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演劇と観光をかけ合わせた参加型体験コンテンツ「エンタビ®」を開発。:プレイング株式会社

  • heartheart62
  • 3 日前
  • 読了時間: 7分

関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回はプレイング株式会社の代表を務める山本知史さんに話を伺いました。

同社は、過疎化に悩む地方の観光地と、困窮する若き表現者たちという、一見無関係な二つの社会課題を独自のモデルで同時に解決しようとするスタートアップです。展開する「エンタビ®」は、演劇と旅行(タビ)を融合させた参加型体験コンテンツ。既存の施設や街並みを舞台に変え、地元住民と旅人が共演する「物語の力」で地域を活性化させています。ここでは日本中を活気づけようとする同社の歩みと、その先に見据える壮大なビジョンに迫ります。


取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)、小林希実子(ライター)






山本 知史(やまもと ちふみ)氏 略歴 1979年生まれ、長野県出身。1999年に堺市で劇団プレイングを設立し、2007年から旅行会社パインツーリストに参画して全国の観光地を巡る。コロナ禍を機に旅行と演劇を融合した参加型コンテンツ「エンタビ®」を考案し、2020年に演出業プレイングを開業。さかい利晶の杜やビックバンなど各地の施設で公演を重ね、2024年5月にプレイング株式会社を設立。観光施設そのものを舞台に、地元の人と旅人が共演する体験づくりに年取り組んでいる。




どん底のコロナ禍で見つけた「演劇×旅行」の必然


生態会 小林(以下 小林)本日はよろしくお願いいたします。まずは、劇団主宰と旅行業という二つのキャリアを歩んできた山本さんが、なぜ「エンタビ®」という事業を立ち上げたのか、その背景から教えていただけますか。 山本知史さん(以下、山本)根底にあるのは「演劇」と「旅行」、これしか私にはなかった、という切実な思いです。高校時代から26年間、劇団を続けてきましたが、演劇だけで食べていくのは極めて難しいのが現実です。一方で、家業の旅行業では添乗員として日本中を回り、各地の観光施設が人手不足や過疎化で壊滅的な状況にあるのを肌で感じてきました。 大きな転機は2020年のコロナ禍でした。劇団20周年の大舞台を成功させた直後、旅行も演劇もすべての仕事がゼロになりました。精神的にも追い詰められ、一時は廃業も考えましたが、残った仲間たちと「どうすれば一緒にい続けられるか」を模索した結果、自分が持っている二つのスキルを掛け合わせる「演劇×旅行」の形にたどり着いたのです。



コロナ禍での挑戦を振り返り、話す山本さん
コロナ禍での挑戦を振り返り、話す山本さん

小林: まさにどん底から生まれたアイデアだったのですね。


山本: はい。私たちが大切にしてきたのは「さあさあ皆様ご一緒に」という精神です。これは劇団時代、一番最後に必ず使っていた締めの言葉なのですが、これこそが社会課題を解決するキーワードになると気づきました。

観光地に素晴らしい物語を導入し、そこへ「表現したい」若者たちを配置する。これなら地域は活気づき、役者には「小屋付き(専属役者)」としての雇用が生まれます。「仲間と一緒にいたい」という純粋な想いから始まったこのプロジェクトが、案外多くの人に「面白い」と言っていただけるようになったのです。


観客も物語の登場人物、地元が主役。 唯一無二の「イマーシブ体験」


小林: 「エンタビ®」の具体的な仕組みについて伺いたいのですが、従来の「演劇鑑賞」とは何が違うのでしょうか。

山本: 私たちが提供するのは、観客が物語の登場人物の一人になる「イマーシブ(没入型)シアター」です。一番わかりやすい例えは「サプライズの誕生日会」ですね。

友人の誕生日を祝うために、内緒でプレゼントを用意したり、ケーキを出すタイミングを計ったりしている間って、仕掛ける側はすごくワクワクしますよね。そして主役がドラマチックに喜んでくれたら、「してやったり!」という最高の快感が生まれます。この「仕掛ける側の楽しさ」を観光に取り入れ、観光客自身を物語の構成員にしてしまうのがエンタビのユニークな点です。

小林: 脚本を書く際、地域の歴史リサーチは相当大変なのでは?

