路線バスをサウナに“再生” 人を集める移動型サービスでバス業界の変革を目指す:リバース
- 和田 翔

- 7月11日
- 読了時間: 7分

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は株式会社リバースの代表取締役を務める松原安理佐氏に話を伺いました。
松原氏が主に取り組む事業は、引退した路線バスを活用した移動型サウナバスの展開。人手不足や利用者減少など数々の課題を抱えるバス業界に、新たな熱を吹き込もうとしています。起業からわずか数年で、注目度・実績ともに着実に向上中です。主力の「サバス」事業の軌跡と、今後の展望について聞きました。
取材・レポート:大洞静枝(生態会事務局)
和田翔 (ライター)
松原安理佐(まつばらありさ)氏 略歴
2015 年に岡山大学理学部を卒業後、神姫バス(兵庫県姫路市)へに入社。不動産事業に従事し、新規事業を担う部署へ異動。コロナ禍の事業見直しを機に、引退した路線バスの活用に着手。フィンランドの事例に着想を得つつ、国内のアウトドア・サウナブームを背景にした市場の潜在性も踏まえ、2021年5月に自身が出向する形で起業。同年11月には、S5パートナーズから1,000万円の資金調達を実施。移動型託児バスや「サバス」の2・3号車開発などを経て、現在に至る。
「乗るバス」から、「人を呼ぶバス」へ
生態会事務局 大洞(以下、大洞):本日はお時間をいただき、ありがとうございます。まずは、御社が取り組んでいる事業について教えてください。
松原安理佐氏(以下、松原氏):「引退した路線バスを再活用して、新しい移動型サービスを作る」事業に取り組んでいます。社名の「リバース」には、RE BUS(バスの再生)とRE BIRTH(生まれ変わらせる)という2つの意味を込めました。
和田:実際にどのような事業を行っているのでしょうか?
松原氏:現在の主力は、移動型サウナバス「サバス」事業です。現在、サバス1号車と2号車の2台を運営し、3号車を開発中です。1号車は、元々の出向元である神姫バスの車両を改造し、2022年3月からサービスを開始しました。昨年8月からサービスを開始した2号車は、東急バスの車両がベースになっています。

和田:顧客は個人よりも法人が主ですか?
松原氏:基本的にBtoBのビジネスモデルで、事業者に向けてレンタルする形態です。これまでにサバスは約50件の貸出実績があり、全国の至る所で展開しています。サウナや銭湯に関するイベントだけでなく、企業や自治体が主催する地域のイベントにも出展しました。そのほか音楽フェスやミュージックビデオなど、幅広い用途で利用されています。
左からサバス2号車、1号車の車内、2号車の車内。
人口減少時代のバス会社が抱える課題の解決へ
大洞:現在の事業を始めた背景を教えてください。
松原氏:コロナ禍によって、全国のバス事業も大きな影響を受けました。リモートワークなどの普及もあって、バス事業が抱えていた人手不足や利用者の減少といった課題がより鮮明になり、解決に向けて新たに収益を得るサービスをつくる必要があったんです。
和田:バス車両の再活用のどのような 点に着目したのでしょうか?
松原氏:バス会社や環境にもよりますが、バス車両の耐用年数は、安全面を考慮して20年程度でみている会社が多いように感じます。ただ、引退車両は、整備されて地方の路線で再利用されるケースもあるくらいなので、まだまだ走れる状態のものも多いんです。そこに着目して、「人を乗せて移動しない用途なら、もっと長く活用できるのでは」と考えました。
和田:なぜサウナバスという発想に至ったのですか?
松原氏:移動型オフィスや会議室、ホテルなど別の案もありましたが、それらはもう世に出ているものですよね。インパクトのあるものを目指して事例をリサーチしているうちに、フィンランドのサウナバスを見つけて「これを日本でやりたい」と惹きつけられたんです。ただ、私自身はサウナに詳しくなかったので、本当にニーズはあるのかはやや疑問でした。
そこで、日本最大のサウナ検索サイトである「サウナイキタイ」の運営や、サウナ施設をプロデュースしている方など、業界の有名人に事業の構想を記したメールをひたすら送ったんです。すると驚いたことに、9割の方から返信があり、ほとんどが「面白い」と賛同してくれました。サウナ関係者の方々の温かさを感じると同時に、「これはいける」と手応えを得ました。

