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京都大&佐賀大発! iPS細胞×3Dプリント技術で、世界初の膝痛治療を実現

  • 執筆者の写真: 森令子
    森令子
  • 7月3日
  • 読了時間: 7分

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、株式会社Arktus Therapeutics代表取締役 大岩 智大氏に話を伺いました。同社は、世界初の技術で100%細胞成分の軟骨インプラントによる移植再生治療の事業化を目指すスタートアップです。

取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局)、森令子(ライター)


大岩 智大 (おおいわ ともひろ)氏 略歴

1990年三重県生まれ、京都大学医学部卒業。皮膚科医として主に皮膚がん、皮膚免疫疾患治療に携わった後、ボストンコンサルティンググループにて、国内外製薬企業の上市戦略やサプライチェーン構築、R&D戦略策定等のプロジェクトに従事。知人の紹介で研究チームと繋がり、ECC-iCAP(京都⼤学イノベーションキャピタル「京都iCAP」による、⼤学技術シーズと経営者・起業家のマッチングプラットフォーム)のサポートも得て、2023年にArktus Therapeutics社設立。


100%細胞で作る軟骨インプラントで、一生涯、運動機能を落とさずに過ごせる世界へ


生態会 西山(以下、西山):本日はありがとうございます。事前に資料を拝見して、スケールの大きさにとてもワクワクしています!まずは、事業概要を教えてください。


株式会社Arktus Therapeutics 大岩 智大(以下、大岩氏):私たちは、iPS細胞とバイオ3Dプリンターを用いた世界初の技術により、100%細胞成分からなる軟骨インプラント(細胞製人工関節)の移植再生治療の開発に取り組むスタートアップです。「誰もが一生涯、運動機能を落とさずに過ごせる世界」を実現し、健康寿命やアスリート寿命の延伸に貢献することを目指しています。


 現在、注力しているのは、グローバルで3.5億人以上、国内でも1,000万人以上が苦しんでいる変形性膝関節症の治療法の研究開発です。軟骨がすり減る変形性膝関節症の治療には、主に金属製の人工膝関節が使われています。しかし、金属製の関節は耐用年数10~15年程度と長期使用できず、術後の行動・運動制限も大きいなど、若年層の患者さん・アクティブな生活を継続したい患者さんにとって厳しい選択肢となっています。


 これに対し、私たちの開発している軟骨インプラントは、本物の軟骨同等の耐久性が期待でき、一生涯入れ替えなしの使用を想定しています。また、本物の軟骨に近い形状・素材であるため、より自然な運動機能の回復が実現できます。これまで対処が難しかった複雑な曲面を有する膝関節の痛みや機能障害についても対応可能です。


(写真左)チューブ型iPS軟骨インプラント、(写真中)関節型iPS軟骨インプラント、(写真右)研究室の様子


京大と佐賀大、2大学が生んだ画期的な技術と独自ノウハウで、2030年の実用化を目指す


生態会 森(以下、森):100%細胞だけでインプラントを作るなんて、これまでの治療法を大変革する、すごい技術ですね!京都大学と佐賀大学の2大学発のスタートアップとお聞きしています。どのような研究成果から設立された事業なのでしょうか?


大岩氏:私たちは、京都大学のiPS細胞研究と、佐賀大学の臓器3Dプリントの先端技術を融合させた、世界初の治療法を事業の核としています。当社の社外取締役でもある京都大学iPS細胞研究所 池谷 真准教授、佐賀大学医学部中山 功一教授、お二人の研究成果を基にしており、関連特許※も有しています。


 具体的には、①他家iPS細胞(他者から採取した細胞由来のiPS細胞)から、軟骨細胞の元となる間葉系幹細胞(MSC)を高品質かつ大量に培養する技術、②コラーゲンなどの足場材を使用せず、バイオ3Dプリンターで細胞を立体的に積み上げ、軟骨構造体を生成するといった技術が私たち独自のものです。


 人工的な足場材を一切使わずに100%細胞だけを使い、3Dプリンターによる独自工程でじっくりと立体的に生成することで、これまで不可能だった「本物の軟骨同等の強度・大きさ」が実現しました。製造プロセスは非常に複雑で、培養条件の細かい設定など、研究チームの蓄積してきた独自ノウハウが不可欠です。製造に必要な特許については独占実施権(独占交渉権)を有しており、競合による模倣は困難な状況です。将来的には、患者さんの画像データをもとに、それぞれの膝の形状・症状に合うオーダーメイドの軟骨インプラントを生成することも目指しています。


