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  • 執筆者の写真橋尾 日登美

音楽と人の出会いを多様に提供 AIではなく人のおすすめを楽しむアプリ:クロスフェーダー

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、アプリ、Webを通して音楽や動画などのエンターテイメントサービスを企画・運営する株式会社クロスフェーダーの代表取締役 CEO 名波俊兵さんにお話を伺いました。著名な面々とのコラボレーションを実現する8小節アワードを開催しながら、新規事業として開発中の、音楽との出会いを提供するアプリ 「DIG∞」。音楽への熱量が高いユーザーをターゲットにアルゴリズムに頼られがちなリコメンドを、あえてユーザーの手にゆだね、ユーザー同士で情報交換。感度の高いユーザー同士でコメント・音声通話などのコミュニケーションを生むことで、密で豊かな音楽生活を提供するものです。


取材・レポート:橋尾日登美(生態会 事務局)



 

代表取締役 名波 俊兵さん 略歴


1975年名古屋生まれ。京都大学を卒業後、2000年、アクセンチュア株式会社へ入社。IT戦略、IT マネジメント、業務改革、システム企画等のコンサルティングプロジェクトを経験。同業数社を経てフリーランスとして活動。大好きな京都に、再度戻り暮らす。自身が無類の音楽好きで あり、DJとしても活動。元ストリートダンサー。


 


生態会 橋尾(以下、橋尾):今日はよろしくお願いします。まずは、事業概要を教えてください。


株式会社クロスフェーダー 代表取締役 名波(以下、名波):


名波:弊社は、音楽や動画などのエンタテイメントサービスをアプリ・Webを通じて提供しています。

はじめは2018年4月に、アプリ『ムビート』をリリースしました。音楽と動画をシェアするプラットフォームです。これは、動画の装飾として音楽をつけて流すような従来の形ではなく。音楽に合わせて動画を動かす、というもの。アプリが音楽のテンポに合わせて、動画を切り取り、並び替え、自動で編集。ユーザーは音楽と動画をタップして選ぶだけで気軽に「作る楽しさ」を味わえます。これまでと逆のユーザー体験が好評で、日本を含む15カ国で「今日のApp」選出、世界130カ国でダウンロードされています。



(サンプル動画)



橋尾:おお、これはすごい。ビートに合せて自動で編集してくれるのですね。楽しいです。



名波:その後、2021年4月から『8小節アワード(旧称8小節トラックアワード)゙』を主宰しています。

「8小節」は、音楽ではひと区切りの単位です。秒数にしてだいたい、10秒から30秒ほど。8小節が繰り返されたり、展開されたりして1曲ができあがります。そのため、ムビートで動画につける音楽は8小節にしました。アプリを運営する中で、その単位でオリジナル楽曲を募り、コンテストを開催したら面白いのではないかと、スタートしました。



第3回8小節アワード👑結果発表👑



応募数は、第1回で531曲、第2回で1,291曲。数はもちろん、クオリティも素晴らしい曲ばかりが集まりました。2022年11月からは第3回をスタートさせて2023年1月に結果発表したのですが、おかげさまで2,337曲の応募がありました。でも実は、2回目までは利益なんてほとんど出ない取り組みで……。(苦笑)業界を盛り上げるために手弁当でやっていました。ですが、第3回目からは盛り上がりを見せています。審査員にm-floの☆Taku Takahashiさんや、MAN WITH A MISSIONのDJ Santa Monicaさんはじめ、メジャーアーティストを迎えることができています。多くのスポンサーにご協賛・ご協力もいただけました。SpotifyやApple Musicなどストリーミングサービスへの配信代行サービス日本最大手のTuneCore Japan株式会社、初音ミクのクリプトン・フューチャー・ メディア株式会社、ニコニコ動画の株式会社ドワンゴなど、数社のご協賛・ご協力もいただいています。

2022年8月に自社レーベルも立ち上げ、アワードの優秀者の楽曲を毎月リリースしています。リリースしたシングルはすべてSpotify・Apple Musicの両方もしくはいずれかのプレイリストにチャートインしています。



橋尾:自社サービスはもちろん、業界そのものを盛り上げていかれてる事がよく分かります。







音楽狂だからこそ感じる、現代の音楽シーンが抱える課題



橋尾:名波さんご自身が、音楽に慣れ親しんでいらっしゃることが、起業のきっかけでしょうか。


名波:長らくITコンサルタントをしていたのですが、数年で飽きました。でも、それしかできないので続けていたんですね。京都に戻って再会した学生時代にダンスを通じて親しかった共同創業者のムビートのアイデアを聴いて「おもしろい!」と乗っかる形で起業しました。長くIT業界にいたのでその経験は役立っています。

僕自身がかなり音楽に密接な人生、というのも大きな要素です。エレクトーンにはじまり、深夜ラジオで聴く洋楽、バンド、ダンス、ダンスをきっかけに始めたDJと幅広く触れてきました。


音楽に対するスタンスは、大きく分けて階層が3つあると考えています。


①音楽狂:すでにめちゃくちゃ詳しい。それでも知りたいし知ろうとする人

②イヤホンジャンキー:音楽好きを自認する。時間があればイヤホンで音楽を聴く

③音楽生活Lover:音楽は生活の彩りで、ながら聴きが多い


僕は、この①、熱狂的に音楽が好きなタイプの人間なんです。



こういう人達はかなり音楽に造詣が深くて、常に新しいものを探し求めています。もちろん僕も同じです。けど、追い付けないほど新譜は出てきているし、知らない旧譜もたくさんある。探すのが大変なんですよね。限界があります。第2層の人達も、レベルは違うけど同じだと思っています。これが、音楽好きのペインだと発見しました。新しいものに出会いたいのに、このままじゃ人生がいくつあっても足りない。


