?


梶本氏:最大の特徴は、親子の自然なコミュニケーションを促す仕掛けがあることです。

私たちのコンサートでは、お子さんが泣いてしまっても全く問題ありません。演奏中に保護者の方がお子さんに話しかけることも歓迎しています。さらに、ただ座って聴くだけでなく、「こちょこちょ」や「なでなで」といった触れ合いを促す参加型の要素も積極的に取り入れています。「静かにしなきゃいけない」というプレッシャーから親御さんを解放し、リラックスして音楽と物語を楽しめる空間づくりを徹底しています。チームには「絵本専門士」の資格を持つメンバーが在籍しており、一冊の絵本を深く読み解いた上でプログラムを制作しています。そのような講演を企画しているのは、私たちが大切にしているのが、その場限りの楽しさではないからです。ここで出会った絵本の魅力や、親子で過ごしたかけがえのない時間が、10年後、15年後になっても子どもたちの心の中で生き続けていく。大人になった時に、ふと温かい記憶として蘇るような、そんな原体験を届けたいと思っています。


「ようこそ絵本の音楽会へ」の実際の様子
「ようこそ絵本の音楽会へ」の実際の様子

絵本×音楽の可能性は無限大。動画とは違う。


鎌田:オトギボックスの事業の強みについて教えてください。


梶本氏:当社の最大の強みは、絵本を単体で売るのではなく、「音楽×絵本」という状態で提供していることです。単に物語を読むだけでなく、そこに「音楽」を掛け合わせる。この体験設計こそが、親御さんの心に強く響く「フック」になっていると感じています。


鎌田なぜ、そこまで親御さんから評価されているのでしょうか?


梶本氏:やはり、「子どもの成長に対する本質的な価値」を感じていただけるからだと思います。現代はSNSなどで情報が溢れかえっており、感情の動きが「いいね」ボタンひとつで済まされるような、簡易的で起伏の少ないものになりがちです。また、動画コンテンツも素晴らしいですが、どうしても「目で追う対象」が一つに固定されてしまいます。一方で、絵本は「自分で視点を自由に変えられる」という決定的な違いがあります。例えば、春を描いた絵本があったとします。そこには主人公だけでなく、足元にツクシが生えていたり、端っこにアマガエルが隠れていたりと、作家さんが動植物を非常に丁寧に描いています。これを見ながら、親子で「あ、ここにカエルさんがいるね」「このお花、見たことあるね」といったコミュニケーションが生まれます。動画を見ている最中に、「この後どうなると思う?」と一時停止して問いかけることは、なかなか難しいものです。絵本だからこそ、親子の対話が生まれ、立ち止まって考える余白が生まれる。この「コミュニケーションの深さ」が、動画ではなし得ない価値だと考えています。


垣端 : 御社の理念である「感情のおもちゃ箱を社会に届ける」とはどういう意味ですか?


梶本氏 : はい。生まれたばかりの子どもには、大きく分けて「心地よい」か「不快か」という二つの選択肢しかありません。それが成長し、物語のキャラクターと一緒になって追体験をする中で、「心地よい」の中には「嬉しい・楽しい・おいしい」があり、「不快」の中には「酸っぱい・痛い・悲しい」があるのだと、感情が分化していきます。オトギボックスの「音楽×絵本」体験を通じて、そうした繊細な心の機微を学び、豊かな感性を育んでほしい。それが私たちの願いであり、最大の強みだと考えています。


「ようこそ絵本の音楽会へ」を楽しむ親子たち。真剣な表情が印象的だ。
「ようこそ絵本の音楽会へ」を楽しむ親子たち。真剣な表情が印象的だ。


学生団体から起業へ。起業のきっかけは「taliki」?


