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電気を使わない暮らしへの挑戦。光る植物から始まる、次世代の灯り:株式会社LEP(エルイーピー)

  • heartheart62
  • 23 時間前
  • 読了時間: 9分

関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は株式会社LEPの代表取締役を務める高元丈治さんに話を伺いました。


同社は、植物が自ら淡い光を放つ未来を実現しようとしているスタートアップです。都市の景観を彩る植物が、夜の空間に新たな表情を与える。災害時には、電力に依存しない補助的な光として人々の安心に寄与する。そんな「未来の当たり前」を目指しています。


株式会社LEPは、大阪大学と奈良先端科学技術大学院大学の研究成果を基に、永井健治教授・出村拓教授らが立ち上げた大学発ベンチャーです。現在は、代表取締役CEO の高元丈治氏が経営を率い、植物が放つ光をインテリアやアートにとどめず、環境、都市、防災、ウェルビーイングにもつながる新しい価値へと広げようとしています。


取材・レポート:大洞静枝(生態会事務局)、小林希実子(ライター)




高元丈治(たかもとじょうじ)氏 略歴

コロンビア大学ビジネススクール(MBA)修了後、半導体関連メーカーにてコーポレート戦略およびスタートアップ投資を担当、新規事業開発や技術系ベンチャー支援に携わる。その後、Plug and Play Japanに参画し、VP・京都拠点長(Head of Kyoto)として20以上のアクセラレーションプログラムを主導、大企業とスタートアップの事業共創を推進。多様な業界のパートナーとの連携を通じ、国内外のイノベーション創出に貢献。2025年7月、株式会社LEP代表取締役CEOに就任。


20年の探究から芽生えた、世界が驚くイノベーション


生態会 事務局大洞(以下 大洞):本日は、どうぞよろしくお願いします。


生態会 小林(以下 小林)「光る植物」という、これまでにない唯一無二の事業。この挑戦が始まった背景には、どのような思いがあったのでしょうか。


代表取締役 CEO 高元丈治氏(以下、高元氏)LEPは2023年に創業したスタートアップですが、その背景には20年以上にわたる基礎研究の積み重ねがあります。


技術的な出発点の一つは、大阪大学産業科学研究所の永井健治教授が開発してきた発光タンパク質技術です。永井教授はルシフェラーゼと呼ばれる発光タンパク質と蛍光タンパク質を融合することで、従来より明るく、さらにさまざまな色で発光する「ナノランタン」を開発しました。その後、ナノランタンの遺伝子を植物に導入することで、さまざまな色に発光する植物の作出にも成功しました。


ただし、この段階では、植物を光らせるために外部から発光基質を添加する必要がありました。そこで次の課題となったのが、外部から基質を加えなくても、植物自身が発光に必要な物質を体内で作り出し、自ら光る仕組みを実現することでした。大阪大学では、和歌山県に生息する発光キノコを採取し、そこから自発的な発光に必要な遺伝子群を単離しました。そして、それらの遺伝子群を植物に導入することで、自発的に発光するタバコやペチュニアの作出に成功しました。


さらに、この遺伝子群を用いて樹木を光らせることを目指し、大阪大学から奈良先端科学技術大学院大学に遺伝子が提供されました。奈良先端大の出村拓教授らは、植物科学、特に樹木への遺伝子導入技術に関する専門性を活かし、自発的に発光するポプラの開発に成功しました。この成果が、株式会社LEPの設立につながる大きな契機となりました。


写真左:取締役CTO 永井 健治氏 写真中央代表取締役CEO 高元 丈治氏 写真右:取締役CSO 出村 拓氏
写真左:取締役CTO 永井 健治氏 写真中央代表取締役CEO 高元 丈治氏 写真右:取締役CSO 出村 拓氏

小林: 基礎研究から植物、さらに樹木へと発展していったのですね。なぜ「医療」や「診断」といった従来のバイオ分野ではなく、「植物を光らせる」という方向に進まれたのでしょうか。

