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英国出身の創業者が目指す、日本への恩返し。子どもを守る「盾」となる福祉テック:Guardian

  • 執筆者の写真: 和田 翔
    和田 翔
  • 1 日前
  • 読了時間: 9分

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関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は株式会社Guardian(ガーディアン)で代表取締役を務めるケイトリン プーザー氏に話を伺いました。


同社は、子どもたちが秘密を安心して打ち明けられるアンケートサービス「kimino micata(キミノミカタ)」を開発し、各学校に展開中です。外国語指導助手(ALT)として来日したケイトリン氏は、どうしてスタートアップの起業へと至ったのでしょうか? 同社の事業や起業の経緯について伺いました。


取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)

和田翔    (ライター)

ケイトリン プーザー(Caitlin Puzzar)氏 略歴

2016年に英国キール大学(犯罪学・日本語専攻)を卒業し、熊本市の小中学校で外国語指導助手(ALT)として勤務。6年間子どもたちと接した中で、日本のいじめ・虐待について問題意識を深め、子どもの命を守ることを決意。その後、(一社)JSIE 主催・熊本県後援WISEワークショップ「アイデアで熊本を元気に」にて最優秀賞を受賞。そこで、のちに共同創業者となる村上博美氏と出会い、翌年システム開発をスタートした。2021年にプロトタイプを完成させ、翌年の2022年12月にGuardianの設立に至る。


「誰に相談するか」を子ども自身が選べるシステム


生態会 垣端(以下、垣端):まずGuardianがどんな活動をしているのか教えてください。


ケイトリン プーザー氏
ケイトリン プーザー氏

ケイトリン プーザー氏(以下、ケイトリン氏):Guardianは、子どもたちが安心して毎日を暮らせるように、いつでも声を上げられる環境づくりをしている会社です。日本の子どもの自殺率は世界と比べて高く、いじめや不登校を経験した子どもたちの多くが「自殺を真剣に考えた」経験があります。


子どもたちは「誰かに相談したい」と思っていますが、安心して使えるコミュニケーション手段がありません。今ある相談用のホットラインでは、どんな人が話を聞いてくれるのかわかりませんし、相談相手が親や先生に内容を話してしまうかもしれません。ですから、不安になって何も話せないんです。


ライター 和田(以下、和田):御社が提供する「kimino micata」は、どんなサービスなのでしょうか?


ケイトリン氏:kimino micataは、児童・生徒向けのオンラインアンケートシステムです。タブレットやPCからいつでもどこでもアクセスできて、SOSボタンも付いています。アンケートやSOSで伝えた情報は、学校内に設置した「micataチーム」や保健室の先生、学外の相談センターがアラートを受け取ります。毎日の生活の些細なことから潜在的な問題を見つけて、早期対応につなげる仕組みです。


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和田:サービスの特徴について教えてください。


ケイトリン氏:一番大きな特徴は、子どもが「誰に相談するか」を自分で選べることです。例えば、担任の先生に対しての問題があった場合は、保健室の先生や学外の相談センターを選べます。もちろん相談内容が担任の先生に漏れることはありません、他の人がログインしてもアンケートの回答見られませんし、先生でも回答内容の改ざんや編集は一切できないようにしています。


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垣端:独自の相談センターも立ち上げたと聞きました。


ケイトリン氏:自治体の相談員やスクールカウンセラーが足りていない状況なので、オンラインの「micata相談センター」を作りました。臨床心理士がリモートで対応するので、いつでもどこでも相談できます。今年1月から3月にかけてパイロットを実施し、今年度中に正式なサービス開始を予定しています。


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虐待事件から考えた日本の構造的問題をきっかけに


垣端:ケイトリンさんは、大学で犯罪学を専攻されていたそうですね。その分野だと警察や司法の仕事を目指す人が多そうに感じますが、なぜ日本で教師になる道を選んだのでしょうか?


ケイトリン氏:大学2年生のときに京都外国語大学の交換留学に参加して、日本の人たちが優しくしてくれたことにとても感動しました。留学を終えて帰国した後、私がまた日本に戻りたがっていると知っていた当時の先生が、警察に入る前に人生経験を積むため、JETプログラム(※)への応募を勧めてくれたんです。そして2016年から熊本市の小中学でALTとして働けるようになりました。


※JETプログラム:語学指導などを行う外国青年の招致事業。地域レベルの国際交流の進展や語学教育の充実を図ることを目的としている。総務省・外務省・文部科学省と(一財)自治体国際化協会らが1987(昭和62)年にスタートした(参照:総務省ホームページ)。


垣端:日本での経験はいかがでしたか?


ケイトリン氏:子どもたちに教える中で、逆に子どもたちに助けてもらうことがよくありました。子どもたちは、私の調子が悪いと敏感に察知して、「ケイトリン先生、大丈夫?」って心配してくれるんです。子どもたちの優しさに触れる中で、みんなの役に立ちたいと考えるようになりました。


和田:その後、どのようにkimino micataの開発につながったのでしょうか?


