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  • 執筆者の写真Seitaikai

昆虫食で食文化をより豊かに:昆虫食のentomo

更新日:2022年4月15日

関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。今回は、昆虫食の販売や教育事業を営んでいる、株式会社昆虫食のentomoの代表取締役 松井 崇(まつい たかし)氏に取材しました。

取材・レポート:近藤 協汰(生態会学生ボランティア)、垣端 たくみ(生態会事務局)


松井 崇氏とentomoのロゴマーク。この可愛らしいロゴは芋虫が由来だそう!

松井氏 略歴:慶應義塾大学理工学部卒業。重電メーカーや米系多国籍企業のエンジニアを経験。

糖質制限や古代食の実践中に昆虫食の魅力を知りentomo創業。学会発表や昆虫食イベント開催(50回以上)、メディア掲載(TV、NHKラジオ、新聞)など実績多数。

 

生態会 近藤(以下、近藤):この度は取材にご協力いただきありがとうございます。ではまず初めに、事業概要についてお聞かせください

株式会社昆虫食のentomo 松井(以下、松井):私たちが進めている事業は、大きく分けて昆虫食の販売事業と、教育事業に分けられます。


販売事業では、シアワーム™の卸販売や、「いもむしゴロゴロカレー」の製造販売、サバクトビバッタなどの昆虫を加工した卸販売、などを行なっています。特に「いもむしゴロゴロカレー」では、東大阪大学短期大学部の実践食物学科の学科長で管理栄養士の松井欣也教授

産学連携で開発しており、クラウドファンディングの目標金額50万円を達成しています。


教育事業では、昆虫食への理解促進を目的に、50回以上のイベント開催や、ワークショップ、試食会、親子参加の料理教室などを営んでいます。

また私たちは、科学リテラシーの向上にも力を入れて取り組んでいます。事実に基づかない言説に振り回されるのではなく、科学的データを正しく読めるように普及したいと考えています。特に地球温暖化、動物保護に関することは、科学的データに基づかない説に惑わされている人も多いんですよ。

「いもむしゴロゴロカレー」の試作開発中:左:松井欣也氏 右:松井崇氏

私たちが昆虫食事業を行なっている理由は、食糧危機やたんぱく質危機、環境問題の対策というより、「肉」の選択肢を増やすことで食文化をより豊かにしたいからです。この点で、他の昆虫食企業や次世代タンパク質企業とは異なります。 私たちはこの理念から事業を行なっており、昆虫食そのものの魅力を推進しています。


近藤:ご説明ありがとうございます。

いもむしゴロゴロカレーというレトルト商品の発売を予定されているとのことですが、なぜカレーなのでしょうか?


松井:これには3つの理由があります。1つ目の理由は、長期間の保存が可能ということです。携行性も高いことを考えると、災害時に活用できます。2つ目の理由は、栄養バランスが良いことです。カレーには炭水化物とタンパク質、水分も含まれているため、食事にもってこいなんですよね。そして最後の理由として、冷めても美味しいことが挙げられます。

これらから、カレーがベストかな、と考えました。


近藤:そのような理由があったんですね。では、商品に用いる昆虫について、なぜシアワームを選択したのですか?

松井:これからの昆虫食は芋虫が主流になっていくのではないかと考えたからです。昆虫の変態には完全変態と不完全変態があり、完全変態では幼虫→蛹(さなぎ)→成虫という段階を経ます。完全変態の昆虫は、成長に特化した幼虫と繁殖に特化した成虫と分業されているため、不完全変態の昆虫よりも効率的です。


今後昆虫食の理解が進み、養殖技術と品種改良が発展すると、完全変態の昆虫の幼虫・芋虫が昆虫食の主流になる可能性が高い。その将来を見据えて、 entomoのロゴのデザインは芋虫をベースにし、商品化第一弾に芋虫を選びました。また、普及版として、粉末による商品なども同時並行的に予定しています。


*シアワーム™とはシアバター(高級保湿クリーム)で知られるシアの木に生息しているアフリカの食用イモムシで、シアの木の葉を食べて育ちます。日本では知られておらず、日本名も無いため、創業者の松井さんが名前をつけたそうです。



シアワーム™を選択したもう一つの理由は、SDGsへの貢献です。

昆虫は多くのSDGsの項目に寄与しますが、 シアワーム™ は西アフリカの最貧国の女性団体から直接フェアトレードで仕入れています。現地の雇用創出と女性の地位向上、経済発展にも寄与し、更により多くのSDGsの項目に寄与します。


近藤:なるほど、SDGsにも貢献できるんですね。昆虫食の理解を進めるために、嫌悪感を減らしていくことが大事ですね。

松井:実は嫌悪感、というのは合理的な理由があるんです。欧米で古くから生卵は忌避されてきたのですが、なぜだかわかりますか?

