独自の鉄触媒技術で、「脱レアメタル」を実現。環境・食料問題解決を目指して:TSK
- 西山裕子

- 2025年12月24日
- 読了時間: 5分
関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、株式会社TSKの代表取締役、孫 恩喆(ソン ウンチョル)氏に話を伺いました。同社は中村正治(取締役、京都大学教授)氏の研究成果をもとに設立された、京都大学発スタートアップです。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局)

孫 恩喆 氏 略歴
1974年生まれ、韓国の大邱(テグ)出身。韓国の大学を経て軍隊に2年従事した後、日本の文部科学省から奨学金を受け、 2002年より京都大学に留学。京都大学大学院卒業後、日本の化学メーカーの積水化学工業、韓国のパネルメーカーのサムスンディスプレイに勤務。日韓の化学メーカーのコンサルタントとして独立後、2021年に中村教授と株式会社TSKを設立し、代表取締役に就任。
安価な「鉄」で触媒を作る技術を独自に開発。農業資材の製造にも活用し、二つの事業で展開。
生態会 西山(以下、西山):本日はありがとうございます。まずは、事業概要を教えてください。
株式会社TSK 孫 恩喆氏(以下、孫氏):私たちは、鉄触媒反応の制御技術を用いて機能性材料の研究、開発、製造、販売をしています。有機EL材料や医農薬などの素材の多くは、有機化学反応によって合成・製造されます。化学反応を促進する「触媒」には、一般にはレアメタル(希少金属)が使われていますが、中国など特定の国に偏在しています。枯渇リスクと、地政学リスクがあります。値段も高額で、採掘の際の環境汚染も問題になっています。
そこで当社は、京都大学の中村正治教授の研究成果をもとに、地球上に豊富にあり、安価で安全な「鉄」で触媒を作る技術を独自に開発しました。この技術を、農業資材の製造にも活用し、現在は二つの事業での展開を進めています。

西山:二つの事業とは、どのようなものですか?
孫氏:一つは、EL材料事業です。有機EL材料の合成反応に「鉄触媒」を使い、新規材料の創出とコスト削減を両立します。現在、韓国の大手ディスプレイメーカーと共同開発中です。
ただ、商用化するには時間がかかるので、二つ目の事業を始めました。これが、バイオスティミュラント事業(BS事業)です。農業資材 として、「鉄フルボさん」という名前で開発し、2025年3月より発売を始めました。植物の根を活性化し、成長と養分吸収率を向上させます。化学肥料の使用量が20-30%削減になった、という事例もあります。実際、人参やニンニクの成長に大きな差が出るなど、効果が得られています。


孫氏:「鉄フルボさん」の主原料は、木材や製紙産業の廃材です。本来は捨てられるものを活用するので、資源の循環にもつながります。
西山:廃材を技術で生かして、植物の成長を促進するとは、とても良いですね。肥料も減るなら、農家の方にとってはコスト削減にもなり、助かります。
韓国と日本、材料開発事業の川上から川下までを経験
西山:これまでのご経歴を、教えていただけますか?
孫氏:私は韓国の大邱(テグ)出身で、韓国の大学で有機合成の研究をしていました。その後、日本の文部科学省から奨学金を受けて、 2002年より京都大学に留学し、京都大学大学院工学研究科 (物質エネルギー化学専攻)で工学博士を取得しました。中村教授は、2006年1月に赴任して来られました。私は同年3月に卒業したので、一緒に大学にいた期間は短かったのですが、先生のお人柄や研究の素晴らしさもあり、その後も交流を続けていました。

大学院卒業後は、日本の化学メーカーの積水化学工業でディスプレイ用の材料開発を行いました。しかし、なかなか量産までいかず、韓国のパネルメーカーのサムスンディスプレイに転職しました。韓国人の妻や子どもと当時は滋賀に住んでいましたが、説得して韓国に移りました。
材料を作る側から使う側になり、いわゆる技術の川上から川下までを経験しました。その後、化学メーカーのコンサルタントとして独立したのですが、2021年に中村先生から鉄触媒を社会実装したいという構想を聞きました。実現性がどのくらいあるか心配だったので、サムスンディスプレイ時代の同期に話すと、「可能性がある」と評価してくれました。京都大学インキュベーションプログラムにも採択され、事業計画を作り始めました。
材料を作る側と使う側の経験があり、日韓それぞれの良さを知っている自分達なら、これをビジネスにできるかもと思い、株式会社TSKを設立しました。実は、家族が日本に住みたいと韓国から日本へ移ったので、しばらく単身赴任だったのです。それも寂しくて、私も日本に帰りたいと思いました。今は家族一緒に、けいはんな近くに住んでいます。ここは研究も住環境もよく、とても快適です。
日本には、長年蓄積された技術があります。新しいものを生むには、日本が良いと思います。また、技術の応用や販売、日韓それぞれの強みや弱みも知っているので、それぞれの良さを生かしたいです。

私は、日本政府の奨学金で留学し、ここまで来ることができました。日本の化学産業に貢献し、恩返しをしたいと思っています。
西山:社名のTSKとは、どういう意味ですか?
孫氏:鉄(T)・触媒(S)・化学(K)です。日本語の頭文字なんですよ。
西山:なるほど、日本語だったのですね。思いもつきませんでした(笑)。今後の事業展開はどのように考えていますか?
孫氏:すでに京都大学iCAPなどから、2億円を資金調達しました。ただ、開発を進めるには、まだまだ資金が必要です。今後も資金調達を進め、自社のパイロット工場を作り、「化学反応で困ったらTSKに声をかけよう」と思ってもらえるような存在になりたいです。
西山:頼もしいですね!今後の発展をお祈りしています。
取材を終えて
韓国と日本、それぞれの大学で化学を学び、企業で有機ELの開発に関わった孫社長。二つの国の社会や文化を熟知した上で、日本での起業を決意されました。人の採用や資金繰りで苦労も多い中、自由に動ける経営者の立場を楽しんでおられるようです。日本語もペラペラで、感心しました。
クリスチャンの孫社長は、生態会のモットー「世界を今より良くするために、他者に貢献する」に共感されました。TSKの技術で世界を良くし、事業を伸ばしていかれることを期待します。(事務局:西山裕子)




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