行動科学×AIで人の意思決定や行動をアップデート!ウェルビーイングな社会に:Godot
- 敦志 中野
- 2025年8月8日
- 読了時間: 11分
更新日:2025年11月25日
関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、行動科学に基づいたAIシミュレーションによって、社会課題の解決を目指す株式会社GodotのCTOで、共同創業者の鈴井豪さんにお話を伺いました。
取材・レポート:大洞静枝(生態会事務局)、中野敦志(ライター)

森山 健(もりやま けん)氏 (CEO)略歴
神戸生まれ、シアトル育ち。ゴールドマン・サックス投資銀行部門に新卒入社。オックスフォード大学客員研究員などを経て2022年7月にGodot設立。
鈴井 豪(すずい ごう)氏 (共同創業者&CTO)略歴
米国のUCバークレーやジョージア工科大学でAIやデータサイエンスを研究。GovTechスタートアップのチーフ・データ・サイエンティストを経て、Godotを共同創業。
■競合のいない行動科学とAI技術の融合
生態会事務局 大洞(以下、大洞):本日はお時間をいただき、ありがとうございます。はじめに、御社の事業内容についてお聞かせください。
「Godot」鈴井 豪 氏(以下、鈴井氏):弊社は2022年7月に創業して以来、行動科学とAIを結び付けた独自の先端技術を元に、お客様のニーズに合ったソリューションを提供している会社です。また、独自の技術を守るために、知財戦略にも大変力を入れているのが私たちの特徴です。
現在、この独自のコア技術を使い、予防医療の促進や、お客様企業の従業員エンゲージメントを高める取り組み、沖縄読谷村における公共政策への活用推進などを行っています。
それと並行して、会社設立の早い段階から、海外への進出も積極的に行っています。オーストリアのウィーンで、研究開発拠点の会社を設立し、2024年以降はアメリカのアクセラレーターへの参加、また、ASEAN地域でも官民系の支援を受けながら進めています。
複雑化し、多様化した現代社会だからこそ、行動科学×AIという、人間の本質にアプローチする独自の技術は、マーケットに依存せず幅広く、それぞれのウェルビーイングを高める取り組みに焦点を絞って、ソリューションとして提供できるのです。

大洞:AIの技術開発についての取り組みや、特徴を教えてください。
鈴井氏:AI技術自体は、弊社内でしっかりと開発体制を組んでいます。私たちの特徴となる行動科学については、弊社のメンバーに大学院で専門に学んだ者もいますし、イギリスの大学において、行動科学の領域で著名な教授陣と定期的にディスカッションさせていただき、知見をいただいています。
大洞:行動科学とAIという組み合わせは珍しいと思うのですが、国内で競合はいますか?
鈴井氏:行動科学とAIの統合のあり方という観点で技術的な独自性を持っていて、国内では競合はいないと思います。ただ、お客様の課題を解決するという点では、使うビジネスモデルや技術は違いますが、他社との競合はあります。どの観点で競合かということにもよりますが、技術面では知財や特許戦略をしっかり組み立てているので、独自性があると思います。
■行動科学の活用とは!?
大洞:行動科学の知見をどう生かしているのか、御社が取り組まれた案件で、具体的に教えていただけますでしょうか。
鈴井氏:例えば、大阪市での予防医療促進の案件については、まず現行施策の診断を行動科学とAIによって分析しました。
大腸がん検診を勧奨するという事案だったので、「この取り組みが行動科学的に効果的か?」という観点から診断をスタートしました。分析した結果、2つほど大きな課題が出てきました。ひとつは市民に課せられたアクション数が多いという課題です。検査キットを受け取り、提出するまでのアクションにおいて、直接窓口でキットを受け取る、ということが行動する障壁になっていることがわかりました。行動科学の用語では、こうした行動のしづらさを「摩擦」と呼びます。行動に至るまでの摩擦が高すぎることが、受診率向上の妨げになっていたのです。
もうひとつは市民へのメッセージが個別化されていないことです。それまでの流れは、ヘルスケアの細かいデータを使い、リスクを周知することが大前提となっており、個々の動機に寄り添った内容にはなっていませんでした。ですが、人の行動理由は1つではありません。「無料になったから行く」とか、「周りの人が行くから自分も行く」、といったリスク前提の理由ではない方もおられます。そのような動機で受診を考える人には、「高リスクである」というメッセージはなかなか響かないでしょう。そこで、人間の行動原理に基づいたメッセージを個別に設計し直したところ、成果がでました。このように、行動科学をベースに最後のひと押しを行い、ウェルビーイングの向上を目指す取り組みをしています。

