関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、株式会社Verne Technologiesの竹内 大貴(たけうち だいき)さんにお話を伺いました。
取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局長)、松井 知敬(ライター)
竹内 大貴(たけうち だいき)氏 略歴
2004年、兵庫県伊丹市に生まれる。10歳のとき、父親の仕事の関係でアメリカシリコンバレーへ渡る。17歳までを現地で過ごし、2021年に帰国。2022年にミネルバ大学へ進学するも、起業のため自主退学。2023年、株式会社Verne Technologiesを創業。2023年、business contest softbank×king 優勝。
■ノイズキャンセリング機能の付いたマスク型のハードウェア「Wearphone」
生態会 西山(以下 西山):本日は、どうぞよろしくお願いします。まずはじめに、会社概要を教えていただけますか?
Verne Technologies 竹内氏(以下、竹内):はい。株式会社ベルヌテクノロジーズは、設立が2023年の11月22日で、今、3つの事業を手掛けています。1つ目が、ノイズキャンセリング機能の付いたマスク型のハードウェア「Wearphone」の開発になります。
西山:このプロダクト、資料を見させてもらって、めちゃくちゃ面白いと思いました。
竹内:ありがとうございます。もともと、これを開発しようと思って創業したんですね。VCから資金調達もしています。で、同じぐらいのタイミングで会社設立した友達がいるんですけど、諸事情で会社を手放すことになり、無駄にするのはもったいないということで、その会社の事業を僕の会社で譲り受けることにしました。それが、2つ目と3つ目の事業である「Zコンサルティング」と「起業ラボ」です。
西山:そちらは、どのような事業ですか?
竹内:「Zコンサルティング」は、「Z世代だからこそ持てる着眼点」を掲げ、IT関連のコンサルティングや受託開発をおこなっています。DXだったり、webサイト制作だったり、システム開発だったり。最近では、生成AIのチャットボット開発などもおこなっています。「起業ラボ」は、僕らエンジニアのリソースが結構あるので、それを活用しながらクライアントの社内起業を手助けする事業です。
生態会 松井(以下 松井):竹内さんご自身も、エンジニアなんですか?
竹内:いえ、違います。まあ、パイソンとかウェブ系のエンジニアリングなら、ある程度はできるんですけど。
松井:ということは、技術的なことはエンジニアのかたにお任せして、竹内さんは経営に注力されていると。
竹内:はい。経営の他に、営業も僕の仕事ですね。
西山:竹内さんのプロフィールも教えていただけます?
竹内:生まれたのが兵庫県の伊丹市で、東京に移って目黒区で過ごし、そこから父の仕事の都合でアメリカのシリコンバレーに渡りました。
松井:お父様は、どんなお仕事をされていたんですか?
竹内:もともと、日本でベンチャーナウというメディアを運営していまして。
西山:え!あの竹内さん? わたし、シリコンバレーのお家へ泊まりに行ったことありますよ。2016年と2019年の2回。じゃあ、その時、お会いしていますね。
竹内:そうなんですね、なんだかちょっと恥ずかしいな(笑)。
西山:そうだったんですか、気づかなかった。
竹内:その後、しばらくアメリカで暮らしていたんですが、高校を卒業する前に日本へ帰ることになりました。大学は、オンラインで通えるミネルバ大学を選びました。大学在学中にビジコンに出て賞をもらったりしているうちに、本格的に「起業してみたい」と思うようになって、株式会社ベルヌテクノロジーズを設立しました。
■SFに出てくるようなテクノロジーを現代にあった形で実現する
西山:社名の由来を教えてもらってもいいですか?
竹内:「SFに出てくるようなテクノロジーを現代にあった形で実現する」というのが僕たちのビジョンです。株式会社ベルヌテクノロジーズの「ベルヌ」は、フランスのSF小説家「ジュール・ベルヌ」という人からとったもので、彼が遺した「人間が想像できることは必ず実現できる」という言葉が僕はすごく好きなんです。人がワクワクするような想像を実現していきたいと思っています。
西山:そのビジョンの一環として開発しているのが、「Wearphone」なんですね。
竹内:はい。コロナによってミーティングがどんどんオンラインになったことで、「ミーティングする場所をどうするか?」という問題が生まれました。たぶん皆さん、オンラインミーティングで、「周りの音を拾ってうるさい」だとか、「喋っている内容が周りに聞こえちゃってセキュリティ大丈夫なの?」みたいに思ったこと、あると思うんです。僕は、オンラインの大学だったので、特にこの課題感は強く感じていたんですが。
西山:確かに、ありますね。喫茶店や新幹線などでよく見かけます。
竹内:それを解決するために開発しているのが、「Wearphone」です。顔に装着し、ノイズキャンセリング機能を使って自分の声を調音する、そういったマスク型のデバイスになります。自分の声が周りに聞こえず、いつでもどこでも安全かつスマートにオンラインミーティングができます。
西山:こういったプロダクトって、これまでになかったんですか?
