• 西山裕子

睡眠中のデータをAIで分析。健康リスクを可視化して、予防医療の革新を目指す。: Rehabilitation3.0

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、作業療法士の知見・実体験をAI・センサーと組み合わせて、健康増進手段を提案するモデルを開発しているRehabilitation3.0株式会社の代表取締役、増田浩和さんにお話しを伺いました。


取材・レポート: 西山裕子(生態会事務局長)/

桃谷修司(ライター)



 

代表取締役 増田浩和氏 略歴

1982年鹿児島県生まれ、大阪府で育つ。関西医療技術専門学校(現 関西福祉科学大学)卒業。2004年作業療法士免許取得。病院で8年勤務。2012年5月、訪問看護と訪問リハビリテーションを提供する、株式会社リハビリプラス設立。経験とテクノロジーを融合して、患者さんと看護施設の両方にWINをもたらすことを目指して、2019年にRehabilitation3.0株式会社設立。臨床経験17年。

 

■熟練作業療法士の知見とデジタル技術を融合した、画期的ヘルスケアテック


生態会 西山(以下、西山):今日はよろしくお願いします。画期的なヘルスケアシステムということで、ワクワクしています。まず、システムについて教えていただけますか。


わかりやすく解説いただきました

Rehabilitation3.0株式会社 増田代表取締役(以下、増田):私たちが取り組んでいるのは、SAA(スリープ・アクティビティ・アセスメント)システムです。睡眠中の心拍数・呼吸数などセンシングして、そのデータでリハビリテーションの国際基準18項目(歩行、食事などの運動能力13項目と記憶力、判断力、社会的交流など認知能力5項目)をAI分析します。そして、それぞれの人の基礎的な能力、「できること、できないこと」を判断して、さらに、最大の特徴である「何をすればできるようになるか」を具体的に提案します。現在AI分析の精度が93%と、熟練のセラピストレベルに到達しています。


西山:独自のシステムとは、センサーも専用デバイスが必要なのですか?


増田:いいえ。このシステムは、センサーデバイスフリーです。どのようなデバイスのデータも、AIに取り込み分析できるように設計しています。AIを用いたSAAシステムを各デバイスメーカーさんに提供するのが、私たちのビジネスモデルです。


西山:作業療法士の知見や、実体験が組み込まれているそうですね。


増田:熟練した作業療法士は、約120万通りの改善方法からそれぞれの方に合った提案を行っています。私たちのシステムは、集めたデータをこの改善方法にタグ付けし、提案します。患者様がその方法を行った後にデータをとり、変化を分析して、よりよい提案をする。これを繰り返して、それぞれの方に最適の方法にしていきます。現在、試作アプリを作成して、病院と実証実験を行っています。


具体的には、まずAIに患者さんの年齢、性別、BMIとFIM(機能的自立度評価法)を入力します。その後、心拍数、呼吸数、体動データをセンサーで継続して入力します。それらをAIが分析して、運動・認知能力を自動的に推定して、退院支援を行うものです。


西山:3つのセンシングデータだけで、そのようなアウトプットができるんですか?


増田:はい。センシングする項目は、それだけです。ただ、情報の内容が重要です。例えば、心拍数であれば、睡眠中の安静時心拍数と布団に入った直後(活動時)のそれを比べて、どのように変化するかで体力を測れると考えています。3項目を400くらいに分類して、AIに学習させ、分析させています。



■業務中に思いついたアイデア。粘り強く課題をクリアして実現へ前進。

西山:素晴らしいシステムですね。どのように、このアイデアを思いつかれたのでしょうか。その後の経緯も含めて、お聞かせください。


増田:作業療法士の経験を10年くらい積んだ頃に、患者さんの一部の動作を見るだけで、その人の運動能力と認知能力をだいたいわかるようになってきました。経験を積んだ作業療法士がこの状態になることは、少なくないです。私と他の作業療法士が、ある患者さんのことを、別々に一瞬見ただけなのに、「その人はこんな人だよね。」と話し合うことがありました。そのことをきっかけに、私の頭の中で患者さんの運動能力や認知能力が整理されていて、患者さんの情報を私の頭にインプットすればその人の能力をアウトプットできることを認識しました。そして、7年くらい前に、これをAIに計算させることができるだろうというアイデアが浮かびました。


西山:7年前には、アイデアが生まれていたんですね。


増田:はい。しかし、AIに計算させられるレベルのデータをとれるセンサーが当時は見つかりませんでした。ところが3年前に展示会で、私の求める精度で寝ている時のバイタルをとれるセンサーを見つけました。このセンサーを使えば、アイデアが実現できると頭の中で「バチバチ」ときまして、SAAシステムの仮説を考えました。この仮説は、現在のシステムにそのまま使われています。当時は、これを医師に話しても、「できるはずない」と相手にしてもらえませんでした。


もちろん、自分1人でこのアイデアを実現することはできません。そこで、NTTdocomoさんに持ち込みました。運良く、執行役員の方に直接お話しする機会を得て、その方に強く興味を持ってもらうことができました。実験1回目で確度が高いことが証明され、NTTdocomoさんと今でも共同研究を進めています。


西山:大企業と協業を始められたのは、すごいですね。共同研究のゴールは何ですか?


増田:私は、何かサービスを発売したいと考えています。NTTdocomoさんも研究チームはすごく面白い技術と評価していて、この先進アイデアをなんとか事業化できないか検討されているようです。他企業も巻き込んで事業化を目指しています。


西山:現在は、開発段階と言うことですね。


増田:はい、まだ発売はしていません。試作アプリで実証実験を始めた段階です。堺市にある病院の協力で、実証実験を行っています。60床ある病棟で、10台のセンサーを用いて行っています。


西山:なぜ、病院で入院患者さんを対象に、実証実験をされているのですか?


