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執筆者の写真Yoko Yagi

モータ設計にAI活用を!大学研究者によるAI×パワエレ研究成果ベンチャー:MotorAI



関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、モータ分野におけるAI技術を活用した社会実装を目的とした 株式会社MotorAIの清水 悠生(しみず ゆうき)CEOにお話を伺いました。


取材:垣端たくみ(生態会事務局)、 レポート:八木曜子(生態会ライター)


 






清水 悠生(しみず ゆうき)氏 略歴

大阪府立大学大学院工学研究科博士前期課程修了後、2018年トヨタ自動車の設計部門で電気自動車の設計開発として勤務。大阪府立大学にて博士(工学)を取得。2022年から立命館大学理工学部の助教に就任。2023年3月株式会社MotorAIを設立。

 

トヨタから博士取得へ、そしてMotorAIを創業


生態会 垣端(以下、垣端):本日はお時間いただきありがとうございます。まずはご経歴とMotorAIの事業内容を教えてください。


清水CEO(以下、清水):はい。まず私の経歴ですが、大阪府立大学で修士を取得して卒業した後、トヨタ自動車に入り、現場で電気自動車の設計開発を現場でしていました。その後会社を辞めて、元々在籍していた大阪府立大学に戻りました。この研究室はモータ制御と設計の分野で非常に有名です。


ドクターを取るためには、研究テーマを決める必要がありました。トヨタ自動車にいたとき、AIを使って自分がやっていることを自動化できれば、もっと面白いことができるし、ものづくり産業も盛り上がると考えていたので、その考えを研究テーマとして大学に戻って研究し、2年でドクターを取得しました。その後2022年の4月から1年間立命館の助教として働き、2023年の3月に株式会社MotorAIを立ち上げました。


会社の体制は、私と共同代表の長井真一郎氏と本田 悠真氏の3名です。長井氏は、50代でポニー電機㈱の社長でもあります。私が会社を立ち上げる際、最初に何から始めればいいかわからなかったため、長井氏から支援を受ける形で参加していただきました。私が経営面で困った際に相談する人物で会長職のような立場です。


また取締役の本田 悠真氏は私の大学の同期でWebデザイナーです。私たちの会社はアプリ開発事業を行っており、中身は私が作成していますが、外観やアプリの作成方法がわからなかったので、本田氏が専門分野で支援しています。また、技術顧問として横浜国立大学 教授の赤津観先生にご支援をいただいています。


設立場所は立命館大学の大学発ベンチャー企業として、BKCインキュベータに主登記しています。


やりたいことを簡単に説明すると、モータとそれに近いパワーエレクトロニクス分野にAIの技術を応用し、イノベーションを起こしたいと考えています。


事業内容はコア技術のモータ設計AIを軸に、2つに分かれます。1つは受託開発です。起業当初の当面の資金確保であったり、自分が設計者として何を思うかを確認する、モータ設計会社とのコネクションを作ることなどを目的にキャッシュエンジンとしてやっています。2つ目は大学での研究を社会実装するというものでこちらがメインでやりたいことです。



AI技術でモータ設計の課題を解決


垣端:なるほど。ではモータ領域にはどういった課題があり、御社はどう解決できるのでしょう?

 

清水:モータとは電気のエネルギーを機械エネルギーに変換する機構のことです。地味ながらも重要な装置で、実は私たちが日常的に使用する多くの製品にモータが搭載されています。電気自動車や産業用ロボットやヒューマノイドロボット、風力発電所の部品、電動航空機や電車など、広く使用されています。スマートフォンに内蔵されている振動機能や、パソコンのファンや換気扇など、電気を使う製品にはほとんどモータが使用されています。エネルギー消費の観点から見ると、消費電力の約40%がモータによって占められており、エネルギー分野においてモータは大きなインパクトを持つ装置なのです。


私達は今モータに関して、三つの社会課題があると考えています。

 

1つ目がエネルギー問題。先述の通り消費電力量のウエイトが非常に高いため、他のエネルギーへの変換効率、つまり電気から機械に変換する際の効率を10%改善すると、世界で100基の原子力発電所が不要になると言われているほどのインパクトがあります。

 

2つ目が技術者の人材不足。これは特に自動車業界で顕著で、ここ15年ぐらいで、急激な電動化シフトが起きています。これまでガソリン車だったものを電気自動車などの電動車にどんどん置き換えているわけです。特に中国や欧州、米国のテスラが主導しています。しかし、日本では特に40年50年同じ会社にいることが多いため、これまでエンジンの開発をしていた人が、電気自動車の開発やモータ、バッテリーの開発に急に回された結果、これまでの経験が生かせずに壁に当たっている人が多いのです。私がトヨタにいた時も、そういう人を何人も見かけました。すなわち、電気系の人材が結構不足しているという現状があります。

 

