関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、使用済みの使い捨てカイロを再利用して製造する、「GoGreenCube」を通して水質改善活動を行う、株式会社GoGreenGroupの代表取締役、山下崇さんにお話を伺いました。
取材・レポート: 橋尾日登美(生態会 事務局)/
濱本智義(学生スタッフ)
山下崇(やましたたかし)代表取締役 略歴
1974年生まれ。両親からコンビニ経営を継ぐが、毎日排出される廃棄物の多さに罪悪感を抱く日々を送る。とある出来事をきっかけに、使い捨てカイロの再利用について調査を開始。東京海洋大学の佐々木教授による「使用済み使い捨てカイロを活用した水圏環境改善の研究」の記事に出会い、「GoGreenCube」の共同開発を始める。2018年、友人や知人の協力で集めた資本金1000万円超を元手に「GoGreenGroup」を法人化。「地球を喜ばせて、世界を喜ばせる」をミッションに掲げ、身一つで世界を駆け回る。
■カイロを再利用することで、地球の水が綺麗になる?
生態会 橋尾(以下、橋尾):まずは、事業概要を教えていただけないでしょうか?
GoGreenGroup株式会社 山下代表取締役(以下、山下):使用済み使い捨てカイロの回収・加工および、それを原料とした「GoGreenCube」の製造・販売に従事しています。このGoGreenCubeは、水中のヘドロを分解し、農薬などの混ざった水を綺麗にする効果があり、これを使って地球上の水を綺麗にする取り組みを行っています。
生態会 濱本(以下、濱本):使い捨てカイロから水を綺麗にするCubeが生まれるんですね!どういった仕組みなのでしょうか?
山下:使い捨てカイロに含まれる二価鉄イオン(Fe2+)が、海洋に蓄積しているヘドロと反応することで、ヘドロを無害化し悪臭を抑制、そして水質を改善するという仕組みです。東京東洋大学佐々木教授率いる研究チームとの共同研究で、「GoGreenCube」の効果の実証に成功しました。
濱本:使い捨てカイロは環境に悪いというイメージを持っていたのですが、地球に優しいものに生まれ変わることができるのですね!
橋尾:GoGreenCubeは実際にどのように使うのでしょうか?
山下:綺麗にしたい水場に基準量のCubeを定期的に投入するだけで、水を綺麗にすることができます。流水の場合は、水10Lに対して週に1回10gずつ投入することで、3ヶ月ほどで綺麗になります。池などの閉鎖された環境では、10分の1以下の量で済みます。下記の写真は、実際にCubeの効果の検証に利用された6000L(横3m×縦2m×深さ1m)の池です。週に1回約50gのCubeを入れることで、3ヶ月ほどで写真のように綺麗になりました。
濱本:水に透明感が...!すごいです!
橋尾:Cubeを投下するだけなので、手間もかからず良いですね。少し気になったのですが、なぜ粉末のままではなく、わざわざ固形に加工しているのでしょうか?
山下:効率的に水質を改善するためです。川などの水の流れがあるところでは、粉末のままだと簡単に流れてしまって、水質改善の効果が薄れてしまいます。また固形にすることで、狙った位置に投下しやすくなるというメリットもあります。このGoGreenCubeの開発には、一年間丸々かかりました。
橋尾:なるほど、そのような工夫があるのですね。収益はどのように得ているのでしょうか?
山下:ECサイトでの通信販売とスポンサー費を中心に収益を上げています。販売先は釣り堀運営者などの事業者さんから、自宅の庭や地域の川を綺麗にしたい個人の方まで、幅広く購入いただいております。スポンサー費は1口5~500万円/年で募集していて、海洋関連の企業さんなどが参画していただいています。また、資金調達やPRの一環として、クラウドファンディングなども実施しています。しかしながら、現収益は月5万円~70万円程度でまだ不安定な状態が続いているので、その問題を解決するために、今後はプロジェクトベースで大きな案件を獲得していこうと考えています。
■全国から数十トンのカイロを回収
濱本:1個の使用済みカイロから、どのくらいの量のCubeを製造することができるのでしょうか?
