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歯科衛生士の人材紹介から、歯科医院のプラットフォーム構築へ:HANOWA

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家。今回は歯科医療従事者のシェアリングプラットフォーム「HANOWA」を提供している、株式会社HANOWAの代表取締役 新井 翔平(あらい しょうへい)さんにお話を伺いました。


取材:西山 裕子(生態会事務局長)、濱本 智義(学生スタッフ)

レポート:濱本 智義


代表取締役 新井 翔平


1987年、大阪生まれ。関西大学卒業後、新卒でカナダに放浪の旅に出る。帰国後、求人系の株式会社インテリジェンス(現・パーソルホールディングス株式会社)や、医療系のweb制作会社を経験し、27歳で独立起業。そこで歯科医院のwebマーケティング支援や採用支援に携わるなか、歯科業界の人材・労働問題に直面することとなる。「世の母親たちが、イキイキと自分の人生を生きられるような社会」を創りたいという思いで、2019年1月に株式会社HANOWAを創業。歯科医療人材のシェアリングサービスを通じて、歯科業界のDXを目指す。








■歯科業界が抱える、人材不足と労働環境の問題


西山:まずは「HANOWA」がどういったサービスなのか、詳しく教えていただけますか。


新井:「HANOWA」は一言でいうと、歯科業界のUberEatsです。このサービスを利用することで、歯科衛生士はスキマ時間に好きなだけ働くことができ、歯科医院は必要なときに必要な分だけ人材を確保することができます。現在、800名の歯科衛生士さんと約400カ所の歯科医院さんから利用していただいています。





濱本:歯科医院はコンビニよりも多いと聞いたことがあるのですが、やはりそれほどに人材の確保が難しいということなのでしょうか?


新井:はい、その通りです。歯科医院はコンビニよりも多く存在している一方で、歯科衛生士の数は限られており、近年では新卒求人倍率が20倍になるほど、人材が不足しています。また厚生労働省の調査によると、歯科衛生士の資格取得者は日本におよそ29万人存在しているのに対し、実際に就業している者は13万人程度しかいません。これは全国の歯科衛生士のうち50%以上の方が離職しているということになります。人材が不足しているのはただ単に分母の数が少ないというだけでなく、その背景には「働き方改革」の遅れや、妊娠・出産で早期退職するといった、女性の割合が多い歯科衛生士ならではの課題があるのです。


濱本:歯科業界は、想像以上に深刻な人材不足に陥っているのですね。


新井:歯科業界では人材の確保が難しいだけでなく、その原因の一つである労働問題への対処が遅れているという現状があります。歯科衛生士に対して、歯科医師は男性が多い傾向にあります。そのため、残念ながらマタハラパワハラなどが日常的に横行している医院も存在しています。また、そのような労働環境にある医院でなくとも、男性院長と女性従業員の間でコミュニケーションがうまくとれず、結果的に従業員が働きにくい環境にある医院も存在しています。「HANOWA」では、人材紹介だけでなく労働環境の改善をサポートすることで、歯科衛生士が働きやすい環境づくりを推進しています。


西山:今後の構想として何か考えていることはありますか?


新井:実は歯科業界には、人材不足と労働環境の問題に加えて、院長の経営を学ぶ場所の不在という課題もあります。歯科医師に求められるスキルと経営者として必要なスキルは全く異なります。例えば、経営にはファイナンスやマーケティングなどといった様々な知識が必要になってきますが、そのような知識やスキルを活用できている院長はほんの一部しかいません。そこで今後は人材紹介に限らず、集客や人材管理など、ITを活用した経営支援にも取り組もうと考えています。




■歯科業界でビジネスを始めたわけ


西山:なぜ歯科業界でビジネスを始めようと考えたのでしょうか?


新井:とある院長との出会いが最初のきっかけでした。私はWeb制作会社を退職した後、個人事業主としてクラウドワークスやランサーズを活用して、マーケティング支援や採用支援をしていた時期がありました。その時に知り合ったクライアントの一人が、その院長でした。


はじめは「インプラントを広めたい。」と相談を受けました。そこでマーケティングの支援をしてうまくいったのですが、本音を聞いてみると、借金の返済と給料の給付に充てるお金を得るために、仕方なく単価の高い自費診療を提供していたそうで、本当は予防型クリニックを目指したいということでした。私は「それなら予防歯科を始めたらいかがですか。」と提案をしましたが、「それができないから悩んでいるんだ。」と言われました。なぜやりたいことができないのか、その理由こそが歯科業界の抱える労働問題でした