3つ目は、設計業務の非生産性です。一般の人には伝わりにくいのですが、私は現場出身なので現場の人には非常に刺さる内容だと考えています。実際の現場では、設変といわれる設計変更が大変頻繁に発生し、これがモータの問題だけでなく、ものづくりの技術者の大部分の業務を占めているのです。要求仕様に基づいてモータをパソコンで設計し、実際に製造してみると、ちょっと性能がそうてい通りでなかったり、こことここの部品同士が干渉していたりと不備が発生するものです。また、モータ設計者が悪いわけではなく、関連する設計者がミスした場合などもしわ寄せがおきやすい。この設計変更業務が設計業務の大部分を占めているため、工数的に新しい次世代のモータを創造することが難しいのが現状です。





この現状に対して、AIによってより良いモータを作ることで、1つ目のエネルギー問題に対して、高品質なモータ設計ができることで解決できます。2つ目の技術者不足の問題に対してはAIとの対話によって教育的な効果として技術者の育成が可能と考えています。例えばChatGPTにいろいろな回答をしてもらって、「こんな意見があるんだ」とか、「こんな切り口があるんだ」と使う側が学ぶことがあるようなものです。そして3つ目の問題に対しては、設計変更の自動化が可能になります。AIというのは基本的にデータセットに基づいて学習をしているものなので、ある特定の部分に関する知識が豊富にあります。設計変更はデータ多い領域をたんさくするので、AIが得意なところです。


他方、次世代のクリエイティブなモータ、全然データがないような新しいモータを作ることは、やはりまだAIには難しい。だからそこは人間がやるべきで、設計変更みたいなことは、AIが行うというような切り分けができるのが一番なんじゃないかと考えております。

私の大学時代の研究としてモータ設計AIというものを作っていましたが、Pythonなどのプログラムを使わないといけないものだったので、現場の方にも簡単に使ってもらえるように、MotorAIでアプリを開発しています。


企業の方にはより良いモータを作っていただき、さらにそのモータのデータをフィードバックしていただくことでモータ設計のデータセットがさらに蓄積します。そうすると、AIがさらに良い設計ができるようになります。そしてまたデータを返してもらうと、データとノウハウを循環させることができる…。そういう循環させるエコシステムを、できればオールジャパンの製造業で協力してできないかなと考えています。もちろん知財の問題やセキュリティの問題などがありますが、参画してくださっている事業会社の方々と、そのあたりを調整している段階です。


垣端:オールジャパンでエコシステムまで考えられているのですね。具体的にはどういったことが可能になるのでしょうか?


数日かかる設計が14秒に短縮


清水:端的に言うと、非常にスピーディーな設計ができます。今、モデルベース開発と言って、モータはパソコン上でシミュレーションを行っていることを基本的に繰り返して進めていますが、有限要素解析という、計算コストが非常にかかるようなシミュレーションを使っています。対してディープラーニングを使うと非常にスピーディーに解が出てくるというメリットがあります。もちろん、学習するときには長い時間がかかるのですが、学習を一度終えてしまえば、大変スピーディーです。一つの例で言うと、数日程度かかる最適設計が14秒程度で終わったり、数週間かかっているものが5.6分程度で終わるみたいなことがあるように、少ない労力で良いモータができます。


また、アプリとしては各種条件を設定して最適設計というようなボタンを押すと複数案がでる機能を開発しています。それに加えて、ChatGPTのような自然言語処理で可能な対話型のモータ設計も検討しています。対話型で「あなたのモータはこんないいとこ悪いとこがありますよ」といったように提示してくれたら、非常に革新的ではないか、製造業のあり方自体が変わるんじゃないかと考えていて、基礎研究と技術開発を行っています。



垣端:対話型も検討されているのですね。可能になればそれは革新的だと想います。それでは現在の状況とこれからの方向性を教えてください。


清水:2023年度はα版のアプリの最初のバージョンを開発しました。中身自体は私自身がずっと研究分野で発表していたものですが、現場の開発者や技術者、経営陣など、さまざまな方々にプロトタイプを見せなければ、事業が良いのか悪いのかの判断ができなかったので、初期のPoC(概念実証)のためにまずα版を作り、多くの方々と話をしてきました。


2024年以降はβ版の開発を予定しています。まだ製品版ではありませんが、嬉しいことに弊社に対して支援をしたいと言ってくださる企業がいくつかあり 、コメントやフィードバックを受け、アプリを改善しブラッシュアップしていきたいと思っています。それによって1年から2年かけてPMFを検証していきます。うまくいけば、2026年度に製品版を販売する予定です。


既存企業とは協力して市場拡大を狙う


垣端:競合はどういったところを想定しているのでしょうか?


清水:競合はゼロではないですが、あまりいません。目指す市場はモータ×シミュレーションという市場で、日本ではJMAGなどが有名ですが、世界的にはAnsys Maxwellというソフトが非常に有名で、多くの人が使用しています。彼らもAIを活用しようという動きはあるのですが、まだまだ課題が多いようです。 そのため、スタートアップのような会社がある程度のリスクを負って突き抜けた技術を開発し、市場を開拓していく方が良いと考えています。そして、既存の企業と競合するのではなく、プラグイン連携や共同開発を通じて市場を拡大していく方が良いと思います。競合と考えるよりも協力して仲間を増やし、市場を拡大していこうというモチベーションでやっています。




研究者と起業家の両輪でものづくりを変える


垣端:大きな視野で業界自体を見ていらっしゃるのですね。ここからは細かく伺いたいのですが、モータシミュレーションに対してAIを活用しようと思った経緯も伺っていいですか?


