シニア起業の技術と経験で、原因不明の痛みやストレスを可視化!
- 和田 翔
- 8 分前
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関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、ハプキタス株式会社 代表取締役の和田 潤さんに話を伺いました。
同社の感覚評価デバイス「Pain Compass®(ペインコンパス®)」は、検査では異常が見つからない痛みやストレスを、錯覚現象を応用して数値化します。「体に異常はない、けれど痛みを感じる」。そんな人たちを救う仕組みとは、一体どのようなものなのでしょうか?
取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局長)
和田 翔 (ライター)
和田 潤(わだ じゅん)氏 略歴
ハプキタス株式会社 代表取締役。1963年生まれ、京都府出身。1990年にカトーテック株式会社へ入社し、約24年にわたり触覚計測装置の研究開発・営業に従事する。2014年に株式会社テック技販へ転職し、医療・リハビリ機器の開発を担当。新型コロナウイルスに罹患して生死の境をさまよった経験を機に、「この命を社会の役に立つものづくりに使おう」と決意し、2023年9月、還暦を迎えたタイミングでハプキタス株式会社を設立した。
検査では「異常なし」原因不明の痛みに苦しむ人たち
生態会 事務局長 西山 裕子(以下、西山):本日はお時間を頂きありがとうございます。まずは、御社の事業概要を教えてください。
ハプキタス株式会社 代表取締役 和田 潤 氏(以下、和田 潤 氏):もともと「人の体を見通すデバイスを作ろう」と考えたのが始まりです。主力製品の「ペインコンパス®」は、原因の分からない痛みやストレスを数値化する感覚評価デバイスです。

ライター 和田 翔(以下、和田 翔):「原因の分からない痛み」とは、どういうものなのでしょうか?
和田 潤 氏:痛みを常時抱えている人は、「慢性疼痛(まんせいとうつう)」とされ、その痛みの種類は大きく3つに分類されます。ケガや炎症による「侵害受容性疼痛」、神経の損傷による「神経障害性疼痛」。これに加えて2021年、「痛覚変調性疼痛」という新しいカテゴリーが、日本痛み関連学会連合の共通認識として加わりました。

和田 翔:ひと口に「痛み」と言っても、さまざまな種類があるのですね。
和田 潤 氏:特に脳の変調によって生じる「痛覚変調性疼痛」は、病名で言えば、線維筋痛症や過敏性腸症候群、慢性腰痛などが相当します。ときに動くのも困難なほど深刻な状態なのに、原因が見つからないので「不定愁訴」として片付けられてしまうのが現状です。
この疼痛に悩まされている人は推計で全国に1,400万人いるとされ、糖尿病患者の1,000万人を超える規模の深刻な社会課題となっています。
和田 翔:そうした患者さんには、現状どのような治療が行われているのですか?
和田 潤 氏:一般的な痛み止めは末梢部分の炎症を抑えるだけなので、ほとんど効きません。現場では胃カメラで検査したり、抗うつ薬の利用なども行ったり、さまざまな手を尽くしていますが、抜本的な解決には至っていないのが現状です。
温かさと冷たさの「錯覚」が、脳の状態を映し出す
西山:ペインコンパス®は、どのような仕組みで痛みを可視化するのでしょうか?
和田 潤 氏:「サーマルグリル錯覚」という現象を応用しています。温かい刺激と冷たい刺激を皮膚の近い場所に同時に当てると、熱く感じたり、痛く感じたりする錯覚です。目立った体の異常のない人でも感じますが、痛覚変調性疼痛の患者はより顕著に反応することが分かっています。

西山:なぜ反応に差が出るのですか?
和田 潤 氏:単純に言えば、慢性的なストレスや痛みが続くと脳全体の感受性が高まるからです。つまりペインコンパス®は、痛みそのものではなく、「疲れた脳の、感受性のボリューム調整がうまく働いていない状態」を測っているとも言えます。

西山:装置はどのくらいの大きさですか?
和田 潤 氏:病院の診察室でも使えるように、モバイルバッテリー程度の大きさまで小型化しました。デバイスを手にあて30秒ほどすれば、アプリにスコアが表示されます。