山本: 実は、机上の調査はほとんどしません。私は「何も知らない観光客」の代表として、地元の方々に「ここはどんな土地ですか?」と聞きに行きます。すると、地元の歴史考証の先生から一般の方まで、堰を切ったように物語を話してくださる。

「こんなことがあってね、あんな喜びがあってね」という皆さんの生きた言葉をそのまま脚本に書き起こします。地元の人にとっては当たり前の歴史が、私の手を通すことで、観光客を巻き込む最高のエンターテインメントに変わるのです。

小林: 地元の人が演者になることにも、強いこだわりを感じます。

山本: はい。プロの劇団が見せつけるのではなく、地元の人がシビックプライド(地域への誇り)を持って、自らの物語を上演することに真の価値があります。

例えば奈良では、参加者全員が天平衣装に着替えるところから物語が始まります。衣装を着るだけで人の気分はガラリと変わります。普段はシャイな方でも、華やかな衣装を身に纏い、役として声を出すことで、自分の住む場所の歴史がダイレクトに響いてくる。この熱量に触れた観光客もまた、その土地を「特別な場所」として記憶に刻むのです。



「食えない役者」と「疲弊する地域」を 繋ぐ持続可能なモデル

小林: 地方の過疎化と、役者の自立。この二つをどうビジネスとして結びつけているのですか。


山本: 地方には素晴らしい建物や景色があっても、それを活かす「演出」と「人」が足りていません。一方で、俳優に憧れる若者は星の数ほどいますが、そのほとんどが食べていけずに夢を諦めます。

私は彼らに言いたいんです。「東京で消耗するより、田舎で一番の役者になれ」と。私たちは観光施設に「劇場」としての演出を施し、若き表現者たちを「小屋付きの役者」としてマッチングします。

小林: 地方版ブロードウェイのようなイメージでしょうか。

山本: まさにそうです。彼らは普段は施設のスタッフとして働き、月に数回はプロの表現者として舞台に立つ。自分のための専用劇場(小屋)を持つことは、役者にとって最大の憧れです。

「鳥取で一番の役者がいる」となれば、全国から取材が来ます。ギラギラした若者が地方に集まり、地元の高校生たちがその姿に刺激を受ける。これは単なる労働力の提供ではなく、地域に「憧れの職業」と「若者のコミュニティ」を取り戻すための、極めて合理的な人材育成モデルなのです。

小林: 収益モデルについても、これまでの演劇ビジネスとは一線を画していますね。

山本: はい。私たちはチケット収入だけに依存しません。自治体や観光協会、あるいは指定管理業者様からの受託事業(BtoG/BtoB)がメインです。

これまで観光ボランティアガイドさんが属人的に行っていた案内を、再現性の高い「演劇」というパッケージに変えることで、クオリティを均一化し、集客力を高めます。施設を盛り上げたい側から予算をいただくことで、持続可能な運営が可能になるのです。

日本丸ごとテーマパーク化計画。物語が地域経済を回す

小林: 今後の展望についてお聞かせください。

山本: 3年以内に全国30カ所、5年後には50カ所への展開を目指しています。最終的な目標は「日本丸ごとテーマパーク化」です。

テーマパークの各エリアのアトラクションがあるように、日本の各地域にその土地固有の「物語」というアトラクションがある状態を作りたい。アトラクションの周りには必ずレストランができ、お土産屋さんが繁盛しますよね。その「経済が回る仕組み」を地域に移植したいのです。

小林: お土産も、物語の一部になるわけですね。

山本: そうです。私はお土産を「物語のかけら」だと思っています。カチューシャを買うように、人は物語を体験すると、その思い出を形にして持ち帰りたくなります。

東日本大震災の際、旅行支援によって国内旅行が盛り上がり、その収益が復興を支えた歴史があります。人が旅をして、楽しみながらお金を使い、それが地元に落ちる。この健全なサイクルを、エンタメの力で加速させたい。

小林: 「日本を観光で豊かにする」という決意が、ひしひしと伝わってきます。

山本: 演劇や旅行は、生活必需品ではないかもしれません。でも、人が「生きていて楽しい」と思える瞬間や、誰かと一緒にいたいと願う心こそが、地域を救う最大のエネルギーになります。形のない物語を、地域経済を支える強固なインフラへ変えていく。私たちの挑戦は、まだ始まったばかりです。




取材を終えて

「演劇と旅行、これしかなかった」。山本さんのその言葉は、決して消去法ではなく、自らの人生をかけて磨き抜いた二つの武器を信じ抜く、起業家としての強い覚悟のように響きました。取材後、事務所にある衣装を見せていただきました。一際目を引くのは、鮮やかな時代衣装や精巧に作られた刀の小道具。実際に手に取ってみると、その重みと質感だけで、一瞬にして日常から切り離されるような高揚感を覚えます。「形のない物語」を地域経済の「インフラ」へと変える。堺から始まるこの挑戦は、停滞する日本の地方創生における、最もクリエイティブで、最も人間味溢れる処方箋になるかもしれません。

(編集・ライター:小林希実子)



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