海のエネルギーで地球にやさしい発電インフラの実現を目指す:Yellow Duck
- heartheart62
- 13 時間前
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関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、Yellow Duck株式会社の代表を務める中山繁生(なかやましげお)さんに話を伺いました。
同社は、「シンプルなアイデアで、世界をやさしく」を掲げ、海の波の揺れを電気に変える浮体式波力発電システムを開発するスタートアップ。装置は海底に固定せず海面に浮かべる方式で、水深がある沖合にも設置しやすいのが特徴です。海に「発電するブイ」を一つひとつ浮かべていくような発想で、これまで眠っていた海のエネルギーを目覚めさせようとしています。
取材・レポート:大洞 静枝(生態会事務局)、小林希実子(ライター)
Yellow Duck株式会社 代表取締役 中山繁生(なかやましげお)氏 略歴
1970年兵庫県生まれ。行政書士として約20年、主に遺言書作成の業務に従事。東日本大震災後、メガソーラー建設を目の当たりにしたことを機に再生可能エネルギーに関心を持ち、ソーラーチムニーやカイト型風力の研究・開発を経て、海洋エネルギーに注力。2023年8月にYellow Duck株式会社を設立し、浮体式波力発電設備の実用化を進めている。
■再エネ推進のために削られた山を見て、疑問を抱いた
生態会 事務局大洞(以下 大洞):本日は、どうぞよろしくお願いします。
生態会 小林(以下 小林):中山さんは行政書士として20年ものキャリアがあり、表彰されるほどの実績をお持ちだったとお伺いしています。なぜ全くの異業種であるエネルギー分野で起業されたのでしょうか。その経緯から教えてください。
Yellow Duck 代表取締役 中山繁生氏(以下、中山氏):最初から会社をつくろうと思っていたわけではありません。おっしゃる通り、行政書士として、主に遺言書をつくる仕事を20年ほどしていました。生活も成り立っていましたし、そのまま続けていれば安定していたと思います。
ただ、東日本大震災の後、政府が再エネに大きく舵を切る中で、家の近くでもメガソーラーの工事が始まって、山が削られ、雨が降ると土が流れて道路が茶色くなるのを見たんです。子どもの頃から生き物や自然が好きだったこともあって、「これが本当にいい再エネなんだろうか」と強い違和感を持ったのです。

小林:そこから、すぐに海の発電に向かわれたのでしょうか。
中山:もっといいものがあるんじゃないかと思い調べ始めて、最初は太陽の熱を使う仕組みを考えました。黒い布で熱を集めて気流を起こし、煙突の中で発電する方法です。でも、発電はできても広大な面積が必要で、実用的ではなかった。次に、風を使おうと凧のような仕組みも考えましたが、当時は制御技術が足りず、安定した発電には向きませんでした。
このように試行錯誤を重ねるうちに、芦屋浜でペットボトルが波に揺られて行き来するのを
見て、「ここにエネルギーがある」と気づいたんです。そこから海に向かいました。
小林:安定していた仕事から離れるのは大きな決断だったのではないでしょうか。
中山:自分では、あまり「決意」という感覚ではなかったですね。「これを世に広げたい」「もっと時間をかけたい」という気持ちの方が強く、だんだん頭がそちらに切り替わらなくなりました。家族には今でもかなり反対されていますし、お金の面でも大変でした。それでもやめたくなかったんです。社会課題を解決したい、というより、まず「これをやりたい」が先にあったんだと思います。
■「イエローダック」は、親しみやすさと海の安全色から生まれた