コロナで生死の境をさまよい、還暦で起業
西山:これまでの経歴について教えてください。
和田 潤 氏:試験機・電子計測器のカトーテックで、約24年間、触覚や感性を測る機器の開発から販売をやってきました。大手繊維・化粧品・自動車メーカーとの共同開発に参画した実績もあります。その後テック技販に転職して、人の動作解析など医療・リハビリ機器の開発に携わりました。そのときの経験で、医療関係のネットワークが大きく広がりました。
和田 翔:どんな経緯があって、ハプキタスの起業に至ったのでしょうか?
和田 潤 氏:転機となったのは、2021年に新型コロナウイルスに罹患して生死の境をさまよったことです。ちょうどそのころに印象的なエピソードがありました。コロナによる肺炎になったら、うつ伏せに寝るのがよいとされていたのですが、私はうつ伏せで寝たことがなかったんですよ。それで、夜中に勝手に仰向けに戻っては、看護師さんに「なんで仰向けで寝てるんですか!」と本気で怒られたこともありました。
ときに怒られながらも、本当に親身に看護していただいた経験を通じて「この命を使って、社会の役に立つものづくりをしなくては」と思い立ったんです。その後、準備期間を経て2023年に還暦を迎えるタイミングで退職し、ハプキタスを起業しました。

和田 翔:ご経歴を踏まえると、ほかの事業に取り組む選択肢もあったと思います。なぜ「痛みの可視化」だったのでしょうか?
和田 潤 氏:起業を考えていたころ、畿央大学の大住先生たちがサーマルグリル錯覚を使った研究を発表して、「これはすごい」と話を聞きに行ったんです。そこで原因の分からない痛みに苦しむ患者さんがたくさんいる現実を知ったことが大きく影響しています。
「プレゼンティーズム」の課題を踏まえ、多様な産業に
和田 翔:ペインコンパス®の販売状況はいかがですか?
和田 潤 氏:2025年2月に発売して、20台以上が販売・稼働中です。今年は昨年の倍のペースで売れています。まず大学の先生方に使っていただいてエビデンスを積み、学会で発表していただく。この流れを大事にしています。欧州の有力ジャーナルへの論文がアクセプトされたとの話も聞きましたので、今後さらにエビデンスが積み上がっていくと思います。
和田 翔:医療以外への展開も考えられているそうですね。
和田 潤 氏:「プレゼンティーズム」をご存知でしょうか。出勤はしているけれど、心身の不調で労働生産性が上がらない状態のことです。大手企業で2〜3割、中小企業では3〜4割いると言われ、生産性の低下による損失額は年間で約7.6兆円にのぼる(※)とされています。
※横浜市立大学プレスリリース「メンタル不調の影響、年間7.6兆円の生産性損失に—GDPの1.1%に相当と試算」(2025.06.13)
現状、企業で実施しているストレスチェックはアンケート調査が中心で、本人の回答にはバイアスもかかります。一方ペインコンパス®なら、およそ30秒デバイスを手に置くだけで脳の反応を客観的に数値化できます。その手軽さが大きな強みですね。
和田 翔:従業員の健康管理を重視している企業にとって、メリットが大きそうですね。
和田 潤 氏:現在検討しているのが、運輸や物流、建設や医療従事者など、ストレスリスクの高い業種への展開です。
例えばバスやタクシー、トラックのドライバーを想定して、出勤前に家族と言い争いをしたとか、業務中に強いストレスを受けたとか、そういう状況下では事故やヒヤリハットが起こりやすいのではないか、という仮説にもとづいています。
毎日ペインコンパス®で計測してストレス度合いが非常に高ければ、「今日は運転以外の業務に」という判断も可能になるでしょう。事業用自動車の健康起因事故は、ひとたび起これば会社の存続危機に陥る可能性がありますから、それを防げるメリットは大きいと考えています。

和田 翔:罹患した病気を見つけるだけではなく、事故やトラブルの未然防止につなげるわけですね。
和田 潤 氏:医療や研究の現場でエビデンスの蓄積、企業向けにはストレス評価としての活用、この2軸で事業を展開していく考えです。POCに取り組みながら、アプリケーションの本格的な開発も進め、5年後には売上3億円に到達する計画です。
「他人には気づかれにくい痛みやストレスを測る物差し」を提供することを通じて、社会に貢献していきたいと考えています。

【生態会のコメント】
取材の最後に、生態会事務局長の西山さんと私で、ペインコンパス®による感覚評価を体験しました。私の方は、4段階中の上から2番目の過敏レベルでした。実際のデバイスの温度は42℃と18℃に設定されていたのですが、「素手では持てないくらいに熱くなりすぎたカイロ」くらいの温度を感じました。もしかすると結構ストレスが溜まっているのかもしれません……。
和田潤さんの座右の銘は、「逃げずに挑む、兆しを生む」。還暦を過ぎてから起業したそのバイタリティで、「痛み」にまつわる悩みに向き合いながら、解決に向けて歩みを進めています。
(ライター 和田翔)
