ルワンダIT人材とAI開発を推進、雇用創出により大卒失業率70%の社会課題に挑む:Ready to Bloom
- akiyo K
- 16 分前
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関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、株式会Ready to Bloom 西郡 琴音 代表取締役にお話を伺いました。
取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局)
長谷川 明代(生態会ライター)

西郡 琴音(にしごおり ことね)代表取締役 略歴
2000年生まれ。京都府出身。戦争や貧困問題を探る中でアフリカに関心を持ち、大学では植民地主義を研究する。2022年にケニアとトーゴを訪れた際、植民地支配の時代から根付く構造的課題に直面。努力量に関係なく貧困から抜け出せない現実に憤りを感じ、雇用創出での解決を決意する。卒業後はアジアに展開するデジタルマーケティング企業に就職し、国際的な経験を積んだのち、経済産業省主催の社会起業家アクセラレーションプログラム「ゼロイチ」に採択される。単身ルワンダへ渡航し、現地での調査を進め、ネットワークを広げる。「花開く、大きな可能性を持つ人材がいる」という考えのもと、ルワンダにてReady to Bloom Ltdを設立。2025年1月に日本法人として、株式会社Ready to Bloomを設立する。
アフリカのIT人材と、人手不足の日本とをつなぐ
生態会事務局 西山(以下、西山):本日はお時間いただき、ありがとうございます。株式会社Ready to Bloomの事業内容について教えてください。
西郡代表(以下、西郡):事業としては大きく3つあります。
1つ目は AI・DXコンサルティングです。単なる開発支援ではなく、企業の課題整理から入り、必要なシステム開発やデータ整備を行います。特にAI活用で課題となるのが、データ品質です。今、多くの企業が取り組んでいる「自動運転」においても、膨大な画像や3Dデータを正確にラベリングする必要があり、人材不足が深刻です。私たちは導入コンサルから支援し、業務を50%以上削減できる場合に限り、ご一緒することとしています。
具体的な作業として多いのは、AI開発に必要なデータ整備、ゲームのバグ検出、建築図面の3D化などです。これらに共通するのは、「作業量は膨大なのに人手が足りない」「人件費を十分にかけられない」という点です。私たちのサービスは、そうした状況に非常に相性がよく、強みを発揮できると考えています。
2つ目は サムボット事業です。エンジニア向けの業務支援ツールを開発中です。AIに任せると意図しない修正が起きやすいため、人が関わる体制をとっています。依頼はSlackで5つの質問に答えるだけで完結し、以降はエンジニアが対応します。作業承認時に利用料が発生する仕組みのため、安心して使っていただけます。また、機密情報を預からない作りとなっており、低コストで安全に利用できます。
3つ目は アフリカ進出コンサルティングです。「どの国に進出したら良いか」「安全性は大丈夫か」といった相談に対し、現地調査から商流構築、営業支援まで対応します。最近では、井戸関連事業のルワンダ進出を支援しました。アフリカ進出への関心は高く、常に多くのお問い合わせをいただいています。


大学での学びからアジア市場でのビジネス経験、単身ルワンダへ
西山:この事業に行き着くまでの経緯を教えてください。
西郡:「なぜ戦争はなくならないのか」という問いから始まり、大学では植民地主義をテーマとし研究をしました。「理解するには現地に行かなければならない」と現地に赴き、なぜ物事がうまく進まないのか、その理由が少しずつ見えてきました。今も、現地の経済が不利な条件に縛られ、人々の生活が苦しくなる状況が続いています。
アフリカの人々の努力や能力とは関係なく、構造的な要因によって教育の機会が奪われたり、戦争に巻き込まれたりしているということに、強い怒りを感じます。怒りをぶつけても何も変わらないので、一緒にできる人から状況を変えていこうと活動しています。
西山:なるほど。これまでのキャリアについても教えてください。
西郡:大学卒業後すぐにアフリカで働きたいと考えていましたが、課題があまりにも壮大で。まずはビジネス経験を積むため、シンガポール発のデジタルマーケティング企業に入社しました。「アジアで起こっていることは、10〜20年後にアフリカにも波及する」と言われており、広告やアプリ領域の業務に携わりながら、アジア市場の最前線を学びました。
経産省のアクセラレーションプログラムに採択されたことを契機に休職し、ルワンダへ渡航しました。会社側も理解を示してくれ、挑戦を後押ししてくれたのは大きな支えでした。
渡航後、首都キガリにて国際カンファレンスに参加しました。フランスやインドなどの企業が人材採用を行っており、多くの学生や若者が集まっていました。 会場で出会った学生から「仕事がない」という声を直接聞き、雇用の深刻な課題を実感しました。特に、参加者の8割がコンピューターサイエンスを専攻するなど、IT人材は豊富である一方、働く場が不足している状況が見えてきました。
長谷川:貧困の連鎖を断ち切るのは教育と考えていましたが、必死に勉強しても就職できない環境なのですね。
西郡:はい。ルワンダ大学(最難関大学)のICT学部を卒業しても、就職先がないとう状況です。ルワンダだけでも約30万人、サブサハラ・アフリカ全体では数千万人の若者が「高学歴でも就職先がない」という状況に置かれています。
長谷川:なぜルワンダだったのですか?
西郡:特に国を限定していたわけではありませんが、日本にルワンダ出身の友人が多かったこともあり、文化に親しみを感じていました。現地に行ってみると、秩序ある街並みや整ったビジネス環境に驚きました。ルワンダは英語圏で比較的安定しており、国民全体で月に一度清掃活動をするほど、環境美化にも力を入れています。想像以上に事業を進めやすい国でした。

