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誰一人取り残さない医療を実現“患者の声”をエビデンスに変える挑戦:TxPPIE(ティッピー)

  • heartheart62
  • 6 分前
  • 読了時間: 8分

関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は株式会社TxPPIEの代表を務める一二三晴也(ひふみせいや)さんに話を伺いました。

同社は、「誰一人取り残さない医療」の実現を目指し、患者さんの声と医療情報を研究や創薬につなげるスタートアップです。対象は、医薬品やワクチンの副作用、指定難病・希少疾患など、既存の仕組みではデータが集まりにくい領域。一二三氏は、ワクチン研究者としての経験から、情報不足のために研究が進まない現状に課題を感じ、この構想を立ち上げました。


取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)、小林希実子(ライター)


一二三晴也(ひふみせいや)氏 略歴

1998年、山口県生まれ。19歳でワクチン研究の道を志し、24歳から国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所のワクチンマテリアルプロジェクトに参画。研究に携わるなかで、副作用評価における情報不足という課題を強く認識し、患者同意に基づいて全国から医療情報を集め、ゲノム情報と連結するDX基盤を構想。これを社会実装するため、TxPPIEを立ち上げた。


ワクチン研究者だったからこそ見えてきた課題があった



生態会 小林(以下 小林)本日はありがとうございます。まずは、事業概要を教えていただけますか。


一二三 晴也さん(以下、一二三)こちらこそありがとうございます。TxPPIEは、「誰一人取り残さない医療」を実現するために、患者さんの声と医療情報を集め、研究と創薬につなげる会社です。対象にしているのは、医薬品やワクチンの副作用、指定難病・希少疾患などです。こうした領域は、症例が多様で複雑で、患者さんも全国に点在。そのため、特定の医療機関に依存した情報集積にはどうしても限界があり、「データが集まらないから研究価値が得にくい」と判断されてしまいがちです。結果として、十分に研究されず、支援も進みにくい。そこに構造的な問題があると考えています。


小林なぜ、そうした“集まりにくい領域”に注目されたのでしょうか。



一二三私はもともとワクチン研究者なんです。薬学の道に進んだ原点も、幼い頃にワクチンという存在に強く惹かれたことにありました。ワクチンは、病気になった人だけでなく、健康な人も含めて老若男女が使う、非常に特殊な医薬品で、人の命と健康を守るうえで、とても大きな役割を果たしてきた技術だと考えてきました。



大学では薬学を学び、その後は大阪大学大学院や国立の研究所でワクチン研究に携わってきました。僕は、研究は論文で終わるのではなく、社会実装されて患者さんを救うところまで届いてこそ意味があると思っています。コロナ禍を機に副作用の問題にも目を向けるようになり、「情報不足のため因果関係を評価できない」とされる事例が非常に多い現実に直面しました。ワクチンの死亡事例では99.4%が評価不能、ほかの医薬品の副作用でも70〜90%ほどが情報不足で評価不能とされるケースが多く、そこに大きな課題を感じています。


小林その現実を知ったとき、研究者としてはどのように受け止められたのでしょうか。

一二三もちろん、研究者としては、印象や感情だけで「おかしい」と断定することはできません。そこは冷静であるべきだと思っています。ただ、これだけ「評価不能」が多いということは、個別の案件以前に、そもそも情報を集める仕組みに課題があるのではないか、と感じたんです。僕は、ワクチンそのものを否定したいわけではありません。むしろ、だからこそ正当に評価されるべきだと思っています。副作用や原因不明の症状に苦しんでいる方がいるなら、その実態をきちんと研究し、評価し、次の医療の改善につなげるべきです。そこが進まないのは、この国の研究や医療の構造に課題があるからではないか。そう考えるようになりました。



既存の仕組みでは集めきれない。だから患者さん起点で集める


小林その課題の本質は、どこにあるのでしょうか。

一二三一番の課題は、医療情報の集め方が特定の医療機関に依存していることです。一般的な症例なら機能しますが、副作用や難病・希少疾患のように患者さんが全国に散らばるケースでは、必要な数を集めにくく、研究そのものが立ち上がりにくい。だからこそ、情報の集め方自体を変える必要があると考えました。

小林そこで、「患者さん起点」の発想が出てくるわけですね。

一二三そうです。今の時代、全国にいる患者さんから直接情報を集める仕組みがあっていいはずだと考えました。カルテなどの医療情報は患者さん自身が開示請求できますし、ゲノム情報も唾液で採取できるため、参加のハードルも比較的高くありません。患者さんが取得した医療情報に、症状や生活への影響といった“声”、さらに同意のもとで得たゲノム情報を組み合わせることで、患者さん起点で研究に必要なデータを集められる。そこから生まれたのが、私たちのDXプラットフォーム「VoiceAtlas」です。

