滋賀発、世界へ。AR/VR機器の圧倒的リアルを実現する赤色マイクロLED開発:IntraPhoton
- 建太 小松
- 2 分前
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関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。
今回は、株式会社IntraPhotonの代表取締役CEO 本蔵 俊彦 氏に話を伺いました。同社は、次世代マイクロLEDディスプレイの実用化を目指す、立命館大学発のディープテック・スタートアップです。
取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局)、小松建太(ライター)

本蔵 俊彦(ほんくら としひこ)氏 略歴
1974年、東京都生まれ。東京大学理学部化学科卒業後、同大学院修士課程修了。米国コロンビア大学Business SchoolにてMBA取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー、産業革新機構(INCJ)を経て、2013年に阪大発スタートアップを設立。米国シリコンバレーに8年間拠点を置き経営した後、知財を米国事業会社へ譲渡。その後i-nest capitalにてディープテック領域の投資・ハンズオン支援を担当。藤原康文教授の希土類添加GaN技術との出会いを機に、2025年10月にIntraPhotonを共同創業。現在同社に専念している。
研究者からシリコンバレーへ 異色のキャリアが生んだ起業
生態会 西山(以下、西山):本日はありがとうございます。まず、本蔵さんのご経歴ですが、本当に多彩ですよね。
株式会社IntraPhoton 本蔵 俊彦氏(以下、本蔵氏):ありがとうございます。もともとは研究者志望で、東京大学でゲノム研究をしていました。当時、人のゲノム解読が完了するという時代で、「人の設計図が分かれば、あらゆる病気が解明できるのではないか」という大きな興奮がありました。ただ、研究を続ける中で、スタートアップのセレーラ・ジェノミクスが国際プロジェクトを凌駕する成果を出すのを目の当たりにし、「技術を事業として世に広める」というアプローチの力を強く感じたんです。それが、研究から事業の世界へ踏み出したきっかけです。マッキンゼーではバイオ・ヘルスケア領域の大手企業の研究開発戦略を支援し、INCJではスタートアップ投資のディレクターを務めました。

西山:シリコンバレーでの経営も、気になります。どんな会社を設立されたんですか?
本蔵氏:2013年に、大阪大学発のゲノム高速解析装置を開発するスタートアップを設立しました。日本にはこの分野の会社が全くなかったため、世界トップクラスの研究チームを作るには、その領域のエンジニアが集まっているシリコンバレーのど真ん中にオフィスを構えるしかなかったんです。メンローパークに拠点を置き、競合他社から優秀な人材を集め、8年間にわたって日米2拠点で研究開発型組織を運営しました。最終的には累計約40億円を調達し、知財を米国の大手企業へ譲渡しました。
西山:40億円!すごいスケールですね。その後はどのような経緯で、IntraPhotonの設立に至ったのですか?
本蔵氏:帰国後はi-nest capitalという投資会社に入り、ディープテック企業の育成や最先端技術の情報収集に携わっていました。その中で、立命館大学の藤原康文(ふじわら やすふみ)教授が発明した希土類添加GaN赤色LED技術に出会い、「これは世界を変える技術だ」と確信しました。AR/VRグラスの実用化において、世界中の企業が長年解決できなかった「赤色LEDの微細化問題」を根本から突破する、世界初の技術です。2025年10月、藤原教授とともにIntraPhotonを設立し、現在はこの事業に専念しています。
世界初の発光原理が生む、3つの独自の強み
西山:この事業には、どんな独自性があるんでしょうか
本蔵氏:従来の赤色LEDは、チップを10μm以下に微細化すると、発光効率が急落するという致命的な課題がありました。藤原教授が確立した技術は、ユーロピウム(Eu)イオンの「イントラセンター遷移」という全く新しい発光原理に基づいており、3つの独自の強みがあります。まず、微細化しても発光効率が落ちないこと。次に、ウェハ全体で均一に発光し、量産時の歩留まりが高いこと。そして、赤・青・緑を同一ウェハ上に三層積層することでフルカラー化を実現し、従来工法で最大のコスト要因だった「ピック&プレース」工程を不要にできることです。すでにApple Vision Proを大幅に上回る8,000PPI超・20,000nit超(赤単色)を実証済みで、2026年2月には日刊工業新聞にも取り上げられました。