高元氏: 蛍光タンパク質は、外部から光を当てることで別の波長の光を放つ仕組みで、生命科学研究、創薬、診断などに広く使われています。一方、生物が自ら光を放つ「生物発光」は、外部からの励起光を必要としないため、非常に魅力的な技術です。


ただし、植物を明るく、安定して、自発的に光らせることは簡単ではありません。世界中で多くの研究者が挑戦してきたテーマですが、肉眼で見て魅力を感じられる明るさや、事業化に耐えうる安定性を実現するには、多くの技術的課題がありました。


LEPは、大阪大学の発光タンパク質技術と、奈良先端大の植物バイオテクノロジーを組み合わせることで、植物が自ら発光する世界を社会実装しようとしています。私たちはこの技術を単なる研究成果として終わらせるのではなく、人々の暮らしや都市空間に新しい価値をもたらす「命の光」として育てていきたいと考えています。

「和歌山のキノコ」が宿す、究極のサステナブルな灯り

小林: 植物が自ら光を放つというのは、魔法のように聞こえますが、具体的にはどのような仕組みで実現されているのですか。

高元氏: 自然界には暗闇で発光するキノコが存在します。その発光には、光を生み出すために必要な一連の遺伝子群がかかわっています。大阪大学では、和歌山県に生息する発光キノコからこの発光に関わる遺伝子群を単離し、その機能を解析してきました。これらの遺伝子群を植物に導入することで、植物自身が体内で発光に必要な物質を作り出し、外部から発光基質を加えなくても光ることが可能になります。つまり、単に発光タンパク質を植物に入れるだけではなく、発光に必要な代謝経路そのものを植物の中に組み込むことが重要なのです。

小林: 外部から電池を替えたり、エネルギーを補充したりする必要はないのでしょうか。

高元氏自発光植物では、発光に必要な物質を植物の体内で作ることができます。そのため、発光のために外部から基質を添加する必要はありません。また、電気を使って光るわけではないため、電源も必要ありません。もちろん、植物である以上、健全に育つためには光、水、栄養、適切な環境が必要です。光合成によって成長し、その生命活動の中で発光するという点が、LEDや電球とは根本的に異なるところです。私たちはこの特性を活かし、従来の照明とは異なる、植物ならではのやわらかな光の価値を社会に届けたいと考えています。

小林: 「植物が生きながら光る」という点が、とても印象的です。安全性や環境への配慮については、どのように考えていますか。

高元氏: 光る植物は遺伝子組換え植物であるため、取り扱いには厳格な配慮が必要です。自然界の植物と交雑したり、意図せず拡散したりしないように、封じ込めや管理方法を含めて、法令に基づいた対応を進める必要があります。事業化に向けては、栽培環境、流通形態、利用場所、繁殖性の制御などを慎重に検討し、必要なデータを積み上げていくことが重要です。青いバラなど、遺伝子組換え植物が社会実装された先行事例もありますが、光る植物についても、それぞれの用途や国・地域の規制に合わせて、丁寧に進めていく必要があります。


開発済みの自ら発光するタバコの花
開発済みの自ら発光するタバコの花

「未来の侘び寂び」――万博で1万人が目撃した、    日本発の「癒やしの光」

小林: 2025年大阪・関西万博の「大阪ヘルスケアパビリオン」での展示では、「未来の侘び寂び」というテーマを掲げられていました。この言葉にはどのような思いを込められたのですか。

高元氏: 私たちは、この技術を単なる「新しい照明」ではなく、日本独自の美的感覚を世界へ届ける手段だと捉えています。植物の放つ光は、LEDなどの電気の光とは明らかに質が違います。淡く、柔らかく、どこか生命の気配を感じさせる光です。


