同志社大学発!大学の知と現場をつなぐ農業DXシステムで日本の食を守る:株式会社AGRI-PASS
- 鎌田 麟太郎
- 22 分前
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関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、「農業を次の世代へPASS」をミッションに掲げ、農業の労働力不足・後継者不在・経営困難という負のスパイラルを断ち切るべく、次世代担い手育成システム「アグリコ」を開発・提供する同志社大学発農業DXスタートアップ、株式会社の代表取締役 CEO 江南彪斗(えなみ あやと)さんと同大学商学部教授で同社取締役の太田原準先生にお話を伺いました。
取材・レポート:大洞静枝(生態会事務局)、鎌田麟太郎(ライター)

株式会社AGRI-PASS代表取締役CEO 江南 彪斗(えなみ あやと)氏 略歴
同志社大学 理工学部 情報システムデザイン学科卒業、同大学院 情報工学専攻(ネットワーク情報システム研究室)修士課程修了。1999年京都府生まれ。大学院在学中よりブロックチェーンゲーム開発のスタートアップに業務委託エンジニ アとして従事。一時休学後、同大学商学部太田原ゼミ・理工学部小板研究室との農業DXプロジェクトに参加する。その後、2024年同社の法人化に伴い代表に就任。
株式会社AGRI-PASS取締役 太田原 準(おおたはら じゅん)氏 略歴
同志社大学商学部教授。経営史・技術経営論を専門とし、自動車産業を対象とした経営学・経営史の実証研究を行う。同志社大学陸上部部長。2024年より同社取締役。
「農業を次の世代へPASS」
生態会 大洞(以下、大洞):本日はよろしくお願いします。まず御社の事業概要についてお聞かせください。
江南 彪斗氏(以下、江南氏):弊社の事業は大きく2つあります。1つ目は、農作業マッチングをDX化するサービス「アグリコ for Partner」です。農業請負事業者様の案件管理・シフト管理・請求および給与計算・支払いまでを一元的に完結できるシステムで、現在は大分・福岡・兵庫3県の企業に導入いただいています。

江南氏:現在開発中の2つ目のシステムが「アグリコ for JA」です。前提としてお伝えしたいのが「集落営農法人」という仕組みです。集落営農法人とは、高齢化や担い手不足に悩む地域において、集落単位で農地を運営し、機械の共有や共同作業を通じて効率的かつ持続的な農業経営を行う法人組織です。しかし、今、その集落ごとに人手不足が深刻になっており、法人単体では運営が難しい状況になっています。そこで、弊社の「アグリコ for JA」は、集落営農法人のデータ統合を起点として、機能統合、そして法人・組織そのものの統合を進め、将来的には大規模な農地の集約化を目指します。

大洞:農地集約を進めるにあたって、農家の方々の合意をどのように形成していくのでしょうか。
江南氏:農地の集約には大きな心理的ハードルが伴います。信頼関係の構築には段階的なプロセスが不可欠です。そこでまず、高齢農家の草刈り支援や、旧式の農機しか持たない農家への新型農機の貸し出しといった、小さな連携から関係を始めます。こうした日々の助け合いを通じてコミュニケーションを積み重ね、信頼関係を醸成していくことで、「あなたになら農地を継承してもいい」というボトムアップの意思決定が自然と生まれてくる。それが僕たちの考え方です。

ライター 鎌田(以下、鎌田):農地集約を実現するための具体的な御社の戦略は?
江南氏:農地集約を実現するための仕組みとして、「人・機械・農地・営農スケジュール」の4軸で情報を蓄積していきます。そして、農協や自治体の間に入りながら、今まで縦割りで各所に点在していたデータに横串を通すのが、私たちのやり方です。これが実現できれば、福岡だけでなく全国展開できると思っていますし、数年後には日本の農水行政全体の取り組みとして進めていきたいというのが大きなビジョンです。
営業は行わない。
太田原 準氏(以下、太田原氏):弊社は自ら営業活動を行っていません。JA全農の中では講演会や勉強会が定期的に開催されており、そういった場を通じて自然と広がっていきます。自治体の方々もそこに参加されており、一度ご導入いただいたお客様からご紹介が連鎖的に生まれる形で、着実に普及が進んでいます。その背景には明確な理由があります。農村部における高齢化の加速度を見れば、このシステムの導入は不可避であり、社会的な必然性が需要を生み出しているからです。
江南氏:米麦・大豆をメインとして考えると、60歳以上の米農家が9割、50歳以下は10%しかいない。今の令和の米騒動が10年後にはもっと深刻な形で起きるというのが私たちの危機感です。食料安全保障の観点からも農地は絶対に手放してはいけないと考えています。
学生の研究だからこそ、事業化できた

大洞:JA全農という巨大組織にスタートアップ企業が参入するのは、難しそうに思えます。こうした領域には大手企業が既に入っているのではないでしょうか?
太田原氏:確かに、JA全農の中にもシステム開発を担う大手企業は存在します。しかし、それらの企業はレガシーシステムの保守・運用だけで手一杯で、現場のニーズを能動的に調査し提案する力を持ち合わせていません。私たちは当初、学生の卒業研究という形でその現場に入り込みました。そうして現場の課題に向き合い続けた結果、気づけば弊社がJA全農のIT部門のような役割を担う存在になっていったのです。
太田原ゼミの学生と太田原先生との出会いが人生を変えた