生態会ライター 中野(以下 中野):行動科学分析の元となるデータは、どうやって取得するのですか?
鈴井氏:私たちのお客様が保有しているデータも使いますし、データそのものが手に入らないこともあります。たとえば、ある事業設計において、「この段階で社会的に弱い立場の人たちは行動を止めてしまう可能性が高い」といった予測を立てることができます。個別データがなくても、行動パターンをシミュレーションによって特定し、アプローチすることができるのです。処理自体は行動科学のAIに基づいて実施していきますが、収束性や学術的な知見などの理論的な確認に加え、弊社のメンバーの判断も入れながら、進めていきます。
それが後ほどご説明しますが、AIMS(AIマネジメントシステム)につながってくる大切なポイントになります。私の専門がAIなので、どの部分がAIではまだまだ成熟していないか、ということもわかっています。
AIを提供する会社として、説明責任を果たす上でも、信頼性を担保するためにも、必要な場面ではしっかりと、人の目を入れるようにしています。また、ソリューション設計の段階であえて、人の目が通る設計にすることも、意識しています。

中野:御社が仕事を受けるときの判断基準はどうでしょうか?
鈴井氏:ウェルビーイングに関わるもの、特に心身の健康、家計の健康、組織の健康という分野には重点的に力を入れております。逆に、これは絶対にやらないと決めているのは、買いたくないものを売りつけることです。その判断も含め、ソリューション提供先の方々のウェルビーイングが、向上するものになっているか否かが、最終的な判断になると思います。
中野:ウェルビーイングとなるための行動変容には、内的な動機付けを喚起することが重要だと思いますが、いかがでしょうか。
鈴井氏:もちろん、内的な動機付けも大変重要です。ですが、大阪市での予防医療促進の事例でいうところの、手続きを減らしたり、「自ら検査キットを取りに行く」から、「郵送する」に変えたりというような、外部から周りの環境を変化させるアプローチも必要です。
仕事を受けるときの基準としまして、弊社では「包摂性」をプロダクトバリューに掲げており、一人ひとりが尊重され、活かされる環境づくりに貢献できているかどうか、が大事なポイントになるかと思います。
■スタートアップとは思えぬ組織の連携力と管理能力
大洞:実は御社について、アポイントを取る段階から、組織力の盤石さのようなものを感じておりました。チームビルディングで意識されていることはありますか?

鈴井氏:自分たちではあまり意識をしていないので、そう言っていただけて初めて気づきました。組織開発については、人事を管掌するメンバーの下(しも)というものが専門で意欲的に取り組んでおります。
弊社には、経験豊富で専門性の高いメンバーが参画してくれています。
また、CEOの森山が、アメリカで育ちで、アメリカやヨーロッパのスタートアップのスピード感を基準と考えているので、その影響かもしれません。
私自身も大学院からアメリカにわたり、弊社ではヨーロッパ子会社の設立から現地法人の代表も担いました。GodotのCTOですので、AIに関しては社内で突き抜けて詳しいとは思いますが、それ以外の部分に関しては、他のメンバーが持つ強みや専門性に助けてもらっています。個の力を生かすための組織力、ということは意識しています。
大洞:5月に取得された、AIマネジメントシステムの国際認証について教えてください。国内初とお伺いしています。
鈴井氏:ISOという国際規格の中でも、AIマネジメントシステムに関する規格は、2023年12月に発行されたばかりの非常に新しい規格です。ひとことで言うと、AIを「使う企業」、「つくる企業」、「提供する企業」が、AIのリスクをしっかりと把握し、リスクがあれば必要な対策を講じるという国際的なフレームワークです。それをしっかりと規格として整理したものが、国際認証制度の「ISO/IEC 42001(AIMS)」です。AIマネジメントシステムは、必ずしも、技術的なものだけではなく、AI利用ルールやAI研修なども含めて、組織のAIガバナンスとしてのリスクコントロール全般をいいます。つまり、AIに関するリスクコントロールすべてが、AIマネジメントシステムです。
AIマネジメントシステムの認証自体は、国際的にも事例は少なく、正解もわからない中、取得に関しては全くの手探り状態で、本当に苦労しました。監査する側も、日本での監査員もまだまだ数が少なく、審査会社のSGS社のヨーロッパから、監査員に来日していただいき、すべて英語で対応しました。

