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  • 執筆者の写真Yoko Yagi

NPOに特化した総合ファンドレイジングサービスで世界を目指す:コングラント

関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。関西スタートアップで紹介している注目の起業家たち。今回は、NPO法人や社会的企業、任意団体等、非営利活動に取り組むすべての団体の寄付募集・管理を応援するファンドレイジングツールに特化しているコングラント株式会社のCEO佐藤正隆(さとうまさたか)さんにお話を伺いました。


取材・レポート:西山裕子(生態会 事務局)

八木曜子(ライター)


 

佐藤正隆(さとう まさたか)代表取締役・CEO 略歴

1980年生まれ、岡山県出身。岡山県立笠岡商業高等学校卒業後、大阪でフリーターをしながら音楽活動に打ち込む。

その後大阪市内の営業会社で営業、WEB制作・システム開発を経験後、2008年にリタワークス株式会社を創業。ホームページ制作や運用サポート、ブランディングを中心にNPO業界・病院業界に特化したビジネスを展開。


IT・WEB業界で培った経験を活かし、2016年に同社NPO事業部を立ち上げ、 2017年末に「コングラント」をローンチ。同年、大阪府ベンチャー企業成長プログラム「booming!」に採択される。2020年にリタワークス株式会社からコングラント事業をスピンオフし法人設立。

 

■NPOのウェブサイト制作過程で、課題を認識


生態会 八木(以下、八木):本日はお時間いただきありがとうございます。まずはコングラント設立の経緯を教えていただけますか。

コングラント 佐藤氏(以下、佐藤):2008年にリタワークスというIT企業を設立し、15年ほどwebマーケティングや企業のウェブサイトの作成をしていました。B to Bのweb制作は飽和状態だったので、直接お客様とやりとりができる点も含めた経営効率の良さから、専門領域として病院に特化していきました。その次の領域は何だろうかと模索する中で、もともと社会課題解決に関わりたいという思いから、NPOサポートに2015年頃にたどり着きました。


Web制作からNPOと交流するうちに、いろんな不足に気づきました。サイトをボランティアで作っていたり、当事者支援する担当はいても、収入面や営業の担当がいなかったり。さらに寄付は手渡しや現金、銀行振込で殆どのNPOはクレジットカード決済が使えないことに気づきました。2015年頃は、トップNPOというわれる国境なき医師団のような団体のみが、NPO法人がクレジットカード決済で寄付を集めることができるような状況でした。


八木:なぜ、クレジットカードが使えなかったのですか?

佐藤:カード会社としては「寄付としてお金を決済するだけでは、役務を果たしていないのではないか」という考えで、グレーだったんですね。当時伸び盛りのEC決済と比較しても、ECは実物が届くのでわかりやすいのですが、寄付決済の場合はわかりにくい。


「マネーロンダリングではないか」、「本当に当事者の支援をしているのか」といった点がカード会社としては判別しにくい。商品のないものにお金を集める行為が、カード会社としてはやりたいことではなかったようです。実際は、寄付というものは実はクレームが大変少なく、事故もあまりないものですが。

当時は零細NPO法人が使える手軽なオンライン決済ツールが全くなかったので、決済代行やカード会社との交渉の中で、コングラントが審査の全責任を持ち包括して扱うサービスにしました。

NPOに特化した寄付システム

生態会 西山(以下、西山):ECでいうと、楽天のようなものでしょうか?


佐藤:楽天やBASEなどに近いですね。カード会社ではなくコングラントが審査するので、即時に決済が可能になる仕組みです。商品やサービスを売るのではなく、寄付や会費を集めるためだけの決済のプラットフォームです。


八木:とてもユニークなサービスですね。NPOの方たちには、最初からご理解いただけましたか?


佐藤:正直、ここまで来るまでいろいろなハードルがありました。4-5年前のNPO業界では、SaaSにシステム使用料を払う文化がまだありませんでした。現金のやり取りがクレジットになったところで、そこに月々払う費用はない、という考えもありましたね。コロナ禍以降は現金手渡しがNGになり、ようやく時代が追いついてきました。


NPOのwebを中心にお困りごとを解決していく中で、決済の課題が見えてきました。クレジットカード決済の審査が通らないのです。そこで、困っている人に即寄付ができる、今日申し込んで明日使えるサービスを作ろうと、コングラントを設立しました。登録したら最短、明日から使えるのはコングラントだけです。そこが評価され、2年前の熊本地震でも、即日使われました。


八木:即日とは、なかなか真似できない速度ですね。このビジネスモデルにはどうやってたどり着いたのですか?


佐藤:参考にしたものはありません。スタートアップのサービスは領域の特徴も必要ですし、機能のシンプルな価値が必要です。コングラントに関しては、団体や法人格がなくても明日からでも寄付募集できる、というのが最大のコンセプトです。


もちろん決済だけでなく、事務局のために領収書が自動で生成される機能などもありますが、私達の一番の価値は、非営利活動をする方たちが決済を即使えることですね。


八木:法人格がなくても使えるのですね。


佐藤:そうです。例えば一高校生が国際協力のイベントに任意団体として、屋号で使って40万を集めた例もあります。


日本全国に非営利活動をしている法人は、12-3万団体くらいあります。非営利活動をしている、団体格がないところはもっとあります。そういった団体に、お金の循環がよりシームレスになることを目指しています。



サービス画面

■社会課題解決をテーマに上場を目指す


八木:リタワークスではなく、コングラントとして分社した理由を伺えますか?