予防歯科には、歯科衛生士や歯科助手の協力が不可欠であり、密に連携を図ることで質のいいサービスを提供することができます。しかしながら、その院長は従業員との関係がなかなかうまくいかず、目指す方向性に悩みを抱えていたのです。そこで、その歯科医院で働いている、従業員の方々に直接お話を聞いてみたところ、従業員側も院長に対して不満を抱えていたことがわかりました。医院全体で予防型クリニックを目指すため、私は第三者の立場として医院を取りまとめ、院長と従業員との関係性の改善や、働きやすい環境づくりに力を入れ始めました。その結果、職場の人間関係の問題は徐々に解消され、院長と従業員からは笑顔がみられるようになりました。そして人間関係や労働環境が改善されたことで、当初からの願いであった予防型クリニックとしての認知も広がり、定期検診の患者さんも増えていきました。


この院長との関わりを通して、私は人間関係を含む職場の環境がいかに重要なのかを再認識しました。また詳しく調べていくうちに、他の歯科医院が同じような問題を抱えていたり、より劣悪な労働環境にあることを知りました。そこで歯科衛生士が結婚や出産を経ても柔軟に働ける社会を実現するため、「HANOWA」を開発したのです。


濱本:そのような経緯があったのですね。なぜ人材紹介サービスから始めようと考えたのでしょうか。


新井:私は当時、マーケティング支援や経営コンサルに加え、前職を生かして歯科衛生士の求人広告作成なども行なっていました。なんと1年間で100件もの求人広告作成依頼があり、そこで歯科業界の深刻な人材不足問題を痛感したのです。歯科衛生士は離職率が高いため、医院は定期的に求人を出す必要があり、人材の獲得に大きなコストがかかっていました。また人材が不足している医院が多い一方で、人材が余っている医院も存在していました。おまけにおよそ29万人の歯科衛生士のうち15万人が潜在人材として眠っています。そこで思いついた解決策が、人材をシェアすることでした。人材をシェアするサービスがあれば、医院は必要な時に必要な人材を確保でき、歯科衛生士は結婚や出産を経ても柔軟に働ける環境を作ることができると考えたのです。この事業を始めたのは、自分自身がやりたかったからというより、それを求めている人が目の前にいると思ったからなんです。



■人材紹介から歯科業界最大のチェーン展開を狙う


西山:2019年1月に会社設立とのことですが、コロナの影響は大丈夫だったのでしょうか。


新井:我々にとって、コロナはむしろ(不謹慎かも知れませんが)好影響でした。というのも、コロナの影響で融資の基準が下がったおかげで、なんとかファイナンスの問題で潰れずに済んだのです。同年4月にはプレシリーズAラウンドで、ANOBAKA、日本スタートアップ支援協会、G-STARTUPファンド、守屋実氏、端羽英子氏、大冨智弘氏、遠藤健治氏、ガゼルキャピタルの他、複数の歯科医師を含む個人投資家から、総額6000万円の資金調達に成功しました。現在はその資金を元に、開発体制・顧客サポート体制の強化やマーケティングに力を入れています。


濱本:今後の展望を教えてください。


新井:先ほども申し上げましたが、今後は人材紹介に限らず、シフト管理ツールや労務管理ツールの開発などを通して、医院経営のサポートにも取り組んでいく予定です。アナログな医院経営をDX化することで、働きやすい環境を作りながら安定した経営を支援していきますまた、そのような歯科業界のオペレーションシステムを作ることで、最終的には自分たち自身で歯科医院の経営を始め、全国へのチェーン展開を狙います。2023年には、全国1万店の歯科医院チェーン最初の1医院目を作ることを一つの目標に、頑張っていきたいです。



取材を終えて:近年、歯科業界では求人倍率が20倍にも増加した一方で、離職を経験したことがあるという歯科衛生士は50%超にも達しました。さらに、これらの人材・労働問題に加え、院長の経営スキル不足やIT化の遅れなど、歯科業界には他にも様々な課題が存在しています。これらの問題は、歯科医院と歯科衛生士の両者にとって非常に深刻な課題であり、同時に大きな可能性を秘めたマーケットだといえます。「HANOWA」は、そのような歯科業界の人材不足・労働環境の問題や経営問題を解消するだけでなく、スキマ時間に柔軟に働けるといった、歯科衛生士にとっても優しいサービスになっています。歯科衛生士が自分らしく働ける社会にしたいという新井氏の強い思いが、このサービスに現れているのではないでしょうか。(濱本)



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