山下:使用済みカイロ1個から、9個分のCubeを生成することができます。2021年度では、全国から合計39.8トンのカイロを回収しました。皆さんから集めたカイロのおかげで、約4億Lもの水が綺麗にすることができます。
濱本:ものすごい量ですね。 カイロはどのように回収しているのでしょうか?
山下:全国様々な拠点に設置されている、回収ボックスから調達しています。GoGreenGroupの理念に共感してくれたメンバーが、自主的に回収ボックスの設置を呼びかけてくれたおかげで、今では青森から兵庫県まで回収ボックスがあります。最近では、女性フィッシング協会のとある方が車中泊で往復1500kmを周り、回収ボックスの設置を行ってくれました。そのような方も含め、去年は企業から市民団体、学校まで合計約140社、約7000人もの方々が協力してくださりました。
また工場に関しても、京都の機械メーカー「大伸機工」さんが設備を提供してくださったり、東大阪の「テクノフロント」さんが場所の提供をしてくださっています。そこでは工場見学も実施していて、毎年たくさんの中高生が海を綺麗にするために参加してくれています。手紙が届いたりもして、とてもやりがいを感じています。つい最近、とある高校生が自身の学校でカイロの回収を呼びかけ、集めたカイロを送ってくれたりもしました。とても嬉しかったです。
濱本:「GoGreenGroupを通して地球を守りたい。」という思いを持った、全国のメンバーがこれだけいるのですね!
■中国人留学生のある行動が、カイロの可能性に気づくきっかけに
濱本:カイロに携わるきっかけは何だったのでしょうか?
山下:この仕事を始める前は、コンビニエンスストアの経営者をしていました。日々大量の食料を捨てることに対して罪悪感を感じていたので、漠然と地球に何かいいことをしたいなと考えていたのですが、具体的にどうすればよいのか分からない状態でした。そんなある日、バイトで来ている中国人の学生さんが一時帰国のためにカイロを大量に買っていたんですね。なぜそれほど大量のカイロが必要なのか不思議に思って、理由を聞いてみたんです。すると彼女は「うちの故郷はとても寒いところなので、カイロを母に持って行ってあげたいんです。」と答えました。当時の中国にはカイロというものが存在しなかったんです。そこで、そもそも使い捨てカイロはどんな仕組みで機能していて、使い終わったカイロはどうしているのかということに興味を持ち始めました。カイロについてインターネットで調べていくうちに、東京海洋大学の佐々木教授による「使用済み使い捨てカイロを活用した水圏環境改善の研究」の記事に出会いました。それきっかけに使い捨てカイロの可能性に魅了され、これを仕事にしたいと思うようになったんです。
橋尾:今後の展望を教えてください。
山下:日本各地に回収・加工・製造の全てが完結できる拠点を作りたいと考えています。直近では、北海道に工場と倉庫を作る計画を考えています。北海道では、昆布とウニの収穫量が激減していて、数年後には絶滅してしまう可能性があるほど危機的な状況にあるそうです。先日、そのような状況をなんとかしてくれないかと地元の有志団体から連絡がありました。出資していただける企業を自ら探してくださって、北海道の拠点設立計画は順調に進んでいるところです。
濱本:最後に一言お願いします!
山下:起業をする時に、本当にやりたいことは何だろうと考え込んだ時期がありました。そこで出た結論が、地球に対しては何も文句がないということでした。地球のためになることをしようと思って、今この活動を続けています。皆さんの小さな行動がより良い地球を作っていくと信じています。この記事をご覧になって、私たちの活動にご興味を持ってくださった方は、ぜひご連絡ください。共に、綺麗な地球を守っていきましょう!
取材を終えて:山下氏の海に対する強い思いと、身一つで世界を飛び回るその圧倒的な行動力に終始感動していました。活動に共感してくれたメンバーのなかには、車中泊で1500kmを走行しながらカイロの回収拠点の設置を手伝ってくれたメンバーもいたそうです。山下氏の情熱がこのように様々な人を巻き込んできたのだと思います。また、想像以上に日本の海が危ないということを実感しました。沖縄でもずくが1年間で1キロも取れない、北海道の昆布とウニが絶滅しかけているなど、地球温暖化等の影響がここまで深刻に現れているとは思いませんでした。「GoGreenCube」を通して、世界の水が綺麗になることを強く願っています。(生態会学生スタッフ:濱本智義)
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