佐藤:リタワークスから分社したのは機動力を上げて、2026年の期に上場を目指すためです。NPO向けのサービスはお金を頂くハードルが高く、最近ようやく知名度が上がってSaaSの理解が進みました。NPOとかソーシャルセクター、社会課題解決のど真ん中で上場している会社はないので、その1社目になりたいと考えています。


上場することに情熱が燃えているというよりは、コングラントのようなサービスでも上場できるということを証明したいと思っています。性格的に儲かる市場に目をつけるよりも、誰もやらないところで敢えて社会のピースを埋めるような仕事をしていきたいという思いがあり、コングラントの領域にいま使命感を持って全精力を注いでいます。コングラントがIPOできるなら、ソーシャルビジネスでも経済性を伴って上場して雇用を生み出し、業界も変革できるということを社会に証明できると考えています。


コングラントとしては現在2期目で、2021年9月にKIBOW社会投資ファンド、株式会社ペイフォワード、おおさか社会課題解決ファンドから資金調達しました。22年夏から秋ぐらいにはシリーズAを目指しています。NPO領域のマーケット自体が十数万程度のサイズなので、普及啓蒙が必要です。自己資金だけでは足りないため、資金調達しながら成長を考えています。


経営陣としては、寄付やNPO領域で著名な佐藤大吾とGLOBISからの出向として井上陽介が社外取締役として入っています。コロナ禍は寄付が全体的に伸びるきっかけとなりました。経営効率は上がったので利益が出やすくなりましたね。



■学生のうちからNPOに関わってほしい

八木:人材面でも、大学生のインターンとして人気だと伺いました。


佐藤:社会課題解決に関する事業は、NPOや社会課題に関われるので興味のある学生から人気がありますね。コングラントにはスタートアップでのインターンや国際協力支援などに関心のある学生が多く応募してくれます。2015年頃からリタワークスでインターンを受け入れていたので、会社としてもインターンを活用する土壌があったため、受け入れも容易でした。


そもそもNPOの領域は新卒採用をしていないので、社会貢献したい学生がいても、関わりにくいんですよね。またコロナ以降、国際協力や留学がしたくてもさらにできなくなったことも追い風となっています。コングラントではNPOの資金募集のサポートを、“ファンドレイジングバイト”という形式で、全国で初めて開始しました。オンラインでできることもあり全国の学生から応募を頂いています。


八木:なぜそこまで学生インターンを手厚くしているのですか?


佐藤:学生に早くからNPO領域を知ってもらい、社会人になってからも関わってほしいと考えています。本当に社会課題を解決しようと思ったら、事業性と人材と組織、経営力がそれぞれ高まる事が必要です。そしてそもそもNPOで働きたいと思う人が増えなければいけません。NPOに関わったことがある人が大人になってからも寄付や複業などでも関わることを見越して、若いうちから関わってほしいと願っています。


コングラントの社内。若いスタッフが多い。

■スタートアップとNPOはコラボすることで社会が変わる


八木:なるほどですね。佐藤さんはNPOにもスタートアップにも両方理解がある稀有な人材ですね。


佐藤:スタートアップが世の中変えていくとも思っていますが、実際にはそれだけではついていけない置き去りにされる方もいます。スタートアップは技術やテクノロジーで解決していくのですが、NPOは寄り添いとか助け合いとか、人と人のハートフルなやり方で解決していきます。僕は今両方見ていて、両方良い悪いがあると感じています。


スタートアップは合理的で一対他、NPOは寄り添いで一対一という違いがあります。仕組み化だけでも、寄り添いだけでも、社会はなかなか変わらない。ここは正反対の世界です。両方あることが大切なので、NPOとスタートアップがコラボするのが良いと思っています。


スタートアップにいながらNPO領域がボトムアップできるように、クレジット決済などのテクノロジーを使ったり、若い人が携わる機会を設けたり、セミナー開催やコンサルティング等でNPOの方へ経営や運用のサポートの機会を提供しています。この3-4年でNPOの経営や人材育成を変えていきたいと思っています。誰もやっていないのでやる価値があると思っています。


取材期間中にも利用団体数、寄付流通額が刻々と増加していた

■社会課題解決のための寄付への理解が重要


八木:大変刺激的なお話です。競合はいらっしゃいますか?


佐藤:寄付型のクラウドファンディングが近いですが、ビジネスモデルが明確に違います。クラウドファンディングはキャンペーン掲載モデルですが、コングラントはNPOが持続できるビジネスモデルから開発していて、会費を決済できるように継続して使用できる点が異なります。


八木:現状の課題はありますか?


佐藤:寄付や社会課題会解決に関しての世間の壁が、一番の課題です。NPO自身が、寄付をもらうことを悪いことだとも感じていたりします。日本の財源には限界があるのだから、社会を変えるための寄付に関する社会の理解も、変えていく必要があると思います。


八木:海外展開の展望は、どのようなものですか?


佐藤:寄付や社会課題解決に関しては、日本が欧米から遅れているように、アジアでは日本より他の国が更に遅れています。社会課題解決というものは、国がある程度成熟してから取り組まれるものです。NPOはそれから必ず出てくるので、最初から海外展開は視野に入れています。外国人採用も強めていますし、ベトナム人とネパール人のエンジニアもいます。アジアで広めるときに外国人のエンジニアがいればローカライズも可能ですしね。数年後には、半分くらいが外国人となる会社になればいいなと考えています。2025年には、年間100億の寄付流通額で100万人が使うサービスを目標としています。





 

取材を終えて


社会課題解決に照準を合わせた決済SaaSという大変ユニークなスタートアップです。


佐藤さん自身のスキルと経験が作り上げたい世界とマッチしていて、スケールしそうだと私自身大変ワクワクしました。多くのファンドから投資を受けていてスタートアップとしても期待大です。


社会課題解決ビジネスの星として、大成して欲しいと強く応援したいと思った取材でした。(ライター八木)




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