清水:はい。トヨタ自動車にいた時、何度も何度も設計変更を行っていて、これは機械でできるのではないかとずっと思っていたのです。実際にトヨタ社内でそういう活動を始めようとしたのですが、数名でやるにはなかなか難しい。これは一旦どこかに腰を据えて本格的に技術を向上させなければ難しいと感じ、会社を辞めて、ドクターへ行き、技術研究を立ち上げました。


そしてモータだけでなく、ものづくり全体でこのような進歩を推進したいと考えています。専門家のためのAIがあり、設計者がそのAIを使用して設計し、その結果をAIにフィードバックするというフォーマットは、モータに限らず、どんな分野にも適用できます。過去の経験から、AIの力を活用して製造業をより良いものにしていきたい。特に、日本の製造業が海外に競争で後れを取っている現状を見て、それを盛り上げていきたいという思いがあります。生成AIと人間の設計者が共に創造していく社会を作りたいと考えています。


垣端:なるほど。では大学での研究をしながら起業しようとされた経緯をお伺いできますか?


清水:様々な理由がありますが、社会実装するための選択肢を増やしていきたいというのが私の目的です。具体的に言うと、モータ分野にAIの技術を投入して、様々なイノベーションを起こしたい。さらに、ものづくり全体にこの技術を応用し、イノベーションを促進したいと考えていて、モータ分野へのAI導入はその一環です。この目的を達成するための選択肢をとにかく増やしたいと考えました。研究者としては、論文を書くことで終わりがちですし、共同研究や企業へのアドバイスも行いますが、その進行速度が遅いと感じていました。それなら自ら立ち上げて製品を作る方が速いと考え、会社を設立しました。


垣端:トヨタにいたとき悶々とされていたとおっしゃっていましたが、そのときの心境はどんなものでしたか?


清水:もっと面白いことできるのにな、勿体ないなっていうのが一番大きかったですね。こんなに素晴らしい技術者がたくさん揃ってるのに、なんで設計変更のようなことばかりやってるんだろう、もうちょっとうまく活用したらもっと面白い設計できるのにな、盛り上がるのにな、と思ってました。他の技術者も同じ問題は感じていたと思いますが、僕は行動しちゃった、という形です。


垣端:行動しちゃったということですが、もともと学生の頃から起業を考えていたんですか?

清水:いえ、まったくです。正直に言うと、私はこんなに社会が退屈だとは思っていなかったんです。トヨタに入るまでは、典型的な考えを持っており、大学で頑張って研究し、良い会社に入ってエリートコースを歩むという思想に囚われていました。しかし、会社に入ってみると、思ったよりも全然面白くなくて、その時から考えが変わりました。すぐに会社を作るとか転職するとかいうアイデアはあったのですが、まだ具体的なイメージがつかめず、ドクターへの進学を選びました。だから、トヨタに入る前後では思想が全く違います。


垣端:共同代表の長井さんとはどうやって知り合ったんですか?

清水:学会での飲み会に参加したことがきっかけです。2022年ごろ、コロナウイルスの状況が少しずつ改善し、オフラインの会議が再開し始めた時期に久しぶりに学会に行きました。その時、私の大学の先生が誘ってくれた飲み会に長井さんも参加していて、二次会で隣になったんですよね。その時名刺を頂き、ポニー電機㈱ の社長であり、長岡技術大学で大学発ベンチャーを二つ運営していて、大学発ベンチャーなどの活動を支援している人だと知りました。その出会いから何か道が見えたと感じ、翌日にはお礼のメールを送り、その1ヶ月後には一緒に事業を立ち上げようというスピード感ある形で進みました。考えていたより速いスピードで進んでいます。


垣端:この1年で特に苦労したことはありますか?

清水:もう慣れましたがファンドとかお金周りの調整、経営やお金に関する人間関係などは少し難しかったですね。人材はリファラルで探しています。


垣端:何か困っていることやお願いしたいことなどはありますか?


清水:今は製品を買ってくれる事業会社、例えば製造業でモータを扱っている会社さんなどを募集したいのと、資本提携なども含めて支援してくださる方を募集しています。資金調達はシードとしては十分なのですが、それ以上は未定です。


垣端:ありがとうございます。大変な可能性を感じました。本日はお時間いただきありがとうございました!

 

取材を終えて

大学助教起業家というキャリアスタイル、またAIという先端テクノロジーを駆使する姿は、まさに新時代的な起業家だと感じました。AI×モータは多くの日本の製造業に関連するため、今すぐにでも多くの日本企業の課題を解決してくれそうです。また、AI技術にどれくらいリソースを投入すればどれくらいの結果が出るのかよくわからないため経営判断できないのが大企業のボトルネックに対して、スタートアップならスピード感を持って対処できる、という起業家的判断に将来性を強く感じました。(ライター八木)



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