西山:画期的な技術ですね。ビジネスモデルについては、どのように考えられているのでしょうか?
本蔵氏:ディスプレイ自体を製造するのではなく、バリューチェーンの上流であるエピウェハ(特殊材料基板)の製造・販売に特化した水平分業型で展開する予定です。GAFAMや台湾・韓国メーカーのエコシステムに組み込まれることで、高い利益率を追求します。
世界中でこの赤色の問題に取り組んでいる企業や研究機関はありますが、実用レベルで解決できているのは我々だけです。しかも、藤原教授が30年近く研究を重ねてきた技術が土台にある。この参入障壁の高さが、最大の優位性です。
立命館大学との連携が生む、充実した開発環境

西山:立命館大学とは、どのような形で連携しているのでしょうか
本蔵氏:非常に手厚いサポートをいただいています。学内に専用R&D施設「IntraPhotonics Research Center」を設立し、MOCVD装置をはじめとする研究設備が整っています。また、JSTのディープテック・スタートアップ国際展開プログラム(D-Global)に第一期生として採択され、3年間3億円の支援も受けています。大学発スタートアップだからこそ得られるこの環境が、開発を大きく後押ししています。

ライター小松: シリコンバレーや東京での経験が長い本蔵さんが、今は京都に住んでいらっしゃるというのも印象的でした。関西の環境はいかがですか?
本蔵氏: 今は京都・山科に居を構えていますが、正直、関西のスタートアップ環境は想像以上に充実していて驚いています。大学・行政・金融機関・企業のネットワークが有機的につながっていて、本当にいろいろな方に助けていただいています。シリコンバレーを知っている私が言うのだから、信頼してもらえると思いますが(笑)、ものづくり系のディープテックにとっては特に動きやすい環境です。

滋賀から、世界のユニコーンへ
西山:今後の採用・事業計画について教えてください。
本蔵氏:まず採用については、マイクロLED・半導体分野の研究開発経験者や、グローバルに事業を推進できる技術リーダーを国内外問わず積極的に募集しています。資金面では現在補助金を元に活動していますが、シードで3億円の調達を予定しており、2029年の世界初6,250PPIフルカラー第一世代製品の供給開始に向けて体制を整えているところです。その後はGAFAMへの採用を経て、1,500億円以上の大型IPOを目指しています。

西山:事業を通じて、どんな世界を実現したいですか。
本蔵氏:世界の労働人口の約8割は、製造・農業・医療・建設など現場で働く人々です。今はパソコンの前にいる人だけが情報にアクセスしやすい世界ですが、圧倒的なリアル感を持つAR/VRグラスが普及すれば、必要な情報がいつでもどこでも目の前に現れ、移動や場所の制約を超えた働き方やコミュニケーションが生まれます。
「圧倒的なリアル感を持つ仮想・拡張現実機器を、世界中の誰もが携帯できる世界を実現する」それが私たちのミッションです。
生態会のコメント
取材を通じて印象的だったのは、本蔵CEOの「ワクワクできることをやってきたら、こうなった」という言葉でした。マッキンゼー、INCJ、シリコンバレーでの起業へと続くキャリアは、計画ではなく情熱の軌跡です。赤にこだわり、赤を選び続ける姿勢は、事業への向き合い方そのものでした。今は京都に居を構える本蔵氏。世界を知る起業家が関西を活動の拠点に選び、満足しているという事実が、この地のスタートアップ環境の充実を物語っていました。藤原教授の技術と本蔵氏の経営力が揃った今、滋賀から世界への挑戦が始まっています。(ライター 小松建太)




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