医学の重要情報を5分で。医師の情報収集を効率化するプラットフォーム:Medixpost
- Yoko Yagi
- 20 分前
- 読了時間: 8分
関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、脳神経内科領域に特化した情報サイト『Medixpost』を展開する株式会社Medixpostの代表取締役 大平 純一朗さんにお話を伺いました。
取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)
八木曜子(生態会ライター)

大平 純一朗(おおひら じゅんいちろう)代表取締役 略歴
1989年生まれ。京都府出身。京都大学医学部卒業後、医師として10年間臨床・研究に従事し、2020年に神経内科専門医を取得。学会発表や論文執筆を精力的に行い、複数の受賞も経験。現場経験の中で多くの医師が抱える日常臨床の知識アップデート課題とそれに伴う診療への悪影響を実感する。医師が効率よく必要な知識を取得し、自信を持って臨床的な意思決定ができる世界の実現のため、大学院在籍中の2022年に創業。
実名制が支える、医師の臨床知を可視化する仕組み
生態会 垣端(以下、垣端):本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、Medixpostの事業内容を教えてください。
大平純一朗 氏(以下、大平氏):はい。私たちのミッションは「医療の学びを加速させ、人類の健康な未来を実現する」というものです。医師が必要な知識を効率よく得られるように、臨床支援プラットフォーム「Medixpost(メディックスポスト)」を運営しています。
私自身、医師として12年目を迎えましたが、現場で日々感じるのは「知識のアップデートが追いつかない」という現実です。一般的な時間外労働の上限は月40時間とされていますが、医師は特例で月100時間に設定されているという非常に多忙な状況があります。一方で、医療情報は40年で100倍に増えていて、指数関数的に必要な知識が増えているんです。
今のところ、知識のアップデート方法は論文、講演会や学会が中心で、しかも情報がバラバラで時間がかかる。これが診療にも悪影響を与えていると感じていて、それを解決したいと思って立ち上げたのがMedixpostです。
ライター八木(以下、八木):Medixpostでは、どのように知識共有が行われているのですか?
大平氏:各医師が得意分野に関して、臨床に役立つ形で実名で知識をシェアしています。従来は、情報を自分で集めて噛み砕いて、臨床にどう活用するかまで考える必要がありましたが、Medixpostではその「噛み砕き」まで含めて得られる。だから1時間かけても得られなかった情報に、5分でたどり着けるんです。
具体的には、例えば認知症薬の使い分けのようなテーマで「どの薬を、どの患者に、どう使い分けているか」といった実際の知見が実名で共有され、ディスカッションされています。これまで届かなかったような知識に、信頼性を担保した形でアクセスできるのが特徴です。
現在は脳神経内科の領域に特化していて、日本の脳神経内科医の約6000人のうち半数近くが登録しています。月間アクティブ率は50%超と非常に高く、これまでに100人以上の大学教授とも直接面談し、高い評価をいただいています。
八木:多くの脳神経内科医の方が積極的に活用されているんですね。ではビジネスモデルについて教えてください。
大平氏: 医師ユーザーは完全無料で使えます。収益は、製薬企業のマーケティング支援によっていただいています。これはエムスリーさんなども採用しているモデルですが、私たちはその中でも、医師の行動変容に直結するモデルを目指しています。
従来の大手プラットフォームはテレビCMのようなマス向け広告が中心で、クリック報酬目的の利用が多く、行動変容につながりにくいという課題があります。これに対して、私たちはFacebookのように「興味関心」にターゲティングする広告を提供しています。
特に最近は新薬開発のトレンド自体が変わってきていて、スペシャリティ領域と言われるニッチな分野や希少疾患が注目されるようになっています。医師は純粋に知識を得て臨床力を高めるために使ってくださっていますので、興味が強い広告を見ることで、自然と行動変容が起こります。実際、既存プラットフォームから乗り換えてくださるクライアントの製薬企業も多数出てきています。
広告として掲載する、記事やオンラインセミナーは、弊社が企画・運営を行っています。記事は医師視点で構成され、ポイント付与制度などのインセンティブなしでも高い読了率を誇っています。