西山:独自の技術とノウハウ、そして隙のない知財戦略、まさに大学発ディープテック・スタートアップの目指したい姿だと感じました。オーダーメイドで誰もが自分にぴったりのインプラントを作れる未来にも、とても期待がもてます!軟骨インプラント事業について、進捗状況を教えてください。


大岩氏:早期の臨床試験に向け、研究開発を進めています。2027〜2028年には臨床試験を実施し、2030年頃の実用化を計画しています。私たちの事業はバイオ分野でありながら、軟骨インプラント量産という製造業的な側面もあります。そのため、製造体制確立も同時進行で進めています。まずは、国内での臨床試験・実用化を進めますが、得られたデータを活用し海外市場へも積極的に進出したいと考えています。


「このシーズでやってみたい!」医師・コンサルを経て、グローバルな再生医療の未来に挑む


: 大岩社長は、医師から戦略コンサルタントを経て起業という、ユニークなご経歴をお持ちですね。起業のきっかけは何だったのでしょうか?


大岩氏:京都大学を卒業後、皮膚科医としてやりがいを感じていましたが、起業への興味や「世の中に、自分ならではの価値をだせる仕事がしたい」という思いもありました。そこで、大企業や省庁との大型プロジェクトを手掛ける戦略コンサルタントをやってみたいと、ボストンコンサルティンググループに飛び込みました。コンサルタントとして非常に多くを学びましたが、次第に「最先端の分野で、全く新しい仕事や仕組みをゼロから創りたい」と思うようになりました。

 その頃、知人の紹介で、研究の社会実装のため経営者を探していた池谷教授と中山教授とお会いしました。「この研究シーズなら、社会に価値を提供できる!」と確信し、大学の技術と起業家志望者をマッチングするプラットフォーム「ECC-iCAP」のサポートも得て、起業を決断しました。「ECC-iCAP」を運営している京都⼤学イノベーションキャピタル(京都iCAP)からは、2024年と2025年に資金調達も得ています学内の組織を横断しての様々なサポートには、大変感謝しています。

取材に同席された島津奈加子氏(左)は創業からのメンバー。島津氏によると「大岩さんは頭の回転がとても早いんです!ものすごいスピード感で事業が進捗しており、”会社ってこうやって立ち上がって大きくなるんだ!”と日々体感しています。でも、仕事以外の大岩さんは、のんびりしたところもあるので、緩急つけて楽しく仕事しています」とのことでした。


西山:大岩さんの確かなビジネス手腕と、京都大学の起業促進の取り組みが融合した見事な成果ですね、感動しました!最後に、今後の展望について教えてください。


大岩氏: 膝治療にとどまらず、将来的には半月板や靭帯、さらには筋肉や皮膚など、私たちの技術を横展開し、様々な組織の再生医療へ応用したいと考えています。また、スポーツや肥満などに起因する関節疾患が多いアメリカをはじめ、海外市場へも積極的に進出していきます。「誰もが一生涯、運動機能を落とさずに過ごせる世界」を実現するため、エビデンスに基づく革新的な治療法で、世界中の患者さんに貢献していきたいですね。


西山:お話を伺いながら、御社の目指す未来が手の届くところまで来ていると実感し、深く感銘を受けました。1日も早く、患者さんのもとに届くことを期待しています。本日はありがとうございました。

(写真左)本社所在地のクリエイション・コア京都御車。中小機構が運営する公的インキュベーション施設で、ウェルネス分野のスタートアップや中小企業を支援している (写真右)大岩氏(右)と生態会 西山(左)

【生態会のコメント】京大の研究シーズと、医療・ビジネス両方の経験を有する大岩氏が出会ったことで誕生した同社。「これぞ大学発スタートアップ!」と大興奮の取材でした。皮膚科医から戦略コンサルタントを経て起業した大岩氏の、理性的で穏やかな語り口ながら、事業を力強く推し進める姿勢には成長に向けた熱意と覚悟を感じました。世界初の技術が早期に医療現場に届き、多くの方々の運動機能の回復に寄与することを願います。(スタッフ 森令子)


関西スタートアップレポート説明

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