• 西山裕子

時速5㎞のモビリティに革新的な価値を:ゲキダンイイノの低速モビリティサービス「iino」

関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。今回は、時速5kmで動くモビリティサービス「iino」を運営をされている、関西電力の社内プロジェクトから誕生したスタートアップ、ゲキダンイイノ合同会社、代表の嶋田悠介様にお話を伺いしました。

乗る人を楽しませることを生業とすることから社名を「ゲキダン」と称し、代表である嶋田様は座長と自称されています。


取材:西山 裕子(生態会事務局) 大西 亜依 (学生ボランティア)


 

座長 嶋田悠介氏 略歴

1983年生まれ。2009年、関西電力に新卒で入社。経営企画部で中期経営計画策定などに従事した後、若手を中心にした社内の新規事業創設部門を立ち上げ、自身も2016年から専属となる。


2020年2月ゲキダンイイノ合同会社設立。2020年10月モビリティサービス「iino」をリリース。


 

新たな考えは非公式の時間から


生態会 大西(以下大西):本日はありがとうございます。まずは立ち上げのきっかけについてお話しいただけますか。


ゲキダンイイノ合同会社 嶋田氏(以下嶋田):私は2009年に関西電力に入社しましたが、震災以降の電力会社の売り上げは右肩下がりでした。そのため、新しい事業を立ち上げるためイノベーション組織運営に携わりました。


当初は、大企業の中で新規事業を発足できるということでワクワクしていましたが、実際は毎週上司と打ち合わせするのみで、活動に進展が無く、うまくいく気がしませんでした。

その時に、関西電力の若手有志から結成された社内ネットワーク「k-hack(ケイハック)」を知り、業務外活動に目を付けるようになりました。非公式の時間は課題発見やコンセプト、事業モデルの議論に遊びを含めむことができ、思考錯誤がたくさんできます。既存の事業部であるとコストパフォーマンスが求められるため、新たなアイデアが考案しにくいです。


元々は、上司からEVに関わる新規事業を立ち上げるように言われていました。しかし、結局はEV=電気を売るという発想に帰着してしまうんです。EVで考えると新しいアイデアが思い浮かばなかったので、抽象度を上げてモビリティサービスでの新規事業を考え始めました。


着想は"ごみ収集車の兄ちゃん"

嶋田:iinoの着想はごみ収集車の後ろに乗る兄ちゃんです。

これは幼少期の実体験ですね。ゆっくり動く収集車に自由自在に掴まって乗り降りをする従業員の兄ちゃんがとても魅力的に感じませんでしたか?


大西:確かに、とても楽しそうだなと思っていました。


嶋田:そうなんです。ひょいと乗り降りができる自由度がとても羨ましかったんです。

そこから、時間や時刻表の概念の無い、自由に乗り降りできるモビリティを作ろうと決意しました。モビリティを作るにあたり、フィリピンのジープニーや市場のターレットトラックを参考にしました。業務外にターレットトラックを借りて、実際に乗り物としての優位性を確かめる実験も行いました。



製作所の中で

そして、試作ではランニングと同じ速度の時速7㎞で大学構内で走らせる実験を行いました。すると、みんな「怖い」と言って誰も乗ってくれなかったんです。モビリティが曲がるときには遠心力が強くかかるため、バーにしがみつく人もいました。

改良を重ねる同時に時速を徐々に落とし5㎞で構内を走らせてみました。すると試乗してくれる人も増加しました。両手を離して会話をしたり、コーヒーを飲んだりと楽しんでもらえました。感想の中に「こんなところに緑あったっけ?」「乗るとボーっとしてしまう。」「コーヒーがおいしく感じた。」と声がありました。これらの感想から”遅くて近い距離の乗り物”にも新しい価値が眠っているのではないかと考えました。それは現在追及され続けている”便利”とは大きく異なります。


日常に馴染むtypeSとラグジュアリーなtypeR


嶋田:そして長い開発期間を経て、新しい移動手段のモビリティが完成しました。用途に応じるため2種類を作りました。typeSとtypeRです。

typeSは段差が階段1段分で乗り降りしやすいモビリティです。さらに人を認識して減速もできます。イメージとしては動く歩道です。これは大型都市の中で、駅から病院を自動で走らせています。



生態会 西山(以下西山):この乗り物は誰が操縦しているんですか?


時速5kmの世界を味わいました

嶋田:複数のレーダーを使って動かしています。特に3D LiDARを使って3Dの地図を作成し、内蔵されているコンピューターに認識されて動かしています。自動運転のべーズとなる技術を使用しており、人の操縦よりも寸分の狂いもなく動きます。


もう1つがtypeRです。寝転びながら非日常的で特別な空間を楽しむことができるタイプです。もともと開発していたわけではなく、typeSの開発中に、ふざけて寝転びながら移動していた時に誕生したものです。「世界ってこんなに美しかったっけ」という自分たちの感想から着想しました。そのため、「星空を見ながらモビリティを走らせる」というテーマにしました。

ソファーにもこだわっていて、どの角度だと心地が良いかを何度も検証しました。

リリースして間もないですが、宇都宮の大谷石採石場跡地で、ポイントでコースのディナーを提供するイベントを行いました。満員となり、今年も開催することになりました。


宇都宮の大谷石採石場跡地での記事



「iino」の目指す未来

大西:将来の展望について教えてください。


嶋田:今後は、社会課題解決に向けたモビリティサービスを取り組んでいきます。

現在、ウォーカブルシティーと言って、自動車中心の街ではなく人間中心の街にしていこうという動きがあります。一方でウォーカブルシティーには歩き疲れや回遊率などの課題も多く挙げられます。社会実験も近年活発に行われています。その中のモビリティとして社会実験も進めています。日本は道路交通法が、近年大きく変化しました。デリバリーロボや立ち乗り用の歩行機械の法整備も整ってきたので、狙い目ではあります。

また、バックヤードではモビリティを制御し、管理することも関西電力として取り組んでいきます。


西山:本日は、貴重なお時間をいただきありがとうございました!



type S と type R (画像はゲキダンイイノ社より提供)


 

取材を終えて

嶋田様、児玉様、北田様にお話をお伺いし、座長、劇団員としてのそれぞれ違った「iino」に対する熱いお話を聞かせていただきました。

実際にtypeSを動かしてもらい、試乗もさせていただきました。乗り降りする速度や角度から細部までこだわっておられることが分かりました。

坂道も軽快に走行する「iino」は道の草木や天気を再発見できる、とても心地良い体験でした。


今後の低速モビリティサービスの活躍がとても楽しみです。


(学生ボランティア 大西)