大洞:AIマネジメントシステムの国際認証を取得したメリットはなんですか?
鈴井氏:この認証を取得するメリットとしては、国際的な基準に沿ってリスクを管理しているAIだと第三者から評価される点にあります。外部機関の監査を受けたうえで、客観的にリスクコントロールがなされていると証明されることは、クライアントからの信頼につながります。
私たちは、早くから海外への進出を意識して、ビジネスを進めてきました。特にEUではすでに、AIマネジメントシステムを持っていることが、取引の上で前提になっているケースもあります。早くから取得する必要性は、感じていました。ただ、日本初であることについての必要性は、社内でも議論になりました。しかし、弊社のバリューと照らし合わせても、私たちはAIをただの先端技術ではなく、人々のためになる社会技術としてしっかりと実装していくという理念があるので、必然的に取得するという決断に至りました。
将来的には、情報セキュリティマネジメントにおける「ISO/IEC-27001(ISMS)」と同様に、「AIマネジメントシステムを取得していなければ取引できない」といった企業が出てくる可能性もあると考えています。現時点では多くの企業が様子を見ている状況ですが、今後は国際規格としての普及が進み、日本でも広く認知される規格になると考えています。
■尖ったこと、面白いことにもチャレンジ
大洞:今後の展開について教えてください。
鈴井氏:まずは重点領域と考えている、「心身の健康、家計の健康、組織の健康」の分野で、現在提供させていただいているソリューションに関して、安心安全でお客様の期待に沿った開発を進めていくことが重要だと考えています。
また、AIマネジメントシステム国際認証の取得を足掛かりに、知財戦略をとることも、自分たちを守る意味で重要な施策と考えています。それと、早くから取り組んでおります海外戦略。現在3拠点での研究開発と事業推進を進めていますので、それをやりきることです。いずれも、技術開発を含めて、すべての施策を、着実に積み重ねていくことが重要だと感じております。
さらに、研究開発として、尖ったこと、面白いことにもチャレンジしていきたいと考えています。実は現在、オーストリアにあるArs Electronica(アルスエレクトロニカ)というメディアアートテクノロジーの研究機関と一緒にプロジェクトを進めています。どういうものかと言いますと、ヒューマンAIインタラクションという、これから将来避けて通れないであろう、人間とAIの理想的な関わり方、というテーマについて研究しております。そこに行動科学の知見を活かしていこうと思っています。将来、重要になるであろう技術開発にも取り組んでいます。これは秋頃にはお披露目できる予定です。
大洞、中野:それは楽しみです。本日はありがとうございました。
取材を終えて
AI技術の発展は、「シンギュラリティ」という未知の世界を予感させます。それはややもすると、機械による人間支配というネガティブなイメージをもたらします。しかし、鈴井CTOの話からは、AIと人間の共存を追求する、非常に人間らしい感性を感じることができました。単なるマーケティング的な外発的動機付けに終始せず、行動科学、特に人間の内発的動機付けを分析する知見を核に、人々の行動変容を促し、社会課題を解決する。そこには人の目、感性、経験に基づいた倫理性を常に担保する設計思想が貫かれています。
(ライター 中野敦志)



コメント