関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家。今回は、生地工場とアパレルが仲介業者を省き直接取引できるWEBサイト【tunageru】で、繊維業界の変革を目指す株式会社ディープラストレーディングの堂前徹(どうまえ とおる)さんです。
<堂前徹氏 略歴> 繊維専門商社大手、瀧定株式会社(現 スタイレム株式会社)での20年以上のキャリアの末、2016年独立。コンサルティングなどを手掛けるなか、お世話になった企業・業界を支援するために、繊維業界のデジタル・プラットフォームを目指す「tunageru」事業を着想。2018年から、スタートアップとして業界の変革に挑んでいる。
取材・レポート:森 令子(生態会事務局リーダー)
森:繊維業界にとって画期的なサービス「tunageru」を準備中とのことで、色々お話おきかえせください!まずは、どのようなサービスなのか、教えてください。
ディープラストレーディング堂前氏(以下 堂前):「tunageru」は、生地工場とアパレルが直接取引できるWEBサイトです。生産者とバイヤー/デザイナーなど、エンドとエンドをつなぐ直接取引を実現し、遠方まで商談に行くことなく、選択肢の多い取引を可能にします。仲介業者を介さないので価格も安く、なにより、在庫など制約がなくなるので、多種多様な生地を売買できるようになります。例えば、工場の持つ新素材や試作品など、これまで流通しなかった生地や、受注販売による多品目の販売などができるのです。
森:繊維業界の課題は、どんなものがありますか?
堂前:現在の繊維業界は非常に複雑な仕組みで、多くの課題があります。例えば、通常、生地工場は商社などに商品を卸していますが、商社や問屋が売りやすい商品だけを在庫し、面倒なものは売らないので、売れ筋商品ばかり流通、選択肢が少なくなっています。小さい工場では営業担当もおらず、昔ながらの”受け身商売”で、どこも厳しい状況です。一方、アパレル業界で増えているD2Cの中小新興アパレルは、面白い生地を扱いたくても、仕入れルートの開拓まで手が回りません。町の生地屋で材料を買っているという話も聞いたことがあります。
私は、小さな工場も、グローバルで戦う大手も、設立まもないデザイナーも、皆さんが「tunageru」で繋がることで、いろんな制限をオープンにし、本来の力を発揮し、新たな価値やシナジーを生み出せるようになることを目指しています。
森:業界経験が長い堂前さんだからこそできる、素晴らしい仕組みですね!「tunageru」の利用には、どのような費用がかかるのですか? 料金システムを教えてください。
堂前:出店ハードルは出来るだけ低くしたかったので、工場の出店は無料、売れた時だけ販売手数料をいただきます。また、工場はデジタルに不慣れな方が多いので、ECサイトに必須の”ささげ”(撮影、採寸、原稿)は、我々が全て用意します。他業界の事例を見ても、工場側で画像や原稿を用意するのは、かなりの負担をおかけするし、クオリティがバラバラだったり、データが遅れたりで、管理も難しくなります。先行投資はかさみますが、とにかく、多くの工場に参加いただけるよう、仕組みづくりをがんばっています。
森:現在の事業進捗は、どのような状況ですか?
堂前:サプライヤー(工場)、バイヤー(アパレル)とも「tunageru」事前登録を開始しており、プロトタイプの公開を2020年9月、サービスの正式ローンチは2021年春ごろの予定です!今は、私が直接、生地の産地を廻り、工場へ説明しています。実は、関西はこの事業にとても適した場所で、関西とその周辺には生地の産地が数多くあるんです。先日も、高野山の近くの、コートのような厚手生地の産地に行って来たところです。
森:関西の周辺に、それほど多くの生地の産地があるとは、知らなかったです。工場の反応はどんな感じですか?
堂前:おかげさまで、参加する工場はどんどん増えており、すでに数千品番もの生地が販売できる予定です。サンプル手配、撮影、採寸など出店準備は大変ですが、とても手応えを感じています。
サービスサイト開発も同時に行っています。例えば、繊維業界には、手形決済の慣習がありますので、そのあたりも配慮しつつ、ECサイトのように使い勝手のいいサイトにするべく開発を進めています。
森:国産のクオリティの高い生地が数多く揃うECサイト、想像するだけでワクワクしますが、生地のECサイトは、これまでなかったのですか?