近藤:うーん。命を食べるのは倫理観が・・・とか。

松井:卵自体は、普通に食されていますよ。

近藤:そうですよね。なら・・・菌ですか?

松井:その通りです。生卵にはサルモネラ菌があって、食中毒になりやすいんです。日本ほど衛生的ではないので、生卵や生魚は避けられてきました。食材に対する偏見は、こういった要因からも生じます。

昆虫食に対する嫌悪感というのも同じです。害虫には衛生害虫という区分が存在し、ハエやゴキブリなどの衛生害虫は病気の媒介などで損害を与えています。なので、都市化が進むほど、昆虫に対する嫌悪感が増すのは合理的なのです。

例えば、苦いものを食べた時には、しかめ面をしてしまいますよね?また、気持ち悪いものを見たときも同様の表情になる。これは、原理としては一緒なんですよ。苦いものには危険性がありますから、しかめ面というのは毒性などを避けるために発達した防衛本能と言えます。嫌なものや不潔なものを見たときも、毒物を避けるためにその本能が働くのです。

北海道民はゴキブリが苦手ではない、という話をよく聞きます。また子供のうちでは昆虫に対して抵抗がなくても、大人になるにつれて拒否反応を起こす、といったようなことがよくあります。これはなぜかというと、成長していく中で周囲の人間から影響を受け、後天的に嫌悪感を獲得してしまうのです。この特性も、ものすごく合理的です。周辺から情報を学ぶことで、自分が経験していない毒物などの知識が伝わるのですから。

それを踏まえれば、子供が昆虫食に嫌悪感を持たずに大人になる方法として、親御さんやメディアなどを含めた周囲の反応をポジティブなものに変えることも非常に有効です。周囲がポジティブであれば、周囲に影響されて子供もポジティブになり、嫌悪感を比較的持たなくなります。


それと同時に、昆虫食に用いる衛生的な昆虫と、街にいる不衛生な昆虫を分けていくことも重要です。工場などで品種改良を進めながら生産していくことで、安全・清潔で味も美味しい昆虫食を提供することができます。


あらゆる食材と同じように、技術の進歩によって昆虫食が経済的に合理的な選択肢となれば、徐々に嫌悪感も薄れ、エビやカニと同じ「普通の食材」として普及するようになるでしょう。


昆虫食のこれまでとこれから

近藤:なるほど。昆虫食のentomoさんが開催している、親子参加形式の料理教室もその一種ですか?

松井:まさにそのためです。はじめは、親御さんは恐る恐る口に運ぶんですが、一度食べてしまうと、次々と食べるようになっていきます。昆虫は偏見さえ取り除かれれば、エビと似たようなもので、怖くありません。


写真:親子参加形式の料理教室の様子


近藤:なるほど。料理教室を通して親子ともに知ってもらうことで、昆虫食に対する理解も早くなるかもしれませんね。


松井「食糧危機」や「タンパク質危機」の対策として昆虫食をはじめとする「次世代タンパク質」が注目されていますが、よほどのことがない限り日本で食糧危機は起きません。またタンパク質危機は、根本的な理論や前提条件から間違っています。30年以上前に「このままだと30年後には石油が枯渇する!」と石油危機が問題になっていましたが、未だ石油危機が起こる気配がないのと同じです。食糧危機もタンパク質危機も、昔からある危機を煽るビジネスですね。


 自然災害や戦争などで一部の地域で一時的な食糧危機が起きることがあっても、大規模な火山爆発や小惑星衝突、地球寒冷化、CO2濃度の大幅低下などによって植物の光合成に必要な光や気温、CO2濃度が不足しない限り、恒常的な世界的食糧危機が起きる可能性は極めて低いです。世界の人口はこの55年で2.4倍増加したのに対して、穀物生産は3.4倍、肉の生産量は約4倍に増えました。その結果、先進国も途上国も1人あたりの摂取カロリーも肉の消費量も増え、栄養状態が改善し、世界の貧困率は半減し、「人口爆発」が起きました。

