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  • 執筆者の写真Yoko Yagi

建設現場のアナログ管理をDX化! レンタル品見積もり発注サービス:Arch

更新日:2022年11月21日

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、建機レンタル品の見積・受発注SaaS“Arch”で建設業界のデジタル化を目指す株式会社Arch(アーチ)松枝代表取締役CEO、北山取締役COOにお話を伺いました。


取材・レポート: 西山裕子(生態会事務局長)/

八木曜子(生態会ライター)




 

松枝直(まつえだ ただし)代表取締役CEO 略歴

2013年に芝浦工業大学の工学部建築工学科を卒業後、竹中工務店に入社。関西で建設現場の施工管理に6年間従事。建設業向けのサービスを知る中で資材やレンタル品のアナログ管理に苦戦。その後3年間、建設現場で使うシステムの企画・開発及び新規事業の立ち上げを経験。複業でArchの開発をはじめ、建機レンタルのアクティオにて営業職として勤務経験のある北山氏(取締役COO)とともに2021年9月に法人設立。

 

■建設現場での実体験から、建設業界のアナログさを変えたかった


生態会 八木(以下、八木):本日はお時間いただきありがとうございます。まずは松枝さんと北山さんのご経歴と、Arch(アーチ)設立の経緯を教えてください。


Arch 松枝氏(以下、松枝):大学卒業後、2013年に竹中工務店に入社して、関西の現場監督を担当していました。大規模工事現場に出向した際に、建機レンタル会社のアクティオで働く北山(取締役COO)と出会っています。現場監督として働く中で、建機レンタルのアナログ業務の大変さに自分自身が面するなかで、建設業界のアナログさを変えられないかと考えていました。


その後2019年頃に竹中工務店の中で新規事業の部署に転属となり、デジタルシステムの新規事業開発に従事しました。しかし開発スピードが遅く、これでは現場のIT化が遅れていくと思い、自分でプログラミングを学ぶ中で社名と同じArchというサービスを構想しました。


起業してスピード感をもってサービスを実現したいと考え、大阪に戻るタイミングで2020年にレンタル会社に詳しい北山に声をかけて、副業としてこのサービスのプロトタイプを作り、2021年9月に株式会社Archを設立しました。その後実証実験などを経て、2022年9月14日に社名と同じサービス“Arch”を正式リリースしました。


Arch北山取締役COO(以下、北山):私は大学卒業後、建機レンタルのアクティオで営業として働いていました。内側からレンタル会社を変えようと思ったのですが難しく、商社に転職してものづくりに携わっていました。その後松枝から連絡があり、建設業界のDXに賛同し、共同創業することになりました。2022年3月から本格的にコミットしています。


生態会 西山(以下、西山):最初にビジネス構想を松枝さんから聞いたとき、北山さんはどう感じられましたか?


北山:建機レンタル会社の内部事情や取扱商品をわかっているがゆえに、最初はハードルの高さを感じました。例えば同じレンタル機器でも、現場ごとに貸し出す価格が違うことがあります。品が同じでも名前が違ったり、ほんの少しだけ機能やスペックが違ったりします。これを一つにまとめるプラットフォームを作るのは、膨大な量のデータと知識が必要だと思いました。ですがなんとか我々は、これを超えて進めつつあります。


八木:業界特有の事情ですね。なぜArchは、その課題を乗り超えてサービスにできたのですか?

松枝CEOのプログラミング体験と豊富な経験により、 現場目線なUXを目指している



北山:松枝のゼネコン、私のレンタル会社、双方の知見があることで超えられました。建機レンタル側のアピールポイントと、ゼネコン側のレンタル時の着眼点を持つことで、わかりやすく掲載して情報提供ができたのです。


レンタル会社側のしがらみが、ハードルになるかと考えました。が、大手ゼネコンである安藤ハザマさんのアクセラレーションに採択されたことで、全面協力をいただけたため、後ろ盾がある形で始められています。



建設現場では、数千点のレンタル機器をアナログ管理している


松枝:現在建設現場で見かける仮設照明や足場、ショベルカーといった重機など材料以外のものはほぼレンタル品です。一つの現場で使う建機レンタル品は数千~数万点に上りますが、建設会社はその建設機械をレンタルする際、電話やFAXで見積を取り、それをエクセルに打ち込み比較し発注するという、アナログな方法で手配しています。管理も複数の会社のレンタル機器を紙の帳票など手作業です。効率が悪いと常々感じていました。


北山:デジタル化という意味で、建機レンタル会社もオンラインストアを作ってはいます。が、一社提供で価格掲載もないことがあり、レンタルするゼネコンのメリットが希薄なためなかなか普及していません。大きな現場になればなるほど、複数社レンタル機器会社が入るのですが、それぞれの会社のサービスだとゼネコン側が使いにくいのです。


松枝:我々のサービスArchでは、アプリ上で一つのアカウントで複数のレンタル会社に一括見積もりができます。複数社に受発注が可能、在庫管理も一元管理で簡単にできるので、提供できる価値が高いと考えています。価格比較サービスや、中古車査定のようなイメージです。


北山:また、建設会社だけでなく、レンタル会社にもメリットがあります。いままで新規現場を見つけるには、新聞記事を探したり飛び込み営業をしていましたが、その手間が不要になるので心理的負担や営業工数が軽減します。見積もり回答も簡単になり、自社でオンラインショップの開発が不要になります。また、在庫管理に関しても修理や紛失時の交渉が楽になり、稼働状況を現場とリアルタイムで共有することができるようになりました。



圧倒的な導入メリットが検証された

八木:現場で働いたお二人だからこそ、現場のニーズと合致したサービスになっているのですね。実証実験の反応はいかがでしたか?