和田:フィンランドの事例では観光バスでしたが、路線バスにこだわった理由は何ですか?
松原氏:その方がより面白いと思ったんです。路線バスには通勤・通学のイメージがあり、そこに非日常的なサウナ空間を作ることで、日常と非日常の組み合わせが生まれると考えました。また、路線バスは世代を問わず目を引きますし、方向幕(※)などバスならではの要素で遊べる点も魅力でしたから。
※公共交通の行き先や区間、路線名などを表示するため、車両の外側に設置された装置。
大洞:路線バスを改造するとなると、技術や法制度の面でハードルは高そうに思えます。実際に車両を製作するとき、どんな苦労がありましたか?
松原氏:サウナを作るには熱源となるストーブがあり安全性を考慮した隔離距離など、建築分野も含めた専門知識が必要です。そこで、改造にあたっては設計事務所にも協力してもらいました。
一方で、サウナバスはサービスの提供場所まで走る必要がありますから、自動車の構造にも精通している必要があります。バスと建築のそれぞれの知見を組み合わせて作り上げる難しさがありました。
和田:法制度での難しさについてはいかがでしょうか?
松原氏:もともとは緑色のナンバープレートを掲げて走る路線バスでしたが、自身の会社でバスを保有するとなるとそれを白ナンバーの自家用自動車へと変更する必要がありました。ナンバーを取るための車両の構造を考えたり、法規制だけでなくお客様に安全に提供できるように、走行中にものが壊れたり、動いたりしないようなサウナ室を作るなど、あらゆる可能性を考えて車両を製作していくのがとても大変でした。
バス業界に新たな可能性をもたらす挑戦
大洞:今後の展望を教えてください。
松原氏:今年3月に3号車の製作を開始するというリリースを出しました。今回は、静鉄バスの車両を活用していて、静岡の名産である「お茶」をテーマに製作します。富士山や茶畑など、静岡ならではの景色を、サウナとともにゆったり楽しめる空間を提供する計画です。

和田:新しい取り組みを始められていますね。
松原氏:商業施設向けの展開にも取り組んでいます。2月には西日本最大級のアウトレットモールである神戸三田プレミアム・アウトレットで、ショッピングとサウナを一度に楽しめるイベントを開催しました。
サウナ以外にも、社会課題を解決できるサービスとして、移動型託児所バス「cam+bus(キャンバス)」を企画しました。託児バスは、子育て世代が買い物や美容院、病院などに行く際に、短い時間だけお子さんを預けたいというニーズに応えるサービスとして発案しました。
実際の車両運行は、東大阪市のタクシー会社である枚岡交通にお任せしています。お客様の依頼に応じてバスと保育士を派遣する託児サービスが基本ですが、預かり中のお子様や親子で楽しめるイベントやワークショップなどの開催も行っています。
移動型託児所バス「cam+bus」の外観と内観
(写真:大竹央祐)
大洞:今後どのようなビジョンを描いていますか?
松原氏:当初は「世間一般の方に面白いと思われるバスを作りたい」との思いで始めましたが、今では「バス業界全体に新しいビジネスモデルを普及させたい」と考えています。過疎化や人口減少に悩むバス業界の現状を変えることに貢献できれば嬉しいです。
今後も、バスとサービスを組み合わせた新しい形を世の中に広めながら、「バスに乗って移動する」従来の概念から、「バスが来ることによって、バスが人を集める商材になる」という新しい価値を創造していきます。
大洞:バスが人を乗せて移動するのではなく、集客するツールになるのはおもしろいですね。バス業界では路線廃止や減便などのニュースが続いていますが、サバスがバス業界の救世主になることに期待しています!本日はありがとうございました!

取材を終えて
WebメディアやSNSを中心に、たびたび話題になるリバース社のサバス。アイデアのおもしろさや見た目のインパクトに目が向いてしまいがちですが、松原さんが目指しているのは、引退した路線バスなどを活用しながら「新たな移動型サービスをつくる」こと。サウナの次に“託児所” を手がけたのもその一環です。同社の事業が今後どのような展開を見せるのか、目が離せません!
(ライター 和田翔 )














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