関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家。今回は、2020年2月に滋賀県大津で創業したばかりの、株式会社クロスエッジラボ 代表、渡辺 尚志(わたなべ ひさし)さんにお話を聞きました。渡辺さんは、大阪大学卒業後、パナソニック社に35年間勤め、主に画像技術の研究に従事。2019年に定年退職後、世の中の役に立つことがしたいと起業。ハードウェアのスタートアップとして、 滋賀テックプラングランプリ 滋賀銀行賞受賞、KGAP+ アクセラレーションプログラム採択、Plug and Play Kyoto Hardtech & Healthアクセラレーションプログラム採択など、成長に向け果敢に挑戦されています。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)
生態会 西山(以下、西山):今日はお時間いただき、ありがとうございます。琵琶湖のほとりのラボ、とても環境が良いですね。御社の製品について、ご紹介いただけますか?
クロスエッジラボ 渡辺(以下、渡辺):母を7年介護しており、何かできることがないかと考えていました。会社員時代に画像技術の研究をしてきたので、それを活かした見守りシステムを開発しました。すでにいろいろな見守りデバイスが市販されていますが、単純なセンサーだと見逃しや誤検知があります。また、ビデオカメラは見えすぎるので、プライバシーの問題があります。
サーモグラフィはプライバシーに配慮した技術で人を検知し、見守りに本質的に適しています。従来のものは部屋の一部しか見えなかったのですが、我々は360度全方位のサーモグラフィを開発しました。これをうさぎの広い視野にちなんで、Rabbit vision (ラビットビジョン)と名付けました。誰かはわからない、プライバシーに配慮した解像度の低い画像ですが、室内にいる人の体温を検知します。この技術は特許出願中です。ベッドの上の壁に配置して、床面・四面の壁が死角なく見えます。部屋の中にいろいろなものがあっても、人を検知できます。
Rabbit visionには、二つの機能を持たせようとしています。一つは見守り、一つはヘルスケアです。見守りは、高齢者施設や病院の個室に設置して、24時間行います。何か起こった時には検知して、警報装置が働くので駆けつけることができます。24時間見守っているので、高齢者の生活データを取得することができます。それを集めて解析し、ヘルスケアを実現します。
サーモグラフィの画像から、AIを用いて行動認識をします。ベッドの横に座って立ち上がり歩く様子を追います。突然倒れると、異常を見逃さず警報を送ります。Rabbit visionは、高齢者の歩行時の移動を軌跡として追い、歩行速度と活動量、ふらつき・転倒などの活動をデータ化します。寝ている時の細かな体の動きから、睡眠深度や覚醒、時間もデータ化できます。活動と睡眠という生活データから、健康サポートを行えます。転倒をすぐ見つけることも大事ですが、その前段階として、予兆行動を学習して事故を防止したいとも思っています。短期的な生活パターンの変化から体調の変化を読み取ったり、長期的な生活行動のパターンから認知症の予見もしたいと思っています。
現在、京都の病院のリハビリ科で、Rabbit visionの実証実験をする準備をしており、今年中には終わらせたいと思っています。病院の要望としては大部屋で使いたいということですが、個室用に設計したので難しい(笑)。でも大部屋も、各ベッドがカーテンで仕切られるので、その内側を個室として認識することで検知する予定です。病院側の要望は二つあり、⼀つは遠隔での⾒守りで異常が発⽣したときは、警報を送って知らせることです。もう一つは、生活データとして睡眠を知りたいという要望があります。看護師が翌朝に引継ぎをするとき、回復状況を見極めるものとして、睡眠を理解したいということです。
西山:そのセンサーで集めたデータは、どのように看護師さんなどに送るのですか?アプリでしょうか?
渡辺:今は、LINEで送ろうと思っています。医療関係の方々は忙しく、パソコンを開いて添付ファイルを見るというのも大変ですので、LINEで直接知らせる予定です。このような表示になります。
西山:Rabbit visionの対象は、施設だけですか。個人は?
渡辺:最初は、病院や⾼齢者施設に導入したいと考えています。施設は入居者の健康情報を持っているので、⽣活データと組み合わせるとヘルスケアができると思っています。次のステップとしては、一人暮らしの高齢者用のシステムも開発したいですね。
西山:Rabbit visionの構想は、いつ頃から持っておられたのですか?
渡辺:ここ3年くらい考えて、試作したりしていました。昨年定年退職したのですが、母の介護をしている中でこれでやってみようと。定年延長という話もあったのですが、もういいやと(笑)。
西山:滋賀で起業しようと思われたのは?
渡辺:家が滋賀なので。このコラボしが21は県の施設で、起業に対していろいろ支援をしてくれます。補助金の紹介や、県がやっている施策との連携などもあります。
西山:今後は、どのようにRabbit visionの事業を進めていく予定ですか?
渡辺:まずは、小規模の実証実験を行っていきます。今は、自己資金でやっています。ハードウェアは、資金調達がなかなか難しいという話も聞きます。しかしRabbit visionのPoC(Proof of Concept)ができたら、CVC(Corporate Venture Capital)と話したり、大手企業と連携して、大規模な実証実験もしていきたいです。
定年退職後、今までの経験を活かして、ハードウェアスタートアップとして起業された渡辺さん。製品の独自性や事業構想など、非常に説得力があり、知識の深さと経験値の高さを感じました。そして、Rabbit visionの将来像や夢については、20代のスタートアップにも負けない、熱い思いをお持ちです。新たな事業を起こそうと挑戦する気概は、年齢を問わないようで、新鮮に感じました。超高齢化社会の時代、介護施設の人手不足などが懸念される中、社会課題の解決になる技術として、ニーズは高そうです。社名の“クロスエッジ”は「渡辺」からというセンスも、印象的でした。(生態会 西山)
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