ピアノの5倍の速さで習得!認知脳科学から生まれた楽器「ParoTone(パロトーン)」で音楽を身近に:エモット
- 大洞 静枝
- 10 時間前
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関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、eMotto株式会社代表取締役 三田真志郎に話を伺いました。同社はオリジナル楽器「ParoTone(パロトーン)」の開発・販売を行うスタートアップです。理学博士でもある代表の三田氏は、大阪大学大学院の融合研究でのプロジェクトで、パロトーンを開発。パロトーンは、認知脳科学の観点から、脳にかかる負荷を最小限にしたインターフェースで、ピアノの5倍の速度で習得できるように設計されています。
取材・レポート:大洞静枝(生態会事務局/ライター)

代表取締役 三田真志郎(みた しんじろう)氏 略歴
1991年広島県生まれ。大阪大学基礎工学部卒、大阪大学大学院生命機能研究科卒(理学博士)。日本学術振興会の学振特別研究員 DC2を経て、eMotto株式会社代表取締役就任。2021年に経済界主催の「金の卵発掘プロジェクト2021」で審査員特別賞を受賞。
誰かと仲良くなれるきっかけをくれた音楽が、開発の原点
生態会 事務局 大洞(以下、大洞):本日はありがとうございます。早速ですが、事業内容について教えていただけますか?
代表取締役 三田真志郎氏(以下、三田氏):直感的に操作ができる楽器「ParoTone(パロトーン)」の製造、開発、販売を行っています。パロトーンは鍵盤が手のひらサイズに収まるキーボードタイプの楽器です。認知脳科学の観点から、脳にかかる負荷を最小限にしたインターフェースで、ピアノの5倍の速度で習得できるように設計されています。スマホやタブレット端末から専用アプリ「eParoTone」と接続して使用します。
↑実際の演奏方法を動画でご覧ください
大洞:どのように操作するのでしょうか?
三田氏:専用アプリ「eParoTone」で弾きたい曲を選んでいただいて、画面上に表示される音やコードに合わせて鍵盤を押すと演奏ができます。一つの鍵盤を押すだけで、和音も演奏でき、三和音だけでなく、C7といった四和音のコードも簡単に弾くことが可能です。音楽を分析し、最もよく使われる5つの音「ド・レ・ミ・ソ・ラ」を鍵盤の右側にコンパクトに収めました。ですので、ピアノのように88鍵を指で移動する必要がありません。さらに、オクターブは自動的に切り替わる仕様で、音の高低が直感的に分かるような音色を使っています。
大洞:和音演奏がワンタッチでできるとは、初心者にも嬉しい仕様ですね。パロトーンを開発したきっかけについて教えていただけますか?
三田氏:私自身、昔からコミュニケーションがあまり得意ではありませんでした。幼稚園の頃も、一人で隅っこにいるような子どもで、なかなか人とうまく関われなかったんです。そんな中で、誰かと仲良くなるきっかけを作ってくれたのが「音楽」でした。両親がピアノの調律師だったこともあり、自然と音楽に触れる機会があったからです。

高校生の時にドイツへ留学した際には、言語の壁もあって、コミュニケーションが上手くとれませんでした。でも、現地の子がピアノを弾いていた時に一緒に連弾をしてみると、すぐに打ち解けて仲良くなることができたんです。「言葉が通じなくても、音楽があればコミュニケーションが取れるんだ」ということを、身をもって感じました。このように、音楽を通じたコミュニケーションに救われてきました。
一方で、演奏ができない人に「ピアノを教えて」と言われた時に、思うように教えることができませんでした。もっと非言語的なコミュニケーションで気持ちや意図を伝えたり、仲良くなったりできないかと考えるようになりました。音楽を、多くの人にとってのコミュニケーション手段にしたいという思いがパロトーン開発の原点です。
大学院での融合研究プログラムから誕生したパロトーン
大洞:大阪大学大学院でのプロジェクトから製品化に至ったということですが、どのような経緯だったのでしょうか?
三田氏:もともと脳の情報処理に興味があったので、大学院では生命機能研究科で学んでいました。ちょうど大学の研究者ネットワークを通じて他の学生とつながる機会があったので、音楽を通じたコミュニケーションについての勉強会を始めました。その活動の中で、「パロトーン」という音の配列アイデアが生まれたんです。共同創業者ともここで出会いました。
当時、大学院に融合研究の副専攻プログラムがあったので、その枠組みを活用してプロジェクトとして立ち上げました。研究費も獲得して、さまざまな分野の学生とともに試作を重ね、パロトーンが完成しました。