この光は、日本の伝統的な「侘び寂び」や、陰影を大切にする文化と非常に相性がよいと感じています。万博では、その感性を表現するために茶室をしつらえ、暗闇の中で植物細胞が放つ光を体験していただく展示を行いました。会期中は1万人以上にもおよぶ多くの方に来場いただき、強い関心を持っていただくことができました。

小林: 1万人の来場! 実際に見られた方々の反応はいかがでしたか。

高元氏: 「きれい」「美しい」「本当に生きているものが光っているのか」といった驚きの声が多く寄せられました。展示した「光る盆栽」は、盆栽そのものを遺伝子組換えしたものではなく、光る植物細胞を一つひとつ手作業で配置して制作したアート作品です。暗闇の中で見ると、電気の光では決して表現しきれない、神秘的で静かなな世界が広がります。こうした植物細胞を用いた展示は、ホテルや商業施設、文化施設、夜間イベントなどでの空間演出としても大きな可能性があります。


「光る盆栽」。る植物細胞を一つひとつ手作業で載せて作ったアート作品
「光る盆栽」。る植物細胞を一つひとつ手作業で載せて作ったアート作品


2030年、光る植物が暮らしと都市の風景を変える


大洞: 今後のロードマップと、具体的な社会実装のイメージについて教えてください。

高元氏:2028年の植物体販売開始を計画しており、2030年頃には社会のさまざまな場所で私たちの「光」が流通している状態を目指しています。


まずはホテルや娯楽施設の演出から始まり、将来的にはお花屋さんやホームセンターに「光るバラ」や「光る胡蝶蘭」が並ぶようにしたい。赤や青、ピンクなど、私たちの強みである「多色化技術」によって約20色の発光が可能であり、品種や用途を組み合わせた多彩なバリエーション展開を目指しています。価格面でも、なるべく多くの方に手に取っていただけるプレミアム商品として検討しています。


小林: 植物の種類が広がれば、私たちの日常が劇的に変わりそうですね。

高元氏: さらにその先に見据えているのは、都市の街路樹として、街そのものを照らすインフラへと広げることです。電力を一切使わないため、停電時の避難経路の確保や、夜道の防犯灯として、植物が人々の安心を支える。寿命の長い常緑樹にこのシステムを組み込めば、過酷な環境下でも街を照らし続ける「命の灯り」になります。

ナノランタン5色
ナノランタン5色

大洞: グローバル展開も視野に入れていると伺っています。

高元氏: はい。アメリカ、東南アジアなど、海外市場への進出を早い段階で計画しています。特にアメリカは規制面でも参入しやすく、すでに先行企業もおります。しかし、明るさや技術の安定性、そして「侘び寂び」というストーリー性において、日本発のLEPが世界をリードできると確信しています。


大洞: 未踏の領域ゆえの、ビジネスとしての難しさはありますか。


高元氏: 投資家の方々から「すごいのはわかるけれど、本当に売れるのか」と問われることもあります。前例がない市場なので、消費者の「欲しい」という直感をロジックで説明しきる難しさはあります。しかし、映画『アバター』のような作品の中で夢見てきた「光る植物」を、私たちは現実のものにしました。このロマンこそが、私たちの最大の武器です。


大洞:『アバター』のような幻想的な世界が、現実の景色になる日を心待ちにしています。本日はどうもありがとうございました!

高元さんとライター小林             インタビュー取材後記念撮影
高元さんとライター小林             インタビュー取材後記念撮影


取材を終えて

「植物が光る」。その魔法のような技術の裏側には、20年以上に及ぶ地道な基礎研究と、大阪大学・奈良先端大という関西が誇る二つの知財の融合がありました。

高元氏が語る「未来の侘び寂び」という言葉は、最新技術をただ誇示するのではなく、日本人の感性に寄り添いながら、新しい文化を創ろうとするLEPの姿勢を象徴しています。電力に頼らず、命の輝きで夜を照らす。映画『アバター』のようなパンドラの世界が私たちの街に広がる日が、今から待ち遠しくてなりません。   (ライター:小林 希実子)



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