ケイトリン氏:2019年に千葉県で起きた栗原心愛(みあ)ちゃんの虐待事件をご存知ですか? 私はこのニュースを知り、とてもショックを受けました。当時10歳の心愛ちゃんは学校のアンケートに「助けて」と書いたのに、学校がそのアンケートを虐待していた父親に渡してしまったのです。どうして大人が子どもの命を守ってあげられなかったのか、とても悲しく思いました。


心愛ちゃんの事件では、父親が学校に圧力をかけてアンケートを渡させたと聞きました。日本では親の意見がとても強いですが、それでも学校は子どもを守るために秘密を守らなければいけなかったと思います。


和田:ケイトリンさんの出身国であるイギリスとの違いを感じましたか?


ケイトリン氏:イギリスでは「Safeguarding(セーフガーディング)」という考え方に沿った国のガイドラインがあり、子どもの安全を最優先で守ることが学校に義務付けられています。


例えば各学校は、「DSL(指定保護リーダー)」という子どもの権利に関する専門的な研修を受けた先生を必ず配置しなければなりません。DSLは子どもの命を守るために必要と判断すれば、校長を通さずに地域のソーシャルサービスなど自治体の専門部署に直接連絡する権限を持っています。


私が通っていた学校のDSLは、毎日の些細なことから家での困りごとまで、何でも相談できる存在でした。そういう大人が身近にいると、子どもたちはとても安心できると思います。


和田:そういった取り組みが日本で進まないのはなぜでしょうか?


ケイトリン氏:日本の先生は忙し過ぎるからだと思います。日本では担任の先生が授業以外にも部活動の指導や家庭訪問など、本当に何でもやっています。イギリスには部活動も家庭訪問もありません。子どもたちの生活面まで深く関わることは良い面もありますが、それで先生たちの負担が増えてしまっているのだと思います。


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社会起業プログラムでの成果を形に


垣端:そういった現状を見て、どう思われましたか?


ケイトリン氏:子どもを守るために、そして忙しい先生たちのために、何かできることはないかと考えました。そこで思いついたのが、タブレットを活用したシステムです。ちょうどその頃は、学校で1人1台タブレットが配られるようになった時期(※)でした。


※GIGAスクール構想の開始は2019(令和元)年度。


文部科学省の調査で、いじめを見つける最も有効なツールはアンケートだということがわかっています。ですから、子どもたちがいつでもどこでも簡単に答えられるオンラインアンケートを作ろうと考えました。


垣端:先生として働き続けるのではなく、なぜ起業という選択をしたのでしょうか?


ケイトリン氏:2019年に熊本で開催された起業プログラムに参加したことがきっかけでした。そこで心愛ちゃんの虐待事件について話し、子どもたちを守るシステムのアイデアを発表したところ、医学部の学生や地元でビジネスをしている女性など、他の参加者も協力してくれました。みんなでアイデアを進化させて発表したら、思いがけず優勝したんです。


垣端:そこで共同創業者の村上博美さん(現・政策アドバイザー)と出会ったのですね。


ケイトリン氏:はい。村上さんはシステム開発の知識を持っていて、私のアイデアを具体化してくれたんです。2020年から開発を始めて2021年にkimino micataのプロトタイプが完成し、その年から熊本市の小中学校で最初の実証実験を開始しました。


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悩みを抱えた子どもは国内外のどこにでも


垣端:現在のkimino micataの導入状況はいかがですか?


ケイトリン氏:熊本市の小中高8校で導入されていて、4,000人が登録しています。他の自治体にも広げていく計画ですが、kimino micataのようなサービスを導入するには、自治体や学校との信頼関係が大切で、それを築くにはとても長い時間が必要だと感じています。


現在導入が進んでいる熊本市では、3年かけて信頼関係を築きました。京都に拠点を置いてから、「なぜ関西で導入を進めないの?」とよく聞かれるのですが、新しい場所で一から関係を築くのは本当に大変です。自治体の担当者は3年も経てば異動してしまいますから。


ただ、関西の子どもたちや先生にもぜひkimino micataを使ってほしいと考えています。幸いにも、支援組織 (京都市、京都商工会議所や京都銀行など) から人脈を紹介してもらえたので、これからの活動につなげていきたいです。


垣端:熊本や関西以外での展開も考えていますか?


ケイトリン氏:いずれ全国にも広げていきたいと考えていますし、海外の日本人学校への展開も検討中です。実は海外の日本人学校にも、日本の学校と同じようないじめやメンタルヘルスの問題は存在しますから。


現在は自治体や学校向けのBtoGビジネスが中心ですが、今後は私立学校や一般の家庭向けに提供するBtoB・BtoCのサービスにも力を入れて、kimino micataのシステムを全国の子どもたちに広げていこうと考えています。一人でも多くの子どもが安心して声を上げられる環境を作りたいです。


和田:お話を聞いていて、本当に素晴らしい取り組みだと感じました。ケイトリンさんたちが開発したKimino micataで、多くの子どもが救われることを願っています。本日はお時間をいただき、ありがとうございました!


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取材を終えて

「子どもたちを守りたい」とまっすぐ語るケイトリンさんの姿勢から、ものすごい熱量を感じました。さらに、日本の教育現場で働いていた経験から知った「日本の先生はとても忙しい」という現状が、子どもたちだけでなく、先生たちにも使いやすいシステムづくりにもつながっています。ケイトリンさんが大切にしている恩返しの気持ちを形にしたkimino micataが、今後ますます広まっていくことを期待します。(ライター 和田翔 )


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