増田:若い方は、例えば骨折の治療が終われば、相応に運動・認知能力も回復して退院することができ、病院は新しい患者さんを受け入れることができます。しかし、高齢者の場合、治療が終わっても、運動・認知能力が低下したままになり、生活できないので入院し続けるということが少なからずあります。入院中は至れり尽くせりなので、逆に能力が弱っていくという悪循環が起きていることがあるんです。早期退院のために、運動・認知能力の推移を追っていくことが必要です。


ただ、医療従事者は忙しくそこまで手が回らないのが実情です。このシステムは患者さんの運動・認知能力と、それぞれのリスクレベルも提示します。患者さんへのよりよいケアに加えて、看護士さんの業務負担の軽減、入退院者がうまく入れ替わるベッドコントロールによる病院の収益向上を目指せると考えています。


高齢者の持つ不具合は、データ化しやすいものです。病院は消灯起床時間が決まっている、つまり睡眠推奨時間帯があります。そこで、まず、この環境でAIを開発しました。ほぼ完成したので、次は高齢者の在宅環境での開発をし、将来的には、若い人も含めて一般の人に、Fitbitやスマートウォッチなどを用いて健康状態の把握と、どうすればより健康になれるかの提案をしようと構想しています。データが集まれば、「その人がどんな高齢者になるか」を予測することも可能になり、予防医療分野でも貢献できると考えています。



西山:アプリの試作やAI利用も、内部でされていますか。外部委託でしょうか。


増田:現在は外部委託です。当社は、要件定義をするところまでに集中しています。「睡眠データを人工知能に入力することで、日常生活動作能力を推定する」技術という広い分野で特許を弊社単独で取得しています。将来的には自社でAI技術を持ちたいと考えており、人材採用を検討しています。


西山:NTTdocomoさんとは、資本提携をされていますか。


増田:いえ、全くありません。ただ、広く資金調達はしていきたいと考えています。2022年冬に、2億円調達を検討しています。事業シナジーメインでCVCからを基本に、VC、海外資本からの調達も検討しています。


■リハビリテーションを新たなステージへ


西山:昔から起業したいと、思っておられたのですか。


増田:10年前に作業療法士として、地域医療のための訪問看護の会社として別の会社を起業しました。今回はITを使った起業ですが、それは手段で患者さんの笑顔に貢献したいと考えています。


西山:3.0が気になっていますが、どういう意味でしょうか。


増田:1.0はアメリカから日本の病院にリハビリテーションを導入した状態、2.0は病院から介護保険などを用いて在宅医療へ移行した状態を意味します。3.0は病院・在宅を超えて、テクノロジーを掛け合わせて、全く新しいものを全世界に提供しようという意味です。


西山:リハビリテーションのステージを、上げると言うことですね。海外展開も視野に入っているのでしょうか。


増田:もちろんです。日本は高齢化社会の先進国で先行市場として、実証実験の場と位置づけています。現在、超高齢化社会と呼ばれているのは4カ国ですが、8年後には34カ国になります。日本での成功事例は、世界の人たちの健康も変えられると確信していて、3年以内に海外展開を始める計画です。COOや海外投資や事業運営のための人材、現地法人の人材が必要だと考えています。


別の角度で、保険会社と査定や保険商材の開発に使うことができないか、という協議も行っています。


西山:夢が膨らみますね。上場も狙っているのでしょうか。



増田:上場は通過点で、ユニコーンを狙っています。この技術を、これから活発になるヘルスケアテック、スリープテック、インシュランステックなど全ての中継地点にします。これは、この技術が世界中の健康に寄与できているという証しになるので、ぜひ達成したいです。


西山:まさに、世界をよくするための事業と言うことですね。

■クリアすべき課題は?


西山:先ほど、人材確保を直近の課題とおっしゃっていますが、他に課題はありますか。


増田:この技術を素晴らしいとおっしゃっていただけることは多いのですが、具体的にどのように使って、どのようなお客様への価値・値打ちに昇華するか、を継続検討しています。社会課題の解決になることはクリアですが、マネタイズのためのビジネスモデル作りが課題です。1つの大企業とだけの連携では、解決策として完成できない。病院だけでは、マネタイズポイントが遠い。ヘルスケアテックとしては、将来の健康のためにお金を払う人がどのくらいいるか、など色々と考えています。自治体との連携、保険商材と健康維持ビジネス展開も考えています。今は、センサーメーカーがこの技術を一緒に広めてくれることを期待しています。今年度、実証実験が2つ決まっていて、別に2つ計画しています。


西山:今後も関西を拠点に、活動される予定ですか。


増田:東京や海外は質の高いものをスピーディーにリアルに体験できるメリットは大きいと感じています。一方で、大阪も支援が手厚くなり、感謝をしつつ、期待もしています。


西山:世界中の人々に新しいステージの健康維持システムを提供する、とても大きく素晴らしいビジョンですね。実現する日が楽しみです。今日はありがとうございました。


 

取材を終えて:


インタビューの前に患者さんのお宅を訪問して、ケアをしてきたとおっしゃっていた増田さん。明るい表情で世界展開の大きなビジョンを語る姿に、世界を変えていく人は、このようなアクティブさや情熱を持っているんだな、と改めて感じました。

アイデアを思いついたのが10年前。それからAI活用、センサーとの出会い、パートナー開拓といくつもの課題をクリアして来られました。今、課題とおっしゃることも粘り強く解決されて、3年後に海外展開を始められることを期待しています。

(ライター桃谷修司)