北山:簡単な資料を持っていくだけで、使いたいと言っていただくことが多いですね。ゼネコン、レンタル会社ともに好感触です。すでに現場で使われ、高評価をいただいております。


実証実験開始からわずか4ヶ月で、8現場36事業所に採用されました。建機レンタル側では6社に採用いただき、全国で取り扱い可能。52.6%のシェア、1218事業所をカバーしています。



■建設現場の労働力不足からレンタル市場が伸びた


八木:そもそも建設現場はなぜ多くの課題がありながら、レンタル機器をアナログ管理でやってきたのでしょうか?


松枝:現場の人数が、多かったのだと思います。昔は現場監督も職人も十分におり、職人が自前で機材を持ってきていたので、アナログでも成立していました。


しかし工期も短くなり、建設現場にかかわる人数が減ってきたことで、機械による効率化が進み、機械の改良もスピードが早くなりました。ゼネコンが機械を資産として保有すると、メンテナンスや保管場所が必要です。また機械の陳腐化に伴い新規投資となるなど、デメリットが多いためレンタルに移行したのです。


北山:レンタル市場は、この10年で2.5倍に成長しました。約10年前の東日本大震災をきっかけに、在庫を保有することのデメリットがわかり、ゼネコン側の認識が所有からレンタルに変わったのだと思います。


八木:震災きっかけに、。市場ができてきたのですね。ここ10年で蓄積してきた課題とも言えそうですね。建設業のDXが、他業界と比べて遅いのはなぜだとお考えですか?


松枝:建設業はかなりクローズドな業界で、他の文化や技術を取り入れる風土がありません。建設業自体が高齢化し、若い人がすぐ辞めてしまい根付きません。労働力不足で、余裕が無いのです。そのため新しい技術を学んで取り入れることができず、今までの電話やFAXなど、前任者のやり方を変えることがリスクと捉える方が多いのです。


人手不足や時間外労働規制など、この数年ついに切迫した段階となり、ようやく変化が起こり始めています。私達もそのデジタル化、効率化に寄与したいと考えています。



billage OSAKAのオフィス環境も、好影響を与えているとのこと



63兆円の巨大建設業市場のDXに挑む

八木:業界自体の課題に挑戦されているのですね。どれくらいの売上を、想定されているのですか?


北山:建設業は、日本のみでもゼネコンは数万社、市場規模63兆円を超える巨大な市場で、レンタル機器はレンタカー市場を含めると約2兆円です。マーケットとして非常に大きいからこそ、関わる人も多い。このサービスで、多くの方の働き方も変えられると考えています。


収益源としては、一現場ごとに導入していただく予定です。SaaSモデルです。ゼネコンは1社100現場など担当していることはよくありますので、一社あたり1,000万円などが見込まれます。3年後には、10億円くらいの売上を目指したいですね。


西山:大阪市が認定する大阪トップランナー育成事業に2022年認定されていますね。大阪で起業されるメリットは、何かありますか?


松枝:東京のほうが現場規模や建設会社数は上ですが、私達の取引先は関西に多いのと、関西になじんでいるのでこちらでやっています。実際にリモートでミーティングやアクセラレーションに参加しているので、地理的な不便さを感じることはありません。


西山:資金調達やサポートの状況は、いかがでしょうか?


北山:ニッチなサービスなので、建設業出身の方にご意見をもらえるとありがたいですが、なかなか出会えていません。VCではインキュベイトファンドの赤浦さんが、ハンズオンで隔週ミーティングをしてくださっていて感謝しています。今後も資金調達をしていく予定です。


西山:将来の目標を教えてください。


松枝:若い人が、建設業界で働きたいと思えるようにしていきたいですね。現場だけでなく、家でもデジタルの力で携われるような業界に変えていきたいです。


北山:レンタル会社サイドからは、人手不足を補う自動化ロボットやAI搭載機械を扱うレンタル会社がより生産的で効率的に、目標高く仕事ができるような仕組みが提供できるといいなと考えています。


写真1:インキュベイトファンドのプレスリリース より


 

取材を終えて:

業界特有の課題に対して、ゼネコン側、レンタル会社側という両輪があることで、現場のニーズを即解決できるサービスになっていると感じました。松枝代表がプログラミングできるからこそ、現場目線のUXを意識できていることも強みです。インタビュー&執筆期間にもIncubate Camp15thに参加し、634社のエントリー企業の中、優勝するなど猛スピードで成長をするArchから目が話せません。(ライター八木))




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