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  • 執筆者の写真ブログ管理 生態会

ザ・アナログ。手間暇かかる顕微鏡操作を自動化する:ZIDO

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家。今回は生物学研究者からライフサイエンス市場にイノベーションを起こすべく2019年4月に事業化した、株式会社ZIDOの代表取締役・安井真人さんをご紹介します。



研究者を事業家へと育てる教育プログラム、T-CEPに参加し、ビジネスプラン発表で最優秀賞に選ばれた安井さん。理化学研究所で研究を続ける中で、まだまだマニュアル作業の多い顕微鏡操作を効率化できれば、研究開発のスピードが上がり、それが検査費用の低価格化や効果的な創薬開発に繋がると確信。AIを活用した顕微鏡の自動化という技術革新に取り組まれています。


取材・レポート:池田奈帆美(中小企業診断士・生態会事務局)


 

池田:名だたる国立大学で修士号と、2つの博士号を取得された安井さん。私には「ものすごい天才」としか表現できないのですが(笑)、まず、バックボーンから教えて下さい。


株式会社ZIDO代表取締役 安井真人氏(以下、安井):もともとの専門科目はマイクロマシン(超小型機械)なんです。名古屋大学で機械工学を修め、大阪大学で生物学の理学博士をとり、東京大学で情報理工学の博士号を取得しました。


池田:ということは、精密機械を熟知されていて、生物学にも強くて、さらには情報処理にも深い知識がある。だから、細胞の動きを踏まえて、現存の顕微鏡の問題点を解決するような自動化ソフトウエアが作れるんですね。


安井:博士課程から顕微鏡を使用していましたが、倍率が高いということもあり、焦点合わせや細胞を探すのはとても大変で面倒な作業でした。また、マニュアルでやるので、データ数もあまりとれません。そこで、10年以上前から進行中の顕微鏡自動化研究に参加することにしました。今思えばそれが事業化の原点です。


池田:面倒くさい」が今の事業の出発点だった、と?


安井:はい。面倒くさいのが本当に嫌いです(笑)。本来研究者がやるべきことは、一日も早く成果を出すことなのに、価値につながらない付随作業に時間を取られて、成果が先送りになるのは違うなと。


池田:多くの人は「今までそうだったから」と、特に疑問にすら思わない気がしますが、「何とか変えられないか」と考えて、実際に動くところは、さすが起業家ですね。


安井:だからこそ、市場を席巻できると思っています。


池田:確かに。人がやらないことをやるからこそのイノベーターですよね。具体的な製品の特長を教えて下さい。



安井:細胞を検出し、その細胞に自動的に焦点をあてる「オートフォーカス機能」をモジュール化して、どのような顕微鏡でも使用できるソフトウエアを開発しています。今年度は知財交渉をしていたため、販売はしておらず、売り上げはありません。


池田:研究開発型のベンチャーが必ず直面する「死の谷」の時期ということでしょうか。


安井:1期目はソフトウェアの受託開発をメインで行い乗り切りましたが、今期からは本格的に専念したいので、資金調達を考えています。VCとの交渉もすでに始めているのですが、大学や研究機関と足並みを揃えないといけないので、滞ることも多くて。スピード感を出すために融資もありかなと思っていましたが、コロナ騒ぎが収まるまでは金融機関も大変そうなので、しばらくは控えた方が良いかなと。


理化学研究所での研究を続ける傍ら、週末を中心に製品の改良を重ねる安井さん

池田:確かに未曾有の事態で、日本政策金融公庫はパンク状態と聞いています。資金調達以外にも直面されている課題があれば教えて下さい。


安井:すでに特許出願はしているのですが、今後事業化を進めていく上で、パートナーとなる法人と、どのように権利設定をしていけば良いかは、悩むことが多いです。そうした事業化のプロセスについて、産学連携や知財が分かっている方に相談できればと思っています。


池田:メンタリングが大事な時期ですね。


安井:今年度は、現在使用していただいているお客様に対して、満足いただけるものに商品を仕上げることを目標にしています。また、事業をスケールさせるためにも、開発や販売において大手顕微鏡メーカー様と協力体制を築く必要があります。手作業の多い生物学研究の効率化に少しでも貢献できたらと思っています。


池田:生命を担う研究開発に対する強い思いを感じました。頑張って下さい!


 

取材を終えて池田より

「生物学研究が効率化すれば、治療期間はもっと短縮できるし、予防ももっと気軽にできる社会になる」と語る安井さん。折しも、新型ウイルスの登場で研究開発への注目度が高まる今、安井さんのように、若く、優秀で、改革意欲を持つ研究者にお話を伺えたのは、とてもタイムリーな経験でした。次の時代を担う優秀な頭脳が、既存の枠組みの中に埋もれてしまうことがないよう、パラダイムシフトを受け入れる度量が必要だと感じました。



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