鎌田:梶本さんが起業されたきっかけについて教えていただけますでしょうか


梶本氏:起業を意識するようになったのは、2019年に京都で社会起業家を支援する企業・talikiと出会ったことが大きな転機でした。taliki主催のピッチイベントに参加したのですが、その場で多くの経営者の方々と出会い、「好きなことを仕事にし、社会に価値を生み出したい」と本気で取り組む人たちの存在を知りました。その経験を通して初めて、自分にも“起業する”という選択肢があるのだと気づきました。


鎌田 : もともと、オトギボックスは学生団体からスタートしたそうですね。


梶本氏 : はい。私は大阪音楽大学の「ミュージックコミュニケーション専攻」というコースに在籍していました。そこは「人と社会を音楽でつなぐ」をコンセプトに、地域や社会の課題に対して芸術でどうアプローチできるか、どう場づくりができるかを探求する場所でした。私自身、もともと子育て領域に関心があったこともあり、地元の同級生と一緒に絵本の読み聞かせを始めたのが最初のきっかけです。最初はビジネスにしようなんて気は全くなく、完全にボランティアでした。しかし、ある時、保護者の方が、私たちの読み聞かせを聴いて、大粒の涙を流されていたんです。私としては、ただ「やりたい」という一心で、子どもたちの笑顔が見たくてやっていただけでした。でも、その涙を見た瞬間に「理由は言葉にできないけれど、これは続けなきゃいけない」と強く感じました。そこから学生団体としてオトギボックスを立ち上げ、音楽を付けた絵本の読み聞かせを実施するようになりました。その後、大学のメンバーも増えてより本格的なコンサートへと進化していきました。



海外公演と新たなIP創出を目指す。


垣端:今後、オトギボックスが乗り越えるべき課題と、描いているビジョンについて教えてください。


梶本氏 : 大きく分けて2つの戦略があります。一つ目は、ビジネスモデルの変革、具体的には「高付加価値なリッチ体験の創出」です。私が今、最も危機感を抱いているのは「子どもの人口減少」です。これに伴い、文化施設の予算も縮小傾向にあります。私たちはこれまで公共施設と連携してきましたが、公共事業である以上、チケットは誰もが手に取れる安価な価格でなければなりません。つまり、既存の「ようこそ絵本の音楽会へ」だけでは、高単価なビジネスモデルを作ることは構造的に不可能です。ですから、既存の公演とは別に、新しいブランドが必要だと考えています。単なるイベントではなく、子どもたちが本物のアートに触れられる体験をしながら、IP(知的財産)としてブランドを確立し、しっかりと価値付けしていくモデルを作り上げたいと考えています。



 

鎌田:もう一つの戦略は何でしょうか?


梶本氏:「世界進出」です。具体的には、来年すでにフランス公演を控えていますが、それ以外にもまずはイタリアで何らかの評価を獲得したいと考えています。


垣端 : アジア圏についてはいかがですか?


梶本氏 : アジア、特に東南アジアに向けては、英語での絵本読み聞かせコンサートを展開したいです。ただ、誤解していただきたくないのは、すべてを現地の言葉に合わせたいわけではない、ということです。私は、「日本語のオノマトペ(擬音語・擬態語)」が持つパワーを強く信じています。「キラキラ」「さらさら」といった音の響きや、それを通じてものの感じ方を共有することは、言語の壁を超えて海外の子どもたちにも伝わるはずです。英語で分かりやすく伝える部分と、日本語独自の響きで感性を刺激する部分。この両方を併せ持った、日本発の現代的な芸術作品として世界に届けていきたいです。


一同:本日はありがとうございました。 ※本記事の内容、肩書き等は2025年9月時点のものです)


取材を終えて

梶本さんと対話して感じたのは、彼が「芸術家」であるということでした。日本語のオノマトペの独自性に注目し、それを武器に海外展開を構想している点は、その感性の現れといえるでしょう。一方で、梶本さんは「起業家」でもあり、オトギボックスの事業は医療・メンタルヘルス領域で高い市場性を持つと考えられます。もっとも、梶本さんは芸術分野の事業成長について「3年で花開くことはない」と述べます。それだけに、オトギボックスを深く理解し、中長期的な視点で伴走できるパートナーを得ることが、今後の成長に不可欠でしょう。(ライター 鎌田 麟太郎)






コメント


bottom of page