VoiceAtlasの概要を簡単に説明する絵
VoiceAtlasの概要を簡単に説明する絵

「VoiceAtlas」で、患者の声をエビデンスへ変えていく


小林VoiceAtlasは、どのような仕組みなのでしょうか。

一二三症例が多様で複雑な患者さんは全国に散らばっています。そこで私たちは、患者会と連携しながら、患者さんご自身が持つ医療情報や生活への影響を含む“声”、さらにゲノム情報を集め、匿名化したうえでデータベースに統合する仕組みを構築しています。

大事なのは、集めて終わらせないことです。集積した臨床情報とゲノム情報を解析し、研究機関や製薬企業が使える形で提供することで、大学などでは研究費獲得や論文投稿、特許出願、研究成果の社会実装につなげやすくなりますし、製薬企業にとっても、新たな創薬シーズを得る可能性が広がります。

小林患者さん、研究者、企業をつなぐ基盤になるわけですね。

一二三はい。患者さん、研究者、企業の三者をつなぐプラットフォームにしたいと考えています。患者さんからお金をいただく想定はなく、基本はBtoBです。大学・研究機関や製薬企業に対して、独自データベースの利用や共同研究、データ提供という形で価値を届けていくモデルです。


初期は患者会と連携しながら効率的に情報を集め、将来的には認知と実績を積み重ねることで、患者会に依存しすぎず、全国の患者さんが自ら参加できる仕組みに育てていきたいと思っています。

小林データの取り扱いには慎重さも必要ですね。

一二三そこは非常に重要です。将来的なDX化も視野に入れていますが、実証段階ではまずスタンドアローンでの運用を前提にしています。倫理面やプライバシーについては、大阪大学の法務や倫理領域の方々の協力も得ながら、ゲノム情報を扱うための指針づくりを進めています。

VoiceAtlasで患者の声をエビデンスにしていく仕組みを示した絵
VoiceAtlasで患者の声をエビデンスにしていく仕組みを示した絵


最初の実証テーマは「mRNAワクチン接種後のME/CFS」


小林:最初の実証テーマとして、「mRNAワクチン接種後のME/CFS」を掲げておられますね。

一二三:はい。ME/CFSは、強い倦怠感や運動機能の低下によって、学校や仕事に行けなくなることもある病気です。ワクチン接種後に発症を訴える方もいますが、発症メカニズムや治療法はまだ十分にわかっていません。ワクチンだけでなく、ほかの感染や免疫反応をきっかけに発症することもあり、症例が多様でデータが集まりにくいため、研究が進みにくい課題があります。


私たちは、mRNAワクチン接種後にME/CFSを発症した患者さんを対象に、ゲノムと医療情報を集める実証研究を進めようとしています。患者会と連携しながら、長崎大学との共同研究として進めていく方針です。


小林:その流れはどのように生まれたのでしょうか。

一二三:まずは疾患を絞って実証することが大事だと考えました。ME/CFSは研究が十分に進んでいない一方で、社会的な関心も高まりつつある領域です。そこで、この疾患に取り組む研究者や臨床の先生方に直接会いに行き、その中で長崎大学の先生方との接点が生まれました。研究成果も踏まえて、このテーマで一緒に進めようと言っていただき、今は研究計画の作成や倫理審査に向けた準備を進めています。


VoiceAtlasで患者の声をエビデンスにしていく仕組みを示した絵
VoiceAtlasで患者の声をエビデンスにしていく仕組みを示した絵

■TxPPIEという考え方を、日本で実装するために


小林:社名にもある「TxPPIE」についても教えてください。

一二三:患者さんや市民が研究や医療に主体的に関わる考え方です。海外では重視されていますが、日本ではまだ十分に根づいていません。私たちは、患者さんを単なる研究対象ではなく、研究を動かす主体として位置づけたいと考えています。

小林:社名にも、その思いが込められているのですね。

一二三:はい。患者さんの声と医療情報を起点に研究を動かす、この仕組み自体がPPIEの実践の場になると考えています。日本の医療研究のあり方に、新しい前提を持ち込みたいと思っています。 小林:最後に、投資家の方へメッセージをお願いします。 一二三:私たちが変えたいのは、医療データの集め方そのものです。副作用や難病・希少疾患で苦しむ方の声をエビデンスにつなげ、次の診断・治療・創薬へと結びつけていく。その基盤には、大きな社会的意義と事業の可能性があると考えています。このビジョンに共感してくださる方と一緒に、「誰一人取り残されない医療」を実現していければうれしいです。



取材を終えて

TxPPIEのお話を伺って、強く心を動かされたのは、医療の進歩からこぼれ落ちてしまう声に、真正面から向き合おうとしていることでした。副作用や難病・希少疾患のように、症例が多様で複雑な領域では、研究が進まない理由そのものが「データが集まらないこと」にあります。そうした難題に対して、一二三さんは研究テーマを増やすのではなく、情報の「集め方」そのものを変えようとしている。その発想の転換に、この事業の大きな意義と独自性を感じました。(ライター:小林 希実子)



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