現代の音楽との出会いは、デジタルが主戦場です。プラットフォームは数多くあり、AIによるおすすめ機能も進化している。AIだと自分が何を聴いているか、人が何を聴いているかの相関でおすすめしてきますよね。アルゴリズムです。これは便利ですが、驚きがない。どうしても共通項や類似性でのレコメンドになってしまうんです。



橋尾:セレンディピディが生まれないんですね。



名波:はい、そうなんです。

偶然の、驚きの、想定外の出会いが生まれません。でもそこにこそ、素晴らしい出会いが潜んでいる。そういった新しい音楽との出会いを創出し、音楽好きのペインを解決するために、新しいサービスアプリ「DIG∞(ディグ・インフィニティ)」を開発中です。

音楽好きはよく使う「ディグる」がコンセプト。①音楽狂がDIGって独力で見つけた鳥肌級の曲データベースが作られます。ユーザーは、そこに信頼できるキュレーターを通じてアクセスして、コミュニケーションもする人力をベースとしておすすめで、AIにはない偶然性を持たせます。





新しいようで昔おなじみ『ディグる』ことによる出会いを生み出す、新しい音楽プラットフォーム



橋尾:ご自身がユーザーとして発見されたリアルな課題を解決するサービスなんですね。コンセプトや、機能の特徴が気になります。



名波:DIG∞でまず特徴的なのは、探し方・出会い方です。


「ディグる」という、言葉をご存知ですか?レコードショップで箱に詰まったレコードをひとつずつ手で繰り、ジャケットをチェックしながら好みのレコードを発掘する「ディグ(DIG、掘る)」行動をあらわした言葉です。あの未知の楽曲に出会うワクワクを体感できるUI/UXにします。アプリ上では、本当のディグのようなビジュアル表現で、音楽作品を堀り探します。気に入ったものは自分のボックスに追加し、プレイリストのようにコレクションしていきます。



橋尾:AIだけではできない「人力」の部分ですね。アナログ風に探すのが楽しくなる、音楽ファンへの仕掛けも感じます。



名波:このボックスはユーザー同士で見ることができ、良さそうな曲を見つけて視聴したり、自分のボックスにも入れてみたり。そのうち良い曲ばかりをコレクションするユーザーを発見して、チェックするようになったり。



橋尾:信頼できるキュレーターが見つかるのも、SNS時代の良い部分を取り入れている印象です。



名波:はい、コレクションに共感したらリアクションしたりね。これが連なって連鎖を生むイメージです。

自分の好きな曲を提示して、「僕はこれが好きなんだけど、なにかいいのない?」と、おすすめをリクエストもできます。

ボックスを充実させたり、おすすめしていくことでポイントがたまる仕組みもつくる予定です。





また、このアプリ上が「音楽を語る場」になります。

おすすめなどのユーザーコミュニケーションもそうなのですが、ゆくゆくは音声などで交流できる機能も実装したいです。音楽「だけ」を語る場が、他にないんですよね。クラスの音楽狂二人が好きなジャンルが一緒とは限らないですし、SNSは他の話題が混ざってくる。



橋尾:ミュージックバーのような居場所ですね。



名波:リアルで例えると近いですね。実際のミュージックバーはジャズ、ソウル…マスターの好きな曲を流してそれについて語り合います。ジャンルが限定されていることが多いんです。このアプリでは、ジャンルを横断して扱う事ができます。



橋尾:アプリの良いところも活かせますね。ビジネス的な面では、どのような収益モデルか気になります。



名波:ユーザーが月額の利用手数料を支払うものです。あくまで出会いの提供にとどめ、フル尺は既存の音楽提供プラットフォームでの視聴に誘導します。そのため、比較して抑えた金額を予定しています。


このアプリの本質的なところは、「音楽の手札を増やして共感を広げるゲーム」です。音楽をもっと知りたいと思って、ディグり、コレクションし、おすすめしてもらう。結果、自分のボックスが潤う。それが手札です。熱量が高いユーザーは、ボックスを覗き、公開することで、承認欲求を満たせる部分も。アプリ内のアクションを、あえてユーザーの手にゆだねるからこその仕組みです。音楽ファンのコレクション欲や、深く語り合うことへの中毒性が刺激できる性質を持っています。


とは言え、現実的には資金調達、集客、開発と課題を抱えています。現在の段階は構想ができて、α版開発中。2024年には公開ができるよう、資金調達を中心に進めているところです。



橋尾:感度の高いユーザーが楽しめる仕組みだからこそ、裾野のユーザーも含めて巻き込める場ですね。アプリの公開を楽しみにしています。



 


取材を終えて



ネットでよく見かける「ディグる」という言葉。これがレコード発掘から来ていることを、この取材で初めて知りました。未知の楽曲に出会うワクワクをUXで表現する新サービス、DIG∞。どうして作ろうと思ったのか、と質問すると、間髪入れず「何より自分が欲しい世界だったんです」と、代表。一度ファンがつくと熱が冷めにくく、生活や家計の割合を占領していく趣味は数多くあるなか、音楽はその代表的なものだと思います。サービスの世界感に強いモチベーションを持ち、熱狂的なユーザーを掴むインサイトへの強い理解に、ビジネスの強さを感じます。手元のスマートフォンが、音楽ファンの生活を大きく変える日が目に見えるような取材でした。

(ライター 橋尾)


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