鎌田: 学生による研究というアプローチが、参入において有利に働いたわけですね。改めて、起業に至るまでの経緯をお聞かせいただけますか。
江南氏:弊社の始まりは、同志社大学商学部太田原ゼミ13期生の卒業研究です。ゼミ生たちが調査を進める中で、全農おおいたのパートナー企業と連携しながら農作業の請負事業を手がける花木正夫さん(現・全農ふくれん営農直販部次長。以下、花木さん)と出会いました。パートナー企業である「菜果野アグリ」は、農家から収穫・草刈りといった作業案件を受託し、大分市内でワーカーをチーム編成して労働力を供給するビジネスを約10年間展開してきた会社です。その供給実績は年間2万人規模にまで成長しましたが、ここ3年ほどその水準で頭打ちとなっていました。
鎌田: なぜ頭打ちになっていたのでしょうか?
江南氏:業務運営が紙や手作業でのExcelに依存したアナログな体制に留まっていたからです。そこで学生たちは、「DX化によって2万人の壁を突破できるのではないか」「このビジネスモデルをシステム化すれば全国展開が可能ではないか」という2つの仮説を立て、業務フローの洗い出しから要件定義までを自ら行いました。
しかし、太田原ゼミにはシステム開発の技術力がなかったため、その成果を携えて(同志社大)理工学部のネットワーク情報システム・小板研究室を訪ねてきました。その際に、たまたま居合わせたのが僕です。農業の人手不足という明確な社会課題をDXで解決するというビジョンに強い可能性を感じ、開発への参加を決断しました。
大洞:そこからどのように起業することになったのでしょうか?
江南氏:実は、太田原ゼミの学生たちが来てくれた時には修士2年目で、大学を休学して起業しようと考えていたんです。友人とブロックチェーンで何か作ろうとしたんですが、社会課題や困りごとがパソコンの前に座っているだけではなかなか見えてこなくて、半年間アイデアが浮かばないまま過ぎました。
そんな時に、太田原ゼミからの依頼で作成したサービスのプロトタイプを花木さんに見せに行ったら、「このシステムを買います」と言ってくれたんです。農業の人手不足という明確な社会課題と、それに取り組んでいる会社が「作ったら使う」と明言してくれているという状況が、半年間のモヤモヤを一発で解消してくれた感じで、これはチャンスだと思って起業しました。
自分が起業するしか、日本の農業は守れない

鎌田:当初から江南さんが代表を務める予定だったのでしょうか?
江南氏:本当は太田原ゼミの中のリーダーの子が代表になるのが一番自然だったとは思います。でも、ゼミの5人班のメンバーも、うちの研究室のメンバーも、みんなちょうど就職や卒業のタイミングで、僕しかいないという状態だった。
鎌田:日本の農業と自分の将来に賭けたということですね。実際に起業されてみて、いかがでしたか?。
江南氏:創業当初の半年から1年ほどは、定例会のたびに太田原先生や小板先生に泣きながら相談するような日々が続いていました。お客さんから「遊びじゃないんだ!」と厳しく叱責を受けたこともありましたし、思い悩んで涙することもありました。

太田原氏:しかし創業から2年が経った今、彼は目覚ましい成長を遂げた。JA全農の中では理事クラスの方々で彼を知らない人はいないです。農協からITアドバイザーの打診も届いており、九州においては一目置かれる存在になっています。
江南氏:言いすぎですよ(笑)。でも最初は企業理念を語れなかった僕が、今では「アグリパスは農地を将来にパスする」と発信し続けています。
僕たちのミッションは、日本の農業を次の世代へと引き継ぐことです。現在、米に限れば日本の食料自給率は100%を維持しています。
せめて米だけは、僕たちの存在があったからこそ、10年後も20年後もその水準を保てたと言える未来を作りたい。それが僕たちの成し遂げるべき目標です。
大洞:農業の担い手不足に正面から向き合う、頼もしいスタートアップですね!本日はどうもありがとうございました!
取材を終えて
多くのスタートアップが最大の壁として直面する既得権益の問題を乗り越えている点が同社の大きな強みである印象です。それはひとえに学生の研究からはじまったということもありますが、代表の江南さんのお人柄やご自身で直接農作業の現場にでむき、信頼を獲得したことが大きいと感じました。農業の担い手不足はまさに喫緊の課題であり、国の存亡にも関わる問題です。「需要はすでにそこにある。営業は必要ない」という言葉が同社の社会的必要不可欠性を物語っていると感じました。大きな社会課題に真摯に向き合い、それを解決するというスタートアップ本来の姿を、改めて実感さ せてくれる取材となりました。
太田原先生と江南代表の子弟コンビの将来に注目です。(ライター 鎌田麟太郎)




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