大洞:パロトーンはピアノの5倍の速度で習得できるという内容の論文も発表されているのですね。
三田氏:はい、英科学誌で発表しています。パロトーンとピアノで、同じ曲を演奏した場合の習得速度を比較してみると、パロトーンを使うことで初心者の習得速度がピアノの約5倍に達するという結果が得られました。ピアノでは、演奏時に目で鍵盤を確認する必要がありますが、パロトーンは手首を動かさずに指の位置を把握できるため、ブラインドタッチが可能になります。演奏する人は、楽譜に集中することができ、視線を楽譜と鍵盤の間で頻繁に移動させる必要はありません。このようなインターフェースの工夫で、認知負荷を大幅に下げています。

大洞:製品化するまでに、どれくらいの時間がかかりましたか?
三田氏:開発には3年半くらいかかっています。2019年に研究の一環として始めて、プロダクトになった2022年末からはクラウドファンディングで販売しました。1100台ぐらい売れています。
大洞:クラファンではどのような年齢層の方が購入されましたか?
三田氏:クラファンで支援してくださった方の半数以上が60代前後の方です。50代後半から60代にかけて「老後に新しい趣味を始めたい」という方が多いです。ピアノやギターに一度挫折した経験がある方でも、「もう少し気軽に楽しめる楽器」「持ち寄って一緒に演奏できる楽器」があればいいなというニーズがあるようです。ゲームモードもあるので、お子さんでも楽しんでいただけると思います。

手のひらサイズでコンパクな楽器パロトーン。
パロトーンは、人と人をつなぐコミュニケーションツール
大洞:今後はどのようなところへ販売、または協業していく予定ですか?
三田氏:楽器という観点だと、「挫折しない楽器」という観点で、ニーズがあるのではと考えています。楽器店や音楽教室、老人ホームや教育機関で使っていただけたらと思います。自治体やカルチャーセンターとも親和性がありそうです。
大洞:パロトーンの部活があっても楽しそうですね。
三田氏:大阪大学の学生団体a-tuneとは「ParoTone」を使い、世界中の学生たちと言語を超えた演奏会を定期的に行っています。2025年9月には大阪・関西万博の会場である夢洲のフェスティバル・ステーションで「e-Symphony in EXPO 2025 ~Music Unites the World~」という演奏会が開催されます。
2024年8月にはParoToneバンドを結成しました。20代〜70代までの幅広い世代で構成されていて、半分が楽器初心者です。関西万博では、4月にParoToneを使ったステージ発表を行いました。

ParoToneバンドのメンバー。関西万博でステージ発表を行った際の集合写真。
大洞:まさに三田さんが望むコミュニケーションツールになっていますね。
三田氏:パロトーンは製作自体が目的ではありません。パロトーンを通じた音楽での表現から、新たなコミュニケーションを生むことが目的なのです。
現在、パロトーンやピアノ、ギターなど、あらゆる楽器を含めて演奏をシェアし、交流できるようなプラットフォームの構築を模索中です。楽器の種類を問わず、誰もが自分の演奏をシェアができる「音楽版SNS」のようなものです。たとえば、ピアノを弾ける人が演奏をアップしたら、他の人が演奏を加えたり、他の楽器がアレンジを加えたりすることができる。そんな音楽を通じたコミュニケーションが生まれる、ハブのような存在を目指しています。パロトーンをはじめ、いろいろな楽器を通じて音楽を共有する中で、お互いの表現を理解し合い、新しい音楽が誕生していく、そんな場所ができればいいなと思います。
大洞:音楽が人と人とを結んで、新たなつながりや音楽が生まれれば、新しいコミュニケーション手段になりますね。本日はどうも、ありがとうございました!
取材を終えて 代表の三田氏は、誰もが挫折せずに音楽を楽しんで欲しいという想いで「ParoTone」を開発しています。実際に触らせてもらうと、鍵盤のタッチは軽く、片手で覆える最小限の鍵盤数なので、誰でも簡単に弾くことができそうだと感じました。「音楽でコミュニケーションできる世界」が実現するのが楽しみです。(事務局 大洞)