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  • 執筆者の写真Seitaikai

メンタルヘルスの状態を血液検査で明らかに:E-GAO

更新日:2021年1月27日

関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。今回は、大阪大学の教授が開発した世界最先端の血液検査技術をもとに、メンタルヘルスの状態を客観的数値で評価する検査サービスを、企業・団体向けに提供している株式会社E-GAO(イーガオ)の代表取締役、勝村史昭氏に取材しました。

取材・レポート:大越裕(ライター)



勝村史昭氏(かつむら ふみあき)略歴:一橋大学商学部卒。同大学院社会学研究科修士課程を経て、同大学院経営管理研究科にて博士号(経営学)を取得。一橋ビジネススクール特任講師、大阪大学大学院薬学研究科招へい教員を兼務。2020年、株式会社E-GAOの代表取締役に就任。E-GAOは、2020年の「大阪トップランナー育成事業」に採択されている。


 

生態会 大越(以下、大越):初めに、ビジネススクールで組織論を学ばれていた勝村さんが、E-GAOの経営を担うことになった経緯を教えていただけますでしょうか?


勝村:もともと私は一橋大学ビジネススクールで、働く人のモチベーションや仕事のやりがいに影響を及ぼす環境要因や、その結果生じる個人と組織の生産性についての、一連のメカニズムについて研究をしていました。それを通じて、個人のメンタルヘルスの状態について、生体反応にもとづく定量的な評価をすることができないかと考えるようになりました。

そんなときに、弊社の血液検査技術を開発された、大阪大学大学院薬学研究科の教授である関山敦生先生から、「大学で理論を研究するだけでなく、この技術を社会に広めていくところまでを一緒にやらないか。」とお声がけいただいたのです。


大越: なるほど、関山先生が開発された技術というのは、どのようなものなのでしょうか?


勝村: 人間の体は、精神的なストレスを受けると、「サイトカイン」と呼ばれる物質を分泌します。サイトカインにはいくつもの種類がありますが、その中でも精神ストレスがもとで放出される物質をピックアップし、血液中の濃度を独自のアルゴリズムで解析することで、個人のメンタルヘルスの状態を客観的な数値として可視化することができるのです。


弊社の検査技術(世界30か国以上で特許取得)は、高精度(90%超)で「こころの不調」の判定や「健康リスク」の評価が可能です。メンタル・ハイリスク者を見つけ、体調不良や不調をふせぐことが弊社独自の技術です。実際に、個人や職場の活力を低下させるメンタル・ストレスに最適なサポートを提供し、健康、活力、そして生産力の向上にお役立ていただいた実績があります。


大越: 日本政府も近年、「働き方改革」をはじめとして日本人のワークライフバランスの改善を進めようとしていますが、長時間労働や仕事のストレスは大きな問題になっています。個人の主観的な判断ではなく、検査による数値で客観的にストレス評価が可能になることは、大きな意義がありそうですね。


勝村:そう思います。うつ病はよく「心の風邪」と言われて、「誰でもかかりうる病気」という認識が広まっていますが、一方、すぐに治る風邪とは違って、深刻化すると自殺をはじめ、命に関わる病気です。また一度うつ病にかかってしまうと、寛解するまでに数ヶ月から数年間もかかってしまうことが珍しくありません。そのため、できるだけ早い段階で心の不調に気づき、ストレスを与える原因から遠ざかることが大切となります。


大越:欧米では仕事の悩みを抱えたり、心が苦しくなったときにカウンセリングを受けることが一般的です。それに対して日本では、精神科の病院に通院することに対してまだまだ偏見が根強く残っていると感じています。E-GAOさんのサービスによってストレス度をバイオマーカーで客観評価できるようになることは、通院に対するハードルを下げることにもつながりそうですね。


勝村:うつ病患者の数は、潜在的な人も含めると、現在の日本で400万人を超えるとも言われています。病気になって働けなくなった人に対して支払われる傷病手当金の内訳をみると、精神および行動の障害に関するものが、この20年間で約5倍に増えており、それだけ働く人のメンタルヘルスが近年危機にあることを示しています。さらに、うつ病を発症すると、その後に生活習慣病や認知症になる確率も大幅に上がることがわかっており、「未病」の段階で心のストレスを減らすことがこの国の逼迫する医療費の削減にもつながるだろうと考えております。


大越:具体的なE-GAOさんのサービスとしては、どのようなものがあるのでしょうか?


勝村:私どもの会社は現在、吹田市にある「大阪健康倶楽部 小谷診療所」内に事業所をおいています。大阪健康倶楽部 小谷診療所は人間ドックや事業所向けの健康診断を提供する事業を行っており、その一環でメンタルヘルスサービスを、法人向けに提供しています。そして、合わせて行っているのが、組織レベルでのメンタルヘルスの改善コンサルテーションです。うつ病などの心の病気は、薬を飲めば治るというものではありません。個々の患者さんを取り巻く環境が原因となっていることが、少なくないからです。メンタルヘルスの検査サービスとともに、どうすれば働く人一人ひとりが明るく元気に仕事を継続できるか、私が専門とするモチベーション理論の知見も活かしながら、組織改善のプログラムも提案させていただいています。


大阪健康倶楽部

大越:企業にとっても従業員のメンタルヘルスが健全な状態であることは、生産性の向上につながることはもちろん、それ以上に社会の公器としての責任の上でも重要と感じます。E-GAOさんの取り組みが全国的に広がっていけば、社会的な意義はとても大きいでしょうね。


勝村:私たちも活動を全国的に展開するために、さまざまなパートナー企業様との連携を模索しているところです。具体的には我々の検査サービスを、人間ドックや健康診断に組み込んでくれる全国のクリニック様や検診事業社様、検査センター様、また営業を代行してくれる企業様と連携していきたいと考えています。またそれ以外にも幅広い業種で、私たちの検査技術の活用を検討してくれる会社様があれば、お話をしたいと思っています。


大越:事業拡大にあたって、ベンチャーキャピタルなどから投資を受けることも検討されていますでしょうか。


勝村:はい、当社は2017年創業で、シリーズAの投資を受けて事業をスタートしています。これからさらに、業容拡大のための資金調達を検討したいと考えています。


E-GAOは今年2020年10月、大阪市が認定する「大阪トップランナー育成事業」の一つに採択され、助成を受けることができました。これから私たちはその基盤のもとに、確実な売上を継続的に立てていく段階へとシフトします。日本はいま、新型コロナウイルスの影響でこれまで以上に働く人のメンタルヘルスの状態が懸念されています。事業を通じて一人でも多くの人の心の健康を向上し、「病気にならない社会の実現」に向けて貢献していきたいと考えています。


 

取材を終えて:うつ病や心の病にかかった人に対して、日本ではまだまだ偏見が残っており、そのことが早期治療へのハードルを上げている現実があります。血糖値や血圧を測って生活習慣病の予兆を検査するように、心の状態も血液検査で客観評価することが一般的になれば、精神科を受診することへのハードルが下がり結果的に多くの人の生命を救うことになるはずです。E-GAOさんの事業が日本全国に展開され、人間ドックで当たり前のようにストレス検査を受けられる日が来ることを楽しみにしています。(生態会 大越)



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