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小規模農家の収益化と食品ロス削減を 実現する。20代の挑戦!

  • heartheart62
  • 23 時間前
  • 読了時間: 8分

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関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、廃棄農作物を賞味期限のないジェラートに変え、食品ロス解決と第一次産業の保護を目指し法人化した 株式会社フォレストバンクの代表、小林亮(こばやしりょう)さんにお話を伺いました。



取材・レポート:西山裕子(生態会事務局)

小林希実子   (ライター)

小林亮(こばやしりょう)氏 略歴

1996年生まれ、堺市出身。高校時代、祖母の住む宮崎で農業の規格外廃棄や後継者不足の問題を知り「農家を助けたい」と思う。高校・⼤学時代に日本全国の農家、世界15⼤陸を巡り、課題を理解。桃山学院⼤卒業後、都築電気に入社しITの知見を広げながら独学でデザインを学ぶ。退職後、ジェラート製造を習得。2024年、廃棄農作物を賞味期限のないジェラートに変え、食品ロス解決と第一次産業の保護を目指し法人化。持続可能な食の未来への挑戦を続ける。


廃棄される農産物が、愛されるジェラートに。

フードロスから生まれる、新しい収益モデルを構築。


生態会事務局 西山(以下、西山):今日はよろしくお願いします。画期的なアイデアに、ワクワクしています。まず、フォレストバンクさんの全体像について教えていただけますか。


左:小林社長、 右:西山(生態会)
左:小林社長、 右:西山(生態会)

フォレストバンク株式会社 小林代表(以下、小林):こちらこそ、ありがとうございます。当社フォレストバンクは、2024年7月に大阪・堺市で法人化したスタートアップ企業です。社員、パート、業務委託を含め、現在は約25名が在籍しています。堺市北区の「さかい新事業創造センターラボ」を拠点に、日本全国の農家から廃棄予定の農産物を買い取り、ジェラートやスムージー、ポタージュ、ジャムなどの加工食品をBtoB向けにOEM供給。今期の売上は約4,000万円、来期は1億5,000万円を目指しています。


西山:食品ロスの削減と農家の収益向上を両立されていると伺いました。詳しくお聞かせいただけますか?


小林:事業の核となっているのは、市場流通の規格に合わず廃棄される農産物を買い取ることです。それらをジェラートなどの加工品として再生する取り組みを行っています。ジェラートはアイスクリームとして分類されるため、冷凍保存が可能で、実質的には消費期限が存在しません。この特性を活かすことで、大量仕入れによる在庫リスクを抑え、計画的な販売が可能になります。結果として、フードロスを最小限にとどめると同時に、安定した流通スキームを確立できるのです。

また生産者にとっては、これまで流通の機会すら与えられなかった作物に新たな価値が生まれます。農業の持続性にも寄与できる。すなわち、フードロスの削減と農業支援という、二つの社会的課題の解決を両立させる仕組みです。



高校時代、祖母の街で見た現実が、人生を変えた。

こたえを求めて、世界を巡る旅へ。

西山:小林さんご自身は、どういった経緯でこのビジネスを始められたのですか。10代の頃から食品ロスに関心を持っていたそうですが…。


小林:高校時代に祖母が住む宮崎県を訪れた際、近隣の農家が、せっかく作った野菜でも規格外だと捨てていると知り、大きな衝撃を受けました。おいしいのに形や大きさだけで廃棄されるなんて、本当にもったいないと。同時に、後継者不足で廃業を考える農家も多いことを知り、日本の農業はこのままで大丈夫なのか?と強く感じたんです。


西山:大学時代には世界15カ国を巡り、日本の外で農業や食品ロスの現場を見て回られたと。


小林氏が訪れたモロッコの市場(小林氏提供)
小林氏が訪れたモロッコの市場(小林氏提供)

股われした規格外の人参。
股われした規格外の人参。

小林:曲がったキュウリでも普通に売る国もあれば、収穫後のインフラ不足で大量に腐ってしまう国もあるなど、ロスの形はさまざまでした。ただ、どこの国でも作っても売れずに廃棄されるのは生産者にとって辛いこと。日本の農産物が非常に高品質なだけに、規格外品を捨てる現状は余計にもったいないなと痛感しました。


休日は農家を訪ね歩き、平日はIT企業で働く。

捨てられる野菜に未来を託して。


西山:新卒でIT企業に入社されたのは、「将来の起業に向けてシステムやコンサルの知識を得よう」という狙いだったのでしょうか。

小林:まさにそれです。IT企業でシステムコンサルタントとして働き、ITの基礎を身につけながら、休日には日本各地の小規模農家を訪ね歩いて、どんな野菜がどれくらい捨てられているのかを調べていました。その後、冷凍保管で長期的に流通させられることに注目し、ジェラート製造会社に転職して技術を学びました。おいしい新鮮な野菜や果物をジェラートにしたら、見た目や大きさなんて関係ないという確信がありました。


