関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家。今回は保育と教育をワンストップで提供する、株式会社Gloridgeの代表取締役・橋本誠人さんをご紹介します。
お子さんの誕生を機に、「学校が楽しくなかった」という過去を思い出し、「学ぶことが楽しいという体験を子どもにプレゼントしたい」と強く願うようになった橋本さん。様々な場所を探したものの、ご自身の理念に合致し、ニーズを満たしてくれるところはなかった。「ないなら創ってしまおう」と勤めていた大企業を辞め、グローリッジキッズスクールを開設された橋本さんに、幼児教育への思いと、事業を通して実現したい夢を伺いました。
取材・レポート:池田奈帆美(中小企業診断士・生態会事務局)
池田:私事ですが、昨年姪が生まれて、幼児教育への関心が人生最高潮に高まっている時期なんです。今日はお話を伺えるのを、とても楽しみにしてきました。
株式会社Gloridge代表取締役・橋本誠人氏(以下、橋本):この事業は、妻と一緒に子育てしていた、2018年8月に決意したんです。9月末に会社を退職して、約4ヶ月間で開設準備をして、2019年2月にスクールをオープンしました。
池田:すごいスピード感ですね。
橋本:実は、勤めていた企業の中で、新規事業のアイデアを発表するコンテストがあって、そこで現事業の大枠をプレゼンし、けっこう評価されていたんです。けれど、会社の後押しがあっても、会社主導のスケジュールで動かないといけないし、私自身が担当できるとは限らないと言われて。それならいっそ自分でやってみようと。
池田:目の前にふと来た流れに乗った、という感じでしょうか。そうした橋本さんの肩肘張らない自然さが、このスクールの自由で伸び伸びとした雰囲気に表れている気がします。
橋本:教育には色々な側面があると思いますが、私は、幼児期に大切なのは、学ぶ楽しさを知ることだと思うんです。現在スクールでは、ピアノやバレエといった身体を使うものから、プログラミングやそろばん、英語など、頭脳を使うものまで約20種類のプログラムを提供していますが、先生たちには、決して「上達すること」を目的にしないようにお願いしています。子どもたちが「それってどういうこと?」「どうしたらうまくいくかな?」と考える好奇心を育てたいんです。
橋本:「知りたい」「学びたい」「成長したい」というのは、人間が生まれながらに持っている欲求。けれど一般的な教育の指標はテストの点数。「学習」というインプットは、自分を幸せにして、周りを幸せにするための行為なのに、それを計るアウトプットがテストの点数というのは、非常に矛盾があるとずっと思ってきました。人は「評価」に目が行きがちだから、詰め込み型の教育が増えるのは、ある意味当然なわけで。
池田:“学ぶ楽しさ”を教える余白が、今の社会にはない、と。
橋本:学校が悪いとか、社会が悪いとか言うつもりはまったくなくて、社会がそういう構造なのだから仕方ない。むしろ、思いを持っている教育者が一番もどかしい思いをしている。それなら、自分で今までになかった新しい教育の場を作れたら、それが教育を変えていくきっかけにもなるんじゃないかと。
池田:問題と感じたら自ら変えてみる。ないなら自分で創る。これぞ企業家精神ですね。
橋本:グローリッジの重要な経営資源は、私の思いに共感していただき、子どもたちを評価をすることなく、楽しみ方を教えてくれる専門家の先生たちです。「分からないことが分かるようになると嬉しい」「昨日までできなかったことができるようになると嬉しい」。そういう素直な喜びを幼少期に体験することで、人は指示されなくても学習し、自然に学力向上と知力向上が達成できる。学ぶ楽しさを知っている子どもを一人でも多く育てたいというのが、この事業を通して実現したいことです。
大阪市内の真ん中に200㎡の空間を用意し、子どもたちが伸び伸びと学べる環境を整えた
池田:開所から1年で利用者は70名まで増えました。今後のビジョンを教えて下さい。
橋本:グローリッジのもう一つの強みは、保育園からここまでの送迎と、レッスン終了後の自宅までの送迎をセットにして、最大22時までの預かり保育も実施していることです。共働き世帯がこれだけ増え、今後もさらに増えていくのに、働きながら良質な子育てができる環境は、まったく足りていない。今は大阪市西区に1事業所だけですが、今後増えていくニーズに対応するためにも、多店舗展開を早期に実現したいと考えています。
池田:そのためにクリアすべき課題があれば教えて下さい。
橋本:一つ目は、理念を共感できるスクール長人材の方と出会うこと。これは私自身が色んな場に出て人材獲得をしていこうと思っています。二つ目は、うちはご両親やお子さんのニーズに合わせた柔軟な送迎体制とレッスン調整が強みとしているものの、現状は私がエクセルで調整している状態なので、効率化するためにシステム開発をする予定です。三つ目は、フランチャイズ展開も見据えて、理念が希薄化しないような仕組みづくりです。
池田:子どもには学ぶことの楽しさを知る場所となり、共働きの親には安心して良質な教育の一端を担うパートナーとなる。そして、思いをもった教育者には「子どもの可能性を広げる」というやりがいを提供できる。さらに、企業としてはこの概念を広めることで、社会を変える先駆者となる。三方良し、を超えた四方良しのビジネスモデルですね。
橋本:鉄道会社やデベロッパーが、教育と子育ての両立を応援する街づくりを検討していると聞いているので、そういった企業とタイアップしけたらいいなと考えています。質の高い幼児教育の普及に共感していただける事業パートナーを見つけることが大切だなと。
池田:課題も明確で、社会的意義も高い事業だと心から共感しました。良質な幼児教育は、日本の未来に不可欠だと思います。頑張ってください!
取材を終えて池田より
「学校が面白いと思えなかった」と語る橋本さんだが、進学した先は、東京大学。大学卒業後は日本を代表する大企業で勤務した。ご自身に教育経験はないものの、子どもへの熱い思いと、企業で培った事業推進力をフルに発揮して、日本の幼児教育に新風を吹き込んでくれる方だと感じました。大阪はもともと多様な個性を面白がり、受け入れる懐の大きな土地。そんな風土の中から新しい事業が生まれ、これから成長していくと思うと、とてもワクワクするインタビューでした。
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