独自の半導体センサーで細菌周りの水を測定し、検出時間を95%短縮:Aqua-SemiTech
- 西山裕子
- 15 分前
- 読了時間: 5分
関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、Aqua-SemiTech株式会社の代表取締役、橋爪弘氏にお話を伺いました。同社は、京都大学と兵庫医科大学の研究成果を社会実装するために生まれたスタートアップです。
取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局)

橋爪弘(はしづめ ひろし)氏 略歴
1955年生まれ、長野県伊那市出身。信州大学大学院工学研究科卒業後、東芝に入社。東芝テックに転籍後、研究開発センター長在任中に、小川雄一氏(CTO、元京都大学大学院准教授)と共同研究を行う。(一社)ビジネス機械・情報システム産業協会役員を経て、小川氏と菊池正二郎氏(兵庫医科大学先端医学研究所教授)の技術シーズを社会実装するために、Aqua-SemiTech株式会社を起業。
微生物の検査をするには、時間と費用が必要
生態会 西山(以下、西山):本日はありがとうございます。事業概要を教えてください。

Aqua-SemiTech株式会社 橋爪弘氏(以下、橋爪氏):現在、微生物を調べる際には、寒天などを使った培養検査法が準標準となっています。食品・飲料水の開発・製造ライン、水処理及び医療などの検査において、幅広く利用されています。
一方、培養法は微生物が細胞分裂をするのを待つため、検査をするのに数日から数週間かかります。
結核などの感染症、食中毒など、迅速に効果薬剤を知りたい医療や食品飲料の安全性検査では培養検査を待つ時間が必要で、人命や巨額な損失を生んでいます。結核などは世界で年間160万人亡くなっています。日本では、約1万人が罹患し、1,500人弱が亡くなっています。
西山:そんなにたくさん、いらっしゃるんですか?
橋爪氏:はい、世界の感染者はその10倍になります。WHO(世界保健機関)も、三大感染症として、マラリア・エイズ・肺結核の撲滅を目指しています。SDGsの項目にも入っています。抗生物質を多用すると薬剤耐性菌が増えて、亡くなる方も増えています。食中毒なども、毎年かかる方がいます。
西山:それほどたくさんの患者さんがいるのに、何日も検査にかかっていては、手遅れになりかねませんね。
従来とは、全く異なる検査法でスピードアップ
橋爪氏:そうです。待ち時間の損失を推定すると約400億ドル(6兆円)くらいになると言われています。培養法は、菌が増えていくコロニーを解析するという方法をとっています。一方、Aqua-SemiTech社は、微生物が増殖するのに必須である水に着目し、「水に問う」という新しいアプローチです。微生物が増殖するとき、周辺にある自由水が水和水になる変化が生じます。我々は、菌の数や状態に応じて、菌周辺の自由水量が変化することを、数十GHz帯の電磁波を利用して誘電率の違いで、センシングする技術を持っています。


橋爪氏:これが大学で試作しているセンサーですが、3ミリX3ミリの中に、1,488個の素子が入っています。ここに、高周波の周波数をかけます。
従来の寒天などの培養検査に比べ、95%測定時間を削減することができます。半導体センサーによる微生物検出は、様々な微生物検査に対応可能です。
2016年の半導体の学会で先生方が発表をして、今の原型ができたのが第二世代で、いろいろな改良を加えています。
培養法はこれまで100年くらい利用されていますが、我々の検査方法は培養法より約95%時間が短くなります。費用も抑えられます。

製品のイメージとしては、一個一個の半導体を搭載したモジュールに菌を入れる容器をセットで販売しようというモデルです。医療機器メーカー、食品飲料メーカー、製薬メーカーなどと話をして評価してもらおうと思っています。
この技術の優位性は、すでに学会発表もされており、エビデンスがあります。もともと大学の研究から生まれたもので、多くの特許を持っています。検査市場は、2.9兆円あると言われています。2028年には市場に出し、2032年には約60億円の売上を目指したいと思っています。
西山:これから開発が必要ですね。資金は、どのように得ておられるのですか?
橋爪氏:外部資金としてNEDOの躍進コースに採択され、500万円を得ることができました。すでに原理はできているので、今後はプレシリーズAとして、量産向け試作品の開発のために、大型の資金調達を進めていきたいと思っています。
西山:橋爪さんが起業に至るまでの経緯を、お聞きしてもよいですか。

橋爪:私は東芝や東芝テックで、情報機器の研究開発をしていました。その後、全社の研究開発を見ることになり、飲食などリテールに納める商品の研究をしました。そこで小川先生と知り合い、共同研究を進めました。
会社を退職した後も、小川先生と会う機会があり、ご自身の研究を社会実装したい、一緒にやろうと誘われ、起業することになりました。小川先生も現在は、京大を退任され当社を軌道に乗せるべく注力されています。
もともと私は「食の安全安心」ということに興味があり、人命に役立つようなことをしたいという気持ちがありました。この事業では、いち早く貢献ができると思って、参画することなりました。
ビジネス機械・情報システム産業協会では、大企業の会長や社長とも活動をし、経産省ともつながる経験をしました。とはいえ、大企業とスタートアップは全く違います。我々は資金に限りがありますし、何から何まで自分たちでする必要があります。VCとの交渉も、骨が折れます。しかし、これが世の中に出れば、自分たちの力で社会に役立つ、というモチベーションは高いです。大企業にいても大勢の中の一人ですが、スタートアップは自ら動いて創り上げていけますから。
西山:まさに、スタートアップの醍醐味ですね。応援しています。本日は、ありがとうございました。

【生態会のコメント】 同社は、企業経験豊富な橋爪氏が、大学教授の方々の研究を社会実装することを目的に弁理士やVC出身者をチームに向かえ、創業されました。独創的なディープテックの技術を基に、大きな社会的インパクトを生み出そうとされています。量産化までに「死の谷」があることを自覚しながら、今後の計画をしっかり練られていて、印象的でした。橋爪氏は長野県出身で、会社員時代はほぼ東京にいたそうですが、大学の技術を活用するため京都本社とし、ASTEMや京都産業21などの支援も受けておられます。「関西は皆さん優しい。」とおっしゃっていました。関西人として、うれしかったです。
(事務局 西山裕子)