医師から起業家へ、時間と覚悟を注いだ転機
八木:現場を知っていらっしゃる大平さんならではの視点が活かされているのですね。では、Medixpostを立ち上げたきっかけを教えて下さい。
大平氏: 大学を卒業後、7年間臨床に没頭していたのですが、その後、大学院に進学したのが転機でした。時間的な余裕ができてたことで「医師として以外の形で社会に還元できることはないか」と考えるようになったんです。
ちょうどその頃、医師の間でもスタートアップや投資への関心が高まり始めていて、自然と起業が視野に入ってきました。
八木:大学院進学がタイミングだったのですね。構想が具体化したのはいつ頃でしたか?
大平氏: 2021年の年末に、今のモデルの原型が浮かびました。翌春には方向性が定まり、知人のエンジニアに声をかけてα版をWordPressで開発し、その後、紹介を通じて現開発リードの安藤と出会い、β版を作って、2022年12月にリリースしました。
八木:臨床医としての忙しさの中で、どうやって起業準備を進めたのですか?
大平氏: 大学院進学によって臨床から少し離れてる時間的な余裕ができたのが大きいです。
八木:初期メンバーはどのように集めたのですか?
大平氏:高校の同級生にRettyのPM責任者や、既述のスタートアップのCTOがいて、Facebook経由で連絡しました。まずは業務委託でプロトタイプを作ってもらって、その後、紹介の紹介で安藤に出会って、開発リードとしてジョインしてもらいました。
八木:参考にしたサービスやモデルなどはありますか?
大平氏:京大の先輩が作ったSlackグループがモデルになっています。20〜30人規模で、優秀な医師が調べたことを実名で活発に共有していて、「これは全国に広げたら価値がある」と確信しました。匿名では成立しないと感じて、Medixpostも当初から実名制を貫いています。

プロダクトもビジネスもゼロから構築
八木:活発な記事投稿や質を維持するために工夫されている点はありますか?
大平氏:最初は関係性のある先生に投稿を依頼していたのですが、それだけでは持続しませんでした。試行錯誤して、ようやく「投稿が自然に生まれる導線」を設計できました。今は毎週こちらでテーマを提示することで、医師の負担を減らし、投稿が続きやすくなっています。
それでも投稿を維持するのは簡単ではなくて、「書籍化につながる可能性がある」「自分の論文を要約して広められる」、「全国の先生と繋がりが持てる」といった、投稿医師側のインセンティブも工夫しています。実際、2024年、2025年とMedixpostで発信いただいたコンテンツを、投稿医の共同執筆として書籍にしていて、大変よく売れています。
八木:ビジネス面での苦労はありましたか?
大平氏: 正直、ビジネスのビの字も知らない状態からのスタートでした。勤務医は基本的に「お金を稼ぐ経験」がないので、営業も価格設計もすべて未知の世界でした。MBAに通ったわけでもなく、YouTubeレベルの知識から始めました。
でも、安藤が過去に事業売却経験を持つエンジニアで、経営的な視点を持っていたのは本当に大きかったです。彼の視点に何度も助けられました。
八木:ターゲットユーザーの半数が登録しているのはすごいですね。ユーザー獲得の工夫を教えて下さい。
大平氏:初期は自分が一人ひとりZoomで説明した上で登録してもらうスタイルで始め、京大の脳神経内科ネットワークも活用し、3ヶ月で500人を集めました。地道だけど確実な方法で、コミュニティのコアができました。この立ち上げ初期の熱量は、今もMedixpostの文化に根付いています。今は学会出展やブログ広告、出版なども活用して拡大しています。

神経内科から次の診療科へ、PMF達成後のロードマップ
八木:チーム体制はどうなっていますか?
大平氏: 2025年3月に初の正社員が入りました。それ以外は業務委託やインターンで構成されています。学会出展の際にTwitterで募集したアシスタントがインターンとして参画するケースが多く、看護師や医療事務などの医療系に限らず、元記者など、多様なバックグラウンドの方々が関わってくれています。
八木:それでは今後の事業展開について教えてください。
大平氏: 現時点で、神経内科領域においてPMF(プロダクトマーケットフィット)を達成したと考えていますが、まだ足りない機能はたくさんあります。成長できるポテンシャルを大変感じており、今後はまずこの領域をしっかり取り切ることを最優先にしています。
その先の展望としては、認知症などの関連領域への拡張や、他の診療科への展開も視野に入れています。ただし、いずれも段階を見て着実に進めていくつもりです。
上場を積極的に目指しているわけではありませんが、将来的なM&Aの可能性は視野に入れています。2024年の第2期から黒字化しており、現在は高い利益率も維持できている状況です。
カスタマーサクセスやプロダクトマネージャーを募集しており、お気軽に以下のHP問い合わせフォームもしくはj.ohira@medixpost.jpにご連絡ください!
八木:今後のご活躍も応援しています。本日はありがとうございました!

取材を終えて
すでにPMFを達成しているので自己資金で成長を目指す、今後は他領域への展開も視野に入れるなど、現実的な戦略が印象的でした。代表の大平さんは起業に強い関心があったわけではなく、臨床医として勤務後、大学院進学を機に周囲に医師起業家が増えたことから着想を得たとのこと。ビジネス経験ゼロというハードルを、経営経験もある安藤 開発リードと乗り越え、コロナ禍のオンライン化やスペシャリティ領域の成長といった環境の追い風も活かしながら、サービスを形にされました。「運が良かった」と語っていた大平さんですが、状況を見極めて動き、周囲を巻き込みながら前に進める力に、起業家としての頼もしさを感じました。(ライター八木曜子)
Comentários