農家に出向き、農作物の説明をうける。(小林氏提供)
農家に出向き、農作物の説明をうける。(小林氏提供)

西山:2024年7月にフォレストバンクを立ち上げられ、堺市を中心に事業を展開されていますね。堺は「ものの始まりは堺」と言われるほど、古くから商業や産業が活発な街ですが、その点はプラスに働いていますか。


小林:堺は歴史的に新しいものを取り入れて発展してきた土壌があるので、スタートアップの受け入れ体制も柔軟。行政や支援機関とのつながりもつくりやすく、全国の農家や企業との連携にも利点があります。とくに「さかい新事業創造センターラボ」に拠点を置くことで、さまざまなアドバイスを受けながら順調に成長させることができています。地元出身の立場として、ここから新たな産業を生み出せることは誇りです。



三つの工場をフル稼働して、BtoB向けOEMの販路を拡大中


ジェラートの製造風景。     (小林氏提供)
ジェラートの製造風景。     (小林氏提供)

西山:堺市北区の本社だけでなく、高石市や堺市内にも工場を構えているそうですね。主要事業はBtoB向けOEMとのことですが、どんな形で製造・卸を行っているのですか。


小林:工場ではジェラートやスムージー、ポタージュ、ジャムなどを製造し、道の駅や大手ホテル、チェーン店への卸しや、オリジナルフレーバー開発のOEMを請け負っています。たとえば地元野菜を使sったごジェラートを作りたいというお客様がいれば、企画段階から一緒にレシピを考えて、最終的に大量生産して納品するイメージですね。冷凍で長期在庫できる利点を生かして、徐々に販路を広げているところです。


西山:「野菜入りジェラートなんて本当に売れるの?」と思う方もいるかもしれませんが、意外に人気があるとか。


小林:そうなんですよ。トマトやカボチャは自然の甘みが出ますし、ニンジンやビーツは色合いも鮮やか。果物と組み合わせれば、フルーティーさと野菜の栄養価が同時に楽しめるのでリピーターが増え続けています。実際、一部の道の駅では大手アイスクリームブランドを上回る売れ行きを見せていて、正直うれしい誤算でしたね。


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つくる人が報われる仕組みを。

農家の収益を守る「買い取り制」という選択。


西山:買い取りという仕組みをとっている理由は、やはり農家の負担を減らすためでしょうか。


小林:そのとおりです。通常の委託販売だと、売れ残りリスクを農家が負わなければいけませんが、私たちは「在庫リスクはこっちが負うから、作物を買わせてください」と明確にしています。ジェラートなら冷凍ストックが効きますし、追加で売り先を探す時間がある。何より形が悪いだけで捨てざるを得ないというのは農家にとって辛いはずなので、そこを取り払いたかったんです。結果、「廃業寸前だったけれど、これなら続けられる」と言ってくれる方もいます。


西山:来期は売上1億5,000万円を目標にされているとのこと。どのような戦略で達成していくのでしょうか。


小林:まずは関西を中心にOEM案件を増やし、工場稼働率を上げつつ営業利益を確保することです。そのためには、銀行融資やVCからの出資も検討していますが、農家んからの買い取り価格をむやみに下げるつもりはありません。「農家支援×フードロス削減」が当社のコアミッションですから。長期的には東南アジアなど海外展開も考えています。世界各国で同様のロスや後継者不足の悩みがあり、日本の高い加工技術ならかなり貢献できると思っています。


西山:興味深いお話を、ありがとうございました。最後に、小林さんがフォレストバンクを通じて描く理想の未来を、教えていただけますか。


小林:「見た目が悪いから捨てる」「売り先がないから作れない」という理由で、農家が希望を失う現状をなくしたい。新しい流通と加工技術を広めることで、若い世代も農業を誇りの持てる仕事だと感じられるはずです。堺には古くから産業や技術が芽生え、発展していく土壌があります。ここから全国、そして海外へとモデルを広げ、フードロスと農家の後継者問題を同時に解決していきたいですね。


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取材を終えて

高校時代に感じた素朴な疑問から始まり、国内外の農家を訪ね歩き、さらにはジェラート製造の技術まで身につけてしまう小林さんの行動力に、まず驚かされました。そのエネルギーから生まれた「フォレストバンク」は、規格外の野菜や果物を価値ある商品に変える、まさに実践型のサステナビリティビジネス。

売れなかった作物が農家の収益になり、提供側にとっては地域の魅力を伝えるユニークな商品に。さらに消費者にとっても、新しいおいしさとの出会いになるという「三方良し」の構造に、とても惹かれました。

堺という、イノベーションを受け入れる文化が根づいた土地から始まったこの挑戦が、食品ロスと農業課題という日本の大きなテーマにどう切り込んでいくのか。年商1.5億円、そして海外展開に向けて歩む姿勢に、大きな期待を感じました。

(ライター 小林希実子 )


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