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  • 執筆者の写真和田 翔

裏表も前後もなし!ストレスゼロの新感覚ウエアで「楽」な暮らしの実現へ

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、「裏表も前後もない」アンダーウエアをはじめとした新感覚の衣服を作るHONESTIES(オネスティーズ)株式会社で、代表取締役を務める西出 喜代彦さんに話を伺いました。脱ぎ着のストレスから解放されると、私たちの暮らしはどう変わっていくのでしょうか?


取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)

和田 翔   (ライター)


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西出喜代彦(にしで きよひこ)さん 略歴:

東京大学大学院修士課程修了(近代文学研究) 人材系会社で約3年勤務したのち、家業であるワイヤーロープの製造会社に勤めるため帰阪。会社の存続をかけて2012年に立ち上げた新規事業「いずみピクルス」で一躍有名に。その後、2018年にHONESTIESの事業を開始し、2020年4月に会社を設立した。

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生態会事務局 垣端(以下、垣端):本日はお時間をいただきありがとうございます。西出さんは、ワイヤーロープ製造会社の代表を務め、「いずみピクルス」の事業でも有名ですよね。HONESTIESの事業は、これらとは違う新たな分野ですが、それぞれにつながりはあるのでしょうか?

HONESTIES株式会社 代表取締役 西出(以下、西出):元々の家業のワイヤーロープ製造は泉佐野市の地場産業ですし、いずみピクルスも地元の特産品である泉州野菜の魅力を伝える事業です。

同じように「泉州タオル」に代表される繊維産業も泉州地域の大きな柱ですが、右肩下がりの状態が続いています。「地域社会に貢献したい」との思いが強くあり、いいアイデアがあれば繊維産業にも挑戦したいと考えていました。

インタビュー中の様子
HONESTIES株式会社 代表取締役 西出喜代彦さん

ライター 和田(以下、和田):どんなきっかけでHONESTIESのアイデアが生まれたんですか?

西出:ある日、子どもをお風呂に入れようと服を脱がせていたら、「そういえば、子どもの脱いだ服って毎回裏返しだな」と気づいたんです。それを洗濯や収納のときに直すのは、わずかな手間とはいえ面倒くさい作業ですよね。


振り返ってみれば、僕自身も服を裏返しで脱いで母や妻に怒られてきたな、と。それどころか、裏返しのままタンスに入っている肌着を、面倒くさいからそのまま着る、なんてこともよくしていました。


加えて、スティーブ・ジョブズの真似で同じ服を何着もそろえてみて、「毎日、服を選ばず済むのは楽だな」と実感していました。これらのエピソードがつながって、いっそ服の裏表をなくしてしまえばいいのでは、と考えるようになりました。


和田:日常の小さな気づきが重なって、アイデアが具体化したんですね。


西出:調べてみると、市場にリバーシブルの服はあれど、「裏表をなくすことで、生活が楽になる」という発想の商品は見つかりませんでした。それなら自分でやってみよう、と考えたのがHONESTIESの始まりです。



垣端:事業を始めるにあたって、補助金や投資は受けましたか?


西出:最初は泉佐野市が行っていた新規産業向けのクラウドファンディングを利用しました。「地域産業に資するもの」との条件がありましたが、アンダーウエア製造も繊維産業ですから、親和性が高いだろうと考えたんです。紆余曲折はありましたが、HONESTIESの事業に賛同してくれた企業からも支援していただき、目標となる資金額を調達できたので、2018年に事業を開始しました。


最初は法人化せずにNSW(西出さんが代表を勤めるワイヤーロープ製造会社)の新規事業として始め、2020年4月に大阪信用金庫とFVCの「おおさか創業ファンド」や、知人から出資してもらうことになり、正式に会社を設立しました。


「どう着てもOK」だからこそ、誰にでも優しい服に


和田:事業を始めたころから、製品のコンセプトは変わっていないんですか?


西出:最初は「裏表なし」のアンダーウエアからスタートしました。サンプル品を作る中で、「裏表と前後、どちらもなければ便利」とトライアスロンをやっている知り合いから意見があったんです。


和田:トライアスロンですか?意外なつながりですね。


西出:トライアスロンはスイムとバイクの間で着替えるとき、時間短縮のために前後を気にせずウエアを着るらしいんですよ。そんな意見も参考にしつつ「裏表・前後なし」のアンダーウエアも作りはじめました。


和田:「ハンディキャップを持つ人や要介護の人にも便利な商品」という打ち出し方もしていますよね。そうした人たちのニーズとは、どうつながったのでしょうか?


西出:サンプルを作る過程で、発達障害のお子さんを持つ方から、「自分の子どもは、どうしても裏表や前後を間違えて服を着てしまいます」と教えてもらいました。親の立場上、注意せざるを得ないのですが、そんなお子さんとのやり取りで、お互いに心を痛めていたそうなんです。その方から「裏表や前後がない服があれば、不毛なやりとりが無くなるんじゃないか」との意見を頂いたのが、一つのきっかけでした。


和田:当初は想定していなかったニーズが掘り起こされたわけですね。


西出:「そんな形で役に立てるのか」と気付かされました。最初は、子どもの脱ぎ着や家事を楽にする目的から始めましたが、ハンディキャップのある方や日常的に介護をしている方、多方面から期待の声を頂いて、「想像以上に社会的意義のある事業なのでは」と考えるようになりました。


肌着から、Tシャツ・ポロシャツ・パジャマまで?