竹内:顔に装着して音を消すデバイスって他にもあるんですけど、僕らのアプローチとは違うんです。デジタル処理するのではなく、内部に防音構造をつくっています。たとえばラッパって、音を広げるためにああいう形になっているんですが、あれの逆みたいな構造です。また、音をうまく反射させて防音するメタマテリアルと呼ばれる手法もあります。いずれにせよ、そういった構造が中に入っているので、サイズがどうしても大きくなってしまう。
西山:見た目がスマートではなくなりますね。
竹内:「Wearphone」は、スピーカーとマイクによるノイズキャンセリング技術を活用するので、そこまでの大きさにはなりません。また、AIに自分の声を学習させることで、使えば使うほど精度が上がる、そういうデバイスです。人間の声って、モーターのように一定の音を発し続けるものではなく非定常なので、AI学習が必要なんです。「Wearphone」が普及することで、いつでもどこでも仕事ができる、そんな世界を目指しています。
西山:どのように販売していく予定ですか?
竹内:まずは、BtoCで売っていくことを考えています。ターゲットとしては、外出先でのオンラインミーティングが多いであろう、営業職の人たちを考えています。現状、1番、課題感を持っていると思うので。ある程度、販売実績ができた後に、BtoBでも、たとえばコワーキングスペースや営業の会社などに売っていくことを考えています。販売台数が増えたら、それらのデバイスから得られる音声データを活用して、また新たなビジネスに繋げていくことも、将来的には考えています。
西山:マーケットはどんな感じなのですか?
竹内:正直、新しいデバイスなので、正確な市場規模の計算って難しいんですけど、世界のウェアラブルデバイス市場がだいたい1.3兆円くらい。日本の営業職の人たち、さっきお話ししたイニシャルターゲットの人たち全員が買ってくれれば、325億円ぐらいの規模になります。
■現役学生を中心に30名近い人が動いてくれています
西山:チームメンバーについて教えてください。
竹内:COOは、UCSD(University of California, San Diego)に在籍しています。ハードウェアに関しては、現役阪大生のリードエンジニアがいて、彼以外に明石高専の人たちが3名。AIとソフトウェアに関しては、京大の大学院生が主に担当してくれています。また、株式会社CueBeXという音声AIの開発をおこなっているスタートアップがあって、そこと協業していこうとしています。それ以外にも、筑波大学で音響の研究をしている人など、30名近い人が動いてくれています。
松井:メンバーはどのようにして見つけて来たんですか?
竹内:たとえば阪大の彼はものづくり系サークルに所属していて、明石高専の人たちはロボット研究部に所属しているんですけど、そういうのを調べて、声をかけていきました。実際に見学させてもらって、そこで仲良くなって、「僕、今、こんなんやってるんですよ」と話して興味持ってくれた人をリクルートする、そんな感じです。
松井:学生メンバーが多いですよね。
竹内:関西って、京大とか阪大とか、若くて優秀な人たちがたくさんいるんですけど、結構、持て余しているというか。東京だと、それこそ優秀なベンチャーがどんどんインターンとって、学生みんな忙しくしているんですけど、関西はそれがあまりない。そもそも、ベンチャーの数が少ないですしね。
西山:必要なメンバーは、だいたい揃っているんですかね。採用意欲は?
竹内:ハードウェア開発の豊富な経験を持ったシニアメンバーが欲しいと思っています。そういったメンバーを集めるのって、なかなか難しいんですよね。フルタイムでなくていいので、的確なアドバイスをくれる人を探しています。
西山:資金調達のご予定は?
竹内:会社立ち上げ時に600万円を調達しているんですが、プロダクト開発のためにもう1回入れようと思っています。量産体制についてのサポートも欲しいですし、ものづくりに特化したVCがベターだなと。
西山:最後に、一言お願いします。
竹内:「Wearphone」は、即座に売上が出る事業ではありません。まず、開発をしないといけないので。「Zコンサルティング」と「起業ラボ」で運営資金を稼ぎながら、また、そちらで培ったスキルや経験を活かし、「Wearphone」の開発を進めていきます。「Wearphone」は、2025年にクラウドファンディングでの販売を予定しているので、興味のある方はお問い合わせいただければと思います。
西山:将来が楽しみですね。本日はありがとうございました。
取材を終えて
テクノロジーの進化は留まることを知らない。それは、同社の社名の由来ともなっている小説家ジュール・ベルヌの「人間が想像できることは必ず実現できる」という言葉にも表れている。人類にさらなる自由をもたらすべく、新デバイス開発や企業のDX支援に取り組む竹内氏。驚いたのは、彼がエンジニアではないこと。彼は、あくまで経営者であり、その行動力とセンスでエンジニアや投資家を集め、自らの理想を形にしようとしている。独自の感性で時代を先取りする若き経営者から目が離せない。(ライター 松井)
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