アフリカと日本を繋ぐ架け橋に
西山:日本企業がアフリカ人材と業務をするのは、課題が多いと思いますが、どのように橋渡しをしているのですか?
西郡:ポイントは2つです。1つ目は、ブリッジエンジニアの配置です。日本向けの案件では、英語ができ、日本文化やデザインの好みに対応できる日本人スタッフを中心に据えています。要件定義を担うPMやデザイナーも日本人で構成し、現地エンジニアとの間をしっかり繋げる体制を整えています。これにより文化や言語の壁を超えて、日本市場に適した成果物を提供できています。
2つ目は、グローバル市場を対象とした開発です。ここでは日本を介さず、世界中の顧客から依頼を受け、チャット上でタスクを受注します。依頼内容は英語に翻訳され、ルワンダのエンジニアが取り組み、納品まで行います。開発言語自体が英語で共通化されているため、言語や文化の違いによる障害はほとんどありません。また、開発全体を丸ごと担うのではなく、一部のタスクを切り出して対応する形をとっているため、大きなリスクも回避できます。
さらに、AIとの役割分担も重要です。AIが得意な領域は活用しつつも、人間による最終チェックを必ず入れる仕組みにしています。AIは作業のスピードでは優れていますが、ニュアンスの違いを理解する力や、開発全体を通しての品質保証には限界があります。特にPDFの読み取りや比較、スライドやデザインの作成などはまだ弱いです。その弱点を人間が補うことで、品質を確保できるようにしています。

アフリカの才能を世界へ
長谷川:最後に、今後の展望を教えてください。
西郡:データアノテーション分野を担う世界的な企業から、アウトソーシング先として選ばれる存在になりたいと考えています。まずは京都を拠点に、周囲の企業様から信頼を得ながら事業を進めています。最終的には、大きなグローバルベンチャーのパートナーとして認められることを目標としています。
アフリカには優秀な人材が数多く存在します。日本をはじめ世界の企業と彼らを繋げることで、アフリカに雇用を生み出し、同時に人手不足に悩む日本企業の力にもなれると考えます。「アフリカの才能を世界へ届けるプラットフォーム」を作り、数万人、数千万人単位で雇用を生み出していきたいです。
長谷川:アフリカの雇用とIT人材不足、双方の課題を解決する取り組みをされるReady to Bloomの今後の発展を期待しています。本日はありがとうございました。

取材を終えて
「ハゲワシと少女」(1994年、スーダンの飢餓状況を訴えた写真)を幼少期に見てから現在に至るまで、想いを持ち続け行動する西郡代表。知り合いもおらず、行く当てもないまま、ルワンダへの飛行機に飛び乗ったという圧巻の行動力のみでなく、ルワンダのIT立国政策に可能性を感じ、AIの広がりの中で市場を見極める等、優れたビジネス感覚を併せ持つ。課題の本質をご自身の目で確認し、実行する、の連続で、着実に事業を前に進めており、Ready to Bloomの挑戦はどこまでも止まらないように感じる。社名:Ready to Bloomには西郡代表の「アフリカに眠っている可能性の花を咲かせる」という強い想いが込められている(ライター 長谷川)
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