• 近藤きょう

食品原料に加工し、規格外品・フードロスの削減へ:エーエスピー

関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。

今回は、規格外の農産物から食品原料を製造する、株式会社エーエスピーの代表取締役社長 林 直樹氏に取材しました。


取材・レポート:近藤 協汰(生態会ボランティアスタッフ)



 

林 直樹(はやし なおき)代表取締役社長 略歴


1989年大阪生まれ。大阪府立大学農学部にてポストハーベストの加工や保存を専攻。理研ビタミン㈱の新商品開発をする中、原料開発やプラント開発に従事。コンサルティング会社にて新規事業のコンサルティングと自治体の産業振興に従事しながら、様々な業界のオープンイノベーションマッチングに関わる。

生産者の収益アップのための販路開拓マッチングする中で全国各地の生産者とのつながりができ、農作物の流通上の課題に取り組み、解決するプラットフォーム事業として株式会社エーエスピーを起業。

 

■規格外の農産物を食品原料に 


生態会 近藤(以下、近藤):この度は取材にご対応いただきありがとうございます。まずは、御社の事業概要を伺ってもよろしいでしょうか。


株式会社エーエスピー 林直樹氏(以下、林):私たちは、未活用の農産物を原料化し、食品会社や飲食店に販売しています。


中でもユニークな点は、規格外の農産物従来可食していない部分なども用いているところです。


食品原料を供給している企業は他にもたくさん存在しますが、多くは契約農家の農産物や市場で購入した農産物を用いています。対して、私たちの用いる農産物は、通常であれば廃棄されてしまうものです。そのため、規格外品・フードロスの削減に寄与することができます。


また、食品会社の食品開発プロジェクトから関わるスタイルが私たちの強みで、現在も様々なプロジェクトを推進中です。


近藤:御社が製造している原料には、例えばどんなものがございますか。


:一つは国産のレモンです。飲料メーカーにお話をいただいたことから、産地開発から関わって製造しています。国産レモンは色々な場所で使われていますが、レモンの皮を生かした低農薬のレモンの量が少ないため、私たちは産地開発を重視しています。


もう一つは、粉末原料です。


原料にはさまざまな加工方法があり、これまでは各企業の要望に合わせた加工を行っていたのですが、昨年からは粉末加工に特化しています。


粉末に注目している理由は、その特徴にあります。他の加工方法だと、冷凍食品でも外観が良いものしか使えませんので、どうしても規格外の部分を弾かざるを得ません。しかし、粉末は保存に長け、変色部分や種など、農産物の全部分を活用することが可能です。


例えば、今年のプロジェクトで言うと、岩手県の特産品に甘茶というものがあります。せっかくなので、味見してみますか。


近藤:いただきます・・・うん、甘い!



甘茶の加工による粉末原料


:通常は、お釈迦様の誕生日に飲むものとして甘茶は用いられているのですが、普段使わない茎の部分などを加工すると、原料としても活用することができます。


また、これは酒粕です。


日本酒の製造量が年々減少しつつあるのですが、それ以上に、奈良漬や粕漬けなど、昔ながらの酒粕の用い方が少なくなってきています。その結果、酒粕が余るという話をいただくようになってきたのです。



酒粕の加工による粉末原料


ただし、酒粕はもちろんお酒が入っているので、なかなか一般では使いにくい。それを粉末にすることで、アルコールを飛ばし、色々なものに用いることができるようになります。


近藤:すごいですね!粉末という形状によって、農産物や用い方などが広がっていることを実感します。



さまざまな粉末原料






■培ったマッチング能力で事業推進


近藤起業する以前は、何をしておられたのでしょうか。


:一番最初の職は、食品会社の食品開発部門で、食品に必要な原料なども開発していました。その中で、食品原料メーカーさんと接することも多く、株式会社のバックボーンとも言える経験でした。


食品会社を辞めてからは、しばらく大手企業で新規事業コンサルティング業務に従事しました。


特に中心となった仕事は、経済産業省や自治体の産業振興のビジネスマッチングでしたね。その時に、色々なオープンイノベーションのマッチングを推進していたため、そこで培った経験・ノウハウを現在の事業にも取り入れています。私たちがさまざまな企業と連携できているのは、この経験のおかげでもあります。


また、自治体の産業振興に関わっている中、支援機関の紹介で、生産者の紹介をいただきました。そこから、生産者の出口支援を5年間行ってきました。これが、株式会社エーエスピーのルーツです。

インタビューを受ける林社長

なぜ法人設立という選択肢を取ったのかというと、自治体の立場では、エリアを横断した取り組みが難しいためです。


このことから、産業振興というアプローチではなく、民間の立場で向き合う必要がある、と私は感じていました。


もう一つの理由は、さまざまな食品会社から「こんな原料はありますか」という相談を受けるようになったことです。


それなら、「調達してほしい農産物を安定的に供給できるプラットフォーム」という事業はどうかと思い立ち、事業案をもとにビジネスコンテストに挑戦してみたら、賞を頂きました。


それが、株式会社エーエスピーを設立する直接のきっかけです。



近藤:自身の起業家・経営者としての強みを表すとすれば、どういったものになりますか。


:やはり、ネットワーキングです。


例えば「他社に紹介された後、紹介で終わってしまうのではなく、実際のプロジェクトとして推進できる秘訣はなんですか」という質問を受けることがあります。


私は長年マッチング業務に従事していて、「どこで補完関係を作れるか」を日頃から考えてきました。そうすると、一見競合関係にありそうな企業でも、役割分担をすることで、連携することができます。この経験が、他社との補完関係構築やプロジェクト推進につながっていますね。



近藤:農業については、どのような課題感を持っていますか。


:「農家さんが苦労している割には、儲かる仕組みになっていない」というものです。特に、農産物と加工品では、価格が大きく異なります。


また、収穫量が天候に左右されるため、農業は博打的な仕事でもあります。しかし、農家がいなくなってしまうと、食料自給率が低下するなど、困るのは私たちなんです。


そのため、私は農家のキャリアデザインを見直す必要があると考えています。それにより、農家になりたいと感じる人が増えるからです。


とはいえ、現在は色々な課題が存在しています。その中、どの課題から着手するかを検討した結果、「農業者の所得アップ」に至りました。


原料加工という事業は、この課題を解決するものです。規格外農産物などから新たな原料市場が生まれると、収益源が増え、農家の所得アップにつながります。


最終的には、ただ農産物を作って売るのではなく、生産者が自分達で加工できる仕組みになれば、持続的な産業になるのではないかと構想しています。しかし、個別の農家が新たな取り組みを始めても、仕組み全体の変化には至らない。そのため、私たちは、この仕組みに横串を刺せるような事業を進めていきます。



インタビュー後の林社長




 

取材を終えて


長年の経験から培ったマッチング能力により、事業会社と連携し数々のプロジェクトを推進している林社長。自身の強みが充分に活かされ、なおかつ社会課題の解決に貢献しているビジネスが特徴的です。特に、規格外農産物を活用することで、1)食料自給率の改善、2)フードロスの削減、3)農家の所得増につながると伺い、社会へのインパクトの大きさに驚きました。さらに、本年は資金調達を実施し、組織規模などを拡大するとのことで、さらなる事業拡大が期待されます。(ボランティアスタッフ 近藤)