堂前:生地の卸売サイトはいくつかありますが、どこも問屋や生地屋の運営で、在庫品を販売しています。また、仲介業者が介在しており、工場にとっては、ECサイトで販売しても大きなメリットはありませんでした。
繊維業界はデジタル化が最も遅れてる業界の一つだと思います。ネット販売を極端に嫌うというか、ECサイトへのアレルギーのような風潮すらあります。私自身も、商社の営業をしていた頃は、「生地取引は対面が大切。とにかく触って風合いを確かめないと」と思っていましたし、今でもそこは大事にしています。全てをIT化するのではなく、「tunageru」で入口出口を効率化するだけで、大きく変わるはずです。業界のことをよく知っている私だからこそ、お世話になった工場や企業を支援し、この業界に恩返ししつつ、変革が実現できるはずだという気持ちで、事業を進めています。
森:この春、資金調達が成功したことで、一気にビジネスが進んだそうですね。起業、そして、資金調達にいたる経緯など教えてください。
堂前:育ててくれた繊維業界を盛り上げたい、お世話になった生地工場の苦境をなんとかしたいという思いで、会社を辞め、2016年に独立しました。当初は、繊維やアパレル企業のコンサルティングや営業支援をしていましたが、もっと広く業界を支援できるやり方はないか、と思う中、2018年ごろに「tunageru」のアイデアを得ました。ITなど全く無縁でしたが、銀行や行政などの起業セミナーに通ったり、いろんな方に相談したりしながら、ビジネスプランを具体化していき、2019年に、日経新聞主催の「スタ★アトピッチ」に参加したことが転機となりました。大阪市のスタートアップ支援プログラム「OIHシードアクセラレーションプログラム(OSAP)」にも採択され、そこで、先輩スタートアップやVC、支援機関と知り合い、事業の進め方など多くを学びました。
”資金調達”という言葉すら、よくわからなかった自分が、VCをめぐり、この事業の意義・可能性を何回も説明してまわったところ、いよいよ資金がつきかけた今年の頭に、あるVCが興味を持ってくださり、資金調達が実現しました。その資金で、「tunageru」のビジョンに共感してくれていたエンジニアや営業担当を社員として迎え入れることができ、2020年春から、本格的に事業を進めています。
森:アパレル業界も、コロナの影響が非常に大きいと聞いていますが、御社の事業にはどのような影響がありますか?
堂前:元々、低調だった工場の稼働率が、コロナで需要が消滅し、この春以降2〜3割に激減したという話も聞きます。どこも相当な危機感ですね。若手の経営者の皆さんなど色々試みていますが、業界全体としては厳しいです。だからこそ、これまで敬遠していたデジタルでもECサイトでも、とにかくやってみようと、「tsunagaru」参加を即決する工場も多く、産地を訪問するたびに、この事業への期待を感じています。
森:最後に将来の展望を教えてください。
堂前:国内だけでなく、海外進出も急ぎ、将来的にはグローバルなプラットフォームを目指しています。繊維商社の頃から海外との取引経験も多くありますが、「tsunagaru」のようなデジタル化のニーズは大きいはずです。サービスを広げるために、システム強化や、高度な技術の導入などは絶対に必要で、そのあたりは、先行するIT企業とぜひ提携していきたいですね。
保守的なはずの工場各社がtunageruへの参加を即決するなど、変革の必要性と業界の期待は大きく、生地産地が多い関西ならではのスタートアップとして、正式ローンチが非常に楽しみです。業界経験が長い堂前氏が“業界に恩返しする”ビジネスを誠実に構築されている様子や、キャッシュアウト直前にVCから資金調達が実現、本格的な事業開始を待ちわびていたエンジニアと営業担当がすぐに社員になったという、チームワークが伝わるエピソードも印象的でした。(生態会 森)
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