 つまり原因と結果が逆。「人口爆発」によって「食糧危機」が起きるのではなく、食糧が増えたから「人口爆発」が起きたのです。「食糧危機対策」としての食糧増産が、さらなる「人口爆発」とそれに伴う「環境破壊」を引き起こしているので、「食糧危機」という考え方は根本的に間違っています。またアフリカを除く全世界はこれから日本と同様に少子高齢化が進んでいくため、IHMEは世界人口は2064年の97億人をピークに21世紀末には約88億人に減少すると予測しています。そのため50年後の世界では食糧危機よりも、現在の日本のような「少子高齢化」「人口減少」が問題視されるでしょう。


 「タンパク質危機」は、穀物供給量増加率よりもタンパク質需要増加率の方が高いことから起きると予想されていますが、これは市場原理から考えると理論的に起こりえません。なぜなら、例えば肉の需要増加に家畜飼料の供給が追いつかなくなることがあれば市場原理が働き、穀物の価格が高くなるので肉の価格も高くなる。その結果、肉の需要増加率が減ると同時に、穀物の供給量の増加率が増える方向に市場原理が働くからです。また万が一穀物の供給量増加に限界がきた場合は人口増加率が鈍化する方向に働きます。更に例えば途上国で経済発展に伴って肉の需要が伸びていることは確かですが、先進国の日本人が欧米人ほど肉を食べないように、途上国が経済発展しても食文化が欧米とは異なるので欧米人なみに肉、特に牛肉は食べないでしょう。つまり「タンパク質危機」は起きません。


 途上国で経済発展に伴う肉の需要増加は、人類が狩猟採集で栄養価の高い肉を食べるようになってから脳が3倍に発達したという進化の歴史を考えると、 自然の摂理です。肉と植物性タンパク質の需要は全く別物です。人間はタンパク質だけでなく動物性脂肪も必要です。

 しかし肉の需要増加を「タンパク質需要増加」と置き換えての「タンパク質危機」はミスリーディングですし、「危機」の定義が曖昧です。この50年で、世界の1人あたり肉の消費量は2倍に増加したのに、どの辺りが「タンパク質危機」なのでしょうか? ミスリーディングと定義が曖昧な言葉を使って、ありもしない危機を煽るのは問題です。

 こんな小難しいことを言わなくても、もっとシンプルに「肉は栄養価が高く、美味しくて体に良いから食べましょう。」でいいじゃないですか。肉が美味いのは、体に必要だからです。


 以上のように、「食糧危機」も「タンパク質危機」も起きることはないため、食糧危機対策やタンパク質危機対策として日本や先進国でわざわざ昆虫を食べる必要はありません。


 しかし昆虫は、人類が猿の時代から食べ続けてきた栄養価の高い「最高の肉」です。小さなお猿さんは昆虫が主食です。先進国では、昆虫食は経済合理性の低さから衰退しましたが、逆に言えば、昆虫食が経済的に合理的な選択肢となれば、日本でも「美味しいから」「食べたいから」という理由で昆虫を食べるようになるでしょう。これは日本で牛肉を食べる必要がないのに牛肉が食べられているのと同じです。豚肉や鶏肉、魚があるのに、わざわざ牛肉を食べるのは、美味しいからです。例えばステーキには牛肉、トンカツには豚肉、唐揚げには鶏肉のように、料理にはそれぞれの適した食材があります。そこに、日本食に昆虫という新たな選択肢が増えることによって、食のレパートリーが増えて食文化はより豊かになっていくのです。


 私たちのミッションは「人類誕生から700万年。現代人が失った野生を取り戻す製品・サービスを提供する。まずは人類が猿の時代から食べてきた最高の肉『昆虫食』から」です。現在は昆虫食をメインに扱っていますが、「いもむしゴロゴロカレー」以外にもすでに商品を企画しており、昆虫食以外の食材もいくつか予定しています。昆虫食を始め、様々な食品で世界の食文化を豊かにする。これが、私たちの目指す未来です。

 

(取材を終えて)松井さんの広範な知識に基づいたトークは、さながら講演のようで、ワクワクしながら聞くことができました。このように、人を惹きつける話ができることは、起業家に必要な素質の一つかもしれません。


また、取材中にコオロギ、バッタ、シアワーム™をいただいたのですが、食べてみるとエビと変わらず、昆虫食への嫌悪感を持っていたことが不思議に感じます。見た目についても、写真や動画とは異なり、実物で見ると意外に嫌悪感はありません。


自身の世界が広がり、ボランティアとして取材に関わっていてよかった、と感じる取材でした!(生態会 近藤)


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