小林:当初の発電機は黄色いアヒル型をしていたと伺いましたが、そのコンセプトはどこから生まれたのでしょうか。
中山:海の構造物は、安全のために黄色が使われることが多く、船から見つけやすくて、ぶつかりにくい。じゃあ黄色いものを海に浮かべるなら、アヒルしかないよね、と。親しみも持ってもらえるし、見た瞬間に印象にも残ると思いました。ただ、この発想はベンチャーキャピタルにはウケが良くなくて…。「アヒルで発電なんて本気なのか」と言われたこともあります。もっと黒くてシャープで、いわゆるスタートアップっぽい見た目の方が好まれるんでしょうね。今は機能的な形状に落ち着きましたがそれでも、社名やロゴ、考え方としては残しています。
小林:仕組みそのものは、どのようなものですか。
中山:原理自体はとてもシンプル。海には常に波があるので、浮きを浮かべると揺れます。その揺れを回収して電気に変える。それだけなんです。言ってしまえば、「動いているのだから電気に変えられるはずだ」という発想です。
ただ、実際には海の条件が毎回違うし、塩水で劣化するし、貝はつくし、台風もある。原理はシンプルでも、海で継続して発電するのは本当に難しいです。
小林:海を選んだ優位性はどこにありますか。
中山:太陽光は夜に発電できませんし、風力も場所や条件に左右されます。一方、海はまだ人間が十分に使いこなせていない大きなエネルギー源。もちろん海は厳しい環境ですが、その厳しさを乗り越えられれば、夜や雨の日も含めて発電できる可能性があります。そこに価値があると思っています。
■失敗のたびに、技術は一段ずつ前に進んだ
小林:これまでの開発で、何度も「これで成功する!」と思った瞬間はありましたか。
中山:何度もありました。つくるたびに「これで絶対にいける」と思うんです。でも実際に海へ持っていくと、思うように発電しないことが何度もありました。家族にもそのたびに期待させて、結局うまくいかなくて、「またでしょ」と言われるようにもなりました。
でも、そのショックのたびに技術は進化しています。自信を持ってつくったものが動かなかった時こそ、どこに根本的な問題があるのかがはっきり見えるからです。失敗はつらいですが、次の段階に進むための明確な材料にもなります。
小林:海での開発ならではの難しさは、ありますか。
中山:昨日はうまくいっていても、今日はだめということが普通にあります。長い時間が経てば塩水で傷みますし、暖かい海だと貝が年間8センチくらいの厚みでつくこともある。バランスも崩れますし、貝を取る手間も必要です。
加えて、発電した電気をどう陸に送るかという送電の課題もあります。基本的には海底送電ケーブルですが、そこも大きなハードルであり、将来的には、船舶での運搬や、水素や合成燃料に変えて運ぶことも視野に入れています。
20年の耐久性を前提に設計していますが、部品ごとには15年程度しか持たないものもあり、改良が必要です。悩みは尽きません。
小林:実証実験で見えてきたことはありますか。
中山:夜間や雨の日でも発電できる再生可能エネルギーとしての有効性を確かめるために、富山県、福岡市、大阪の南港で実証実験をしてきましたが、手応えはかなりあります。たとえば、波が前から来たら装置が岸壁にぶつかるのでは、と周囲から強く言われたことがありました。でも僕は、浮き上がって避けるはずだと思っていた。実際にやってみたら、一度も壁にぶつからず、その場で上下するだけだったんです。
こういうのは、本当にやってみないとわからない。けれど、ひとつ確信が得られると、「じゃあ次はこの構造もいける」という次の設計につながっていきます。

■海に浮かぶ発電装置を、社会のインフラへ
小林:現在、どのような用途を見据えて開発を進めているのでしょうか。
中山:今の実験機は直径数メートルほどのドーナツ状の装置で、普通の家庭一世帯分ほどの電力をまかなえる想定です。将来的にはもっと大きなサイズにして、数十〜二百世帯分ほどの発電を担えるようにしたいと考えています。設置は湾内ではなく湾の外側を想定しています。
声をかけてくださっているのは、商社、電力・発電事業者、リース会社などです。離島では電気の確保が大きな課題になっていて、化石燃料による発電コストの負担も重い。そうした地域で、海に浮かべる発電設備がひとつの選択肢になればと思っています。2030年ごろには、海から電気をつくる装置が社会の中で少しずつ見られる状態にしたいですね。

小林:環境面では、海への影響を心配する声もあるのではないでしょうか。
中山:あります。漁業者の方からもよく聞かれます。ただ、私たちの装置は太陽光パネルのような部材を使うわけではなく、基本的には浮きを浮かべている構造です。さらに、下部の重りの部分に牡蠣殻などの廃棄物を詰めて、小さな生き物が住み着き、魚が集まるような仕掛けも組み込んでいます。いわば魚礁のような役割ですね。生態系への負荷を抑えるだけでなく、海の環境改善にもつなげていきたいと考えています。
実際、数カ月で藻や生き物が増え、そこに魚が寄ってくる様子も見えてきています。海に悪影響を与えないだけでなく、少しでもプラスになるものを目指しています。

■人の協力があってこそ進む、日本発の挑戦
小林:ここまで続けてこられた背景には、どんな支えがありましたか。
中山:発電事業者の方、損保会社の方、自治体、離島、漁業者の方々など、いろんな人の力があって初めて進められる事業です。ToCのように、自分でつくってすぐ売る、という形では絶対に成り立ちません。損保会社さんが実験用の保険を整えてくださったり、電力会社さんが自治体や離島を紹介してくださったりもしています。
チームも同じで、「給料がこれだけ出るから来る」というより、「面白いことをやっているから関わりたい」と集まってくれた人たちです。うまくいった時は一緒に喜び、壁にぶつかれば一緒に頭を抱える。そういう仲間がいるのは大きいです。
小林:最後に、これから先に見ている景色を教えてください。
中山:日本は海に囲まれた国なのに、エネルギー分野では海外の技術に頼る場面が多い。洋上風力も太陽光パネルもそうです。だからこそ、日本発のグリーンエネルギー技術として、この分野で新しいものを出していきたいと思っています。
もちろん道のりはまだ長くて、感覚としては二合目にも届いていません。でも裾野の広いところを一つずつ埋めてきた手応えはあります。少しずつでも、世界を良くするものをつくりたい。その思いで、これからも海に向き合っていきます。
大洞:本日はどうもありがとうございました!

取材を終えて
中山さんの話には、地に足の着いた誠実さと、不可能を可能にする情熱が同居していました。行政書士という、客観性と正確さを求められる職を長年勤めたからこそ、自然という予測不能な対象に対しても、冷静な分析と熱い想いを両立させられるのでしょう。
Yellow Duckの取り組みは、エネルギー問題の解決だけでなく、失われつつある「日本発のイノベーション」を取り戻す挑戦でもあります。海に浮かぶ黄色いアヒルが、日本の、そして世界の未来を明るく照らす日は、そう遠くないかもしれません 。 (ライター:小林 希実子)




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