和田:HONESTIESは、どこに生産拠点を置いているのでしょうか?


西出:やはり泉州の地域活性化という目的があるので、最初は全て国産にこだわっていました。ただ、国産だとできる限り原価を抑えても、高価な肌着になってしまうんです。実際に「ちょっと高いね」との声もありました。


現在は、生地の質や国内生産にこだわって作る「プレミアムライン」と、より低価格で提供できる海外生産の「スタンダードライン」という二段構えです。クラウドファンディングなどで新製品を発表するときはまず国産で作り、一定のニーズがあると確認できたら海外で作る、そういう流れで進めています。


和田:開発拠点は日本にあるんですか?


西出:HONESTIESの製品は、一般的な衣類とは違う特殊な方法で製造しています。それだけに、実際に作ることで見つかる課題が多くあって、課題を一つずつクリアしながら開発していく必要があります。ですから、奈良県に作ったラボに開発機能を集約して、信頼できる腕前を持つ職人の阪西(技術開発・阪西康成さん)たちと一緒に開発を進める体制をとっています。



和田:今後のラインアップ展開についても教えてください。


西出:現在販売しているアンダーウエアや靴下などのほかにも、今後ラインアップを増やしていく方針です。


直近ではアウターTシャツの販売準備が整っている状況です。実は、商品自体は今年のはじめには準備できていましたが、PRや販売の方法を考えて、最適な時期を探っているところです(インタビューを実施した3月下旬時点の情報)


和田:そのほかにも、開発中の商品について教えていただけますか?


西出:現在、「裏表なし」のポロシャツを開発しています。ボタンをどうするかが難しいポイントでしたが、その点はうまく仕上げることができました。サンプルを何度も作りながら、どこまでいいものにできるか追求しているところです。


ポロシャツは、もともと「会社のユニフォーム用に欲しい」との要望があって作りはじめました。ユニフォームとして着る場面を想定すると、生地の耐久性の面でもHONESTIESの良さを出せると考えています。通常、服の生地は表側の方が傷みやすいんですが、裏表をなくすことで生地がより長持ちします。服の下に着るアンダーウエアよりも、ポロシャツの方がその違いを実感しやすいと思います。


そのほかリストアップしているのは、パジャマなどのルームウエアです。子どもが毎日着るパジャマは、アンダーウエアに次いで役に立てるところだと考えて、開発を進めています。


服の脱ぎ着が楽になると、暮らしはどう変わる?


和田:調べてみると、競合になり得る商品も出てきたように見受けられます。その点についてはどう考えていますか?


西出:大きく分けて二つの観点で捉えています。


一つは、競合とどう差別化するか、という点です。私たちは、ラインアップの拡充を図りつつも、アンダーウエアこそ脱ぎ着で困っている人たちの役に立てると考えて注力しています。大手が参入すればもちろん脅威ではありますが、実際アンダーウエアに特化したフォロワーは今のところ出てきていない印象です。また、先行して始めた私たちしか気づいてないであろうポイントはいくつもあります。その点を開発に反映したり、知財として権利化したりといった取り組みを進めることで、優位性は保てると考えています。


もう一つは、競合の出現は自分たちの考えが広まる機会にもなる、ということです。販路の拡大などいろいろな面で、この商品を実際に売る難しさを経験してきました。ですから、「裏表や前後がない服は楽で便利」という考え方を皆さんに知ってもらえる点では、追い風になると思っています。


まとめますと、「裏表や前後がない」良さを広く知ってもらいながら、強みを発揮して、引き続きしっかり取り組むことで、私たちのやりたいことは実現できるだろう、というのが私の考えです。

左:生態会 垣端、右:西出喜代彦さん
左:生態会 垣端、右:西出喜代彦さん

和田:「私たちのやりたいこと」とは?


西出:理念やビジョンに通じるところでもあって、今も社内で意見を交わしている最中なんですが、やはりアンダーウエアを通じて、「生活が少し楽で便利になって、本当に大切なことを頑張れるようになる」ことですね。


それが実現できた先に、ユニバーサルデザインとしてのアパレルウエアがあると考えています。これまで自覚できなかったような不便さを解消して、楽に便利に使ってもらえるような、私たちなりのウエアをこれからも作っていくつもりです。


垣端:泉州の地域活性化も含め、今後の展開を楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました!

 

取材を終えて:HONESTIESは、前述した通り日常の小さな一コマが重なって誕生しました。日々感じる何気ないストレスを鋭く捉え、丁寧に掘り下げたからこそ、誰にとっても楽で便利なウエアが生まれたのだろうと感じます。子どもに限らず、服の裏表を直したり、一度着てから前後の違いに気づいたり、そんな手間やストレスを無意識に積み重ねている人も多いのではないでしょうか。HONESTIESが作る裏表・前後のない服を着ることは、便利で楽な暮らしを実現する一つの方法なのかもしれません。(ライター 和田翔)

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